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本編 第3章
目覚め
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「んんっ」
ヴェルディアナが次に目を開くと、一番に視界に入ったのは見知らぬ天井だった。ずきずきと痛む頭を押さえながら、眠る前のことを思いだす。
「……あ、そうだ。私、リベラトーレ様に……!」
それに気が付き、慌てて毛布の中から抜け出せば、自身の服装はいつもの質素なワンピースとは違った。何処となく気品に溢れるワンピースは到底バッリスタ家の財政状況で買えるような代物ではない。このワンピースがリベラトーレの用意したものだと気が付くのに、時間はかからなかった。
「ところで、ここは……?」
そう思いヴェルディアナが寝台から降り床に足をつければ、そのふかふかのじゅうたんに驚く。……ここは、使用人が使う部屋だとは思えない。そんなことを思いながらヴェルディアナは窓に近づいていく。
窓からの眺めはとてもよく、豪華な庭が一望できた。……多分だが、ここはカザーレ侯爵家の屋敷の中なのだろう。十年前とは大きく変わっているが、さすがに見える建物の配置は変わっていなかった。
「……お目覚め、ですか?」
「……え?」
そんな風にぼんやりと窓の外を眺めていると、不意に誰かに声をかけられる。それに驚いてそちらに視線を向ければ、部屋の入り口に一人の女性が立っていた。
彼女は丈の長い黒色のスカートと、同じく黒いブラウス。白いエプロンを身に着けている。その女性の長い黒色の髪は後ろで一つに束ねられており、目の形は少し吊り上がって見えるものの、色はきれいな青。背丈は丁度ヴェルディアナと同じくらいだろうか。
「あぁ、申し遅れました。私はラーレと申します。このカザーレ侯爵家のお屋敷で、侍女をやっております」
「あ、あ、そうなの、ですね」
女性――ラーレの言葉に驚きながらもヴェルディアナが呆然としていれば、彼女は「……ヴェルディアナ様、ですね」と言ってにっこりと笑う。
「リベラトーレ様から、お話は伺っております」
「あ、あの」
それは一体、どういうことなのだろうか。
そう思い戸惑うヴェルディアナの気持ちを読んだのか、ラーレは「使用人たちの中に事情を知っているのは私だけです」と淡々と言ってくれた。
「ヴェルディアナ様のお仕事は、リベラトーレ様の専属侍女でございます。一般の侍女がするようなお仕事はしません。メイド業も、しません」
ラーレは笑いながらそう言うものの、ヴェルディアナは戸惑うことしかできない。
(リベラトーレ様は、そんなにも私のことを側に置いておきたいの……?)
侍女として働かせるだけで満足かと思っていた。けれど、どうやらリベラトーレはそれだけでは満足していなかったらしい。
その真実にどうしようもない気持ちに陥っていれば、ラーレは「リベラトーレ様の執着心は、素晴らしいものですので」と言う。
……それは、素晴らしいと称してもいいものなのだろうか?
そう、ヴェルディアナは思ってしまう。
「主一家の専属侍女の衣装は、普通の侍女の衣装とは少し違いますので。クローゼットの中に入っておりますので、後でチェックしてくださいませ」
「あ……はい」
「業務には明日から当たっていただきます。なので、本日はどうかごゆっくりと」
「お、お気遣いなく」
「いえいえ、何かがあれば遠慮なく私に申してくださいませ」
ラーレはそれだけを言うと、「では、失礼いたします」と言葉を残し部屋を出て行ってしまう。残されたのはヴェルディアナただ一人。
「と、とりあえず、侍女服を確認しなくちゃ……」
何をするにしても、まずは備品の確認が必要だろう。そう判断し、ヴェルディアナは部屋の備え付けのクローゼットを開いてみる。すると、そこには色とりどりのワンピースと、ドレス。そして、隅に追いやられた少し派手な侍女服が数着あった。
それを手に取って身体に合わせてみれば、どうやらサイズはぴったりのようだ。スカートの丈は先ほど見たラーレの侍女服よりも、少し短いだろうか。……これは、リベラトーレの趣味だろう。
「……ま、まぁ、下着は見えなさそうだし、いいや」
さすがに侍女服にまで文句をつける気にはなれなかった。
そう考え、ヴェルディアナは次にワンピースの類に視線を移す。色とりどりのワンピースのデザインは、どれも上品なものだ。貴族の女性が身に着けるような高級な生地が使われており、ヴェルディアナは「一体、どういうときに着るの?」という疑問を抱いてしまう。自分はここに働きに来ている。ということは、こんなにもワンピースは必要ないだろう。
「それと、問題はこのドレスよね……」
が、それよりも。もっと意味が分からないのは、このドレスの類だろう。どうして、侍女の部屋にドレスが置いてあるのだろうか。しかも、部屋にはふかふかのじゅうたんが敷かれており、寝台のサイズも使用人のものとは思えないほど大きい。机に椅子。テーブルにソファーも完備されている。……さながら、客間のようだ。
「うぅ、どうして」
そんなことを思い、ヴェルディアナがうなっていると不意に部屋の扉が開く。
そして、顔をのぞかせたのは――ほかでもないリベラトーレだった。
ヴェルディアナが次に目を開くと、一番に視界に入ったのは見知らぬ天井だった。ずきずきと痛む頭を押さえながら、眠る前のことを思いだす。
「……あ、そうだ。私、リベラトーレ様に……!」
それに気が付き、慌てて毛布の中から抜け出せば、自身の服装はいつもの質素なワンピースとは違った。何処となく気品に溢れるワンピースは到底バッリスタ家の財政状況で買えるような代物ではない。このワンピースがリベラトーレの用意したものだと気が付くのに、時間はかからなかった。
「ところで、ここは……?」
そう思いヴェルディアナが寝台から降り床に足をつければ、そのふかふかのじゅうたんに驚く。……ここは、使用人が使う部屋だとは思えない。そんなことを思いながらヴェルディアナは窓に近づいていく。
窓からの眺めはとてもよく、豪華な庭が一望できた。……多分だが、ここはカザーレ侯爵家の屋敷の中なのだろう。十年前とは大きく変わっているが、さすがに見える建物の配置は変わっていなかった。
「……お目覚め、ですか?」
「……え?」
そんな風にぼんやりと窓の外を眺めていると、不意に誰かに声をかけられる。それに驚いてそちらに視線を向ければ、部屋の入り口に一人の女性が立っていた。
彼女は丈の長い黒色のスカートと、同じく黒いブラウス。白いエプロンを身に着けている。その女性の長い黒色の髪は後ろで一つに束ねられており、目の形は少し吊り上がって見えるものの、色はきれいな青。背丈は丁度ヴェルディアナと同じくらいだろうか。
「あぁ、申し遅れました。私はラーレと申します。このカザーレ侯爵家のお屋敷で、侍女をやっております」
「あ、あ、そうなの、ですね」
女性――ラーレの言葉に驚きながらもヴェルディアナが呆然としていれば、彼女は「……ヴェルディアナ様、ですね」と言ってにっこりと笑う。
「リベラトーレ様から、お話は伺っております」
「あ、あの」
それは一体、どういうことなのだろうか。
そう思い戸惑うヴェルディアナの気持ちを読んだのか、ラーレは「使用人たちの中に事情を知っているのは私だけです」と淡々と言ってくれた。
「ヴェルディアナ様のお仕事は、リベラトーレ様の専属侍女でございます。一般の侍女がするようなお仕事はしません。メイド業も、しません」
ラーレは笑いながらそう言うものの、ヴェルディアナは戸惑うことしかできない。
(リベラトーレ様は、そんなにも私のことを側に置いておきたいの……?)
侍女として働かせるだけで満足かと思っていた。けれど、どうやらリベラトーレはそれだけでは満足していなかったらしい。
その真実にどうしようもない気持ちに陥っていれば、ラーレは「リベラトーレ様の執着心は、素晴らしいものですので」と言う。
……それは、素晴らしいと称してもいいものなのだろうか?
そう、ヴェルディアナは思ってしまう。
「主一家の専属侍女の衣装は、普通の侍女の衣装とは少し違いますので。クローゼットの中に入っておりますので、後でチェックしてくださいませ」
「あ……はい」
「業務には明日から当たっていただきます。なので、本日はどうかごゆっくりと」
「お、お気遣いなく」
「いえいえ、何かがあれば遠慮なく私に申してくださいませ」
ラーレはそれだけを言うと、「では、失礼いたします」と言葉を残し部屋を出て行ってしまう。残されたのはヴェルディアナただ一人。
「と、とりあえず、侍女服を確認しなくちゃ……」
何をするにしても、まずは備品の確認が必要だろう。そう判断し、ヴェルディアナは部屋の備え付けのクローゼットを開いてみる。すると、そこには色とりどりのワンピースと、ドレス。そして、隅に追いやられた少し派手な侍女服が数着あった。
それを手に取って身体に合わせてみれば、どうやらサイズはぴったりのようだ。スカートの丈は先ほど見たラーレの侍女服よりも、少し短いだろうか。……これは、リベラトーレの趣味だろう。
「……ま、まぁ、下着は見えなさそうだし、いいや」
さすがに侍女服にまで文句をつける気にはなれなかった。
そう考え、ヴェルディアナは次にワンピースの類に視線を移す。色とりどりのワンピースのデザインは、どれも上品なものだ。貴族の女性が身に着けるような高級な生地が使われており、ヴェルディアナは「一体、どういうときに着るの?」という疑問を抱いてしまう。自分はここに働きに来ている。ということは、こんなにもワンピースは必要ないだろう。
「それと、問題はこのドレスよね……」
が、それよりも。もっと意味が分からないのは、このドレスの類だろう。どうして、侍女の部屋にドレスが置いてあるのだろうか。しかも、部屋にはふかふかのじゅうたんが敷かれており、寝台のサイズも使用人のものとは思えないほど大きい。机に椅子。テーブルにソファーも完備されている。……さながら、客間のようだ。
「うぅ、どうして」
そんなことを思い、ヴェルディアナがうなっていると不意に部屋の扉が開く。
そして、顔をのぞかせたのは――ほかでもないリベラトーレだった。
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