【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ

文字の大きさ
上 下
15 / 58
本編 第2章

第8話

しおりを挟む
 それから、ラインヴァルト殿下は私をずっと気遣ってくださった。

 でも、なんだろうか。気遣われながらする食事は、緊張して味がよくわからない。美味しいはずなのに味わえない一抹の寂しさを抱きつつ、私は朝食を済ませる。

「口に合ったか?」
「……はい」

 正直、初めのときしか味はわからなかったけれど。

 けど、それを言うことは出来ずに頷く。実際、初めのときに口の中に広がった味は、私にとってとても好きなものだったから。

「そうか。よかった」

 ラインヴァルト殿下が、私に笑いかけてくださる。その笑みがとても眩しくて、自然と目を細めた。

 彼はまるで、眩しい太陽のような人だと思う。とても美しくて、人を惹きつけて。なのに、手を伸ばしても届かない。

 ……そんな、尊いのに遠い存在。

「……殿下」

 自然と、口がラインヴァルト殿下のことを呼ぶ。すると、彼が「なに?」と私に視線を向けて言葉をくださる。

 ぎゅっと膝の上で手を握った。

「……この後、私はどうすればよろしいでしょうか……?」

 それは、一番の問題だった。だって、そうじゃないか。王城に居候させてもらうのに、なにもしないわけにはいかない。そもそも、なにも持ってきていないのだ。……一度、お屋敷に帰る必要もある……かも。

「実家に戻りたいのですが……」

 震える声でそう告げれば、ラインヴァルト殿下の眉間がぴくりと動いた。

 かと思えば、彼が私の手を掴む。ぎゅっとつかまれたことに驚いていると、静かに「ダメだ」とおっしゃる。

「テレジア嬢を実家には帰さない」
「……そ、れは」
「荷物だったら、従者に取りに行かせる。あんたは、ここにいればいい」

 きっと、ラインヴァルト殿下は私のことを気遣ってそう言ってくださっている。

 ……でも、それに素直に甘えてもいいものか。

 悩む私に、ラインヴァルト殿下は「問題ない」と。

「俺がしたいからするだけだ。幸いにも、今の俺には公務がない。……しばらくは、ゆっくり休んでいいと言われている」
「……はい」
「だから、テレジア嬢と一緒にいることが出来る」

 ……ゆっくり休むのに、私がいては迷惑ではないのだろうか。

 頭の中でそう思うとほぼ同時に、応接間の扉がノックされた。驚いて目を瞬かせれば、ラインヴァルト殿下が眉を顰められた。

「……ったく、誰だ」

 彼が小さくそう呟かれて、扉に向かって返事をする。そうすれば、扉が開いて一人の従者が顔を見せた。

 深々と頭を下げた従者は、「殿下に、至急伝言が」という。

「……ここには近づくなと言っていただろう」
「ですが、王妃殿下のご命令ですので」
「……母上の?」

 王妃殿下。その単語を聞かれたラインヴァルト殿下の目が、揺れた。

「一時間後に執務室に、とおっしゃっておりました」
「はぁ?」

 心底嫌そうな声を出されるラインヴァルト殿下。従者はそんな彼に怯むことはなく、頭を下げる。

「王妃殿下のご命令ですので、王太子殿下に逆らうことは許されません」
「……クソッ」

 ラインヴァルト殿下の表情が見る見るうちに険しくなっていく。

 そんなに、王妃殿下に会われるのが嫌なのだろうか?

(王妃殿下は、とてもお優しくておおらかなお方なのに……)

 私も何度か会話をさせていただいたけれど、つねに笑みを崩さない素敵な女性だった。

 ……もちろん、息子であるラインヴァルト殿下に見せる一面とは、全然違うのだろう。だけど、あの王妃殿下が無茶ぶりをするなんて考えにくい。

 そう思っていれば、従者が私に視線を向けてきた。少し戸惑って、視線を逸らす。

「殿下。私は、とりあえず待っておりますので……」

 正直、この間に帰ろうかという気持ちは微かにある。が、帰る勇気が出なかった。

 ……帰ったら、なにをされるかわからないから。主に、両親に。

「……テレジア嬢」

 ラインヴァルト殿下が、まるで縋るような目で私を見つめられる。

 安心させるように、私は頷く。

 しかし。次に続けられた従者の言葉に、私はあっけにとられるしかなかった。

「あと、テレジア・エーレルトさまにも、共に来ていただきたいということでございました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。 イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。 「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」 すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【コミカライズ決定】契約結婚初夜に「一度しか言わないからよく聞け」と言ってきた旦那様にその後溺愛されています

氷雨そら
恋愛
義母と義妹から虐げられていたアリアーナは、平民の資産家と結婚することになる。 それは、絵に描いたような契約結婚だった。 しかし、契約書に記された内容は……。 ヒロインが成り上がりヒーローに溺愛される、契約結婚から始まる物語。 小説家になろう日間総合表紙入りの短編からの長編化作品です。 短編読了済みの方もぜひお楽しみください! もちろんハッピーエンドはお約束です♪ 小説家になろうでも投稿中です。 完結しました!! 応援ありがとうございます✨️

処理中です...