【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ

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本編 第2章

第13話

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 ドキドキと心臓が大きく音を鳴らしている。もしかしたら、側にいるラインヴァルト殿下にも聞こえているかも……と思って、自然と俯いてしまう。

「……そう、今後も、そう呼んで」

 そんな私の気持ちなど知りもしない彼は、私の髪の毛を優しく梳きながらそう囁いてくる。

 その声に、羞恥心が芽生える。なんだか、無性に恥ずかしい。熱くなった頬を隠すように両手を当てれば、彼が笑ったのがわかった。

「テレジアのそういうところ、本当に可愛い」
「……そ、んなの」

 どうしてこのお方は、私のことを手放しに「可愛い」なんておっしゃるのだろうか。

 少しの疑問を抱いて、問いかけようとする。でも、彼の美しすぎるお顔を見ていると言葉は出てこない。

 ……もうそろそろ、このお顔にも慣れないと。そう、思ってしまう。

「私、可愛くない……」

 小さくそう抗議をすれば、彼が真剣な面持ちになる。かと思えば、「可愛い」とはっきりとした言葉を口にされた。

「あんたは、可愛い。誰よりも、可愛い」

 まるで私に言い聞かせるかのようなお言葉に、胸がドキドキと高鳴る。

「け、けど……」

 なのに相変わらずネガティブ思考な私。そんな私に少し困ったように、ラインヴァルト殿下が肩をすくめられた。

「じゃあ、こうしよう。俺にとって、テレジアは最高に可愛い」
「……え、えっと」
「人には好みがある。俺の好みにぴったりなテレジアは、俺にとっては最高に可愛い。これでどうだ?」

 ……確かに、それならばまだ信じられる……かも、しれない。

「ら、ラインヴァルト、殿下……」

 恐る恐る彼のことを呼べば、彼がゆるゆると首を横に振った。そして、ぐいっと私の顔に自身のお顔を近づけてくる。

 その整った顔が視界いっぱいに広がって……目を回してしまいそうになる。

「俺のこと殿下って呼ばないで」
「……ラインヴァルト、さま」

 もう少し距離を置いてほしくて、私は慌てて呼び方を戻す。彼は、満足げに頷いていた。

「これから、殿下って呼んだらなんかするかも」
「え、えぇえっと」
「それが嫌だったら、きちんと気を付けろよ」

 なんともまぁ、上から目線のお言葉だ。が、私が反論できる立場ではないので、こくこくと首を縦に振る。

 その後、しばらく二人で並んで中庭の花々を眺めた。……ぼうっとしながら、他愛もない言葉を交わす。

「テレジアは、どんな花が好きなんだ?」

 ふとそう問いかけられて、私は考えた。……お花はどれでも好きだから、特別なものなんてない。

 ただ、あえて言うのならば……。

「私、桃色のバラが好きなのです」

 ぽつりと、そう言葉を零す。

「特に小ぶりで可愛いものが、好きです。……私には、似合いませんが」

 苦笑を浮かべてそう付け足せば、ラインヴァルト殿下……いや、さまは「そうか」と呟かれた。

「だけど、テレジアにはなんでも似合うよ。……だって、素材がいいから」

 どうして、このお方は。こんなにもスマートに甘い言葉を囁けるのだろうか。

 ちょっとの疑問を抱きつつ、肩をすくめる。ちょっと、困ってしまう。

「じゃあ、テレジアと結婚したら、部屋に桃色のバラを飾ろうな」
「……そう、ですね」

 正直、そんな未来があるとは思えないけれど……。

 でも、彼のお言葉が私は本当に嬉しくて。自然と笑ってしまう。

(このお方に、惹かれてしまいそう……)

 惹かれてはいけないとわかっているのに。……このままだと本気でこのお方に淡い恋心を抱いてしまいそうだ。

 そんなの、無駄なのに。

「……テレジア」

 そう思っていると、不意にラインヴァルトさまの手が私のほうに伸びてくる。驚いていれば、彼の手が私の頭に触れた。

「ははっ、こんなのついてた」

 彼が私に手の中のものを見せてくれる。そこにあるのは、青々とした葉。……どうやら、すぐそばにある木から落ちてきたらしい。
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