前世を思い出して王子の追っかけを止めたら、逆に迫られています

扇 レンナ

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第二部

第2話 腹黒王子殿下とその婚約者の日常

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「では、エステラ。行きましょうか」
「……はい」

 お兄様が立ち去った後、オルランド様は私に綺麗な笑みを向けられるとそう声をかけてくださった。なので、私はぎこちない笑みを浮かべて頷く。今更ながらに、緊張してしまっている。王家主催のお茶会ということもだけれど、なによりもヴィオランテ様にお会いするということが一番緊張してしまうのよね。……地味とか、言われないだろうか。いや、地味なんて可愛らしい方だろうな。『不細工』とか言われたら、立ち直れない気がするわ。

「エステラ。なにか、考え事ですか?」

 私がじっと俯いていたからだろうか、オルランド様はそう問いかけてこられた。なので、私はオルランド様を見つめて「緊張、してしまって」と端的に返す。それにしても、オルランド様のお顔って本当に綺麗よね。そりゃあ、異性が放っておかないはずだわ。身分も王子様だし。そんなことを、実感する。

「緊張……あぁ、母のことですか。確かにあの人は人一倍『美』にはうるさいですし、遠目から見ただけだと冷たく見えるでしょうね」

 オルランド様。それは、安心させるには不十分な言葉ですよ? そう思うけれど、口には出さなかった。この言葉には続きがあると分かっていたからだろう。

「ですが、あの人は認めた人間に対しては誰よりも優しくなりますよ。なので、認められればそこまで悪くは扱いません」

 つまり、必ず認められろということなのだろうな。それを感じ取りながら、私はオルランド様が乗ってきたという王家の馬車に乗り込む。ブラウンスマ家の物よりも数段立派な馬車は、相変わらずだ。御者は私とオルランド様が乗りこんだのを見届けると、扉を閉め馬車を走らせ始めた。

「それに、そこまで緊張しなくてもいいと思いますけれど。あの人だって、ずっとエステラに構っているわけじゃありませんし。一時的なものです」
「……いや、一時的ではなく、今後も……」
「あの人、興味のあること以外には淡泊なので。そこまで深く考えなくてもいいですよ」

 そう言われても、やっぱり気になるのが私という人間だ。そう考えていれば、オルランド様は窓の外に視線を移される。その横顔は、とても綺麗だった。……さすがは、美貌の王子様。ヴィオランテ様も生で見たことはないけれど、相当な美貌をお持ちらしいし、私の地味さが際立つような気がする。

(側妃様はあまり公に出てこられないし、ヴィオランテ様のお顔を私はよく知らないのよね……)

 王家の公の行事には、全て王妃様が出てこられる。そのため、側妃の方々は離宮で自由気ままに過ごしていらっしゃるという噂だ。だから、私くらいの年齢の貴族になると、側妃様のお顔を肖像画でしか見たことがないとか、そもそも肖像画さえ見たことがないという人も現れている。私も、そうだし。

 けど、今回のお茶会ではヴィオランテ様が公の場に現れることになっている。多分だけれど、息子であるオルランド様の婚約者……つまり、私のことを見るためだろうな。

「まぁ、あの人のことはどうでもいいですよね。あの人にエステラとの時間、潰されたくないですし」
「オルランド様。あの、先ほどからヴィオランテ様のことを『あの人』と呼んでいらっしゃいますけれど、あまり仲がよろしくないのですか……?」

 普通、母上とか母様とか呼ばれるのではないのだろうか? そう思っていれば、オルランド様は「別に、普通ですよ」としか返してくださらない。でも、その声音は何処か不機嫌で。あまり好いていない。もしくは、喧嘩中なのだろうなとは、思った。

「会話は時々しますし、関わることも度々あります。ただ、俺もあの人も自由気ままに暮らすことが好きですし、そもそも俺は乳母に育てられたに等しいので。親子というよりは、時々会う親戚みたいな感覚です」
「そうなの、ですか」
「特に今代の王家は父が九人も妃を娶ったので、諸々ややこしいですし。王国の情勢を考えるに、仕方のないことだったとは分かっていますけれどね。あと、他の王子ともたまに会話をするくらいなので、兄弟と仲が良いエステラのことが羨ましい」

 ……やっぱり、王家って複雑なのね。そう思って私がしんみりとしていれば、オルランド様は「エステラが、気にするようなことではないですけれど」なんて付け足してこられる。それでも、考え込んでしまう私に対し、オルランド様は「兄が、出来そうですし」とも付け足された。兄。それって多分、お兄様のこと……よね?

「待ってください。オルランド様とお兄様が仲が良くなったのは知っていましたが、いつの間にそこまで仲良くなられたのですか……?」

 ダメだ。それはダメだ。お兄様は余計なことしか言わないお方。オルランド様にもきっと余計なことを嬉々として吹き込む。そんな最悪な事実を考えながら私が頬をひきつらせオルランド様を見つめれば、オルランド様はにっこりと笑われた。

「社交の場で話したり、エステラに会いに来ているうちに、ですよね。最近では王宮に招待したりもしています」
「お兄様、度々『友人のところに行ってくる』っておっしゃっていたのですけれど、オルランド様の元にだったのですね……」
「あの人、面白いですよね」

 違う。面白いというレベルじゃない。ただのシスコンで愉快犯だ。優秀なのは、確かに認めるけれど。

「まぁ、いいじゃないですか。俺も対等に話せる人間が出来て、嬉しかったので」

 でも、オルランド様のその笑みを見ていると、「まぁ、いいや」という気持ちが芽生えてくる。オルランド様も、いろいろと苦労されているのだから、仕方がないわよねぇ。そう思って、私は深呼吸をした。しかし、

「それに、アーレントはエステラの昔話を聞かせてくれるので、退屈しませんよね」

 その報告は、正直なところ必要なかったし知りたくもなかった。そう思いながら、私はお兄様に殺意を覚えた。あの人、絶対に余計なことをお話しているわ……!
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