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本編 第1章
第6話
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(ど、どどど、どういうこと!?)
私はどうして、ラインヴァルト殿下に手首を掴まれているのだろうか。
意味がわからなくて、混乱してしまう。……掴まれた手首が、熱いような気がするのは気のせいじゃない……と、思う。
混乱して、目が回るような感覚だった。
「テレジア嬢、少し、真剣な話がある」
さらには、ラインヴァルト殿下が真剣な面持ちでそう告げてこられるものだから。
頭の中が真っ白になる。ゲオルグさまに婚約の破棄を告げられたときの比ではない。今のほうが、ずっとずーっと混乱している。
「ひゃっ、ひゃい……!」
その所為で、上ずった変な声が漏れた。
自分の発した声が耳に届いて、たまらなく恥ずかしくなる。
視線をそっと逸らせば、ラインヴァルト殿下が私の手首を掴む手に力を込められる。
……逃がさないという意思が、ひしひしと伝わってくるようだった。
「あんたは、今、フリーなんだよな?」
「……あ、あの」
フリーって、どういう意味……?
目をぱちぱちとさせてそう視線で問いかければ、彼は「婚約者や恋人がいないっていう意味だ」と教えてくださる。
……婚約者、恋人。
「い、いません! その、お恥ずかしいことに、先ほどのが全てなので……」
私はゲオルグさまの妻になるものだと思っていた。彼がいくら私のことを見下し、蔑ろにしてきても。私にはそれ以外の未来なんて用意されていないと、思っていたから。
ぶんぶんと首を横に振ってそう言葉を返すと、ラインヴァルト殿下の口元が歪む。
まるで、楽しそうなおもちゃを見つけた子供のような表情。でも、ちょっと違うかもしれない。
……これは多分、狙った獲物を逃がさないとしている肉食獣のような表情なのだ。
「じゃあ、俺が求婚しても問題ないな?」
「……は?」
自然と間抜けな声が零れた。
(い、今、おかしなお言葉が聞こえたような……?)
聞き間違いじゃなかったら、求婚と聞こえた。その求婚は求婚であって、球根とかではないと思う。
むしろ、球根の話だったら怖い。なんの脈絡もなく、変なほうに話が移ったことになるから。
「え、えぇっと、求婚とは、求めるに結婚の婚で、間違いないです……か?」
きょとんとしつつ、そう問いかける。ラインヴァルト殿下は、頷いてくださった。
「むしろ、ほかになんの求婚がある」
「しょ、植物の、球根とか……」
自分で言っておいて、なんとも意味の分からない会話である。
その所為で私が頬を引きつらせていれば、ラインヴァルト殿下の手がこちらに伸びてくる。
「いつも思っていたが、テレジア嬢は面白いな」
「お、面白いって……」
それは、女性に対する褒め言葉じゃない。
……そう思うのに、なんだか悪くないなって。ずっと、面白みのない女だと言われ続けてきたから……かな。
「まぁ、そういう意味だ。……テレジア嬢、俺と結婚してほしい」
ラインヴァルト殿下の金色の目が醸し出す視線が、私に絡みつくような感覚だった。
……胸がむずむずとするのは、どうしてなんだろうか。
「む、む、無理です! 絶対に無理です!」
でも、そう易々と受け入れられるようなお話じゃない。
(だって、ラインヴァルト殿下は王太子さまなのよ? 私とじゃあつり合いが取れないわ……!)
婚約破棄された娘が、王太子殿下に嫁ぐなんてありえない。それこそ、物語の世界の中だけの出来事だ。
(もしかして、ラインヴァルト殿下はからかわれている……?)
そういった考えが思い浮かんで、彼の目を見つめる。……疑うことさえ申し訳なくなるほどに、まっすぐに私を見つめられる殿下。
……違う。からかっているわけじゃない。
(じゃあ、同情……とか)
そうだ。多分、これはラインヴァルト殿下なりの同情なのだ。
婚約破棄された私を放っておけなくて――。
「言っておくが、同情とかじゃない。俺は本気でテレジア嬢が好きなんだ」
……違った。
私はどうして、ラインヴァルト殿下に手首を掴まれているのだろうか。
意味がわからなくて、混乱してしまう。……掴まれた手首が、熱いような気がするのは気のせいじゃない……と、思う。
混乱して、目が回るような感覚だった。
「テレジア嬢、少し、真剣な話がある」
さらには、ラインヴァルト殿下が真剣な面持ちでそう告げてこられるものだから。
頭の中が真っ白になる。ゲオルグさまに婚約の破棄を告げられたときの比ではない。今のほうが、ずっとずーっと混乱している。
「ひゃっ、ひゃい……!」
その所為で、上ずった変な声が漏れた。
自分の発した声が耳に届いて、たまらなく恥ずかしくなる。
視線をそっと逸らせば、ラインヴァルト殿下が私の手首を掴む手に力を込められる。
……逃がさないという意思が、ひしひしと伝わってくるようだった。
「あんたは、今、フリーなんだよな?」
「……あ、あの」
フリーって、どういう意味……?
目をぱちぱちとさせてそう視線で問いかければ、彼は「婚約者や恋人がいないっていう意味だ」と教えてくださる。
……婚約者、恋人。
「い、いません! その、お恥ずかしいことに、先ほどのが全てなので……」
私はゲオルグさまの妻になるものだと思っていた。彼がいくら私のことを見下し、蔑ろにしてきても。私にはそれ以外の未来なんて用意されていないと、思っていたから。
ぶんぶんと首を横に振ってそう言葉を返すと、ラインヴァルト殿下の口元が歪む。
まるで、楽しそうなおもちゃを見つけた子供のような表情。でも、ちょっと違うかもしれない。
……これは多分、狙った獲物を逃がさないとしている肉食獣のような表情なのだ。
「じゃあ、俺が求婚しても問題ないな?」
「……は?」
自然と間抜けな声が零れた。
(い、今、おかしなお言葉が聞こえたような……?)
聞き間違いじゃなかったら、求婚と聞こえた。その求婚は求婚であって、球根とかではないと思う。
むしろ、球根の話だったら怖い。なんの脈絡もなく、変なほうに話が移ったことになるから。
「え、えぇっと、求婚とは、求めるに結婚の婚で、間違いないです……か?」
きょとんとしつつ、そう問いかける。ラインヴァルト殿下は、頷いてくださった。
「むしろ、ほかになんの求婚がある」
「しょ、植物の、球根とか……」
自分で言っておいて、なんとも意味の分からない会話である。
その所為で私が頬を引きつらせていれば、ラインヴァルト殿下の手がこちらに伸びてくる。
「いつも思っていたが、テレジア嬢は面白いな」
「お、面白いって……」
それは、女性に対する褒め言葉じゃない。
……そう思うのに、なんだか悪くないなって。ずっと、面白みのない女だと言われ続けてきたから……かな。
「まぁ、そういう意味だ。……テレジア嬢、俺と結婚してほしい」
ラインヴァルト殿下の金色の目が醸し出す視線が、私に絡みつくような感覚だった。
……胸がむずむずとするのは、どうしてなんだろうか。
「む、む、無理です! 絶対に無理です!」
でも、そう易々と受け入れられるようなお話じゃない。
(だって、ラインヴァルト殿下は王太子さまなのよ? 私とじゃあつり合いが取れないわ……!)
婚約破棄された娘が、王太子殿下に嫁ぐなんてありえない。それこそ、物語の世界の中だけの出来事だ。
(もしかして、ラインヴァルト殿下はからかわれている……?)
そういった考えが思い浮かんで、彼の目を見つめる。……疑うことさえ申し訳なくなるほどに、まっすぐに私を見つめられる殿下。
……違う。からかっているわけじゃない。
(じゃあ、同情……とか)
そうだ。多分、これはラインヴァルト殿下なりの同情なのだ。
婚約破棄された私を放っておけなくて――。
「言っておくが、同情とかじゃない。俺は本気でテレジア嬢が好きなんだ」
……違った。
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