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本編 第1章
婚約者が八歳でした(※ただし、私は十五歳)
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名ばかりの貴族だと、ヴェルディアナだって理解していたのだ。その所為で周囲からバカにされていたとしても、仕方がないことだ。そう考え、今までずっとあきらめてきた。しかし、今回のことはヴェルディアナ自身でも予想外もいいところで。
(さすがにこれはないでしょう⁉)
ヴェルディアナはそんなことを内心で叫びながら、硬直していた。
ヴェルディアナの目の前には優雅にお茶を飲み、自身に微笑みかけてくる一人の――少年。彼は青色の乱雑に切られた短い髪と、鋭く吊り上がった青色の目を持っていた。成長すれば顔立ちからしてかなりの美丈夫になるだろうと予測できる。
そんなこの少年はヴェルディアナの婚約者だ。丁寧で優しい。容姿もいい。まさに、パーフェクトに近い人。……ただ一点を除けば、だが。
「ヴェルディアナ嬢はとてもお美しいですね。俺、貴女のことが大好きです」
そう言って微笑む彼に、ヴェルディアナはぎこちない笑みを向けた。
ヴェルディアナの婚約者となったのは、リベラトーレ・カザーレという少年。名門侯爵家カザーレ家の嫡男。ちなみに、彼は今――八歳。十五歳のヴェルディアナからすれば。
(七つも年下の男の子と婚約しろって、いったいどんな無茶ぶり⁉)
目の前で優雅に微笑むリベラトーレを見つめ、ヴェルディアナは心の中で大絶叫をしていた。
★☆★
ここは世界でも有数の大国ロンバルディ王国。他国よりも魔法の文化が著しく発展しており、それでもなお魔法の発展に力を尽くしている。そんなこの王国では、王国が認めた優秀な魔法使いは国が所有する六つの研究施設のどこかに所属し、そこで国のために魔法を使い研究するのが決まりだ。
もちろん、研究施設に所属することにメリットはある。ぜいたくな暮らしと名誉を手に入れることが出来るのだ。そのため、誰もが王国に認められる魔法使いを目指す。平民、下位貴族、高位貴族。誰もが王国に認められようと日々魔法の鍛錬に明け暮れる。
そんなロンバルディ王国に生まれたヴェルディアナは平凡な娘だ。いや、一つだけ平凡とはかけ離れたところがある。それは、ヴェルディアナが名ばかりの伯爵家、バッリスタ家の令嬢であるということ。
バッリスタ家は元々優秀な魔法使いの家系であったものの、いつしかその力は衰えていくように。今では栄光の時代の見る影もなく、社交界では『残りかすの伯爵家』と呼ばれているくらいだ。しかも、その呼び名に拍車をかけるように貧乏だった。それはもう、いつ没落してもおかしくないくらいには。
「……本当に、どうしてお父様とお母様は……」
今から数日前。ヴェルディアナの両親は興奮したように「ヴェルディアナに求婚が来たよ!」と言ってきたのだ。
それはまさに青天の霹靂。ヴェルディアナが今後一生ないであろうと思っていたことだ。
ヴェルディアナには三つ年下の弟がおり、絶対に嫁に行く必要があった。だが、こんな名ばかりの伯爵家の令嬢など誰も娶ってくれない。そう、思い込んでいた。
両親の話を聞いた時、ヴェルディアナは絶対に相手は訳ありだろうと思った。こんな名ばかりの伯爵令嬢を娶りたいというのだ。きっと、両手では足りないほどの愛人を囲っている、親よりも年上の貴族の男性だろうと想像した。しかし、いざヴェルディアナが対面した婚約者はどうだろうか。まさかの、ヴェルディアナよりもずっと年下。あえていうのならば、ヴェルディアナの弟よりも年下だった。
「そんな男の子を、異性として見ろという方が無理なのよ……」
包丁で野菜を切りながら、ヴェルディアナはそんなことをぼやいた。何故令嬢であるヴェルディアナが料理をしているかと言えば、答えは簡単である。このバッリスタ家には使用人が二人しかいないためだ。
長年使えている執事と、年配のメイドが一人。料理人もおらず、屋敷を掃除するにも人手が足りないような状態。おかげで、ヴェルディアナには家事雑用スキルが身についてしまった。そんなもの、絶対に貴族の令嬢に必要なスキルではない。
「けど、お父様もお母様もこの婚約を喜んでいらっしゃるしなぁ……」
なんといっても、相手はこのロンバルディ王国でも屈指の名門家系であり、魔法使いの名家でもあるのだ。そんな家に嫁ぐことが出来れば、一生安泰といっても過言ではないだろう。やはり、ここは自分が我慢をするしかない。いくら婚約者が七つも年下だったとしても、我慢するしかない。
そう思うが、ヴェルディアナには無理だった。それは、ヴェルディアナの好みが頼りがいがあってたくましい年上の男性だったためだ。
(頼りがいがあって、たくましくて、筋肉ムキムキの男性が好きなのに……!)
そのため、ヴェルディアナからすれば年下の線の細い男の子は好みではない。確かに、リベラトーレだって筋はいいだろう。きっと、十年もすればたくましく頼りがいのある男性になる。が、十年である。十年もすれば、ヴェルディアナは二十五歳だ。
「……はぁ、どうしよう……。あ」
そんなことをぼやき、ヴェルディアナはふと手元を見た。すると、そこには山のような野菜が千切りになっていた。
その光景を見て、ヴェルディアナは焦る。バッリスタ家の主食は野菜ではあるものの、こんなには食べない。だって、草食動物ではないのだから。
「私のバカ……!」
そんな言葉を零し、ヴェルディアナは慌てて野菜を籠に入れていく。まだ、冷蔵保存をすれば大丈夫だ。そう、信じることにした。バッリスタ家にとって、食材は言葉通り命の源だ。一つたりとも、無駄には出来ない。それくらい、貧乏だった。
(さすがにこれはないでしょう⁉)
ヴェルディアナはそんなことを内心で叫びながら、硬直していた。
ヴェルディアナの目の前には優雅にお茶を飲み、自身に微笑みかけてくる一人の――少年。彼は青色の乱雑に切られた短い髪と、鋭く吊り上がった青色の目を持っていた。成長すれば顔立ちからしてかなりの美丈夫になるだろうと予測できる。
そんなこの少年はヴェルディアナの婚約者だ。丁寧で優しい。容姿もいい。まさに、パーフェクトに近い人。……ただ一点を除けば、だが。
「ヴェルディアナ嬢はとてもお美しいですね。俺、貴女のことが大好きです」
そう言って微笑む彼に、ヴェルディアナはぎこちない笑みを向けた。
ヴェルディアナの婚約者となったのは、リベラトーレ・カザーレという少年。名門侯爵家カザーレ家の嫡男。ちなみに、彼は今――八歳。十五歳のヴェルディアナからすれば。
(七つも年下の男の子と婚約しろって、いったいどんな無茶ぶり⁉)
目の前で優雅に微笑むリベラトーレを見つめ、ヴェルディアナは心の中で大絶叫をしていた。
★☆★
ここは世界でも有数の大国ロンバルディ王国。他国よりも魔法の文化が著しく発展しており、それでもなお魔法の発展に力を尽くしている。そんなこの王国では、王国が認めた優秀な魔法使いは国が所有する六つの研究施設のどこかに所属し、そこで国のために魔法を使い研究するのが決まりだ。
もちろん、研究施設に所属することにメリットはある。ぜいたくな暮らしと名誉を手に入れることが出来るのだ。そのため、誰もが王国に認められる魔法使いを目指す。平民、下位貴族、高位貴族。誰もが王国に認められようと日々魔法の鍛錬に明け暮れる。
そんなロンバルディ王国に生まれたヴェルディアナは平凡な娘だ。いや、一つだけ平凡とはかけ離れたところがある。それは、ヴェルディアナが名ばかりの伯爵家、バッリスタ家の令嬢であるということ。
バッリスタ家は元々優秀な魔法使いの家系であったものの、いつしかその力は衰えていくように。今では栄光の時代の見る影もなく、社交界では『残りかすの伯爵家』と呼ばれているくらいだ。しかも、その呼び名に拍車をかけるように貧乏だった。それはもう、いつ没落してもおかしくないくらいには。
「……本当に、どうしてお父様とお母様は……」
今から数日前。ヴェルディアナの両親は興奮したように「ヴェルディアナに求婚が来たよ!」と言ってきたのだ。
それはまさに青天の霹靂。ヴェルディアナが今後一生ないであろうと思っていたことだ。
ヴェルディアナには三つ年下の弟がおり、絶対に嫁に行く必要があった。だが、こんな名ばかりの伯爵家の令嬢など誰も娶ってくれない。そう、思い込んでいた。
両親の話を聞いた時、ヴェルディアナは絶対に相手は訳ありだろうと思った。こんな名ばかりの伯爵令嬢を娶りたいというのだ。きっと、両手では足りないほどの愛人を囲っている、親よりも年上の貴族の男性だろうと想像した。しかし、いざヴェルディアナが対面した婚約者はどうだろうか。まさかの、ヴェルディアナよりもずっと年下。あえていうのならば、ヴェルディアナの弟よりも年下だった。
「そんな男の子を、異性として見ろという方が無理なのよ……」
包丁で野菜を切りながら、ヴェルディアナはそんなことをぼやいた。何故令嬢であるヴェルディアナが料理をしているかと言えば、答えは簡単である。このバッリスタ家には使用人が二人しかいないためだ。
長年使えている執事と、年配のメイドが一人。料理人もおらず、屋敷を掃除するにも人手が足りないような状態。おかげで、ヴェルディアナには家事雑用スキルが身についてしまった。そんなもの、絶対に貴族の令嬢に必要なスキルではない。
「けど、お父様もお母様もこの婚約を喜んでいらっしゃるしなぁ……」
なんといっても、相手はこのロンバルディ王国でも屈指の名門家系であり、魔法使いの名家でもあるのだ。そんな家に嫁ぐことが出来れば、一生安泰といっても過言ではないだろう。やはり、ここは自分が我慢をするしかない。いくら婚約者が七つも年下だったとしても、我慢するしかない。
そう思うが、ヴェルディアナには無理だった。それは、ヴェルディアナの好みが頼りがいがあってたくましい年上の男性だったためだ。
(頼りがいがあって、たくましくて、筋肉ムキムキの男性が好きなのに……!)
そのため、ヴェルディアナからすれば年下の線の細い男の子は好みではない。確かに、リベラトーレだって筋はいいだろう。きっと、十年もすればたくましく頼りがいのある男性になる。が、十年である。十年もすれば、ヴェルディアナは二十五歳だ。
「……はぁ、どうしよう……。あ」
そんなことをぼやき、ヴェルディアナはふと手元を見た。すると、そこには山のような野菜が千切りになっていた。
その光景を見て、ヴェルディアナは焦る。バッリスタ家の主食は野菜ではあるものの、こんなには食べない。だって、草食動物ではないのだから。
「私のバカ……!」
そんな言葉を零し、ヴェルディアナは慌てて野菜を籠に入れていく。まだ、冷蔵保存をすれば大丈夫だ。そう、信じることにした。バッリスタ家にとって、食材は言葉通り命の源だ。一つたりとも、無駄には出来ない。それくらい、貧乏だった。
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