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本編 第2章
第6話
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その後、私はラインヴァルト殿下に案内され、朝食が用意されているという応接間に向かう。
彼は私が退屈しないようにという配慮からなのか、王城についていろいろなことを教えてくださった。
「あの絵画は、数代前の王が他国の画家に描かせたものらしい」
「あそこに見える離れは、先々代の王が病弱な姫のために造らせたものだ」
ラインヴァルト殿下のお話は、とても巧みで退屈しない。しかも、手慣れたエスコートはぶれない。
……本当に、私にはもったいないほどに素敵なお方だ。
(本当、どうしてこんなにも素敵なお方が私なんかを……?)
考えれば考えるほど、答えは出てこない。どんどん答えが遠のいていくような感覚。こんなことって、あるのね。
そう思いつつ彼についていれば、彼が立ち止まる。そして、側に待機していた従者に扉を開けさせる。
「……わぁ」
自然と声が上がった。応接間の大きなテーブル。そこには、二人分の食事が並んでいた。
その食事は見るからに美味しそうで、ごくりと息を呑んでしまう。ラインヴァルト殿下は、私をじっと見つめている。
「気に入ってくれたか?」
彼が私をソファーに腰掛けさせて、そう問いかけてくる。なので、私は何度も何度も首を縦に振った。
気に入ったなんてものじゃない。私にはもったいなさ過ぎて、恐れ多いほどだ。
「ですが、なんでしょうか。……私には、もったいないです」
小さくそう呟けば、ラインヴァルト殿下が対面の席に腰を下ろされる。そのまま、彼は笑われた。
「なにを言っているんだ。……結婚すれば、毎日これを食べるんだぞ」
「……結婚」
その部分を繰り返して、なんだか無性に苦しくなる。……本当に私は、このお方と結婚するのだろうか?
私は、これっぽっちも承知していないというのに。
「明日からは別の部屋に用意させるから。……毎日、一緒に食べような」
「……う」
ラインヴァルト殿下が笑ってそうおっしゃるものだから。私は言葉に詰まってしまう。
だって、そうじゃないか。……あまりにも甘くて、愛おしそうな笑みだったんだもの。本当に私のことが好きなんじゃないかって、錯覚させてしまうほど。
(ダメ。勘違いしては、ダメよ……)
自分にそう言い聞かせていれば、ラインヴァルト殿下が「食べようか」とおっしゃる。
そのため、私は頷く。小さく食事の前の挨拶をして、とりあえずとばかりにサラダを口に入れてみた。
「……美味しい……!」
口から零れたのは、本当の気持ち。
千切った野菜にかかっているドレッシングが、なんとも美味だ。野菜も新鮮なものを使っているからなのか、とってもみずみずしい。
次にスープを口に運んでみる。これは多分ポタージュとかそういう奴なんだと思う。仄かに甘くて、心が落ち着く味。
「気に入ってくれたか?」
ラインヴァルト殿下が、私にそう問いかけてこられる。私は彼のお言葉に何度も何度も首を縦に振る。
「とっても、美味しいです……!」
自然と笑みが零れて、そう告げる。すると、ラインヴァルト殿下が息を呑まれた。
……もしかして、見るに堪えない笑みだったのかもしれない。
「そ、その、申し訳ございません……!」
慌てて謝罪をする。そうすれば、彼は「どうして、謝る?」と口元を押さえながらおっしゃる。
「俺はテレジア嬢の笑みが可愛いと思っただけだぞ。……謝罪されるようなことなんて、されていない」
「……う」
ラインヴァルト殿下のお言葉はストレートだ。その所為で、心臓がバクバクと大きく音を鳴らすし、柄にもなく嬉しいって気持ちが湧き上がってくる。……本当に、勘違いしてしまいそうになる。
私は、彼に望まれているんだって。……けど、その期待はすぐにしぼむ。結局、私は彼に相応しくない。頭の中で、誰かがそう囁くから。
彼は私が退屈しないようにという配慮からなのか、王城についていろいろなことを教えてくださった。
「あの絵画は、数代前の王が他国の画家に描かせたものらしい」
「あそこに見える離れは、先々代の王が病弱な姫のために造らせたものだ」
ラインヴァルト殿下のお話は、とても巧みで退屈しない。しかも、手慣れたエスコートはぶれない。
……本当に、私にはもったいないほどに素敵なお方だ。
(本当、どうしてこんなにも素敵なお方が私なんかを……?)
考えれば考えるほど、答えは出てこない。どんどん答えが遠のいていくような感覚。こんなことって、あるのね。
そう思いつつ彼についていれば、彼が立ち止まる。そして、側に待機していた従者に扉を開けさせる。
「……わぁ」
自然と声が上がった。応接間の大きなテーブル。そこには、二人分の食事が並んでいた。
その食事は見るからに美味しそうで、ごくりと息を呑んでしまう。ラインヴァルト殿下は、私をじっと見つめている。
「気に入ってくれたか?」
彼が私をソファーに腰掛けさせて、そう問いかけてくる。なので、私は何度も何度も首を縦に振った。
気に入ったなんてものじゃない。私にはもったいなさ過ぎて、恐れ多いほどだ。
「ですが、なんでしょうか。……私には、もったいないです」
小さくそう呟けば、ラインヴァルト殿下が対面の席に腰を下ろされる。そのまま、彼は笑われた。
「なにを言っているんだ。……結婚すれば、毎日これを食べるんだぞ」
「……結婚」
その部分を繰り返して、なんだか無性に苦しくなる。……本当に私は、このお方と結婚するのだろうか?
私は、これっぽっちも承知していないというのに。
「明日からは別の部屋に用意させるから。……毎日、一緒に食べような」
「……う」
ラインヴァルト殿下が笑ってそうおっしゃるものだから。私は言葉に詰まってしまう。
だって、そうじゃないか。……あまりにも甘くて、愛おしそうな笑みだったんだもの。本当に私のことが好きなんじゃないかって、錯覚させてしまうほど。
(ダメ。勘違いしては、ダメよ……)
自分にそう言い聞かせていれば、ラインヴァルト殿下が「食べようか」とおっしゃる。
そのため、私は頷く。小さく食事の前の挨拶をして、とりあえずとばかりにサラダを口に入れてみた。
「……美味しい……!」
口から零れたのは、本当の気持ち。
千切った野菜にかかっているドレッシングが、なんとも美味だ。野菜も新鮮なものを使っているからなのか、とってもみずみずしい。
次にスープを口に運んでみる。これは多分ポタージュとかそういう奴なんだと思う。仄かに甘くて、心が落ち着く味。
「気に入ってくれたか?」
ラインヴァルト殿下が、私にそう問いかけてこられる。私は彼のお言葉に何度も何度も首を縦に振る。
「とっても、美味しいです……!」
自然と笑みが零れて、そう告げる。すると、ラインヴァルト殿下が息を呑まれた。
……もしかして、見るに堪えない笑みだったのかもしれない。
「そ、その、申し訳ございません……!」
慌てて謝罪をする。そうすれば、彼は「どうして、謝る?」と口元を押さえながらおっしゃる。
「俺はテレジア嬢の笑みが可愛いと思っただけだぞ。……謝罪されるようなことなんて、されていない」
「……う」
ラインヴァルト殿下のお言葉はストレートだ。その所為で、心臓がバクバクと大きく音を鳴らすし、柄にもなく嬉しいって気持ちが湧き上がってくる。……本当に、勘違いしてしまいそうになる。
私は、彼に望まれているんだって。……けど、その期待はすぐにしぼむ。結局、私は彼に相応しくない。頭の中で、誰かがそう囁くから。
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