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本編 第1章
第2話
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だけど、私にとっては周囲の野次馬たちのように楽観的な問題じゃない。
何故ならば、私は婚約破棄を突きつけられた当事者なのだ。……このままだと、どうなるのか。それくらい、想像力の乏しい私にだってわかる。
(……お父さまやお母さまは、とてもお怒りになるでしょうね……)
あのお二人は、ずっと私に言い聞かせていた。
――お前の価値は、ゲオルグさまの婚約者。すなわち『次期公爵夫人』ということだけだ。
それが、あのお二人の口癖だった。
すなわち、その立場と肩書きがなくなった私に対する待遇なんて、誰にだってわかる。
(……どうしよう、どうしよう)
お屋敷に帰ったところで、どういう扱いを受けるかは大体想像がつく。
よくて勘当。悪かったら……何処かに売られるとか、そういうことだろうか。
(売られる……とすれば、悪い評判の絶えない貴族とか、老人の後妻とか。……あとは、娼館とか)
どう足掻いてもろくなことにはなりそうにない。……ならば、お屋敷に戻らずに逃亡する……ということも考えて、やめた。
だって、私には働く術がない。特別な技術を持ってもいなければ、庶民の常識にも疎い。こんな私を雇ってくれる人なんて、絶対にいない。
わなわなと唇が震えてしまう。徐々に手や身体も震え出して、恐ろしい未来に目をぎゅっと瞑った。
(ゲオルグさまを追いかける? 婚約破棄を撤回してって、申し出に行く?)
そんなことをしたところで、彼が考えを改めてくれるわけがない。彼は私のことを見下している。あの態度が、その証拠。
あと、彼は心に決めた女性が云々とおっしゃっていた。……私のことなんて、もうどうなろうが知らないというような態度。
(ど、うすればいいの……?)
徐々ににぎやかさを取り戻しつつあるパーティーホールで、私はじっと俯いていた。
しばらくして、肩になにかがぶつかった。驚いて顔を上げれば、そこには煌びやかなドレスを身にまとったご令嬢がいる。
「ゲオルグさまに出て行けと言われたのに、まだここに居座るの?」
「……それは」
「目障りなんだから、さっさと出て行きなさいよ!」
そのご令嬢がそう叫んで、私の肩を強く押す。高いヒールの所為で踏ん張りがきかなくて、しりもちをつく私。
……彼女たちは、私を見下ろして笑っていた。
「全く、本当に可愛げのない女だわ。……ゲオルグさまに振られるのも、当然だわ」
「本当にそうですわ。……あぁ、辛気臭いのが移ってしまいそう」
「そうよ。じゃあ、行きましょう」
けらけらと笑いながら、彼女たちが私の側を通り抜ける。……悔しさは、感じている。けど、彼女たちのおっしゃっていることは真実。……言い返す術なんてない。それに、言い返す元気も気力も、今の私には残っていなかった。
「……どう、すればいいの」
小さくそう呟いて、目を伏せる。
周囲の喧騒が遠のいていくような感覚だった。まるで、私一人だけがこの世界から切り離されたような。
どうしようもない、感覚。
目を瞑れば、お父さまの無の表情。お母さまの失望したような表情。お兄さまの呆れたような表情が、浮かんでくる。
「私、本当に期待外れなんだわ……」
小さくそう呟いて、ぎゅっと手を握る。
物語の中ならば、ここで誰かが助けてくれるんだろう。……かといって、ここはそういう物語の世界じゃない。
だから、私は――このまま、自然と忘れられていく。誰の目にも留まらない雑草のように、消えていくんだ。
そう、思っていたときだった。
「大丈夫か?」
誰かが、私に手を差し出して、そう声をかけてくれた。
驚いて顔を上げる。……そこには、美しい銀髪の貴公子が、いらっしゃった。
何故ならば、私は婚約破棄を突きつけられた当事者なのだ。……このままだと、どうなるのか。それくらい、想像力の乏しい私にだってわかる。
(……お父さまやお母さまは、とてもお怒りになるでしょうね……)
あのお二人は、ずっと私に言い聞かせていた。
――お前の価値は、ゲオルグさまの婚約者。すなわち『次期公爵夫人』ということだけだ。
それが、あのお二人の口癖だった。
すなわち、その立場と肩書きがなくなった私に対する待遇なんて、誰にだってわかる。
(……どうしよう、どうしよう)
お屋敷に帰ったところで、どういう扱いを受けるかは大体想像がつく。
よくて勘当。悪かったら……何処かに売られるとか、そういうことだろうか。
(売られる……とすれば、悪い評判の絶えない貴族とか、老人の後妻とか。……あとは、娼館とか)
どう足掻いてもろくなことにはなりそうにない。……ならば、お屋敷に戻らずに逃亡する……ということも考えて、やめた。
だって、私には働く術がない。特別な技術を持ってもいなければ、庶民の常識にも疎い。こんな私を雇ってくれる人なんて、絶対にいない。
わなわなと唇が震えてしまう。徐々に手や身体も震え出して、恐ろしい未来に目をぎゅっと瞑った。
(ゲオルグさまを追いかける? 婚約破棄を撤回してって、申し出に行く?)
そんなことをしたところで、彼が考えを改めてくれるわけがない。彼は私のことを見下している。あの態度が、その証拠。
あと、彼は心に決めた女性が云々とおっしゃっていた。……私のことなんて、もうどうなろうが知らないというような態度。
(ど、うすればいいの……?)
徐々ににぎやかさを取り戻しつつあるパーティーホールで、私はじっと俯いていた。
しばらくして、肩になにかがぶつかった。驚いて顔を上げれば、そこには煌びやかなドレスを身にまとったご令嬢がいる。
「ゲオルグさまに出て行けと言われたのに、まだここに居座るの?」
「……それは」
「目障りなんだから、さっさと出て行きなさいよ!」
そのご令嬢がそう叫んで、私の肩を強く押す。高いヒールの所為で踏ん張りがきかなくて、しりもちをつく私。
……彼女たちは、私を見下ろして笑っていた。
「全く、本当に可愛げのない女だわ。……ゲオルグさまに振られるのも、当然だわ」
「本当にそうですわ。……あぁ、辛気臭いのが移ってしまいそう」
「そうよ。じゃあ、行きましょう」
けらけらと笑いながら、彼女たちが私の側を通り抜ける。……悔しさは、感じている。けど、彼女たちのおっしゃっていることは真実。……言い返す術なんてない。それに、言い返す元気も気力も、今の私には残っていなかった。
「……どう、すればいいの」
小さくそう呟いて、目を伏せる。
周囲の喧騒が遠のいていくような感覚だった。まるで、私一人だけがこの世界から切り離されたような。
どうしようもない、感覚。
目を瞑れば、お父さまの無の表情。お母さまの失望したような表情。お兄さまの呆れたような表情が、浮かんでくる。
「私、本当に期待外れなんだわ……」
小さくそう呟いて、ぎゅっと手を握る。
物語の中ならば、ここで誰かが助けてくれるんだろう。……かといって、ここはそういう物語の世界じゃない。
だから、私は――このまま、自然と忘れられていく。誰の目にも留まらない雑草のように、消えていくんだ。
そう、思っていたときだった。
「大丈夫か?」
誰かが、私に手を差し出して、そう声をかけてくれた。
驚いて顔を上げる。……そこには、美しい銀髪の貴公子が、いらっしゃった。
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