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本編 第1章
八歳の婚約者は可愛らしい
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「ヴェルディアナ嬢、見てください! ここ、俺が気に入っている場所なんですよ!」
また別の日。リベラトーレはヴェルディアナのことをカザーレ侯爵家の屋敷に招待してくれた。そして、広々とした庭を案内してくれる。
ヴェルディアナの手をぎゅっと握り、「こっちこっち!」とはしゃぐリベラトーレはとても子供っぽい。いや、実際彼は八歳の子供なのだ。そのため、子供っぽくても当たり前だとすぐに思いなおしたのだが。
(しかしまぁ、庭師の人たちも私たちのことを微妙な表情で見つめているわね……)
ちらちらと二人の様子を見つめてくる庭師に対して、ヴェルディアナは軽く会釈をしながらリベラトーレに庭を案内してもらう。
リベラトーレの両親、つまりカザーレ侯爵夫妻はヴェルディアナのことを否定することはなかった。ただ「リベラトーレのことをよろしくね」と言われただけだ。
しかし、ほかの人たちからすればそれは違う。ヴェルディアナとリベラトーレ。年の差も身分差もある婚約者同士。それを実感すると、強く自分はリベラトーレに似合っていないと思ってしまう。
「ヴェルディアナ嬢?」
ヴェルディアナが一人考え込んでいると、リベラトーレが不意に顔を覗き込んでくる。そのため、ぎこちない笑みを浮かべ「何でもない、ですよ」と言葉を返す。
ヴェルディアナからすれば、これはなんてことないのだ。自身が誰になんと思われようが、リベラトーレには関係ない……はず、だ。
「そうですか……。でも、俺、絶対にヴェルディアナ嬢のことを守れるような男になりたいので、何かがあったら言ってくださいね!」
「わかっておりますよ」
ぴょんぴょんとその場で跳ねながらそう言うリベラトーレは、ヴェルディアナから見てもとても可愛らしかった。元々ヴェルディアナは年下の子供が好きなのだ。だから、リベラトーレのことを可愛らしいと思ってしまう。可愛くて可愛くて、愛でたくなってしまうのだ。
だからこそ、ヴェルディアナはおもむろに手を伸ばしリベラトーレの頭を軽く撫でてみた。そうすれば、リベラトーレは一瞬だけ驚いたように目を見開くものの、すぐに目を細めてにっこりと笑う。
「リベラトーレ様は、可愛らしいですね」
その後、ヴェルディアナはそんなことを言ってみた。すると、リベラトーレは一瞬だけ喜んだものの、すぐに「俺、可愛いよりもかっこいいって言われたいです!」とヴェルディアナの目を見て抗議してくる。
確かにこれくらいの年齢の男の子は、可愛いよりもかっこいいにあこがれる年頃だろう。しかし、ヴェルディアナからすればリベラトーレは可愛らしいのだ。
「そういえば、ヴェルディアナ嬢はどんな男性が好みですか?」
だが、それよりも。リベラトーレのこの問いかけに、ヴェルディアナは硬直するしかなかった。……どういう男性が好みか。そう問われたら、もちろん「頼りがいのあってたくましくて筋肉ムキムキの男性」が好みに決まっている。
が、それを素直に告げてもいいものだろうかという葛藤がヴェルディアナの中で生まれる。何故ならば、ヴェルディアナの好みはリベラトーレとはかけ離れたものだ。彼を傷つけてしまわないかが心配になってしまった。
「……ヴェルディアナ嬢?」
「……頼りがいのある男性、ですかね」
悩んだ末に、ヴェルディアナは当たり障りのない答えを選んだ。
頼りがいのある男性。これならば、嘘と言うわけではないし、リベラトーレを傷つけないはずである。そもそも、大体の女性は「頼りがいのある男性」もしくは「優しい男性」を好むだろう。そういう考えもあって、この答えを選んだ。
「た、頼りがいのある男性……。ほ、ほかには?」
リベラトーレは何故かヴェルディアナの好みのタイプを知りたがっている。しかも、先ほどの回答で満足していなかったらしい。そのため、ヴェルディアナは少しうつむきがちに「たくましい男性、です」ということしかできないでいた。
(多分、リベラトーレ様も十年もすれば頼りがいがあってたくましい男性になるのだろうけれど……)
でも、それはあくまでもヴェルディアナの想像だ。
実際にそうなるとは限らないし、そもそもその頃になったらリベラトーレがヴェルディアナのことを好いている可能性は明らかに低い。だから、そんな夢は見たくなかった。結婚までに何とかして、婚約を解消しなければ。その気持ちが強くなる。
「じゃ、じゃあ、俺! 絶対に頼りがいのあってたくましい男性になります! だから、俺のことを捨てないでくださいね……?」
しかし、そんなヴェルディアナの気持ちを呼んだのか、リベラトーレはそう続けた。その瞬間、ヴェルディアナの母性本能がくすぐられる。やっぱり、とても可愛らしい子だ。そう、思った。
「リベラトーレ様、やっぱり可愛らしいですね」
ヴェルディアナからすれば、リベラトーレはやはりとても可愛らしかった。可愛くて、可愛くて、仕方がなかった。
その結果、ヴェルディアナはリベラトーレのことを強く抱きしめてしまう。すると、リベラトーレは一瞬で顔を真っ赤にしてしまい、うつむく。多分、恥ずかしがっているのだろう。
「ヴェルディアナ嬢……! あ、あの、むね、当たって……!」
「……あ、申し訳ございません」
リベラトーレの指摘に、ヴェルディアナは慌てて胸を離す。ヴェルディアナの胸は平均よりも大きめであり、リベラトーレが戸惑うのも無理はない。それは、ヴェルディアナにもよく分かった。
「リベラトーレ様。これくらいで動揺されていて、可愛らしいですね」
そして、ヴェルディアナはそう告げた。そうすれば、リベラトーレは頬をぷくぅと膨らませ、不満そうな表情でヴェルディアナのことを見つめてくる。
その仕草が、とても可愛らしい。そのためだろう、ヴェルディアナはリベラトーレのことを完全に弟のように見ていた。さすがに八歳の男の子を異性として意識しろと言うのは、無理だった。
また別の日。リベラトーレはヴェルディアナのことをカザーレ侯爵家の屋敷に招待してくれた。そして、広々とした庭を案内してくれる。
ヴェルディアナの手をぎゅっと握り、「こっちこっち!」とはしゃぐリベラトーレはとても子供っぽい。いや、実際彼は八歳の子供なのだ。そのため、子供っぽくても当たり前だとすぐに思いなおしたのだが。
(しかしまぁ、庭師の人たちも私たちのことを微妙な表情で見つめているわね……)
ちらちらと二人の様子を見つめてくる庭師に対して、ヴェルディアナは軽く会釈をしながらリベラトーレに庭を案内してもらう。
リベラトーレの両親、つまりカザーレ侯爵夫妻はヴェルディアナのことを否定することはなかった。ただ「リベラトーレのことをよろしくね」と言われただけだ。
しかし、ほかの人たちからすればそれは違う。ヴェルディアナとリベラトーレ。年の差も身分差もある婚約者同士。それを実感すると、強く自分はリベラトーレに似合っていないと思ってしまう。
「ヴェルディアナ嬢?」
ヴェルディアナが一人考え込んでいると、リベラトーレが不意に顔を覗き込んでくる。そのため、ぎこちない笑みを浮かべ「何でもない、ですよ」と言葉を返す。
ヴェルディアナからすれば、これはなんてことないのだ。自身が誰になんと思われようが、リベラトーレには関係ない……はず、だ。
「そうですか……。でも、俺、絶対にヴェルディアナ嬢のことを守れるような男になりたいので、何かがあったら言ってくださいね!」
「わかっておりますよ」
ぴょんぴょんとその場で跳ねながらそう言うリベラトーレは、ヴェルディアナから見てもとても可愛らしかった。元々ヴェルディアナは年下の子供が好きなのだ。だから、リベラトーレのことを可愛らしいと思ってしまう。可愛くて可愛くて、愛でたくなってしまうのだ。
だからこそ、ヴェルディアナはおもむろに手を伸ばしリベラトーレの頭を軽く撫でてみた。そうすれば、リベラトーレは一瞬だけ驚いたように目を見開くものの、すぐに目を細めてにっこりと笑う。
「リベラトーレ様は、可愛らしいですね」
その後、ヴェルディアナはそんなことを言ってみた。すると、リベラトーレは一瞬だけ喜んだものの、すぐに「俺、可愛いよりもかっこいいって言われたいです!」とヴェルディアナの目を見て抗議してくる。
確かにこれくらいの年齢の男の子は、可愛いよりもかっこいいにあこがれる年頃だろう。しかし、ヴェルディアナからすればリベラトーレは可愛らしいのだ。
「そういえば、ヴェルディアナ嬢はどんな男性が好みですか?」
だが、それよりも。リベラトーレのこの問いかけに、ヴェルディアナは硬直するしかなかった。……どういう男性が好みか。そう問われたら、もちろん「頼りがいのあってたくましくて筋肉ムキムキの男性」が好みに決まっている。
が、それを素直に告げてもいいものだろうかという葛藤がヴェルディアナの中で生まれる。何故ならば、ヴェルディアナの好みはリベラトーレとはかけ離れたものだ。彼を傷つけてしまわないかが心配になってしまった。
「……ヴェルディアナ嬢?」
「……頼りがいのある男性、ですかね」
悩んだ末に、ヴェルディアナは当たり障りのない答えを選んだ。
頼りがいのある男性。これならば、嘘と言うわけではないし、リベラトーレを傷つけないはずである。そもそも、大体の女性は「頼りがいのある男性」もしくは「優しい男性」を好むだろう。そういう考えもあって、この答えを選んだ。
「た、頼りがいのある男性……。ほ、ほかには?」
リベラトーレは何故かヴェルディアナの好みのタイプを知りたがっている。しかも、先ほどの回答で満足していなかったらしい。そのため、ヴェルディアナは少しうつむきがちに「たくましい男性、です」ということしかできないでいた。
(多分、リベラトーレ様も十年もすれば頼りがいがあってたくましい男性になるのだろうけれど……)
でも、それはあくまでもヴェルディアナの想像だ。
実際にそうなるとは限らないし、そもそもその頃になったらリベラトーレがヴェルディアナのことを好いている可能性は明らかに低い。だから、そんな夢は見たくなかった。結婚までに何とかして、婚約を解消しなければ。その気持ちが強くなる。
「じゃ、じゃあ、俺! 絶対に頼りがいのあってたくましい男性になります! だから、俺のことを捨てないでくださいね……?」
しかし、そんなヴェルディアナの気持ちを呼んだのか、リベラトーレはそう続けた。その瞬間、ヴェルディアナの母性本能がくすぐられる。やっぱり、とても可愛らしい子だ。そう、思った。
「リベラトーレ様、やっぱり可愛らしいですね」
ヴェルディアナからすれば、リベラトーレはやはりとても可愛らしかった。可愛くて、可愛くて、仕方がなかった。
その結果、ヴェルディアナはリベラトーレのことを強く抱きしめてしまう。すると、リベラトーレは一瞬で顔を真っ赤にしてしまい、うつむく。多分、恥ずかしがっているのだろう。
「ヴェルディアナ嬢……! あ、あの、むね、当たって……!」
「……あ、申し訳ございません」
リベラトーレの指摘に、ヴェルディアナは慌てて胸を離す。ヴェルディアナの胸は平均よりも大きめであり、リベラトーレが戸惑うのも無理はない。それは、ヴェルディアナにもよく分かった。
「リベラトーレ様。これくらいで動揺されていて、可愛らしいですね」
そして、ヴェルディアナはそう告げた。そうすれば、リベラトーレは頬をぷくぅと膨らませ、不満そうな表情でヴェルディアナのことを見つめてくる。
その仕草が、とても可愛らしい。そのためだろう、ヴェルディアナはリベラトーレのことを完全に弟のように見ていた。さすがに八歳の男の子を異性として意識しろと言うのは、無理だった。
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