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本編 第6章
裏切り
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その人物は「よいしょ」と声を上げて、降りてくる。その際に、その美しい金色の髪が太陽の光に照らされて美しく輝く。
とても美しい人だと思っていた。優しくて、ふんわりとしたオーラの人だと。けれど、今の彼は違う。その目にぎらぎらとした色を宿らせ、リベラトーレとヴェルディアナを見つめる彼は――狂気に満ちていた。
「……オリヴァー」
リベラトーレが彼の名前を呼べば、彼――オリヴァーはにっこりと笑う。その後「ようやく気が付いたんだ」と心底楽しそうな声で告げてきた。
リベラトーレの手が、ヴェルディアナの肩を抱き寄せる。それはまるでヴェルディアナのことを庇うような体勢だった。それにヴェルディアナが驚いていれば、オリヴァーは「手は、出さないよ」と言って手を頭の横に上げる。
「……狙いは、何なんですか」
震える声でリベラトーレがそう問う。すると、オリヴァーは「……いろいろと、あるんだよ」と言って肩をすくめていた。
「僕はね、王弟派の魔法使いなんだ。……『シュタイン』に入ったのは、スパイみたいな役割だよ」
王弟派。
その呼び名にヴェルディアナは聞き覚えがあった。このロンバルディ王国には現国王派と王弟派という二つの派閥がある。王国が認めた六つの研究所は現国王派の人間が所属している。
現国王派は魔法は人のためにあるという考え方であり、人々のために使おうという考えなのだ。しかし、王弟派は魔法は選ばれた人間だけが使える力だと言い、その力を独占しようとしている。つまり、この二つは交わることがない水と油なのだ。
「僕も良心が痛むから、こんなことはしたくなかったよ。だけどね、命令されちゃったら仕方がないよね」
ニコニコとした表情を崩さずにオリヴァーはそう告げる。彼の上には、誰かがいる。それを直感するものの、今憎むべきはオリヴァーだ。そう思いヴェルディアナが彼のことをにらみつければ、彼は「王国が認めた魔法使いが一般人を呪ったともなれば、醜聞だよね」と言いながら手のひらをひらひらと振っていた。
「……それ、は」
「恋に溺れたキミを操るのは簡単だったよ。恋って、優秀な人間を無能以下にするんだね」
オリヴァーの言葉にリベラトーレの目が揺れる。それに気が付き、ヴェルディアナは一歩前に出た。それにリベラトーレが驚いているのがわかる。
しかし、それさえお構いなしにオリヴァーの方に一歩一歩近づいていく。
「……どうしたの?」
オリヴァーは首をかしげながらそう問うてくる。そのため、ヴェルディアナは思いっきりオリヴァーの頬をぶった。
「っつ!」
その瞬間、オリヴァーが目を真ん丸にする。そして、ぶられた頬をさする。その橙色の目には憎悪がこもっており、ヴェルディアナだけを見据えていた。
「……最低ですね」
自分でも驚くほど低い声が出た。ヴェルディアナがまっすぐにオリヴァーを見つめてそう言えば、彼は「……僕に喧嘩を売って、ただで済むと思っているの?」と問いかけてくる。だからこそ、ヴェルディアナは「そんなのどっちでもいいです」と彼から視線を逸らさずに告げる。
「……リベラトーレ様を苦しめて、利用して。貴方が許せないだけです」
凛とした声でそう言えば、オリヴァーの顔が歪む。しかし、すぐに「……貴女が言えることじゃ、ないですよね」と言葉を発した。
「そもそも、貴女がリベラトーレを捨てなかったら、こんなことにはなっていないんですよ。……根本の原因は、貴女じゃないですか」
「……そうですね」
オリヴァーの言葉を、淡々と認める。実際そうだ。これは否定することが出来ない真実。ヴェルディアナが十年前に彼を捨てたから。それが原因で、こんなことになっている。
「だから、私はリベラトーレ様に償います」
「……ヴェルディアナ」
「私は今からの一生をかけて、リベラトーレ様に罪を償います」
まっすぐにオリヴァーを見つめてそう言えば、彼は目をぱちぱちと瞬かせていた。それに怯むことなく、ヴェルディアナは続ける。
「誰だってやり直せる。関係だって修復できる。私はそう思います。だから、私はリベラトーレ様を苦しめた分だけ、リベラトーレ様をお支えします。それが、私の覚悟です」
凛とした声のまま、一切の震えを見せずにヴェルディアナはそう言い切った。そうすれば、オリヴァーは「……きれいごと、を」と言いながら下唇をかみしめる。
「あんたの言っていることは所詮きれいごとだ」
「そうですね。確かに、きれいごとです」
目を閉じて、一旦深呼吸をして。その後、目をゆっくりと開いてヴェルディアナは笑った。その唇はきれいに緩んでおり、ただ一言「だけど」と続ける。
「きれいごとが必要な時だって、あるのですよ」
そのヴェルディアナの言葉に毒気を抜かれてしまったのか、オリヴァーは「……もう、いい」とだけ言葉を残し立ち去っていく。
「でも、僕が王弟派であることに間違いはありません」
ヴェルディアナとリベラトーレに背中を向けながら、オリヴァーはそう告げる。それに息を呑んでいれば、彼は転移の魔道具を使ったのかゆっくりと姿を消していく。
彼の姿が完全に消えた時。ヴェルディアナはその場にへたり込んでしまった。
とても美しい人だと思っていた。優しくて、ふんわりとしたオーラの人だと。けれど、今の彼は違う。その目にぎらぎらとした色を宿らせ、リベラトーレとヴェルディアナを見つめる彼は――狂気に満ちていた。
「……オリヴァー」
リベラトーレが彼の名前を呼べば、彼――オリヴァーはにっこりと笑う。その後「ようやく気が付いたんだ」と心底楽しそうな声で告げてきた。
リベラトーレの手が、ヴェルディアナの肩を抱き寄せる。それはまるでヴェルディアナのことを庇うような体勢だった。それにヴェルディアナが驚いていれば、オリヴァーは「手は、出さないよ」と言って手を頭の横に上げる。
「……狙いは、何なんですか」
震える声でリベラトーレがそう問う。すると、オリヴァーは「……いろいろと、あるんだよ」と言って肩をすくめていた。
「僕はね、王弟派の魔法使いなんだ。……『シュタイン』に入ったのは、スパイみたいな役割だよ」
王弟派。
その呼び名にヴェルディアナは聞き覚えがあった。このロンバルディ王国には現国王派と王弟派という二つの派閥がある。王国が認めた六つの研究所は現国王派の人間が所属している。
現国王派は魔法は人のためにあるという考え方であり、人々のために使おうという考えなのだ。しかし、王弟派は魔法は選ばれた人間だけが使える力だと言い、その力を独占しようとしている。つまり、この二つは交わることがない水と油なのだ。
「僕も良心が痛むから、こんなことはしたくなかったよ。だけどね、命令されちゃったら仕方がないよね」
ニコニコとした表情を崩さずにオリヴァーはそう告げる。彼の上には、誰かがいる。それを直感するものの、今憎むべきはオリヴァーだ。そう思いヴェルディアナが彼のことをにらみつければ、彼は「王国が認めた魔法使いが一般人を呪ったともなれば、醜聞だよね」と言いながら手のひらをひらひらと振っていた。
「……それ、は」
「恋に溺れたキミを操るのは簡単だったよ。恋って、優秀な人間を無能以下にするんだね」
オリヴァーの言葉にリベラトーレの目が揺れる。それに気が付き、ヴェルディアナは一歩前に出た。それにリベラトーレが驚いているのがわかる。
しかし、それさえお構いなしにオリヴァーの方に一歩一歩近づいていく。
「……どうしたの?」
オリヴァーは首をかしげながらそう問うてくる。そのため、ヴェルディアナは思いっきりオリヴァーの頬をぶった。
「っつ!」
その瞬間、オリヴァーが目を真ん丸にする。そして、ぶられた頬をさする。その橙色の目には憎悪がこもっており、ヴェルディアナだけを見据えていた。
「……最低ですね」
自分でも驚くほど低い声が出た。ヴェルディアナがまっすぐにオリヴァーを見つめてそう言えば、彼は「……僕に喧嘩を売って、ただで済むと思っているの?」と問いかけてくる。だからこそ、ヴェルディアナは「そんなのどっちでもいいです」と彼から視線を逸らさずに告げる。
「……リベラトーレ様を苦しめて、利用して。貴方が許せないだけです」
凛とした声でそう言えば、オリヴァーの顔が歪む。しかし、すぐに「……貴女が言えることじゃ、ないですよね」と言葉を発した。
「そもそも、貴女がリベラトーレを捨てなかったら、こんなことにはなっていないんですよ。……根本の原因は、貴女じゃないですか」
「……そうですね」
オリヴァーの言葉を、淡々と認める。実際そうだ。これは否定することが出来ない真実。ヴェルディアナが十年前に彼を捨てたから。それが原因で、こんなことになっている。
「だから、私はリベラトーレ様に償います」
「……ヴェルディアナ」
「私は今からの一生をかけて、リベラトーレ様に罪を償います」
まっすぐにオリヴァーを見つめてそう言えば、彼は目をぱちぱちと瞬かせていた。それに怯むことなく、ヴェルディアナは続ける。
「誰だってやり直せる。関係だって修復できる。私はそう思います。だから、私はリベラトーレ様を苦しめた分だけ、リベラトーレ様をお支えします。それが、私の覚悟です」
凛とした声のまま、一切の震えを見せずにヴェルディアナはそう言い切った。そうすれば、オリヴァーは「……きれいごと、を」と言いながら下唇をかみしめる。
「あんたの言っていることは所詮きれいごとだ」
「そうですね。確かに、きれいごとです」
目を閉じて、一旦深呼吸をして。その後、目をゆっくりと開いてヴェルディアナは笑った。その唇はきれいに緩んでおり、ただ一言「だけど」と続ける。
「きれいごとが必要な時だって、あるのですよ」
そのヴェルディアナの言葉に毒気を抜かれてしまったのか、オリヴァーは「……もう、いい」とだけ言葉を残し立ち去っていく。
「でも、僕が王弟派であることに間違いはありません」
ヴェルディアナとリベラトーレに背中を向けながら、オリヴァーはそう告げる。それに息を呑んでいれば、彼は転移の魔道具を使ったのかゆっくりと姿を消していく。
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