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本編 第2章
第17話
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そのお言葉に、ハッとする。……私、そんなにも苦しそうな顔をしていたんだろうか?
「それ、は……」
顔を覆って、彼から逃げようとする。でも、手首を掴まれて、顔から手をどけられて。物理的に逃げることも、視線から逃げることも、出来なくなってしまう。
彼の目が私を映している。咎めるような色はない。ただ、純粋に心配されている。
「その、先ほどのが、苦しくて……」
嘘だった。確かに先ほど口を塞がれたときは苦しかった。だけど、ラインヴァルトさまのお隣に別の女性が並ぶことを想像するよりは……ずっと、マシだった。
胸が重くずんと痛むたびに、自分の心の狭さに苦しくなってしまうから。
「確かに、それもあったかもしれない。……悪かった」
「そ、んな」
彼が軽く頭を下げてくるのを見て、私の中に罪悪感がひしひしと湧き上がってくる。
……正直に、お話してしまおうか。そう思って、けどダメだって思う。重たい女にはなりたくない。そもそも、私はこのお方にとってどういう存在なのか。それさえはっきりとしていない今、彼を縛り付けることなんてしたくない。
「……その、わ、たしは」
震える声で、なんとか言い訳を紡ごうとする。
「私は、ただ、あなたさまに幸せになっていただきたいだけ、で……」
それは間違いない私自身の気持ちのはずなのに。どうしてこんなに苦しいのか。おかしい、おかしい。まるで、自分自身の気持ちに嘘をついているみたい。
「だから、そのためには。もっと素晴らしい女性を娶るべきで……」
あぁ、自分で言っていてなんて惨めなんだろうか。
これは、結果的に私自身を傷つけている。私じゃこのお方に似合わないって、自分に突き付けているみたいだ。
私自身の心を、ナイフでグサグサに刺しているみたいだ。
そう思っていると、ふと「テレジア」と名前を呼ばれた。顔を上げる。ラインヴァルトさまの視線が、私を射貫く。
「俺は、テレジアのいない未来なんていらない」
彼が、私の耳元に唇を近づけて、甘く囁くようにそう告げてくる。目を、見開いてしまった。
「テレジアと一緒にいられないなら、自分の立場を捨てたっていい。駆け落ちしてほしいって言われたら、駆け落ちする覚悟だ」
「そ、んなのっ……!」
ダメ。それは、ダメ。だって、そうじゃない。
私の所為で、ラインヴァルトさまをいばらの道に進ませるわけにはいかないんだ。
「それとも、テレジアは俺の立場が好き? 王太子じゃない俺は、いらない?」
「そんなわけ、ないです!」
少し自虐的な言葉に、私は強く反応してしまった。
私が惹かれてしまいそうな人は、ラインヴァルトさまだ。王太子殿下という立場や、地位じゃない。
このお人の、人格というか、優しさというか。そういうところに、どんどん惹かれているのだ。
「私……ラインヴァルトさまの、そのお優しいところとか。性格とか、その。……そういうところに、好感を持っていて」
「……うん」
「だから、決して地位目当てなんかじゃないのです」
ぎゅっと目を瞑って、自分の気持ちを恐る恐る口にする。彼は、私の頭の上にポンと手を置いてくれた。
「テレジアがそういう子じゃないこと、俺、知ってるから」
まるで安心させるかのように、ラインヴァルトさまは私の髪の毛を撫でてくださる。涙が、こみあげてきた。
「でも、俺、本気だから。……テレジアが好きだ。テレジアのいない未来は、いらないって思うほどに」
私の身体を軽く抱きしめて、ラインヴァルトさまがそう言ってくれる。
浅ましい私は、彼のそのお言葉を「嬉しい」って思ってしまった。
身を引くべきだとわかっているのに。
どうしても、身を引く覚悟が決まらなかった。私の気持ちは、どんどん彼に傾いている。嫌と言うほどに、思い知らされた。
「それ、は……」
顔を覆って、彼から逃げようとする。でも、手首を掴まれて、顔から手をどけられて。物理的に逃げることも、視線から逃げることも、出来なくなってしまう。
彼の目が私を映している。咎めるような色はない。ただ、純粋に心配されている。
「その、先ほどのが、苦しくて……」
嘘だった。確かに先ほど口を塞がれたときは苦しかった。だけど、ラインヴァルトさまのお隣に別の女性が並ぶことを想像するよりは……ずっと、マシだった。
胸が重くずんと痛むたびに、自分の心の狭さに苦しくなってしまうから。
「確かに、それもあったかもしれない。……悪かった」
「そ、んな」
彼が軽く頭を下げてくるのを見て、私の中に罪悪感がひしひしと湧き上がってくる。
……正直に、お話してしまおうか。そう思って、けどダメだって思う。重たい女にはなりたくない。そもそも、私はこのお方にとってどういう存在なのか。それさえはっきりとしていない今、彼を縛り付けることなんてしたくない。
「……その、わ、たしは」
震える声で、なんとか言い訳を紡ごうとする。
「私は、ただ、あなたさまに幸せになっていただきたいだけ、で……」
それは間違いない私自身の気持ちのはずなのに。どうしてこんなに苦しいのか。おかしい、おかしい。まるで、自分自身の気持ちに嘘をついているみたい。
「だから、そのためには。もっと素晴らしい女性を娶るべきで……」
あぁ、自分で言っていてなんて惨めなんだろうか。
これは、結果的に私自身を傷つけている。私じゃこのお方に似合わないって、自分に突き付けているみたいだ。
私自身の心を、ナイフでグサグサに刺しているみたいだ。
そう思っていると、ふと「テレジア」と名前を呼ばれた。顔を上げる。ラインヴァルトさまの視線が、私を射貫く。
「俺は、テレジアのいない未来なんていらない」
彼が、私の耳元に唇を近づけて、甘く囁くようにそう告げてくる。目を、見開いてしまった。
「テレジアと一緒にいられないなら、自分の立場を捨てたっていい。駆け落ちしてほしいって言われたら、駆け落ちする覚悟だ」
「そ、んなのっ……!」
ダメ。それは、ダメ。だって、そうじゃない。
私の所為で、ラインヴァルトさまをいばらの道に進ませるわけにはいかないんだ。
「それとも、テレジアは俺の立場が好き? 王太子じゃない俺は、いらない?」
「そんなわけ、ないです!」
少し自虐的な言葉に、私は強く反応してしまった。
私が惹かれてしまいそうな人は、ラインヴァルトさまだ。王太子殿下という立場や、地位じゃない。
このお人の、人格というか、優しさというか。そういうところに、どんどん惹かれているのだ。
「私……ラインヴァルトさまの、そのお優しいところとか。性格とか、その。……そういうところに、好感を持っていて」
「……うん」
「だから、決して地位目当てなんかじゃないのです」
ぎゅっと目を瞑って、自分の気持ちを恐る恐る口にする。彼は、私の頭の上にポンと手を置いてくれた。
「テレジアがそういう子じゃないこと、俺、知ってるから」
まるで安心させるかのように、ラインヴァルトさまは私の髪の毛を撫でてくださる。涙が、こみあげてきた。
「でも、俺、本気だから。……テレジアが好きだ。テレジアのいない未来は、いらないって思うほどに」
私の身体を軽く抱きしめて、ラインヴァルトさまがそう言ってくれる。
浅ましい私は、彼のそのお言葉を「嬉しい」って思ってしまった。
身を引くべきだとわかっているのに。
どうしても、身を引く覚悟が決まらなかった。私の気持ちは、どんどん彼に傾いている。嫌と言うほどに、思い知らされた。
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