冷徹大臣の雇われ妻~庶民出身成り上がり女官の次の就職先は伯爵夫人ですか~

扇 レンナ

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第1章

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 どうしてリリアンがカンディードと結婚することになったのか。

 それは、今から半年前に遡る――。


「お義姉ちゃん! 起きて!」

 部屋のカーテンが音を立てて勢いよく開く。

 朝日の眩しさは寝起きの頭には強烈で、リリアンは光に背中を向けようと寝返りを打った。

 しかし、毛布まではぎ取られてしまうと、さすがに起きるほかない。

 瞼を開けると、見知った顔の女性が寝台の側で仁王立ちしていた。

 彼女はスカイブルーの瞳を吊り上げ、リリアンを見つめている。

「なによ、ロジアネ……」
「今、何時だと思ってるのよ!」

 女性――ロジアネが壁掛け時計を指さした。

 寝起きのぼんやりした頭で、リリアンは時計を見つめる。

「えっと、九時半?」
「違うわ。十時半よ」

 確かに目を凝らすと、十時半にも見える。

「私、十三時からお仕事に行くことになった――って、昨日言ったよね?」

 記憶を掘り起こす。

 しばらく思案して、リリアンはハッとする。

「そういや、夕飯のときに言ってたわね」

 昨日の夕飯の席でのロジアネの話を思い出す。

 普段は休みだが、明日は人手が足りないので出てきてほしい――と仕事先から言われたと。

「そうよ。お義姉ちゃんも夕方には王宮に戻るんでしょ? 洗濯とか済ませておいたから、チェックしてよ」
「……いつもごめんねぇ」

 頭を掻きつつ、リリアンは大きくあくびをする。ロジアネはため息をついた。

「お義姉ちゃん、仕事だと有能なのに、どうしてこうも生活能力がないのか……」
「えへへ」
「褒めてないよ」

 冷たく言い放ち、ロジアネは部屋の入り口に向かった。

「とにかく。お昼準備するから、私が仕事に行く前に一緒に食べようよ」
「はぁい」

 リリアンの返事を聞いて、ロジアネは部屋を出て行った。

 扉が閉まる音を聞き、リリアンは伸びをして寝台から下りる。

(ロジアネに迷惑ばっかりかけてるよなぁ)

 自覚はある。でも、仕事柄家のことも同時にするのは難しい。

 家に帰るのも週に一度、忙しくなると洗濯もおざなりになる。

「その分、きちんと稼がなくちゃ」

 自身の頬をパンっとたたき、リリアンは気合を入れた。


 リリアンとロジアネは一つ違いの姉妹である。ただし、血のつながりはない。

 元々母と二人で暮らしていたリリアンは、十三歳のときにロジアネと出逢った。母とロジアネの父が再婚することになったためだ。

 ロジアネの父は実業家で、義理の娘であるリリアンのことも可愛がってくれた。

 彼はリリアンに家庭教師をつけ、読み書きができるようにしてくれた。そのおかげもあり、リリアンは今の仕事に就けている。

 母と義理の父。さらに可愛い妹。リリアンはとても幸せだった。

 ――十八歳のあの日までは。

 母と義理の父は大きな事故に巻き込まれ、命を落とした。しかも、葬儀のどさくさに紛れ、財産を持ち逃げされてしまった。犯人の目星はついているが、未だに捕まっていない。

 さらに多額の借金の発覚。リリアンとロジアネの人生はいばらの道となった。

 でも、リリアンは義理の父やロジアネを恨んだことはない。五年という短い間でも、幸せな家族だったのだから。

 リリアンは借金を少しでも返すため、王宮で女官として働き始めた。

 庶民階級出身の女官はほとんどいない。しかし、リリアンは女官の試験に合格、王宮女官として働き始めた。

 あれから四年。リリアンは王宮の下町にアパートを借り、ロジアネと二人で暮らしている。リリアンの稼ぎはほぼすべて借金返済に消えるので、生活費はロジアネが稼いでいる形になる。

 ロジアネは家のことに仕事のこと。たくさんの負担があるのに、文句ひとつ言わない。

 むしろ「お義姉ちゃんのほうが大変だから」という。

 だから、リリアンはロジアネのことだけはなんとしてでも守りたかった。苦労を背負うのは――自分だけでいい。

(だって、私はお姉ちゃんだから)

 リリアンは、いつも自分に言い聞かせているのだ。
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