本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~

扇 レンナ

文字の大きさ
上 下
4 / 18
本編 第1章

第4話

しおりを挟む
「……その条件とは、結婚でしょうか?」

 確認とばかりにそう問いかける。彼は頷いた。

「あぁ、直球に言えばそうだね。……どうだろうか?」

 一応彼は律哉の意見も聞いてくれるらしい。

 だが、ここで律哉に断るという選択肢はなかった。

(どうせ俺は結婚願望も薄いし、好きな人もいない。……構わないな)

 目を伏せて、そう考える。桐ケ谷家を存続させるために結婚するか。もしくは、結婚を拒否してこの家を没落させるか。

 そんなもの、簡単に答えが出ているじゃないか。

「……私には四人娘がいる。上二人は嫁いでいて、三女には婚約者がいる」
「つまり、四女の娘さんですね」

 律哉のその言葉に、花里は頷く。

(末娘か。……多少はわがままかもしれないが、問題ないだろう)

 そう思い、律哉は花里をまっすぐに見つめた。

「その提案を、ぜひ受け入れたく思います」

 頭を下げてそう告げれば、「そうか」と彼の声が何処か跳ねたのがわかった。

「では、早速婚姻の準備に取り掛かろう」
「……え」
「我が家の財力をふんだんに使った、煌びやかな式にせねば」

 ……それにしても、話が早くないだろうか?

 それに、まず。律哉は、彼の四女と対面もしていない。

(もしも、その娘さんが嫌だと言ったらどうなるんだ……)

 もしかしたら彼はすでに娘には許可を取っているのかもしれない。いや、取っていると信じておこう。

「というわけで、失礼するよ、桐ケ谷の当主」
「あ、あの……」
「あぁ、式の日時などは、資料を郵送する。……場所なども、同じだ」

 どうやら、彼はこの式を取り仕切るらしい。いや、それは構わない。律哉には大した願望もないのだから。

 でも、なにも、彼がここまで張り切る必要は――。

(……いや、これは一種の商売なのか)

 多分だが、彼にとってこれは商売なのだ。桐ケ谷は貧乏ではあるものの、持っている人脈は素晴らしいものだ。

 そんな桐ケ谷の当主の結婚相手に娘が選ばれた。彼はそれを存分に知らしめ、利用するつもりなのだろう。

 ……まったく、油断も隙も無いとはこのことだ。

「なんだか、大変なことになってしまったな……」

 花里が出て行った後。律哉は小さくそう呟く。すると、部屋の扉がノックされ、返事も聞かずに上司が顔を出す。

「桐ケ谷! お前、あのお方となにをお話したんだ……?」

 上司は律哉に詰め寄ってくる。その額には汗がにじんでおり、相当心配だったらしい。

 今、彼に軍への援助を打ち切られれば。いろいろと問題なのだろう。それくらい、律哉にだってわかっている。

「……上官」
「……あぁ」

 真剣な眼差しで、上司のことを呼ぶ。そうすれば、彼も律哉の雰囲気からただ事ではないと悟ったらしい。真剣な表情を浮かべる。

「この度、俺は花里の娘さんと結婚することになりました」
「……は?」

 上司がぽかんと口を開けた。そりゃそうだ。律哉だって、予想していなかったのだから。

「というわけで、今後なにかと休みを取ることが増えてしまいそうです」
「あ、あぁ、それは、構わないが……」

 式の準備は大変だ。……特に、彼があそこまで張り切っている以上、律哉もある程度動かねばならないだろう。

(せめて、大金に見合うだけの価値を、差し出さねば……)

 結局、律哉は何処までも真面目なのだ。そうじゃないと、こんなこと思わないだろうから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...