32 / 37
第二部
第15話 くよくよなんてしない
しおりを挟む
そして、その日の夜。日課である就寝前のイレーナとの時間で、私はイレーナにオルランド様とのことを話した。主に、喧嘩のことについて。
イレーナは少しだけ驚いていたけれど、私の髪の毛を乾かしながら「……そうですか」と言葉を紡ぐだけにとどめていた。きっと、イレーナはイレーナで私のことを思ってくれているのだろう。
「……私、少し、いろいろと思うことがあったの。オルランド様、私のことを分かってくださらない。そう、思っちゃって」
紅茶の入ったカップをテーブルの上に戻しながら、私はそうイレーナに告げる。ジュリアンさんに感じたのは懐かしさ。好きという感情じゃない。それを、分かってほしかった。けど、それって結局面倒なだけよね。
「……さようでございますか」
「こんなの、重い女なのにね」
俯きながらそう言えば、イレーナは「お嬢様は、オルランド様のことがお好きですものね」と言う。その声音は何処となく優しくて。私は、ただ頷いた。
「好きだから、いろいろと思ってしまいますものね。私には関係のないことですけれど……」
イレーナが、少し茶化したように最後の言葉を付け足す。その言葉に、私はなにも言えなくなる。イレーナは私にずっと仕えたいと言ってくれていた。でも、何度も言うようにイレーナにはイレーナの幸せがある。だから、いつまでも私に縛り付けていていいと思えないのだ。……まぁ、イレーナにそれを告げれば悲しそうな表情をするから、言えないけれど。
「まぁ、とにかく。お嬢様のお気持ちは、しっかりとオルランド殿下に伝わっていますよ」
「……そうだと、いいわね」
本当に、そうだと良いのだけれど。そう思いながらも、私はもう一度紅茶の入ったカップを口に運ぶ。
時計を見れば、もういつも眠る時間に差し掛かっていた。イレーナも、終業になる。……もう少しイレーナと話していたいけれど、彼女には彼女の生活があるし、睡眠時間がある。そろそろ、私から解放してあげなくちゃ。
「イレーナ、もう下がってもいいわよ」
髪の毛も、乾いたし。そういう意味を込めてイレーナの方を見てそう言えば、イレーナは「……はい」と何処となく寂しそうに返事をくれた。……多分、今の私のことを放っておけないとかそういうことだろう。でも、私は決めたのだ。
「あのね、イレーナ。私、もうくよくよなんてしないわ」
お兄様やイレーナと話していて、心がすっきりとしたというのもあるけれど、一番は私がこのままだとダメだと思ったから。それに、喧嘩をしたのならば仲直りをすればいい。オルランド様も、分かってくださるはず。少し時間を置けば、素直に謝罪できるだろうし。
「オルランド様と、距離を置くことになったけれど、それは次に会う時に笑顔で会うためなのよね」
「……お嬢様」
「イレーナとお兄様とお話したら、すっきりしたわ。私、もうくよくよなんてしないわ」
繰り返したその言葉に、イレーナは少しだけ口元を緩めてくれた。その後「それでこそ、お嬢様です」という言葉をくれて。……そうよね。私はエステラだもの。苛烈で、誰にも負けない。そんなエステラなのだから、くよくよなんてしていられないのよ。
「では、また明日。おやすみなさいませ、お嬢様」
「えぇ、おやすみ、イレーナ」
就寝前の挨拶をすれば、イレーナは空になったカップとティーポットを持って部屋を出ていく。残されたのは、私一人。時間的にランプを消して、ベッドに入った方が良いかも。そう思うけれど、何故かイマイチそういう気持ちにはなれなかった。そのため、私はカーテンを開けて窓の外を見つめてみる。夜空には、たくさんの星が瞬いていて。
(……ここは地球ではないけれど、何処となく似ているのよねぇ)
あっちの世界では科学が発展していたけれど、こっちの世界で発展しているのは魔法だし。やっぱり、異世界というのが正しいのだろう。魔法のある世界に憧れる子供は少なくないし、例にもれず私も子供の頃魔法に憧れていた。……けど、転生するなんて考えていなかったなぁ、なんて。
(……もしも、ジュリアンさんが煌なのならば)
ジュリアンさんから感じられたオーラと雰囲気は、間違いなく煌と同じもの……のように、感じられた。まぁ、分かったところでどうすることも出来ないのだけれど。だって、今の私が好きなのはオルランド様だし、婚約者もオルランド様なのだから。……過去の恋を、引きずるわけにもいかないし。
(はぁ、面倒だなぁ)
窓枠に手をついて、ただ呆然と空を見上げる。その瞬間、不意に流れ星のようなものが流れたような気がして。私は慌てて願い事を三回唱えようとするけれど、それは無意味な行動で。……そもそも、流れ星が消えるまでに願い事を三回って、無茶ぶりよね?
「オルランド様と、仲直りできますように」
まぁ、願い事なんてこれ以外ありえないけれど。そう思いながら、私はベッドに入ることにした。ちなみに、お出掛けをしたからなのか身体は疲れ切っており、あっさりと眠りに落ちることが出来た。そこだけは、救いよね。余計なことを考えずに、済むし。
イレーナは少しだけ驚いていたけれど、私の髪の毛を乾かしながら「……そうですか」と言葉を紡ぐだけにとどめていた。きっと、イレーナはイレーナで私のことを思ってくれているのだろう。
「……私、少し、いろいろと思うことがあったの。オルランド様、私のことを分かってくださらない。そう、思っちゃって」
紅茶の入ったカップをテーブルの上に戻しながら、私はそうイレーナに告げる。ジュリアンさんに感じたのは懐かしさ。好きという感情じゃない。それを、分かってほしかった。けど、それって結局面倒なだけよね。
「……さようでございますか」
「こんなの、重い女なのにね」
俯きながらそう言えば、イレーナは「お嬢様は、オルランド様のことがお好きですものね」と言う。その声音は何処となく優しくて。私は、ただ頷いた。
「好きだから、いろいろと思ってしまいますものね。私には関係のないことですけれど……」
イレーナが、少し茶化したように最後の言葉を付け足す。その言葉に、私はなにも言えなくなる。イレーナは私にずっと仕えたいと言ってくれていた。でも、何度も言うようにイレーナにはイレーナの幸せがある。だから、いつまでも私に縛り付けていていいと思えないのだ。……まぁ、イレーナにそれを告げれば悲しそうな表情をするから、言えないけれど。
「まぁ、とにかく。お嬢様のお気持ちは、しっかりとオルランド殿下に伝わっていますよ」
「……そうだと、いいわね」
本当に、そうだと良いのだけれど。そう思いながらも、私はもう一度紅茶の入ったカップを口に運ぶ。
時計を見れば、もういつも眠る時間に差し掛かっていた。イレーナも、終業になる。……もう少しイレーナと話していたいけれど、彼女には彼女の生活があるし、睡眠時間がある。そろそろ、私から解放してあげなくちゃ。
「イレーナ、もう下がってもいいわよ」
髪の毛も、乾いたし。そういう意味を込めてイレーナの方を見てそう言えば、イレーナは「……はい」と何処となく寂しそうに返事をくれた。……多分、今の私のことを放っておけないとかそういうことだろう。でも、私は決めたのだ。
「あのね、イレーナ。私、もうくよくよなんてしないわ」
お兄様やイレーナと話していて、心がすっきりとしたというのもあるけれど、一番は私がこのままだとダメだと思ったから。それに、喧嘩をしたのならば仲直りをすればいい。オルランド様も、分かってくださるはず。少し時間を置けば、素直に謝罪できるだろうし。
「オルランド様と、距離を置くことになったけれど、それは次に会う時に笑顔で会うためなのよね」
「……お嬢様」
「イレーナとお兄様とお話したら、すっきりしたわ。私、もうくよくよなんてしないわ」
繰り返したその言葉に、イレーナは少しだけ口元を緩めてくれた。その後「それでこそ、お嬢様です」という言葉をくれて。……そうよね。私はエステラだもの。苛烈で、誰にも負けない。そんなエステラなのだから、くよくよなんてしていられないのよ。
「では、また明日。おやすみなさいませ、お嬢様」
「えぇ、おやすみ、イレーナ」
就寝前の挨拶をすれば、イレーナは空になったカップとティーポットを持って部屋を出ていく。残されたのは、私一人。時間的にランプを消して、ベッドに入った方が良いかも。そう思うけれど、何故かイマイチそういう気持ちにはなれなかった。そのため、私はカーテンを開けて窓の外を見つめてみる。夜空には、たくさんの星が瞬いていて。
(……ここは地球ではないけれど、何処となく似ているのよねぇ)
あっちの世界では科学が発展していたけれど、こっちの世界で発展しているのは魔法だし。やっぱり、異世界というのが正しいのだろう。魔法のある世界に憧れる子供は少なくないし、例にもれず私も子供の頃魔法に憧れていた。……けど、転生するなんて考えていなかったなぁ、なんて。
(……もしも、ジュリアンさんが煌なのならば)
ジュリアンさんから感じられたオーラと雰囲気は、間違いなく煌と同じもの……のように、感じられた。まぁ、分かったところでどうすることも出来ないのだけれど。だって、今の私が好きなのはオルランド様だし、婚約者もオルランド様なのだから。……過去の恋を、引きずるわけにもいかないし。
(はぁ、面倒だなぁ)
窓枠に手をついて、ただ呆然と空を見上げる。その瞬間、不意に流れ星のようなものが流れたような気がして。私は慌てて願い事を三回唱えようとするけれど、それは無意味な行動で。……そもそも、流れ星が消えるまでに願い事を三回って、無茶ぶりよね?
「オルランド様と、仲直りできますように」
まぁ、願い事なんてこれ以外ありえないけれど。そう思いながら、私はベッドに入ることにした。ちなみに、お出掛けをしたからなのか身体は疲れ切っており、あっさりと眠りに落ちることが出来た。そこだけは、救いよね。余計なことを考えずに、済むし。
0
お気に入りに追加
6,118
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。