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本編 第1章
第7話
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その後、私はお金を払ってヴィリバルトさんと共に帰路についた。
彼は街の外れに邸宅を構えて一人で住んでいるらしい。なんでも、親との仲があまりよくないと……。
「なんでしょうね。心配してくれているっていうのは、分かるんです。ただ、同居してるとうるさくて、鬱陶しくて。口喧嘩が増えたので、いっそ別に住もうって話になって」
邸宅まで歩く間、彼はそんなことを教えてくれた。
「あと、ギード……ドラゴンと一緒に住むってなると、実家では手狭だったので」
「そう、なのですね」
確かにドラゴンってかなり大きいし、専用の建物まで用意しなきゃいけないって聞くし。
そうなれば、街の外れに邸宅を構えたのもある意味納得だった。
「……ドラゴンさん、ギードっていう名前なのですね」
しばらくして、私はそう問いかけた。彼が少しの間をおいて、頷いてくれた。
「はい。俺が付けたんです」
「いいお名前ですね」
淡々と言葉を交わし合う。ヴィリバルトさんはいろいろなことを教えてくれた。
ドラゴンさん……ギードさんとは子供の頃からの付き合いだとか。ドラゴンは肉食で、とんでもない量を食べるとか。実は乗り心地はあんまりよくなくて、割と身体が痛くなるとか。
「……ギードは、俺にとっていわば家族なんです」
しみじみと彼がそういう。その言葉には、嘘なんてこもっていないように思えた。本気で、彼はギードさんのことを家族だと思っているんだろう。
「だから、いろいろと考えて休むことにしたんです」
「どれくらいの間、お休みしているのですか?」
「一応三ヶ月休みを取ることになっていて、今は二ヶ月目ですね」
……想像以上に長い期間だった。
「まぁ、俺、実家が事業を手掛けてまして。実家の事業の手伝いをして、今は暮らしています」
「へぇ……」
素直に感心する。だって、この人、頑張っているんだなぁって思ったから。
「あぁ、そういえば。メリーナさんは、好きなものとかありますか?」
突然話題が急転換する。驚いて彼の顔を見上げる。長い前髪の所為で、表情は見えない。あと、周囲が暗いのも関係していると思う。
「好きなもの、ですか……?」
「はい。食べ物でも、飲み物でも。あとはデザインとか、色とか……」
どうして、そんなことを聞くんだろうか。
そう思う私に、ヴィリバルトさんは「へ、変な意味はないですよ……!」と慌てて付け足す。
いや、慌てられると逆に不信感が増すんだけど……。
「そうやって慌てられるっていうことは、なにか企みでもあるんですか?」
私は、そう問いかけてみる。普段だったら、もう少し考えて言葉を口にしただろう。
だけど、今の私はほろ酔い気分。特に深く考えることはない。思ったことを、そのまま口に出してしまう状態だった。
「……そう、ですね。企みといえば、企みか」
彼が肩をすくめたのがわかった。
それから、彼が「メリーナさん」と私の名前を呼ぶ。……そういえば、私、彼に名乗ったっけ……?
(まぁ、多分がっつり飲んでたうちに名乗ったんだろうなぁ)
でも、深くは考えず、彼に顔を向ける。……ヴィリバルトさんと真正面から見つめ合う形になって、ドキドキとした。彼の顔は、見えないけれど。
「俺、あなたの好みが知りたいんです。食べ物とか、飲み物とか。デザインとか、色とか」
「は、はぁ……」
「……あとは、そう、ですね。好きな人のタイプ……とか」
その言葉の後、ほんの少しの沈黙が走る。
今、聞き間違いじゃなかったらこの人は「好きな人のタイプ」って言ったような気がする。
(き、気のせいでしょ……?)
頭の中がパンクするみたいな感覚だった。
ついでに……身体がふらっとしてしまう。
「メリーナさん!」
倒れこむよりも先に、ヴィリバルトさんが私の身体を支えてくれた。その手が、見た目に似合わずたくましくて胸がきゅんとする。
だけど、それよりも。
「……頭、痛い」
これは絶対に飲みすぎだ。それを悟るほどの頭痛と気分の悪さに襲われて……私は、その場で意識を失った。
彼は街の外れに邸宅を構えて一人で住んでいるらしい。なんでも、親との仲があまりよくないと……。
「なんでしょうね。心配してくれているっていうのは、分かるんです。ただ、同居してるとうるさくて、鬱陶しくて。口喧嘩が増えたので、いっそ別に住もうって話になって」
邸宅まで歩く間、彼はそんなことを教えてくれた。
「あと、ギード……ドラゴンと一緒に住むってなると、実家では手狭だったので」
「そう、なのですね」
確かにドラゴンってかなり大きいし、専用の建物まで用意しなきゃいけないって聞くし。
そうなれば、街の外れに邸宅を構えたのもある意味納得だった。
「……ドラゴンさん、ギードっていう名前なのですね」
しばらくして、私はそう問いかけた。彼が少しの間をおいて、頷いてくれた。
「はい。俺が付けたんです」
「いいお名前ですね」
淡々と言葉を交わし合う。ヴィリバルトさんはいろいろなことを教えてくれた。
ドラゴンさん……ギードさんとは子供の頃からの付き合いだとか。ドラゴンは肉食で、とんでもない量を食べるとか。実は乗り心地はあんまりよくなくて、割と身体が痛くなるとか。
「……ギードは、俺にとっていわば家族なんです」
しみじみと彼がそういう。その言葉には、嘘なんてこもっていないように思えた。本気で、彼はギードさんのことを家族だと思っているんだろう。
「だから、いろいろと考えて休むことにしたんです」
「どれくらいの間、お休みしているのですか?」
「一応三ヶ月休みを取ることになっていて、今は二ヶ月目ですね」
……想像以上に長い期間だった。
「まぁ、俺、実家が事業を手掛けてまして。実家の事業の手伝いをして、今は暮らしています」
「へぇ……」
素直に感心する。だって、この人、頑張っているんだなぁって思ったから。
「あぁ、そういえば。メリーナさんは、好きなものとかありますか?」
突然話題が急転換する。驚いて彼の顔を見上げる。長い前髪の所為で、表情は見えない。あと、周囲が暗いのも関係していると思う。
「好きなもの、ですか……?」
「はい。食べ物でも、飲み物でも。あとはデザインとか、色とか……」
どうして、そんなことを聞くんだろうか。
そう思う私に、ヴィリバルトさんは「へ、変な意味はないですよ……!」と慌てて付け足す。
いや、慌てられると逆に不信感が増すんだけど……。
「そうやって慌てられるっていうことは、なにか企みでもあるんですか?」
私は、そう問いかけてみる。普段だったら、もう少し考えて言葉を口にしただろう。
だけど、今の私はほろ酔い気分。特に深く考えることはない。思ったことを、そのまま口に出してしまう状態だった。
「……そう、ですね。企みといえば、企みか」
彼が肩をすくめたのがわかった。
それから、彼が「メリーナさん」と私の名前を呼ぶ。……そういえば、私、彼に名乗ったっけ……?
(まぁ、多分がっつり飲んでたうちに名乗ったんだろうなぁ)
でも、深くは考えず、彼に顔を向ける。……ヴィリバルトさんと真正面から見つめ合う形になって、ドキドキとした。彼の顔は、見えないけれど。
「俺、あなたの好みが知りたいんです。食べ物とか、飲み物とか。デザインとか、色とか」
「は、はぁ……」
「……あとは、そう、ですね。好きな人のタイプ……とか」
その言葉の後、ほんの少しの沈黙が走る。
今、聞き間違いじゃなかったらこの人は「好きな人のタイプ」って言ったような気がする。
(き、気のせいでしょ……?)
頭の中がパンクするみたいな感覚だった。
ついでに……身体がふらっとしてしまう。
「メリーナさん!」
倒れこむよりも先に、ヴィリバルトさんが私の身体を支えてくれた。その手が、見た目に似合わずたくましくて胸がきゅんとする。
だけど、それよりも。
「……頭、痛い」
これは絶対に飲みすぎだ。それを悟るほどの頭痛と気分の悪さに襲われて……私は、その場で意識を失った。
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