41 / 47
本編 第7章
ヴェルディアナの能力
しおりを挟む
その言葉に、ヴェルディアナはぐっと息を呑んだ。女性の肩はわなわなと震えており、目からは涙をぽろぽろと零している。オリヴァーはそんな女性に「止めてよ……!」と声をかけていた。
オリヴァーは母親のためにと思い、行動を続けていた。だが、その母親はそんなことを望んではいなかった。それが手に取るようにわかるからこそ、ヴェルディアナの胸が痛む。……まるで、自分とリベラトーレのようじゃないか。
(そう、リベラトーレ様のためだと思って私は行動していた。けれど、それはリベラトーレ様のためではなく、結局自分のためだった)
もしかしたら、オリヴァーも一緒なのかもしれない。母親のためだと思い、行動をしていた。だが、元をただせばそれは自己満足でしかなかったのだろう。それがわかるからこそ、ヴェルディアナは女性の肩をゆっくりとたたく。
「……謝らないでください」
「で、でも……」
「私に謝っても、何にもなりませんから」
肩をすくめながらそう言えば、女性は恐る恐るといった風に顔を上げる。そして、彼女はヴェルディアナの微笑みを見てほっと胸をなでおろしているようだった。
そんな彼女にヴェルディアナはまた微笑みかける。しかし、そんなとき。
「――っつ!」
女性が突然胸を押さえて苦しみだしたのだ。息が徐々に荒くなり、顔色が蒼くなっていく。それに気が付き、オリヴァーは慌てる。
「母さん!」
オリヴァーの悲痛な声がヴェルディアナの耳に届く。だからこそ、ヴェルディアナは慌てて女性の身体を支える。彼女の身体はとても軽かった。相当、弱っていたのだろう。
「オリヴァー様。とりあえず、寝台に寝かせましょう」
ヴェルディアナがそう声をかければ、オリヴァーは静かに頷き女性を抱きかかえる。そのまま彼は女性を寝台に寝かせた。
(……なんとなく、マズイ気がするわね)
女性の顔色を見つめながら、ヴェルディアナは瞬時にそう判断する。蒼い顔もだけれど、荒い息が一番問題だろうか。
「なんとか――」
ヴェルディアナがオリヴァーに向き直ったときだった。不意に、その手首を弱々しい力でつかまれる。それに驚いて視線をそちらに向ければ、そこでは女性がヴェルディアナのことを見つめていた。彼女は首をゆるゆると横に振ると、「い、いの」と口パクで伝えてくる。
「い、いの、よ。これ、で、つぐないに、なるの、なら……」
女性の言う償いとは、オリヴァーがリベラトーレを陥れたことに関することだろう。それがわかったものの、ヴェルディアナは「ダメです」と凛とした声で返す。
「こんなので、償いになると思わないでください」
自分でも驚くほど冷たい声だった。それにオリヴァーも女性も驚く。
そんな二人を一瞥した後、ヴェルディアナはふっと口元を緩めた。
「生きていないと、償いになりませんから。……オリヴァー様。とりあえず、お水をお願いします」
「わ、わかった」
優しい声の次に、メリハリがつくような強い声でそう伝える。すると、オリヴァーは部屋の外へと駆けて行った。
彼のそんな後ろ姿を見送ったヴェルディアナは、思考回路を動かす。ヴェルディアナに医療の心得はない。それに、魔法の適正さえないのだ。オリヴァーはヴェルディアナに治癒の魔法の適性があると言ってくれたが、実際にそれが真実なのかはわからない。だけど――……。
(……やってみたい)
そう、思ってしまう。
だからこそ、ヴェルディアナは女性と目線を合わせるように屈みこみ、ゆっくりと深呼吸をする。魔法を使う際は、精神統一が大切だ。それは幼少期から習ってきた。
一秒、二秒、三秒。ゆっくりと深く息を吸って、息を吐く。次に体内の魔力に全神経を集中させた。……大丈夫。大丈夫。できる。
「――大丈夫」
そのままヴェルディアナはゆっくりと女性の身体に手をかざす。あまり、魔法を使うことは上手くない。それどころか、上手にコントロールできるかさえ危うい。でも、一か八かかけるしかない。……このまま、この人を見殺しにするのは絶対に無理だった。
「ヴぇ、る、でぃ、あなさん……」
女性が弱々しい声でヴェルディアナの名前を呼ぶ。そのため、ヴェルディアナはゆっくりと唇を開く。
何故だろうか。自然とすらすらと呪文が出てくる。この呪文は全く知らないもののはずなのに。ずっと昔から知っているような気がするものだった。
「――女神の、加護を」
小さくそう呟けばその瞬間、温かな光が部屋を包み込んだ。
その光は徐々に強くなり、目を開けていることさえ辛くなってしまう。
そう思いながらヴェルディアナが目を瞑り、光が消えた時に目を開く。
「……あ」
瞬間、身体から力が抜けその場にへたり込んでしまった。けれど、意識ははっきりとしていた。そのため、ぼんやりとする視界の中女性の顔を見つめる。
彼女の顔色は――とても、よくなっているようにも思えた。
オリヴァーは母親のためにと思い、行動を続けていた。だが、その母親はそんなことを望んではいなかった。それが手に取るようにわかるからこそ、ヴェルディアナの胸が痛む。……まるで、自分とリベラトーレのようじゃないか。
(そう、リベラトーレ様のためだと思って私は行動していた。けれど、それはリベラトーレ様のためではなく、結局自分のためだった)
もしかしたら、オリヴァーも一緒なのかもしれない。母親のためだと思い、行動をしていた。だが、元をただせばそれは自己満足でしかなかったのだろう。それがわかるからこそ、ヴェルディアナは女性の肩をゆっくりとたたく。
「……謝らないでください」
「で、でも……」
「私に謝っても、何にもなりませんから」
肩をすくめながらそう言えば、女性は恐る恐るといった風に顔を上げる。そして、彼女はヴェルディアナの微笑みを見てほっと胸をなでおろしているようだった。
そんな彼女にヴェルディアナはまた微笑みかける。しかし、そんなとき。
「――っつ!」
女性が突然胸を押さえて苦しみだしたのだ。息が徐々に荒くなり、顔色が蒼くなっていく。それに気が付き、オリヴァーは慌てる。
「母さん!」
オリヴァーの悲痛な声がヴェルディアナの耳に届く。だからこそ、ヴェルディアナは慌てて女性の身体を支える。彼女の身体はとても軽かった。相当、弱っていたのだろう。
「オリヴァー様。とりあえず、寝台に寝かせましょう」
ヴェルディアナがそう声をかければ、オリヴァーは静かに頷き女性を抱きかかえる。そのまま彼は女性を寝台に寝かせた。
(……なんとなく、マズイ気がするわね)
女性の顔色を見つめながら、ヴェルディアナは瞬時にそう判断する。蒼い顔もだけれど、荒い息が一番問題だろうか。
「なんとか――」
ヴェルディアナがオリヴァーに向き直ったときだった。不意に、その手首を弱々しい力でつかまれる。それに驚いて視線をそちらに向ければ、そこでは女性がヴェルディアナのことを見つめていた。彼女は首をゆるゆると横に振ると、「い、いの」と口パクで伝えてくる。
「い、いの、よ。これ、で、つぐないに、なるの、なら……」
女性の言う償いとは、オリヴァーがリベラトーレを陥れたことに関することだろう。それがわかったものの、ヴェルディアナは「ダメです」と凛とした声で返す。
「こんなので、償いになると思わないでください」
自分でも驚くほど冷たい声だった。それにオリヴァーも女性も驚く。
そんな二人を一瞥した後、ヴェルディアナはふっと口元を緩めた。
「生きていないと、償いになりませんから。……オリヴァー様。とりあえず、お水をお願いします」
「わ、わかった」
優しい声の次に、メリハリがつくような強い声でそう伝える。すると、オリヴァーは部屋の外へと駆けて行った。
彼のそんな後ろ姿を見送ったヴェルディアナは、思考回路を動かす。ヴェルディアナに医療の心得はない。それに、魔法の適正さえないのだ。オリヴァーはヴェルディアナに治癒の魔法の適性があると言ってくれたが、実際にそれが真実なのかはわからない。だけど――……。
(……やってみたい)
そう、思ってしまう。
だからこそ、ヴェルディアナは女性と目線を合わせるように屈みこみ、ゆっくりと深呼吸をする。魔法を使う際は、精神統一が大切だ。それは幼少期から習ってきた。
一秒、二秒、三秒。ゆっくりと深く息を吸って、息を吐く。次に体内の魔力に全神経を集中させた。……大丈夫。大丈夫。できる。
「――大丈夫」
そのままヴェルディアナはゆっくりと女性の身体に手をかざす。あまり、魔法を使うことは上手くない。それどころか、上手にコントロールできるかさえ危うい。でも、一か八かかけるしかない。……このまま、この人を見殺しにするのは絶対に無理だった。
「ヴぇ、る、でぃ、あなさん……」
女性が弱々しい声でヴェルディアナの名前を呼ぶ。そのため、ヴェルディアナはゆっくりと唇を開く。
何故だろうか。自然とすらすらと呪文が出てくる。この呪文は全く知らないもののはずなのに。ずっと昔から知っているような気がするものだった。
「――女神の、加護を」
小さくそう呟けばその瞬間、温かな光が部屋を包み込んだ。
その光は徐々に強くなり、目を開けていることさえ辛くなってしまう。
そう思いながらヴェルディアナが目を瞑り、光が消えた時に目を開く。
「……あ」
瞬間、身体から力が抜けその場にへたり込んでしまった。けれど、意識ははっきりとしていた。そのため、ぼんやりとする視界の中女性の顔を見つめる。
彼女の顔色は――とても、よくなっているようにも思えた。
2
お気に入りに追加
2,060
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
旦那様、仕事に集中してください!~如何なる時も表情を変えない侯爵様。独占欲が強いなんて聞いていません!~
あん蜜
恋愛
いつ如何なる時も表情を変えないことで有名なアーレイ・ハンドバード侯爵と結婚した私は、夫に純潔を捧げる準備を整え、その時を待っていた。
結婚式では表情に変化のなかった夫だが、妻と愛し合っている最中に、それも初夜に、表情を変えないなんてことあるはずがない。
何の心配もしていなかった。
今から旦那様は、私だけに艶めいた表情を見せてくださる……そう思っていたのに――。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【R18】あなたに愛は誓えない
みちょこ
恋愛
元軍人の娘であるクリスタは、幼い頃からテオという青年を一途に想い続けていた。
しかし、招かれた古城の夜会で、クリスタはテオが別の女性と密会している現場を目撃してしまう。
嘆き悲しむクリスタを前に、彼女の父親は部下であるテオとクリスタの結婚を半ば強制的に決めてしまい──
※15話前後で完結予定です。
→全19話で確定しそうです。
※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。
【R18】英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
季邑 えり
恋愛
とうとうヴィクターが帰って来る——シャーロットは橙色の髪をした初恋の騎士を待っていた。
『どうしても、手に入れたいものがある』そう言ってヴィクターはケンドリッチを離れたが、シャーロットは、別れ際に言った『手に入れたいもの』が何かを知らない。
ヴィクターは敵国の将を打ち取った英雄となり、戦勝パレードのために帰って来る。それも皇帝の娘である皇女を連れて。——危険を冒してまで手に入れた、英雄の婚約者を連れて。
幼馴染の騎士 × 辺境の令嬢
二人が待ちわびていたものは何なのか
【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。
水樹風
恋愛
とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。
十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。
だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。
白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。
「エルシャ、いいかい?」
「はい、レイ様……」
それは堪らなく、甘い夜──。
* 世界観はあくまで創作です。
* 全12話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる