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本編 第7章

ヴェルディアナの能力

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 その言葉に、ヴェルディアナはぐっと息を呑んだ。女性の肩はわなわなと震えており、目からは涙をぽろぽろと零している。オリヴァーはそんな女性に「止めてよ……!」と声をかけていた。

 オリヴァーは母親のためにと思い、行動を続けていた。だが、その母親はそんなことを望んではいなかった。それが手に取るようにわかるからこそ、ヴェルディアナの胸が痛む。……まるで、自分とリベラトーレのようじゃないか。

(そう、リベラトーレ様のためだと思って私は行動していた。けれど、それはリベラトーレ様のためではなく、結局自分のためだった)

 もしかしたら、オリヴァーも一緒なのかもしれない。母親のためだと思い、行動をしていた。だが、元をただせばそれは自己満足でしかなかったのだろう。それがわかるからこそ、ヴェルディアナは女性の肩をゆっくりとたたく。

「……謝らないでください」
「で、でも……」
「私に謝っても、何にもなりませんから」

 肩をすくめながらそう言えば、女性は恐る恐るといった風に顔を上げる。そして、彼女はヴェルディアナの微笑みを見てほっと胸をなでおろしているようだった。

 そんな彼女にヴェルディアナはまた微笑みかける。しかし、そんなとき。

「――っつ!」

 女性が突然胸を押さえて苦しみだしたのだ。息が徐々に荒くなり、顔色が蒼くなっていく。それに気が付き、オリヴァーは慌てる。

「母さん!」

 オリヴァーの悲痛な声がヴェルディアナの耳に届く。だからこそ、ヴェルディアナは慌てて女性の身体を支える。彼女の身体はとても軽かった。相当、弱っていたのだろう。

「オリヴァー様。とりあえず、寝台に寝かせましょう」

 ヴェルディアナがそう声をかければ、オリヴァーは静かに頷き女性を抱きかかえる。そのまま彼は女性を寝台に寝かせた。

(……なんとなく、マズイ気がするわね)

 女性の顔色を見つめながら、ヴェルディアナは瞬時にそう判断する。蒼い顔もだけれど、荒い息が一番問題だろうか。

「なんとか――」

 ヴェルディアナがオリヴァーに向き直ったときだった。不意に、その手首を弱々しい力でつかまれる。それに驚いて視線をそちらに向ければ、そこでは女性がヴェルディアナのことを見つめていた。彼女は首をゆるゆると横に振ると、「い、いの」と口パクで伝えてくる。

「い、いの、よ。これ、で、つぐないに、なるの、なら……」

 女性の言う償いとは、オリヴァーがリベラトーレを陥れたことに関することだろう。それがわかったものの、ヴェルディアナは「ダメです」と凛とした声で返す。

「こんなので、償いになると思わないでください」

 自分でも驚くほど冷たい声だった。それにオリヴァーも女性も驚く。

 そんな二人を一瞥した後、ヴェルディアナはふっと口元を緩めた。

「生きていないと、償いになりませんから。……オリヴァー様。とりあえず、お水をお願いします」
「わ、わかった」

 優しい声の次に、メリハリがつくような強い声でそう伝える。すると、オリヴァーは部屋の外へと駆けて行った。

 彼のそんな後ろ姿を見送ったヴェルディアナは、思考回路を動かす。ヴェルディアナに医療の心得はない。それに、魔法の適正さえないのだ。オリヴァーはヴェルディアナに治癒の魔法の適性があると言ってくれたが、実際にそれが真実なのかはわからない。だけど――……。

(……やってみたい)

 そう、思ってしまう。

 だからこそ、ヴェルディアナは女性と目線を合わせるように屈みこみ、ゆっくりと深呼吸をする。魔法を使う際は、精神統一が大切だ。それは幼少期から習ってきた。

 一秒、二秒、三秒。ゆっくりと深く息を吸って、息を吐く。次に体内の魔力に全神経を集中させた。……大丈夫。大丈夫。できる。

「――大丈夫」

 そのままヴェルディアナはゆっくりと女性の身体に手をかざす。あまり、魔法を使うことは上手くない。それどころか、上手にコントロールできるかさえ危うい。でも、一か八かかけるしかない。……このまま、この人を見殺しにするのは絶対に無理だった。

「ヴぇ、る、でぃ、あなさん……」

 女性が弱々しい声でヴェルディアナの名前を呼ぶ。そのため、ヴェルディアナはゆっくりと唇を開く。

 何故だろうか。自然とすらすらと呪文が出てくる。この呪文は全く知らないもののはずなのに。ずっと昔から知っているような気がするものだった。

「――女神の、加護を」

 小さくそう呟けばその瞬間、温かな光が部屋を包み込んだ。

 その光は徐々に強くなり、目を開けていることさえ辛くなってしまう。

 そう思いながらヴェルディアナが目を瞑り、光が消えた時に目を開く。

「……あ」

 瞬間、身体から力が抜けその場にへたり込んでしまった。けれど、意識ははっきりとしていた。そのため、ぼんやりとする視界の中女性の顔を見つめる。

 彼女の顔色は――とても、よくなっているようにも思えた。
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