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第二部
第15話 くよくよなんてしない
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そして、その日の夜。日課である就寝前のイレーナとの時間で、私はイレーナにオルランド様とのことを話した。主に、喧嘩のことについて。
イレーナは少しだけ驚いていたけれど、私の髪の毛を乾かしながら「……そうですか」と言葉を紡ぐだけにとどめていた。きっと、イレーナはイレーナで私のことを思ってくれているのだろう。
「……私、少し、いろいろと思うことがあったの。オルランド様、私のことを分かってくださらない。そう、思っちゃって」
紅茶の入ったカップをテーブルの上に戻しながら、私はそうイレーナに告げる。ジュリアンさんに感じたのは懐かしさ。好きという感情じゃない。それを、分かってほしかった。けど、それって結局面倒なだけよね。
「……さようでございますか」
「こんなの、重い女なのにね」
俯きながらそう言えば、イレーナは「お嬢様は、オルランド様のことがお好きですものね」と言う。その声音は何処となく優しくて。私は、ただ頷いた。
「好きだから、いろいろと思ってしまいますものね。私には関係のないことですけれど……」
イレーナが、少し茶化したように最後の言葉を付け足す。その言葉に、私はなにも言えなくなる。イレーナは私にずっと仕えたいと言ってくれていた。でも、何度も言うようにイレーナにはイレーナの幸せがある。だから、いつまでも私に縛り付けていていいと思えないのだ。……まぁ、イレーナにそれを告げれば悲しそうな表情をするから、言えないけれど。
「まぁ、とにかく。お嬢様のお気持ちは、しっかりとオルランド殿下に伝わっていますよ」
「……そうだと、いいわね」
本当に、そうだと良いのだけれど。そう思いながらも、私はもう一度紅茶の入ったカップを口に運ぶ。
時計を見れば、もういつも眠る時間に差し掛かっていた。イレーナも、終業になる。……もう少しイレーナと話していたいけれど、彼女には彼女の生活があるし、睡眠時間がある。そろそろ、私から解放してあげなくちゃ。
「イレーナ、もう下がってもいいわよ」
髪の毛も、乾いたし。そういう意味を込めてイレーナの方を見てそう言えば、イレーナは「……はい」と何処となく寂しそうに返事をくれた。……多分、今の私のことを放っておけないとかそういうことだろう。でも、私は決めたのだ。
「あのね、イレーナ。私、もうくよくよなんてしないわ」
お兄様やイレーナと話していて、心がすっきりとしたというのもあるけれど、一番は私がこのままだとダメだと思ったから。それに、喧嘩をしたのならば仲直りをすればいい。オルランド様も、分かってくださるはず。少し時間を置けば、素直に謝罪できるだろうし。
「オルランド様と、距離を置くことになったけれど、それは次に会う時に笑顔で会うためなのよね」
「……お嬢様」
「イレーナとお兄様とお話したら、すっきりしたわ。私、もうくよくよなんてしないわ」
繰り返したその言葉に、イレーナは少しだけ口元を緩めてくれた。その後「それでこそ、お嬢様です」という言葉をくれて。……そうよね。私はエステラだもの。苛烈で、誰にも負けない。そんなエステラなのだから、くよくよなんてしていられないのよ。
「では、また明日。おやすみなさいませ、お嬢様」
「えぇ、おやすみ、イレーナ」
就寝前の挨拶をすれば、イレーナは空になったカップとティーポットを持って部屋を出ていく。残されたのは、私一人。時間的にランプを消して、ベッドに入った方が良いかも。そう思うけれど、何故かイマイチそういう気持ちにはなれなかった。そのため、私はカーテンを開けて窓の外を見つめてみる。夜空には、たくさんの星が瞬いていて。
(……ここは地球ではないけれど、何処となく似ているのよねぇ)
あっちの世界では科学が発展していたけれど、こっちの世界で発展しているのは魔法だし。やっぱり、異世界というのが正しいのだろう。魔法のある世界に憧れる子供は少なくないし、例にもれず私も子供の頃魔法に憧れていた。……けど、転生するなんて考えていなかったなぁ、なんて。
(……もしも、ジュリアンさんが煌なのならば)
ジュリアンさんから感じられたオーラと雰囲気は、間違いなく煌と同じもの……のように、感じられた。まぁ、分かったところでどうすることも出来ないのだけれど。だって、今の私が好きなのはオルランド様だし、婚約者もオルランド様なのだから。……過去の恋を、引きずるわけにもいかないし。
(はぁ、面倒だなぁ)
窓枠に手をついて、ただ呆然と空を見上げる。その瞬間、不意に流れ星のようなものが流れたような気がして。私は慌てて願い事を三回唱えようとするけれど、それは無意味な行動で。……そもそも、流れ星が消えるまでに願い事を三回って、無茶ぶりよね?
「オルランド様と、仲直りできますように」
まぁ、願い事なんてこれ以外ありえないけれど。そう思いながら、私はベッドに入ることにした。ちなみに、お出掛けをしたからなのか身体は疲れ切っており、あっさりと眠りに落ちることが出来た。そこだけは、救いよね。余計なことを考えずに、済むし。
イレーナは少しだけ驚いていたけれど、私の髪の毛を乾かしながら「……そうですか」と言葉を紡ぐだけにとどめていた。きっと、イレーナはイレーナで私のことを思ってくれているのだろう。
「……私、少し、いろいろと思うことがあったの。オルランド様、私のことを分かってくださらない。そう、思っちゃって」
紅茶の入ったカップをテーブルの上に戻しながら、私はそうイレーナに告げる。ジュリアンさんに感じたのは懐かしさ。好きという感情じゃない。それを、分かってほしかった。けど、それって結局面倒なだけよね。
「……さようでございますか」
「こんなの、重い女なのにね」
俯きながらそう言えば、イレーナは「お嬢様は、オルランド様のことがお好きですものね」と言う。その声音は何処となく優しくて。私は、ただ頷いた。
「好きだから、いろいろと思ってしまいますものね。私には関係のないことですけれど……」
イレーナが、少し茶化したように最後の言葉を付け足す。その言葉に、私はなにも言えなくなる。イレーナは私にずっと仕えたいと言ってくれていた。でも、何度も言うようにイレーナにはイレーナの幸せがある。だから、いつまでも私に縛り付けていていいと思えないのだ。……まぁ、イレーナにそれを告げれば悲しそうな表情をするから、言えないけれど。
「まぁ、とにかく。お嬢様のお気持ちは、しっかりとオルランド殿下に伝わっていますよ」
「……そうだと、いいわね」
本当に、そうだと良いのだけれど。そう思いながらも、私はもう一度紅茶の入ったカップを口に運ぶ。
時計を見れば、もういつも眠る時間に差し掛かっていた。イレーナも、終業になる。……もう少しイレーナと話していたいけれど、彼女には彼女の生活があるし、睡眠時間がある。そろそろ、私から解放してあげなくちゃ。
「イレーナ、もう下がってもいいわよ」
髪の毛も、乾いたし。そういう意味を込めてイレーナの方を見てそう言えば、イレーナは「……はい」と何処となく寂しそうに返事をくれた。……多分、今の私のことを放っておけないとかそういうことだろう。でも、私は決めたのだ。
「あのね、イレーナ。私、もうくよくよなんてしないわ」
お兄様やイレーナと話していて、心がすっきりとしたというのもあるけれど、一番は私がこのままだとダメだと思ったから。それに、喧嘩をしたのならば仲直りをすればいい。オルランド様も、分かってくださるはず。少し時間を置けば、素直に謝罪できるだろうし。
「オルランド様と、距離を置くことになったけれど、それは次に会う時に笑顔で会うためなのよね」
「……お嬢様」
「イレーナとお兄様とお話したら、すっきりしたわ。私、もうくよくよなんてしないわ」
繰り返したその言葉に、イレーナは少しだけ口元を緩めてくれた。その後「それでこそ、お嬢様です」という言葉をくれて。……そうよね。私はエステラだもの。苛烈で、誰にも負けない。そんなエステラなのだから、くよくよなんてしていられないのよ。
「では、また明日。おやすみなさいませ、お嬢様」
「えぇ、おやすみ、イレーナ」
就寝前の挨拶をすれば、イレーナは空になったカップとティーポットを持って部屋を出ていく。残されたのは、私一人。時間的にランプを消して、ベッドに入った方が良いかも。そう思うけれど、何故かイマイチそういう気持ちにはなれなかった。そのため、私はカーテンを開けて窓の外を見つめてみる。夜空には、たくさんの星が瞬いていて。
(……ここは地球ではないけれど、何処となく似ているのよねぇ)
あっちの世界では科学が発展していたけれど、こっちの世界で発展しているのは魔法だし。やっぱり、異世界というのが正しいのだろう。魔法のある世界に憧れる子供は少なくないし、例にもれず私も子供の頃魔法に憧れていた。……けど、転生するなんて考えていなかったなぁ、なんて。
(……もしも、ジュリアンさんが煌なのならば)
ジュリアンさんから感じられたオーラと雰囲気は、間違いなく煌と同じもの……のように、感じられた。まぁ、分かったところでどうすることも出来ないのだけれど。だって、今の私が好きなのはオルランド様だし、婚約者もオルランド様なのだから。……過去の恋を、引きずるわけにもいかないし。
(はぁ、面倒だなぁ)
窓枠に手をついて、ただ呆然と空を見上げる。その瞬間、不意に流れ星のようなものが流れたような気がして。私は慌てて願い事を三回唱えようとするけれど、それは無意味な行動で。……そもそも、流れ星が消えるまでに願い事を三回って、無茶ぶりよね?
「オルランド様と、仲直りできますように」
まぁ、願い事なんてこれ以外ありえないけれど。そう思いながら、私はベッドに入ることにした。ちなみに、お出掛けをしたからなのか身体は疲れ切っており、あっさりと眠りに落ちることが出来た。そこだけは、救いよね。余計なことを考えずに、済むし。
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