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本編 第6章
望まぬ訪問者
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その名前にヴェルディアナは心当たりがある。いや、むしろ心当たりしかない。
けれど、その名前を聞いて一番に思ってしまったのは「どうして?」という感情だった。
「……何か、おっしゃっていた?」
ラーレにそう問えば、彼女は「……いえ、ただヴェルディアナ様に会いたいと」と言って眉を下げる。その後彼女は「ヴェルディアナ様が嫌なのであれば、追い返しますが……」と言ってくれた。
(正直、あんまり会いたくないけれど……何か、急なことがあるのかも)
もしかしたら。そう思い、ヴェルディアナは「いえ、会うわ」と端的に返事をする。そうすれば、ラーレはほんの少し目を揺らすものの、「気を付けてくださいませ」と言葉をくれた。
「あのお方、何となくよからぬことを企んでいるご様子なのです。ですので、どうかお気をつけて」
そこまで言って、ラーレは頭を下げる。そのため、ヴェルディアナは彼女の隣をすり抜けて玄関に向かった。多分、イザークはそこにいる。そんな予感にも似た確信をもって移動すれば、玄関の前が騒がしい。どうやら、当たりらしい。
ヴェルディアナが玄関に近づいて行けば、集まっていた使用人たちが一斉に道を開ける。その表情はあまりいいモノではなく、ヴェルディアナのことを心配してくれているようだった。だからこそ、ヴェルディアナは「大丈夫よ」とだけ言葉をかけ、騒動の前にやってくる。
そこにはラーレの言葉通りイザークがいた。彼は執事に詰め寄っており、乱暴な言葉を投げつけていた。執事はそんな彼を刺激しないようにと断っているようだが、火に油を注ぐだけの状態のようだ。
(……どうして)
そう思いながらも、ヴェルディアナは「イザーク様」とゆっくりと声をかける。すると、彼の視線が執事からヴェルディアナの方に移動した。彼のその目がヴェルディアナを射貫く。その瞬間、ヴェルディアナの背筋にぞくりとした嫌な予感が駆け巡る。
それを誤魔化すかのように首を横に振れば、イザークは「ヴェルディアナ!」とその表情を一気に明るくした。
「……イザーク様」
もう一度彼の名前を呼べば、彼は「帰ろう!」と前後の文脈を無視していきなりそんなことを言ってくる。そして、ヴェルディアナの方に一歩近づいてきた。それに驚いて後ずされば、彼は一瞬だけ目を見開いたもののヴェルディアナの手首を思いきり掴む。その瞬間、ヴェルディアナの身体に強い静電気のような痛みが走る。
「っつ!」
ヴェルディアナが痛みに顔をしかめたのを見てか、イザークは「呪い、まだ解いてもらっていないのか?」と問いかけてくる。その問いは余計なお世話だ。そう思うヴェルディアナは「放っておいてください」と凛とした声で告げることしかできなかった。
「イザーク様が一体何のご用件でこちらにいらっしゃったのかは知りませんが、私はついて行きません」
首を横に振りながらそう言えば、彼はヴェルディアナの手首をつかむ力を強くした。その力に顔をしかめていれば、彼は「呪い、解いてほしくないのか?」と言ってくる。……それは一体、どういう意味だ。
「……どういう意味、ですか?」
「ヴェルディアナの呪いを解く方法がわかったんだ! 金も用意した。だから、行こう!」
その端正な顔をぐっとヴェルディアナに近づけ、彼はそんなことを言う。……そもそも、どうしてイザークはヴェルディアナのためにお金を用意するのだろうか。そう思って顔をしかめていれば、彼はヴェルディアナの身体を抱き込んでくる。その瞬間、先ほどよりも強い痛みが身体を襲った。
「っつ!」
その所為で身を固めていれば、イザークは「可哀想に」とボソッと言葉を零す。
「呪われて、可哀想に。もう、こんなところにいる必要はないんだ。さっさと出て行こう」
耳元で囁かれる、イザークのその言葉。その言葉の節々には狂気のようなものが宿っているように聞こえてしまい、ヴェルディアナは身を震わせる。しかし、それもお構いなしに彼は「行こう」と言ってヴェルディアナの身体を担ぎ上げる。それに驚き抵抗しようとするものの、彼は容赦がない。
「ま、待って、待ってください……!」
そう声を上げれば、使用人たちがイザークを止めようと動いてくれる。けれど、彼は「邪魔だ!」と言い、ヴェルディアナを連れ去ってしまおうとする。
ヴェルディアナはここに嫌々いるわけではない。確かに初めの頃は嫌々だった。でも、今はここに居たくて居るのだ。彼に連れ去られる理由などない。
「わ、私、ここに居たいんです。だから――」
ゆっくりとそんな言葉を告げれば、イザークの眉間にしわが寄る。が、彼は何を思ったのか「脅されているんだな?」と言ってくる。その言葉は問いかけているようだが、自分が正しいと思い込んでいるような声音だった。
「可哀想なヴェルディアナ。だが、もう大丈夫だ。――助けてやるから」
何だろうか。彼はイザークではないような気がする。一瞬だけそう思いながら彼の肩の上で暴れていれば、不意に「ヴェルディアナ!」というような声が聞こえてきた。その声に、ヴェルディアナは驚いてしまった。
けれど、その名前を聞いて一番に思ってしまったのは「どうして?」という感情だった。
「……何か、おっしゃっていた?」
ラーレにそう問えば、彼女は「……いえ、ただヴェルディアナ様に会いたいと」と言って眉を下げる。その後彼女は「ヴェルディアナ様が嫌なのであれば、追い返しますが……」と言ってくれた。
(正直、あんまり会いたくないけれど……何か、急なことがあるのかも)
もしかしたら。そう思い、ヴェルディアナは「いえ、会うわ」と端的に返事をする。そうすれば、ラーレはほんの少し目を揺らすものの、「気を付けてくださいませ」と言葉をくれた。
「あのお方、何となくよからぬことを企んでいるご様子なのです。ですので、どうかお気をつけて」
そこまで言って、ラーレは頭を下げる。そのため、ヴェルディアナは彼女の隣をすり抜けて玄関に向かった。多分、イザークはそこにいる。そんな予感にも似た確信をもって移動すれば、玄関の前が騒がしい。どうやら、当たりらしい。
ヴェルディアナが玄関に近づいて行けば、集まっていた使用人たちが一斉に道を開ける。その表情はあまりいいモノではなく、ヴェルディアナのことを心配してくれているようだった。だからこそ、ヴェルディアナは「大丈夫よ」とだけ言葉をかけ、騒動の前にやってくる。
そこにはラーレの言葉通りイザークがいた。彼は執事に詰め寄っており、乱暴な言葉を投げつけていた。執事はそんな彼を刺激しないようにと断っているようだが、火に油を注ぐだけの状態のようだ。
(……どうして)
そう思いながらも、ヴェルディアナは「イザーク様」とゆっくりと声をかける。すると、彼の視線が執事からヴェルディアナの方に移動した。彼のその目がヴェルディアナを射貫く。その瞬間、ヴェルディアナの背筋にぞくりとした嫌な予感が駆け巡る。
それを誤魔化すかのように首を横に振れば、イザークは「ヴェルディアナ!」とその表情を一気に明るくした。
「……イザーク様」
もう一度彼の名前を呼べば、彼は「帰ろう!」と前後の文脈を無視していきなりそんなことを言ってくる。そして、ヴェルディアナの方に一歩近づいてきた。それに驚いて後ずされば、彼は一瞬だけ目を見開いたもののヴェルディアナの手首を思いきり掴む。その瞬間、ヴェルディアナの身体に強い静電気のような痛みが走る。
「っつ!」
ヴェルディアナが痛みに顔をしかめたのを見てか、イザークは「呪い、まだ解いてもらっていないのか?」と問いかけてくる。その問いは余計なお世話だ。そう思うヴェルディアナは「放っておいてください」と凛とした声で告げることしかできなかった。
「イザーク様が一体何のご用件でこちらにいらっしゃったのかは知りませんが、私はついて行きません」
首を横に振りながらそう言えば、彼はヴェルディアナの手首をつかむ力を強くした。その力に顔をしかめていれば、彼は「呪い、解いてほしくないのか?」と言ってくる。……それは一体、どういう意味だ。
「……どういう意味、ですか?」
「ヴェルディアナの呪いを解く方法がわかったんだ! 金も用意した。だから、行こう!」
その端正な顔をぐっとヴェルディアナに近づけ、彼はそんなことを言う。……そもそも、どうしてイザークはヴェルディアナのためにお金を用意するのだろうか。そう思って顔をしかめていれば、彼はヴェルディアナの身体を抱き込んでくる。その瞬間、先ほどよりも強い痛みが身体を襲った。
「っつ!」
その所為で身を固めていれば、イザークは「可哀想に」とボソッと言葉を零す。
「呪われて、可哀想に。もう、こんなところにいる必要はないんだ。さっさと出て行こう」
耳元で囁かれる、イザークのその言葉。その言葉の節々には狂気のようなものが宿っているように聞こえてしまい、ヴェルディアナは身を震わせる。しかし、それもお構いなしに彼は「行こう」と言ってヴェルディアナの身体を担ぎ上げる。それに驚き抵抗しようとするものの、彼は容赦がない。
「ま、待って、待ってください……!」
そう声を上げれば、使用人たちがイザークを止めようと動いてくれる。けれど、彼は「邪魔だ!」と言い、ヴェルディアナを連れ去ってしまおうとする。
ヴェルディアナはここに嫌々いるわけではない。確かに初めの頃は嫌々だった。でも、今はここに居たくて居るのだ。彼に連れ去られる理由などない。
「わ、私、ここに居たいんです。だから――」
ゆっくりとそんな言葉を告げれば、イザークの眉間にしわが寄る。が、彼は何を思ったのか「脅されているんだな?」と言ってくる。その言葉は問いかけているようだが、自分が正しいと思い込んでいるような声音だった。
「可哀想なヴェルディアナ。だが、もう大丈夫だ。――助けてやるから」
何だろうか。彼はイザークではないような気がする。一瞬だけそう思いながら彼の肩の上で暴れていれば、不意に「ヴェルディアナ!」というような声が聞こえてきた。その声に、ヴェルディアナは驚いてしまった。
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