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本編 第2章
第7話
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◇
「本当に、本当にすみませんでした……!」
結婚式の翌朝。真白は朝食の前に律哉に深々と頭を下げていた。
謝罪の言葉を口にすれば、律哉はゆるゆると首を横に振る。その後「別に気にしていない」というだけだ。
「で、ですが……」
「俺だって疲れた。……あなたが疲れ果てて眠るのは、当然のことだ」
そう言って、律哉は箸を手に取る。……真白も、渋々食事に移ることにした。
朝食はシンプルなものだ。炊いた米と、みそ汁。それから、近所の人からもらったという漬物。
(本当、お金がないのね……)
花里家での朝食とは、天と地ほどの差があると思う。
でも、真白はその考えを打ち消す。郷に入っては郷に従え。ここでは、律哉が正しい。
合わせ、真白もここでやっていくと決めた。
あとはまぁ、昨夜の失態がある以上、変なことは言えないとも思っている。
「……その、律哉さんが、私を部屋まで運んでくださったのですか?」
恐る恐るそう問いかければ、律哉はこくんと首を縦に振った。
「まぁ、この家に使用人はいないからな。御者にもそこまでさせるわけにはいかない」
「……そう、ですよねぇ」
昨夜。披露宴の会場から帰宅する際中。疲れや緊張などから眠った。
そこまでは、いい。ただ、問題は……。
(寝入って、しまった……)
真白は、邸宅に帰ってきても起きなかったのだ。
目を覚ましたら、桐ケ谷家の邸宅の寝室にいたのだから、もう慌てふためいてしまった。
しかも、その真白の騒ぎを聞きつけた律哉は、別室から現れた。……どうやら、彼は真白の邪魔にならないようにと私室で眠っていたらしい。……まさに、大失態と言えるだろう。
(妻なのに……! こんなことがお父さまにバレてしまったら、どうなるか……)
父は誰よりも、周囲からの印象を気にする。それすなわち、このことが父の耳に入ってしまえば、真白は……。
「と思ったけど、お父さまももう関係ないのよね……」
漬物を咀嚼して飲み込んで。真白はついつい言葉を零してしまった。
その言葉を聞いたためなのか、律哉が「真白?」と声をかけてくる。そのため、ゆるゆると首を横に振った。
「いえ、その。……昨夜の失態を知ってしまわれれば、お父さまに怒られると思いまして……」
肩をすくめて、自嘲気味にそう言う。ついでとばかりに苦笑を浮かべていれば、律哉はまたゆるゆると首を横に振った。
「別に、気にすることじゃない。それに、このことは俺と真白しか知らない。……外に漏れることは、ないだろう」
「……そう、でしょうか?」
「こういうときばかりは、本当に使用人がいなくてよかっただろう?」
彼が唇の端を軽くあげて、そう告げてくる。
ほんの少しお茶目にも見える表情。……なんだか、意外な一面を見たというべきなのか。
「それは、二人だけの秘密ということ、でしょうか?」
こてんと首を横に倒してそう問いかける。律哉は、大きく頷いてくれた。
「あぁ、俺と真白だけの秘密だ。……どうだろうか?」
「なんだか、最高です」
彼の言葉に、自然と真白の頬が緩む。そう言ってもらえたら、気が軽くなる。
「なんだか、ありがとうございます。気が軽くなりました」
朝からずっと憂鬱だった。けれど、律哉の言葉に励まされた。それは、間違いない。
「だったらいい。……ところで、みそ汁の味はどうだろうか? 味はあなたの好みに合っているだろうか?」
「えぇ、とっても美味しいです。明日からは、私が作りますね」
真白が起きたら、朝食は出来上がっていた。
律哉が作ってくれたみそ汁は少々味が濃いものの、誤差の範囲だ。それに、彼は軍人。身体を動かすのだから、少々味が濃いくらいでちょうどいいのだろう。それくらい、真白にだってある程度は想像がつく。
「本当に、本当にすみませんでした……!」
結婚式の翌朝。真白は朝食の前に律哉に深々と頭を下げていた。
謝罪の言葉を口にすれば、律哉はゆるゆると首を横に振る。その後「別に気にしていない」というだけだ。
「で、ですが……」
「俺だって疲れた。……あなたが疲れ果てて眠るのは、当然のことだ」
そう言って、律哉は箸を手に取る。……真白も、渋々食事に移ることにした。
朝食はシンプルなものだ。炊いた米と、みそ汁。それから、近所の人からもらったという漬物。
(本当、お金がないのね……)
花里家での朝食とは、天と地ほどの差があると思う。
でも、真白はその考えを打ち消す。郷に入っては郷に従え。ここでは、律哉が正しい。
合わせ、真白もここでやっていくと決めた。
あとはまぁ、昨夜の失態がある以上、変なことは言えないとも思っている。
「……その、律哉さんが、私を部屋まで運んでくださったのですか?」
恐る恐るそう問いかければ、律哉はこくんと首を縦に振った。
「まぁ、この家に使用人はいないからな。御者にもそこまでさせるわけにはいかない」
「……そう、ですよねぇ」
昨夜。披露宴の会場から帰宅する際中。疲れや緊張などから眠った。
そこまでは、いい。ただ、問題は……。
(寝入って、しまった……)
真白は、邸宅に帰ってきても起きなかったのだ。
目を覚ましたら、桐ケ谷家の邸宅の寝室にいたのだから、もう慌てふためいてしまった。
しかも、その真白の騒ぎを聞きつけた律哉は、別室から現れた。……どうやら、彼は真白の邪魔にならないようにと私室で眠っていたらしい。……まさに、大失態と言えるだろう。
(妻なのに……! こんなことがお父さまにバレてしまったら、どうなるか……)
父は誰よりも、周囲からの印象を気にする。それすなわち、このことが父の耳に入ってしまえば、真白は……。
「と思ったけど、お父さまももう関係ないのよね……」
漬物を咀嚼して飲み込んで。真白はついつい言葉を零してしまった。
その言葉を聞いたためなのか、律哉が「真白?」と声をかけてくる。そのため、ゆるゆると首を横に振った。
「いえ、その。……昨夜の失態を知ってしまわれれば、お父さまに怒られると思いまして……」
肩をすくめて、自嘲気味にそう言う。ついでとばかりに苦笑を浮かべていれば、律哉はまたゆるゆると首を横に振った。
「別に、気にすることじゃない。それに、このことは俺と真白しか知らない。……外に漏れることは、ないだろう」
「……そう、でしょうか?」
「こういうときばかりは、本当に使用人がいなくてよかっただろう?」
彼が唇の端を軽くあげて、そう告げてくる。
ほんの少しお茶目にも見える表情。……なんだか、意外な一面を見たというべきなのか。
「それは、二人だけの秘密ということ、でしょうか?」
こてんと首を横に倒してそう問いかける。律哉は、大きく頷いてくれた。
「あぁ、俺と真白だけの秘密だ。……どうだろうか?」
「なんだか、最高です」
彼の言葉に、自然と真白の頬が緩む。そう言ってもらえたら、気が軽くなる。
「なんだか、ありがとうございます。気が軽くなりました」
朝からずっと憂鬱だった。けれど、律哉の言葉に励まされた。それは、間違いない。
「だったらいい。……ところで、みそ汁の味はどうだろうか? 味はあなたの好みに合っているだろうか?」
「えぇ、とっても美味しいです。明日からは、私が作りますね」
真白が起きたら、朝食は出来上がっていた。
律哉が作ってくれたみそ汁は少々味が濃いものの、誤差の範囲だ。それに、彼は軍人。身体を動かすのだから、少々味が濃いくらいでちょうどいいのだろう。それくらい、真白にだってある程度は想像がつく。
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