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本編 第5章
オリヴァー・アイクラーという青年
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馬車を降り、リベラトーレに腕を引かれて通りを歩く。通りは閑散としており、時折歩いている人たちの身なりはとても豪奢だ。
その身なりに視線を奪われ、ヴェルディアナは忙しなく視線を動かす。そうしていれば、リベラトーレは一つの建物の前で立ち止まった。その建物は黒色と金色を基調としており、何処となく豪華絢爛といった印象を与えてくる。その建物の扉にリベラトーレが手をかざせば、扉は何の音もたてずに静かに開く。どうやら、魔法のようだ。
「行きますよ」
扉が開いたのを見て、リベラトーレはヴェルディアナにそれだけ声をかけて歩き出す。それに続くように、ヴェルディアナは研究所の中に足を踏み入れた。
研究所の中で一番に目を引くのは正面にある大きな階段。研究所内に飾られているのは魔力のこもった石の数々。内装は落ち着いた色合いが使われており、見たこともない書物が壁一面に所狭しと並べられている。
そんな研究所内に興味津々のヴェルディアナを他所に、リベラトーレは「少し、待っていてくださいね」と言って階段を上っていく。どうやら、彼は彼の用事を済ませるようだ。
(……ここが、『シュタイン』の研究所)
この王国には六つの大きな研究所がある。それぞれ研究する魔法の属性が決まっており、『シュタイン』は光の属性の魔法を主に研究していた。それは、つい先日ラーレに聞いたことだ。
ちなみに、王国に認められた魔法使いたちは好きな研究所に所属することが出来る。しかし、大体の魔法使いは自らが最も得意とする魔法の属性が主体の研究所に所属するらしい。まぁ、そちらの方が自らの力を活かしやすいということなのだろう。
そんなことを考えながらヴェルディアナがその場に立ち尽くしていると、不意に研究所の扉が開く。それにハッとしてヴェルディアナがそちらに視線を向ければ、そこには一人の青年がいた。彼は人のよさそうな顔立ちをしており、ヴェルディアナのことを見て「誰かな?」と言葉を零す。
彼はきれいな金色の短い髪を持っていた。その橙色の目はおっとりとして見え、人当たりがとてもよさそうである。顔立ちはまるで彫刻のように整っており、リベラトーレとはまた違った魅力があるように見える。
そんな彼はヴェルディアナのことを頭の先からつま先まで見つめた後「……もしかして、ヴェルディアナ・バッリスタさん?」と問いかけてきた。何故、彼は自分の名前を知っているのだろうか。
「あ、あの……」
「あぁ、警戒しないで。僕はオリヴァー・アイクラーっていいます。リベラトーレの同僚です」
にっこりとした笑みを浮かべ、彼――オリヴァーは手のひらをひらひらと振った。
オリヴァー。その名前には聞き覚えがある。リベラトーレが何度か呟いていた名前だ。
そうか。彼がリベラトーレの同僚なのか。そう思いヴェルディアナはぺこりと頭を下げる。そうすれば、彼は特に気にした風もなく「かしこまらないでください」と言ってその唇を緩めた。
「……僕、貴女に悪いことをしちゃったなぁって、思っていまして」
その後、オリヴァーは苦笑を浮かべながらヴェルディアナに向き合う。……悪いこと。何か、されただろうか? 一瞬だけそう思ったが、リベラトーレはヴェルディアナのことを呪った。そして、その呪いは『オリヴァー』という人物から教えてもらったと言っていた。つまり、彼はリベラトーレがヴェルディアナのことを呪ったということを知っており、なおかつその呪いを教えた張本人なのだ。
「……それは、その」
「でも、リベラトーレの気持ちもわかってやってください」
ヴェルディアナがオリヴァーの言葉に戸惑っていれば、彼はすたすたと歩きヴェルディアナの隣をすり抜けた後、そんな言葉を零した。リベラトーレの、気持ち。確かにそれはわからなければなかったものだ。しかし、何もこんな方法を取らなくても。心の中では、どうしてもそう思ってしまう。
「執着という感情は、大切ですよ。けど、行き過ぎると心を壊してしまいます」
「……何が、おっしゃりたいのですか」
「僕はリベラトーレに呪いを教えました。確かにその点については反省しています。でも、後悔はしていません」
ゆっくりと振り返り、オリヴァーはヴェルディアナのことを見据える。彼の美しい橙色の目が、ヴェルディアナのことを射貫く。それに息を呑んでいれば、彼は「反省はしていますが、後悔はしていないっていうことですよ」と言って目を細めていた。
「僕は大切な友人に幸せになってほしい。初恋を叶えてほしい。その一心で協力しただけですから」
「……そう、ですか」
「はい。リベラトーレは貴女のことを憎んでいます。だけど、それ以上に愛しています。何度も言いますが、僕は彼に幸せになってほしいと思っています。……あと、一つだけ言わせてください」
オリヴァーはそこまで言って、一旦言葉を切る。ヴェルディアナが彼の言葉の続きを待っていれば、彼は楽しそうに唇を歪めそのきれいな声でヴェルディアナに告げる。
――リベラトーレが歪んでしまったのは、間違いなく貴女の所為ですよ。
その身なりに視線を奪われ、ヴェルディアナは忙しなく視線を動かす。そうしていれば、リベラトーレは一つの建物の前で立ち止まった。その建物は黒色と金色を基調としており、何処となく豪華絢爛といった印象を与えてくる。その建物の扉にリベラトーレが手をかざせば、扉は何の音もたてずに静かに開く。どうやら、魔法のようだ。
「行きますよ」
扉が開いたのを見て、リベラトーレはヴェルディアナにそれだけ声をかけて歩き出す。それに続くように、ヴェルディアナは研究所の中に足を踏み入れた。
研究所の中で一番に目を引くのは正面にある大きな階段。研究所内に飾られているのは魔力のこもった石の数々。内装は落ち着いた色合いが使われており、見たこともない書物が壁一面に所狭しと並べられている。
そんな研究所内に興味津々のヴェルディアナを他所に、リベラトーレは「少し、待っていてくださいね」と言って階段を上っていく。どうやら、彼は彼の用事を済ませるようだ。
(……ここが、『シュタイン』の研究所)
この王国には六つの大きな研究所がある。それぞれ研究する魔法の属性が決まっており、『シュタイン』は光の属性の魔法を主に研究していた。それは、つい先日ラーレに聞いたことだ。
ちなみに、王国に認められた魔法使いたちは好きな研究所に所属することが出来る。しかし、大体の魔法使いは自らが最も得意とする魔法の属性が主体の研究所に所属するらしい。まぁ、そちらの方が自らの力を活かしやすいということなのだろう。
そんなことを考えながらヴェルディアナがその場に立ち尽くしていると、不意に研究所の扉が開く。それにハッとしてヴェルディアナがそちらに視線を向ければ、そこには一人の青年がいた。彼は人のよさそうな顔立ちをしており、ヴェルディアナのことを見て「誰かな?」と言葉を零す。
彼はきれいな金色の短い髪を持っていた。その橙色の目はおっとりとして見え、人当たりがとてもよさそうである。顔立ちはまるで彫刻のように整っており、リベラトーレとはまた違った魅力があるように見える。
そんな彼はヴェルディアナのことを頭の先からつま先まで見つめた後「……もしかして、ヴェルディアナ・バッリスタさん?」と問いかけてきた。何故、彼は自分の名前を知っているのだろうか。
「あ、あの……」
「あぁ、警戒しないで。僕はオリヴァー・アイクラーっていいます。リベラトーレの同僚です」
にっこりとした笑みを浮かべ、彼――オリヴァーは手のひらをひらひらと振った。
オリヴァー。その名前には聞き覚えがある。リベラトーレが何度か呟いていた名前だ。
そうか。彼がリベラトーレの同僚なのか。そう思いヴェルディアナはぺこりと頭を下げる。そうすれば、彼は特に気にした風もなく「かしこまらないでください」と言ってその唇を緩めた。
「……僕、貴女に悪いことをしちゃったなぁって、思っていまして」
その後、オリヴァーは苦笑を浮かべながらヴェルディアナに向き合う。……悪いこと。何か、されただろうか? 一瞬だけそう思ったが、リベラトーレはヴェルディアナのことを呪った。そして、その呪いは『オリヴァー』という人物から教えてもらったと言っていた。つまり、彼はリベラトーレがヴェルディアナのことを呪ったということを知っており、なおかつその呪いを教えた張本人なのだ。
「……それは、その」
「でも、リベラトーレの気持ちもわかってやってください」
ヴェルディアナがオリヴァーの言葉に戸惑っていれば、彼はすたすたと歩きヴェルディアナの隣をすり抜けた後、そんな言葉を零した。リベラトーレの、気持ち。確かにそれはわからなければなかったものだ。しかし、何もこんな方法を取らなくても。心の中では、どうしてもそう思ってしまう。
「執着という感情は、大切ですよ。けど、行き過ぎると心を壊してしまいます」
「……何が、おっしゃりたいのですか」
「僕はリベラトーレに呪いを教えました。確かにその点については反省しています。でも、後悔はしていません」
ゆっくりと振り返り、オリヴァーはヴェルディアナのことを見据える。彼の美しい橙色の目が、ヴェルディアナのことを射貫く。それに息を呑んでいれば、彼は「反省はしていますが、後悔はしていないっていうことですよ」と言って目を細めていた。
「僕は大切な友人に幸せになってほしい。初恋を叶えてほしい。その一心で協力しただけですから」
「……そう、ですか」
「はい。リベラトーレは貴女のことを憎んでいます。だけど、それ以上に愛しています。何度も言いますが、僕は彼に幸せになってほしいと思っています。……あと、一つだけ言わせてください」
オリヴァーはそこまで言って、一旦言葉を切る。ヴェルディアナが彼の言葉の続きを待っていれば、彼は楽しそうに唇を歪めそのきれいな声でヴェルディアナに告げる。
――リベラトーレが歪んでしまったのは、間違いなく貴女の所為ですよ。
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