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本編 第2章
第3話
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「そうか。……そう言ってくれて、助かる」
律哉はそう言うと、すたすたと邸宅の奥へと歩いていく。なので、真白もハッとして彼に続いた。
(なんていうか、照れ臭かったから、こういう反応をしてくださって助かったわ……)
きっと、律哉も同じような状態なのだろう。それを察するので、真白が不快になることはない。
そっと後ろを向けば、花里家に仕えてくれている従者たちが嫁入り道具を搬入しているのが見えた。
でも、すぐに律哉のほうに視線を向け、足早に彼に近づいていく。
「何処か、見たいところはあるだろうか? 優先的に案内しようと思うが……」
少し邸宅の中を進んだ後。ふと、律哉がそう声をかけてくる。
……見たいところ。正直、あまりない。真白の予想が正しければ、何処もかしこも似たような状態だろうから。
「いえ、律哉さまにお任せします。……そういえば、従者たちについていなくてもよろしいのでしょうか?」
そうだ。律哉が真白に付きっきりというのはよくないだろう。
そう思ったので、真白はそう問いかけてみる。彼は「構わない」と言っていた。
「数日前に邸宅の中を案内したし、何処に運んでほしいかも伝えてある。花里の従者だ。変なことはしないという信用もある」
「……さようでございますか」
確かに、従者がなにかをすればそれは花里家の汚点につながる。なので、父は雇う使用人たちを厳しくふるいにかけていた。
もちろん、その分好待遇で雇うため、花里家の邸宅は人気の就職先だ。募集をかければ、たくさんの人が面接に来るのを真白は知っている。
「では、とりあえず生活に必要な部分を案内しよう。あなたの私室とか、食事の場所とかは覚えておいたほうがなにかといい」
物思いにふける真白に、律哉がそう提案をしてくれる。……そのため、真白はこくんと首を縦に振った。
律哉に連れられ、邸宅の奥、居住スペースへと入っていく。そこはお世辞にも立派とはいえないが、そこまでひどい有様ではなかった。
「うちは使用人を雇う余裕などないからな。炊事や洗濯等の家事は、全て俺がやってきた」
食堂を見せてもらい、ついでとばかりに台所を見せてもらう。
そこは立派なものだが、何処か埃をかぶっているようにも見えた。……多分ではあるが、律哉もそこまで凝った料理は作らないのだろう。
(まぁ、それは当然だわ。律哉さまはお忙しいのだから……)
むしろ、料理を作っているだけまだいいと思う。完全に埃をかぶっていないだけ、まだ使いやすそうだ。
「では、今後は私が作らせていただきますね」
なんてことない風にそう言えば、律哉が眉間にしわを寄せた。
その姿を見て、真白はきょとんとしてしまう。……自分は、なにかおかしなことを言ってしまっただろうか?
「なにか、おかしなことでも言いましたでしょうか?」
庶民の場合、家事は妻の仕事である。裕福な家は女中を雇うが、一般庶民にそんな余裕などあるわけがない。つまり、おのずと妻がすることになる。それくらい、真白は知識として持っていた。
「い、いや、それは助かる。……ただ、あなたはご令嬢だろう?」
彼の言葉に、真白は納得する。……彼は、真白に家事が出来ないと思っているのだろう。もしくは、申し訳ないと思っているか。
「全然構いません。簡単なものしか出来ませんし、家事全てにおいて手際が悪いでしょうが……」
「……そこは、全然いい。やってくれるだけで、助かる」
少し戸惑いつつも、律哉がそう言ってくれる。なので、真白はホッとした。
「出来る限り早く慣れるように、頑張りますね」
それだけを伝えれば、律哉がなんとも微妙な表情を浮かべたのがわかった。……が、真白は気にすることもない。
建て直すためには、協力することが必要不可欠である。すなわち、真白も頑張る必要がある。
律哉はそう言うと、すたすたと邸宅の奥へと歩いていく。なので、真白もハッとして彼に続いた。
(なんていうか、照れ臭かったから、こういう反応をしてくださって助かったわ……)
きっと、律哉も同じような状態なのだろう。それを察するので、真白が不快になることはない。
そっと後ろを向けば、花里家に仕えてくれている従者たちが嫁入り道具を搬入しているのが見えた。
でも、すぐに律哉のほうに視線を向け、足早に彼に近づいていく。
「何処か、見たいところはあるだろうか? 優先的に案内しようと思うが……」
少し邸宅の中を進んだ後。ふと、律哉がそう声をかけてくる。
……見たいところ。正直、あまりない。真白の予想が正しければ、何処もかしこも似たような状態だろうから。
「いえ、律哉さまにお任せします。……そういえば、従者たちについていなくてもよろしいのでしょうか?」
そうだ。律哉が真白に付きっきりというのはよくないだろう。
そう思ったので、真白はそう問いかけてみる。彼は「構わない」と言っていた。
「数日前に邸宅の中を案内したし、何処に運んでほしいかも伝えてある。花里の従者だ。変なことはしないという信用もある」
「……さようでございますか」
確かに、従者がなにかをすればそれは花里家の汚点につながる。なので、父は雇う使用人たちを厳しくふるいにかけていた。
もちろん、その分好待遇で雇うため、花里家の邸宅は人気の就職先だ。募集をかければ、たくさんの人が面接に来るのを真白は知っている。
「では、とりあえず生活に必要な部分を案内しよう。あなたの私室とか、食事の場所とかは覚えておいたほうがなにかといい」
物思いにふける真白に、律哉がそう提案をしてくれる。……そのため、真白はこくんと首を縦に振った。
律哉に連れられ、邸宅の奥、居住スペースへと入っていく。そこはお世辞にも立派とはいえないが、そこまでひどい有様ではなかった。
「うちは使用人を雇う余裕などないからな。炊事や洗濯等の家事は、全て俺がやってきた」
食堂を見せてもらい、ついでとばかりに台所を見せてもらう。
そこは立派なものだが、何処か埃をかぶっているようにも見えた。……多分ではあるが、律哉もそこまで凝った料理は作らないのだろう。
(まぁ、それは当然だわ。律哉さまはお忙しいのだから……)
むしろ、料理を作っているだけまだいいと思う。完全に埃をかぶっていないだけ、まだ使いやすそうだ。
「では、今後は私が作らせていただきますね」
なんてことない風にそう言えば、律哉が眉間にしわを寄せた。
その姿を見て、真白はきょとんとしてしまう。……自分は、なにかおかしなことを言ってしまっただろうか?
「なにか、おかしなことでも言いましたでしょうか?」
庶民の場合、家事は妻の仕事である。裕福な家は女中を雇うが、一般庶民にそんな余裕などあるわけがない。つまり、おのずと妻がすることになる。それくらい、真白は知識として持っていた。
「い、いや、それは助かる。……ただ、あなたはご令嬢だろう?」
彼の言葉に、真白は納得する。……彼は、真白に家事が出来ないと思っているのだろう。もしくは、申し訳ないと思っているか。
「全然構いません。簡単なものしか出来ませんし、家事全てにおいて手際が悪いでしょうが……」
「……そこは、全然いい。やってくれるだけで、助かる」
少し戸惑いつつも、律哉がそう言ってくれる。なので、真白はホッとした。
「出来る限り早く慣れるように、頑張りますね」
それだけを伝えれば、律哉がなんとも微妙な表情を浮かべたのがわかった。……が、真白は気にすることもない。
建て直すためには、協力することが必要不可欠である。すなわち、真白も頑張る必要がある。
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