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本編 第1章
第6話
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結局、あの後ろくな話し合いも出来ず、真白は執務室を追い出されてしまった。
そして、項垂れつつ邸宅の渡り廊下を歩く。
花里家は裕福だ。それこそ、下手な華族よりも財力を持っているほどに。
様々な事業を手掛けている今、花里家は華族たちにとって無視できない存在になりつつある。
だが。華族たちにとって、自分たちの血筋は尊いものだ。それ以外の者を見下している。
だからこそ、真白の父は対等な商売をするため、華族と娘を結婚させることにしたのだろう。結婚は所詮自分たちが華族の仲間入りをするための手段でしかない。それは、真白にだって嫌というほどわかっている。
わかっているの……が。
(けど、なにもいきなりすぎないかしら……?)
そう思いつつ、ため息をついた。すると、後ろから「真白」と声をかけられる。そちらに視線を向ければ、そこには花里家の三女であり、真白の三番目の姉であるいろはがいた。
彼女は軽く手を挙げつつ、真白のほうに近づいてくる。
「いろはお姉さま……」
ボソッと姉の名前を呼べば、いろはは肩をすくめた。
「お父さまに、なにか無茶ぶりでもされたのでしょう?」
彼女のその言葉に、真白は言葉に詰まった。だって、それは真実なのだ。
そんな真白を見て、いろはは腕を組む。ちょっと傲慢なその仕草も、大層な美貌によって絵になるのだから、美形とは得なものだ。
「お父さまったら、ご自分の選択が必ず正解だと思われているから……」
やれやれといった風にいろはがそう言う。それには、真白も同意しか出来ない。
あのワンマン経営は、なんとかしたほうがいいと思う。そうじゃないと、いずれ取り返しのつかないことになるだろう。
「……いろはお姉さま」
「えぇ」
「お姉さまは、婚約してなにか変わった?」
ついつい好奇心に負けてそう問いかけてみる。いろはは、驚いたように目を見開いた。けれど、すぐに真白の考えを汲み取ったらしい。「さぁ」と言葉を返してくる。
「なにも変わってないんじゃない? 結婚するまではここにいるわけだしね」
「……まぁ、そうかも」
「それに、私の婚約者は幼馴染みたいな存在だから」
その言葉は、正しい。顔も知らない男と結婚する真白と違って、いろはの相手は昔からの顔なじみである。真白も何度か会っており、柔らかな微笑みが魅力的な人だと思った。少々気が弱そうにも見えるが、気の強いいろはとはむしろお似合いだろう。
「ってことは、真白もついに結婚するの?」
いろはがころころと笑ってそう尋ねてくる。問いかけになっている。でも、確信を持っているようだった。
「……うん、そういうことになりそうだわ」
否定する意味もなかったので、真白は素直に彼女の言葉を認めた。
いろはは「ついに、か」と言って自身の頬に手を当てていた。
「まぁ、名家に生まれた以上いずれはこうなる運命だしね」
「……お姉さまみたいに、割り切れないわよ」
いろはは商家に嫁ぐので、その生活が大きく変わることはないだろう。だが、真白は全然違う。
華族の生活など、想像もつかない。……挙句、相手の家が貧乏だなんて。
「だって、私が嫁ぐように命じられた家って、華族なんですって」
「……あら」
「しかも、ド貧乏。……生活が様変わりするなんてものじゃないわよ」
華族の家に嫁ぐだけでも大変なのに、そこに付属要素として貧乏が付いてくるなんて……。絶対にごめんだ。
そう、思う気持ちは確かにある。
「……なのに、悪くないなって思う気持ちも、一定数あるの。……不思議よね」
時間が経って、少し頭が冷静になったらしい。真白はそう呟いていた。
そして、項垂れつつ邸宅の渡り廊下を歩く。
花里家は裕福だ。それこそ、下手な華族よりも財力を持っているほどに。
様々な事業を手掛けている今、花里家は華族たちにとって無視できない存在になりつつある。
だが。華族たちにとって、自分たちの血筋は尊いものだ。それ以外の者を見下している。
だからこそ、真白の父は対等な商売をするため、華族と娘を結婚させることにしたのだろう。結婚は所詮自分たちが華族の仲間入りをするための手段でしかない。それは、真白にだって嫌というほどわかっている。
わかっているの……が。
(けど、なにもいきなりすぎないかしら……?)
そう思いつつ、ため息をついた。すると、後ろから「真白」と声をかけられる。そちらに視線を向ければ、そこには花里家の三女であり、真白の三番目の姉であるいろはがいた。
彼女は軽く手を挙げつつ、真白のほうに近づいてくる。
「いろはお姉さま……」
ボソッと姉の名前を呼べば、いろはは肩をすくめた。
「お父さまに、なにか無茶ぶりでもされたのでしょう?」
彼女のその言葉に、真白は言葉に詰まった。だって、それは真実なのだ。
そんな真白を見て、いろはは腕を組む。ちょっと傲慢なその仕草も、大層な美貌によって絵になるのだから、美形とは得なものだ。
「お父さまったら、ご自分の選択が必ず正解だと思われているから……」
やれやれといった風にいろはがそう言う。それには、真白も同意しか出来ない。
あのワンマン経営は、なんとかしたほうがいいと思う。そうじゃないと、いずれ取り返しのつかないことになるだろう。
「……いろはお姉さま」
「えぇ」
「お姉さまは、婚約してなにか変わった?」
ついつい好奇心に負けてそう問いかけてみる。いろはは、驚いたように目を見開いた。けれど、すぐに真白の考えを汲み取ったらしい。「さぁ」と言葉を返してくる。
「なにも変わってないんじゃない? 結婚するまではここにいるわけだしね」
「……まぁ、そうかも」
「それに、私の婚約者は幼馴染みたいな存在だから」
その言葉は、正しい。顔も知らない男と結婚する真白と違って、いろはの相手は昔からの顔なじみである。真白も何度か会っており、柔らかな微笑みが魅力的な人だと思った。少々気が弱そうにも見えるが、気の強いいろはとはむしろお似合いだろう。
「ってことは、真白もついに結婚するの?」
いろはがころころと笑ってそう尋ねてくる。問いかけになっている。でも、確信を持っているようだった。
「……うん、そういうことになりそうだわ」
否定する意味もなかったので、真白は素直に彼女の言葉を認めた。
いろはは「ついに、か」と言って自身の頬に手を当てていた。
「まぁ、名家に生まれた以上いずれはこうなる運命だしね」
「……お姉さまみたいに、割り切れないわよ」
いろはは商家に嫁ぐので、その生活が大きく変わることはないだろう。だが、真白は全然違う。
華族の生活など、想像もつかない。……挙句、相手の家が貧乏だなんて。
「だって、私が嫁ぐように命じられた家って、華族なんですって」
「……あら」
「しかも、ド貧乏。……生活が様変わりするなんてものじゃないわよ」
華族の家に嫁ぐだけでも大変なのに、そこに付属要素として貧乏が付いてくるなんて……。絶対にごめんだ。
そう、思う気持ちは確かにある。
「……なのに、悪くないなって思う気持ちも、一定数あるの。……不思議よね」
時間が経って、少し頭が冷静になったらしい。真白はそう呟いていた。
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