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本編 第6章
変化した日々
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それからというもの、ヴェルディアナの生活は変わった。
カザーレ侯爵家でリベラトーレの専属侍女として働いていることは変わらない。ただ彼の態度が変わったのだ。
「ヴェルディアナ」
リベラトーレの執務室で背後から抱きしめられ、ヴェルディアナはほんの少しだけ眉を顰める。ヴェルディアナは仕事中だ。給金をもらっている以上真面目に働きたい。かといって甘えてくるリベラトーレをないがしろにすることもできない。
そういう意味で眉を顰めて入れば、リベラトーレは「ヴェルディアナ、構ってください」なんて言って甘えてくる。それに毒気を抜かれてしまい、ヴェルディアナは「少しだけ、ですからね」と言ってソファーに腰を下ろす。
すると、リベラトーレはヴェルディアナの膝に頭を乗せ、ヴェルディアナの髪を梳く。最近の彼は膝枕がお気に入りらしく、休憩中はこうやって強請ってくるのだ。以前までならば強引に命じてきたものの、最近ではヴェルディアナの意思を尊重してくれるようになった。無理な時は「じゃあ、また後で」と言ってくるくらいなのだ。ちなみに、彼の辞書に「あきらめる」の文字はないらしい。
「……呪いのことは、もう少し待ってくださいね」
「えぇ、今のところ不便はないので」
リベラトーレの申し訳なさそうな表情にヴェルディアナは微笑んで返す。
後から知ったことだが、リベラトーレは呪いの類があまり上手くないらしい。そのため、呪いを解く方法がいまいちよく分かっていないそうだ。ただ、術者の側に居れば弱まるということだけは真実だったらしく、ヴェルディアナがこのカザーレ侯爵家の屋敷にいるうちは特に不便がない。偶然異性に触れたとしても、ちょっと強い静電気くらいの痛みだったりする。耐えられないことはないので、ヴェルディアナは今のところ焦っていなかった。
不完全な状態で呪ったことに関しては文句をつけたいが、当時の彼はそれほどまでに余裕がなかったのだろう。そう思えば、まだ許せる。
「ヴェルディアナ」
リベラトーレがヴェルディアナの名前を呼び、その頬に手を伸ばす。そうすれば、ヴェルディアナの頬に熱が溜まっていく。彼の冷たい指先がヴェルディアナの頬をかすめ、それだけで何処となく気持ちいい。
(まさか、こんな未来があるなんて……)
そう思って、ヴェルディアナは目を閉じる。
あれ以来リベラトーレは度々ヴェルディアナにプロポーズをしてくるようになった。ただ、ヴェルディアナはそれに答えを出せていない。やはり没落貴族ということが気になってしまうし、彼の側に居るのはあくまでも侍女としてだからだ。そもそも、彼の両親がどう思うかわからない。
「俺と、結婚して?」
また甘えるようにそう言われ、ヴェルディアナは「……考えて、おきます」とあいまいな返事をする。カザーレ侯爵夫妻は半年前から他国に視察に向かっており、この屋敷にはいない。その間侯爵の仕事はリベラトーレが担っており、彼のあの書類の山の中には侯爵としてのものもあったらしい。今更ながらに、ヴェルディアナはそれを知った。
「まぁ、一も二もなく断られなくなっただけ成長しましたかね。……俺、ヴェルディアナの王子様になれるかはわかりませんが、両親のことは説得しますので」
「……はい」
まっすぐな目でそう言われると、どうしようもなく断りにくかった。そういうこともあり少しひきつった笑みで彼に微笑みかければ、リベラトーレも笑ってくれた。
それからしばらくして、彼は「よっと」と言って起き上がる。どうやら、仕事に戻るらしい。
「ヴェルディアナ。……口づけ、してもいいですか?」
そう問いかけられ、そっとうなずく。すると、彼の唇がヴェルディアナの唇に優しく触れた。何度も何度もついばむような口づけをされ、どうしようもなく恥ずかしくなってしまう。ヴェルディアナ自身はきっと、顔が真っ赤になっているだろう。そんなことを考えていれば、リベラトーレの顔が離れていく。
「よし、頑張ります」
リベラトーレはそう宣言すると、ソファーから降りて執務机の方に向かう。そんな彼を見送って、ヴェルディアナは時計を見る。……もうそろそろ、三時のスイーツを取りに行く方がいいかもしれない。そう考え「スイーツを取ってきますね」と言えば、彼は「はい」と返事をくれた。
執務室を出て厨房に向かうために廊下を歩く。すると、騒がしい声が聞こえてきた。一体、何だろうか。そう思いヴェルディアナが眉を顰めていれば、前からラーレが駆けてきた。
「ヴェルディアナ様!」
ラーレは一目散にヴェルディアナの方に駆けてくると、ほんの少し表情を歪めていた。何か、あったのかもしれない。そんな風に考えヴェルディアナが「どう、しましたか?」と問えば、彼女は「ヴェルディアナ様に、お客様がいらっしゃっているのですが……」と言って口を閉ざす。
この様子だと、招かれざる客らしい。それを察し、ヴェルディアナは「どちら様、ですか?」とゆっくりとラーレに問う。
すると、彼女は「……イザークと名乗ればわかる、と」と言葉をくれた。
カザーレ侯爵家でリベラトーレの専属侍女として働いていることは変わらない。ただ彼の態度が変わったのだ。
「ヴェルディアナ」
リベラトーレの執務室で背後から抱きしめられ、ヴェルディアナはほんの少しだけ眉を顰める。ヴェルディアナは仕事中だ。給金をもらっている以上真面目に働きたい。かといって甘えてくるリベラトーレをないがしろにすることもできない。
そういう意味で眉を顰めて入れば、リベラトーレは「ヴェルディアナ、構ってください」なんて言って甘えてくる。それに毒気を抜かれてしまい、ヴェルディアナは「少しだけ、ですからね」と言ってソファーに腰を下ろす。
すると、リベラトーレはヴェルディアナの膝に頭を乗せ、ヴェルディアナの髪を梳く。最近の彼は膝枕がお気に入りらしく、休憩中はこうやって強請ってくるのだ。以前までならば強引に命じてきたものの、最近ではヴェルディアナの意思を尊重してくれるようになった。無理な時は「じゃあ、また後で」と言ってくるくらいなのだ。ちなみに、彼の辞書に「あきらめる」の文字はないらしい。
「……呪いのことは、もう少し待ってくださいね」
「えぇ、今のところ不便はないので」
リベラトーレの申し訳なさそうな表情にヴェルディアナは微笑んで返す。
後から知ったことだが、リベラトーレは呪いの類があまり上手くないらしい。そのため、呪いを解く方法がいまいちよく分かっていないそうだ。ただ、術者の側に居れば弱まるということだけは真実だったらしく、ヴェルディアナがこのカザーレ侯爵家の屋敷にいるうちは特に不便がない。偶然異性に触れたとしても、ちょっと強い静電気くらいの痛みだったりする。耐えられないことはないので、ヴェルディアナは今のところ焦っていなかった。
不完全な状態で呪ったことに関しては文句をつけたいが、当時の彼はそれほどまでに余裕がなかったのだろう。そう思えば、まだ許せる。
「ヴェルディアナ」
リベラトーレがヴェルディアナの名前を呼び、その頬に手を伸ばす。そうすれば、ヴェルディアナの頬に熱が溜まっていく。彼の冷たい指先がヴェルディアナの頬をかすめ、それだけで何処となく気持ちいい。
(まさか、こんな未来があるなんて……)
そう思って、ヴェルディアナは目を閉じる。
あれ以来リベラトーレは度々ヴェルディアナにプロポーズをしてくるようになった。ただ、ヴェルディアナはそれに答えを出せていない。やはり没落貴族ということが気になってしまうし、彼の側に居るのはあくまでも侍女としてだからだ。そもそも、彼の両親がどう思うかわからない。
「俺と、結婚して?」
また甘えるようにそう言われ、ヴェルディアナは「……考えて、おきます」とあいまいな返事をする。カザーレ侯爵夫妻は半年前から他国に視察に向かっており、この屋敷にはいない。その間侯爵の仕事はリベラトーレが担っており、彼のあの書類の山の中には侯爵としてのものもあったらしい。今更ながらに、ヴェルディアナはそれを知った。
「まぁ、一も二もなく断られなくなっただけ成長しましたかね。……俺、ヴェルディアナの王子様になれるかはわかりませんが、両親のことは説得しますので」
「……はい」
まっすぐな目でそう言われると、どうしようもなく断りにくかった。そういうこともあり少しひきつった笑みで彼に微笑みかければ、リベラトーレも笑ってくれた。
それからしばらくして、彼は「よっと」と言って起き上がる。どうやら、仕事に戻るらしい。
「ヴェルディアナ。……口づけ、してもいいですか?」
そう問いかけられ、そっとうなずく。すると、彼の唇がヴェルディアナの唇に優しく触れた。何度も何度もついばむような口づけをされ、どうしようもなく恥ずかしくなってしまう。ヴェルディアナ自身はきっと、顔が真っ赤になっているだろう。そんなことを考えていれば、リベラトーレの顔が離れていく。
「よし、頑張ります」
リベラトーレはそう宣言すると、ソファーから降りて執務机の方に向かう。そんな彼を見送って、ヴェルディアナは時計を見る。……もうそろそろ、三時のスイーツを取りに行く方がいいかもしれない。そう考え「スイーツを取ってきますね」と言えば、彼は「はい」と返事をくれた。
執務室を出て厨房に向かうために廊下を歩く。すると、騒がしい声が聞こえてきた。一体、何だろうか。そう思いヴェルディアナが眉を顰めていれば、前からラーレが駆けてきた。
「ヴェルディアナ様!」
ラーレは一目散にヴェルディアナの方に駆けてくると、ほんの少し表情を歪めていた。何か、あったのかもしれない。そんな風に考えヴェルディアナが「どう、しましたか?」と問えば、彼女は「ヴェルディアナ様に、お客様がいらっしゃっているのですが……」と言って口を閉ざす。
この様子だと、招かれざる客らしい。それを察し、ヴェルディアナは「どちら様、ですか?」とゆっくりとラーレに問う。
すると、彼女は「……イザークと名乗ればわかる、と」と言葉をくれた。
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