6 / 13
本編 第1章
第6話
しおりを挟む
(っていうか、竜騎士……?)
その単語に引っ掛かって、もう一度彼の身分証明書を見つめる。この身分証明書は特殊な加工がされており、偽装とかは出来ないようになっている。つまり、彼が竜騎士であるということは間違いなくて……。
「信用、していただけたでしょうか?」
彼がポリポリと頬を掻きつつ、そう問いかけてくる。……確かに、これを出されると信用せざる終えない。
……ただ、その。
「……あの、ヴィリバルトさんは、竜騎士……なの、ですか?」
恐る恐るそう問いかける。
竜騎士とは、その名の通り『竜に乗る騎士』のことだ。竜とはドラゴン。この世で最強とも呼ばれている存在。
ただ、その分とても気難しくて、人間になつくことはほとんどない。なので、手懐けるだけでも一苦労。さらには、そこから訓練を重ねて、信頼関係を結んで、ようやく人を乗せることを許してくれる。
というわけで。簡潔に言えば、なるのがかなり大変であり、数が少ない職業の人なのだ。
「えぇ、そうです。ただ、今はパートナーのドラゴンがけがをしていて、休みをもらっているんですが」
先ほど彼が「休職中」と言った意味が、よくわかった。確かにドラゴンがけがをしていたら、竜騎士として働くことは出来ない。無理してドラゴンを動かすことは信頼関係の破壊にもつながるわけだし……。
「あ、あの……」
「はい」
少し前のめりになって、私はヴィリバルトさんにぐいっと顔を近づけた。
その行動に驚いてか、彼が後ろにのけ反る。しかし、興奮しきった私にはそんなこと気にもならなくて。
「わ、私、ドラゴンに憧れているんです……!」
「……ドラゴンに、ですか?」
少し驚いたように言葉を返された。そのため、私はこくこくと首を縦に何度も振る。
「はい! 幼い頃、偶然竜騎士の訓練を見学出来て。そのときの竜騎士の方にドラゴンと交流させてもらったのです」
あれは、私にとってとても大切な思い出だ。
竜騎士の訓練を見学できたのは、本当に偶然だった。兄が竜騎士に興味があったので、両親が必死に頼み込んだのだ。結果的に私もお供として連れて行ってもらえることになり、そこで出逢ったドラゴンに圧倒された。
「あれ以来、私、本当にドラゴンの虜で……」
正直、ドラゴンに憧れるのは圧倒的に男が多い。だからなのか、両親には渋い顔をされていた。けど、私の中のドラゴンへの憧れは、色あせることはなく。ずっと、ずっと間近でドラゴンと交流したいと、願い続けていたのだ。
「そのバカにされることを承知のうえで言うのですが、私、将来ドラゴンと暮らしたくて……」
両親に幼い頃に語った夢。彼らは「バカを言うな」と蹴り飛ばしたけれど、私にとっては大切な大切な夢。
「そうですか。……別に、バカにするつもりはありませんよ」
私の言葉を聞いたヴィリバルトさんは、特に気にした風もなく口元を緩めていた。
「俺も、同じですから。……ずっと、ドラゴンに憧れていて。だから、竜騎士になったんです」
「まぁ……!」
とはいっても、「だから」という理由なんかじゃなれないほど、竜騎士はすごい職業だ。
彼の熱意は、それだけすごかったということなんだとも、思う。
「どうせですし、俺のパートナーと交流してみますか?」
「え……」
「とはいっても、明日になりますが……」
少し申し訳なさそうな声だった。……ドラゴン、交流。頭の中の天秤がグラグラと揺れる。
初対面の人についていくのが危ないっていうのは、子供でもわかる。しかし、彼は騎士だし。それに、ドラゴンと交流させてもらえるし……。
「……お願い、します」
結局、私は折れた。決め手はやっぱりドラゴンだった。……この人が騎士っていうのも、もちろん関係してるんだけど。
その単語に引っ掛かって、もう一度彼の身分証明書を見つめる。この身分証明書は特殊な加工がされており、偽装とかは出来ないようになっている。つまり、彼が竜騎士であるということは間違いなくて……。
「信用、していただけたでしょうか?」
彼がポリポリと頬を掻きつつ、そう問いかけてくる。……確かに、これを出されると信用せざる終えない。
……ただ、その。
「……あの、ヴィリバルトさんは、竜騎士……なの、ですか?」
恐る恐るそう問いかける。
竜騎士とは、その名の通り『竜に乗る騎士』のことだ。竜とはドラゴン。この世で最強とも呼ばれている存在。
ただ、その分とても気難しくて、人間になつくことはほとんどない。なので、手懐けるだけでも一苦労。さらには、そこから訓練を重ねて、信頼関係を結んで、ようやく人を乗せることを許してくれる。
というわけで。簡潔に言えば、なるのがかなり大変であり、数が少ない職業の人なのだ。
「えぇ、そうです。ただ、今はパートナーのドラゴンがけがをしていて、休みをもらっているんですが」
先ほど彼が「休職中」と言った意味が、よくわかった。確かにドラゴンがけがをしていたら、竜騎士として働くことは出来ない。無理してドラゴンを動かすことは信頼関係の破壊にもつながるわけだし……。
「あ、あの……」
「はい」
少し前のめりになって、私はヴィリバルトさんにぐいっと顔を近づけた。
その行動に驚いてか、彼が後ろにのけ反る。しかし、興奮しきった私にはそんなこと気にもならなくて。
「わ、私、ドラゴンに憧れているんです……!」
「……ドラゴンに、ですか?」
少し驚いたように言葉を返された。そのため、私はこくこくと首を縦に何度も振る。
「はい! 幼い頃、偶然竜騎士の訓練を見学出来て。そのときの竜騎士の方にドラゴンと交流させてもらったのです」
あれは、私にとってとても大切な思い出だ。
竜騎士の訓練を見学できたのは、本当に偶然だった。兄が竜騎士に興味があったので、両親が必死に頼み込んだのだ。結果的に私もお供として連れて行ってもらえることになり、そこで出逢ったドラゴンに圧倒された。
「あれ以来、私、本当にドラゴンの虜で……」
正直、ドラゴンに憧れるのは圧倒的に男が多い。だからなのか、両親には渋い顔をされていた。けど、私の中のドラゴンへの憧れは、色あせることはなく。ずっと、ずっと間近でドラゴンと交流したいと、願い続けていたのだ。
「そのバカにされることを承知のうえで言うのですが、私、将来ドラゴンと暮らしたくて……」
両親に幼い頃に語った夢。彼らは「バカを言うな」と蹴り飛ばしたけれど、私にとっては大切な大切な夢。
「そうですか。……別に、バカにするつもりはありませんよ」
私の言葉を聞いたヴィリバルトさんは、特に気にした風もなく口元を緩めていた。
「俺も、同じですから。……ずっと、ドラゴンに憧れていて。だから、竜騎士になったんです」
「まぁ……!」
とはいっても、「だから」という理由なんかじゃなれないほど、竜騎士はすごい職業だ。
彼の熱意は、それだけすごかったということなんだとも、思う。
「どうせですし、俺のパートナーと交流してみますか?」
「え……」
「とはいっても、明日になりますが……」
少し申し訳なさそうな声だった。……ドラゴン、交流。頭の中の天秤がグラグラと揺れる。
初対面の人についていくのが危ないっていうのは、子供でもわかる。しかし、彼は騎士だし。それに、ドラゴンと交流させてもらえるし……。
「……お願い、します」
結局、私は折れた。決め手はやっぱりドラゴンだった。……この人が騎士っていうのも、もちろん関係してるんだけど。
15
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
盲目の令嬢にも愛は降り注ぐ
川原にゃこ
恋愛
「両家の婚約破棄をさせてください、殿下……!」
フィロメナが答えるよりも先に、イグナティオスが、叫ぶように言った──。
ベッサリオン子爵家の令嬢・フィロメナは、幼少期に病で視力を失いながらも、貴族の令嬢としての品位を保ちながら懸命に生きている。
その支えとなったのは、幼い頃からの婚約者であるイグナティオス。
彼は優しく、誠実な青年であり、フィロメナにとって唯一無二の存在だった。
しかし、成長とともにイグナティオスの態度は少しずつ変わり始める。
貴族社会での立身出世を目指すイグナティオスは、盲目の婚約者が自身の足枷になるのではないかという葛藤を抱え、次第に距離を取るようになったのだ。
そんな中、宮廷舞踏会でフィロメナは偶然にもアスヴァル・バルジミール辺境伯と出会う。高潔な雰囲気を纏い、静かな威厳を持つ彼は、フィロメナが失いかけていた「自信」を取り戻させる存在となっていく。
一方で、イグナティオスは貴族社会の駆け引きの中で、伯爵令嬢ルイーズに惹かれていく。フィロメナに対する優しさが「義務」へと変わりつつある中で、彼はある決断を下そうとしていた。
光を失ったフィロメナが手にした、新たな「光」とは。
静かに絡み合う愛と野心、運命の歯車が回り始める。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です


学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる