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本編 第2章
第5話
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私の言葉を聞いたラインヴァルト殿下は、肩をすくめられた。その後、小さく「本気なんだけどな」と呟かれる。
……その言葉が照れくさくて、私はもうどうすればいいかわからずに顔を覆った。
「か、からかわないで、ください……」
もう一度、言葉を繰り返す。今度のは、照れ隠し……みたいな、ものだったんだと思う。
「からかってるつもりなんて、ないんだけどな」
少し困ったようにそうおっしゃるラインヴァルト殿下に、私はもうなにを返せばいいかわからなくて。
顔の熱が引くまで、顔を覆っておこうと思った。……でも、その手をラインヴァルト殿下に掴まれて。ゆっくりとどけられて、顔を見せる羽目になってしまう。
彼の指が、私の目の下をなぞる。その後、満足そうに頷かれた。
「寝不足って感じはなさそうだし、ゆっくりと眠れたんだな」
微笑んで、そう告げられる。……心臓がバクバクと大きく音を立てて、顔にさらに熱が溜まるような感覚だった。
その指が、私の目の下から頬に触れる。私とは全然違う指に、心臓の音がどんどん駆け足になる。
「……その、とても、よく眠れました」
返事をしないのも感じが悪いかと思って、私は視線を逸らしながらそう答える。ラインヴァルト殿下が、大きく頷かれたのが視界の端に映る。……どうやら、私の回答に満足されたらしい。
「だったら、よかった。慣れない場所だったからな。……眠れていないんじゃないかと、心配だった」
「……そん、なの」
わざわざ、心配するようなことじゃないだろう。
そう言おうとして、口を閉ざす。見えたラインヴァルト殿下の表情が、あまりにも真剣なものだったから。
結局、押し黙ることしか出来ない。
「じゃあ、行こうか、テレジア嬢」
そんな私に、ラインヴァルト殿下は手を差し出してこられる。……行くのは多分、朝食の席に、よね。
それがわかっていても、私はほんの少しためらってしまう。彼はその私の気持ちを汲み取ったらしく、笑い声をあげられた。
「朝食の席に行くだけだ。……なにも、変なことをしようっていうわけじゃない」
「へ、変なことって……!」
朝からそんなこと、言わないでほしい。
その所為で、私は言葉を繰り返してしまった。ラインヴァルト殿下は、けらけらと笑われている。
「お望みだったら、そういうこともするが?」
「え……」
ちょっと待ってほしい。このお方、今、なんておっしゃったの……?
(そ、そういうことって、どういうこと……?)
頭の中がぐるぐると回る。目を回しそうになる私を見てか、彼は笑った。それはそれは、いい笑い方だった。
「冗談だ。……朝食は応接間に用意させた。明日からは、部屋に運んでもらう形にする」
「……お、おかまいなく」
この場合、どう答えるのが正解なのか。それがわからない所為で、私は顔を背けてそう言うことしか出来ない。
……本当に、このお方といると調子がおかしくなってしまう。心臓の音は早足になるし、なんだか無性に照れ臭いし。
「じゃあ、行くか」
ラインヴァルト殿下はそうおっしゃって、私の手を流れるような手つきで取られた。
そのままそっと歩き出されるので、私も彼についていく。
(エスコート、手慣れていらっしゃる……)
そりゃあ、王太子殿下なのだから、それは当然と言えば当然。……けど、なんだろうか。
彼がほかの女性をエスコートしている光景を想像して、ちくりと胸が痛んだ。
私は、彼の恋人でも婚約者でも、妻でもないというのに。
(あぁ、ダメよ。……勘違い、してはダメなの)
自分自身にそう強く言い聞かせる。勘違いなんてしてはダメ。私は愛されない娘だから。
……そう、自分自身に言い聞かせて、惨めな気持ちが蘇る。このお方に、私は相応しくないって。勝手に思って、勝手に傷ついた。
……その言葉が照れくさくて、私はもうどうすればいいかわからずに顔を覆った。
「か、からかわないで、ください……」
もう一度、言葉を繰り返す。今度のは、照れ隠し……みたいな、ものだったんだと思う。
「からかってるつもりなんて、ないんだけどな」
少し困ったようにそうおっしゃるラインヴァルト殿下に、私はもうなにを返せばいいかわからなくて。
顔の熱が引くまで、顔を覆っておこうと思った。……でも、その手をラインヴァルト殿下に掴まれて。ゆっくりとどけられて、顔を見せる羽目になってしまう。
彼の指が、私の目の下をなぞる。その後、満足そうに頷かれた。
「寝不足って感じはなさそうだし、ゆっくりと眠れたんだな」
微笑んで、そう告げられる。……心臓がバクバクと大きく音を立てて、顔にさらに熱が溜まるような感覚だった。
その指が、私の目の下から頬に触れる。私とは全然違う指に、心臓の音がどんどん駆け足になる。
「……その、とても、よく眠れました」
返事をしないのも感じが悪いかと思って、私は視線を逸らしながらそう答える。ラインヴァルト殿下が、大きく頷かれたのが視界の端に映る。……どうやら、私の回答に満足されたらしい。
「だったら、よかった。慣れない場所だったからな。……眠れていないんじゃないかと、心配だった」
「……そん、なの」
わざわざ、心配するようなことじゃないだろう。
そう言おうとして、口を閉ざす。見えたラインヴァルト殿下の表情が、あまりにも真剣なものだったから。
結局、押し黙ることしか出来ない。
「じゃあ、行こうか、テレジア嬢」
そんな私に、ラインヴァルト殿下は手を差し出してこられる。……行くのは多分、朝食の席に、よね。
それがわかっていても、私はほんの少しためらってしまう。彼はその私の気持ちを汲み取ったらしく、笑い声をあげられた。
「朝食の席に行くだけだ。……なにも、変なことをしようっていうわけじゃない」
「へ、変なことって……!」
朝からそんなこと、言わないでほしい。
その所為で、私は言葉を繰り返してしまった。ラインヴァルト殿下は、けらけらと笑われている。
「お望みだったら、そういうこともするが?」
「え……」
ちょっと待ってほしい。このお方、今、なんておっしゃったの……?
(そ、そういうことって、どういうこと……?)
頭の中がぐるぐると回る。目を回しそうになる私を見てか、彼は笑った。それはそれは、いい笑い方だった。
「冗談だ。……朝食は応接間に用意させた。明日からは、部屋に運んでもらう形にする」
「……お、おかまいなく」
この場合、どう答えるのが正解なのか。それがわからない所為で、私は顔を背けてそう言うことしか出来ない。
……本当に、このお方といると調子がおかしくなってしまう。心臓の音は早足になるし、なんだか無性に照れ臭いし。
「じゃあ、行くか」
ラインヴァルト殿下はそうおっしゃって、私の手を流れるような手つきで取られた。
そのままそっと歩き出されるので、私も彼についていく。
(エスコート、手慣れていらっしゃる……)
そりゃあ、王太子殿下なのだから、それは当然と言えば当然。……けど、なんだろうか。
彼がほかの女性をエスコートしている光景を想像して、ちくりと胸が痛んだ。
私は、彼の恋人でも婚約者でも、妻でもないというのに。
(あぁ、ダメよ。……勘違い、してはダメなの)
自分自身にそう強く言い聞かせる。勘違いなんてしてはダメ。私は愛されない娘だから。
……そう、自分自身に言い聞かせて、惨めな気持ちが蘇る。このお方に、私は相応しくないって。勝手に思って、勝手に傷ついた。
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