大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ

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1巻

1-3

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 シリルだって、メアリーのことを抱くなんて嫌に決まっている。
 あの挙式前のたわむれも、嫌がらせでなくてなんだというのだ。

(どうせ白い結婚になるだろうし、深く考えてはダメね)

 寝台の上に寝転がり、大きく伸びをする。
 正直なところ、身体のくすぶりさえなければ今すぐにでも眠れそうなほど疲れている。
 なのに、眠れない。
 身体が昂って、どうすればいいかわからない。
 とりあえず、なにか考えていよう。なにか、気分が明るくなるようなことを。
 だというのに。

「……なんだか、嫌なことばかり思い出すわ」

 ふと思い出したのは、まだメアリーが十歳にも満たないころのことだった。
 あれはまだ暑い夏の終わりのころ。
 メアリーは、誘拐されたのだ。


   ◇◇◇


 当時のメアリーは、身体を動かすことが得意で、子どもながらにいつも自信に満ち溢れていた。言ってしまえば、おてんばでわがままだった。
 貴族の令嬢だというのに出かけるときも護衛は最低限、それどころか大人の目をかいくぐって、ひとりでどこかへ行ってしまうことすらあるほどだった。
 それが仇となった。
 メアリーがひとりになったときを狙って、何者かが彼女をかどわかしたのだ。
 誘拐を企てたのは、没落した元子爵家の人間だった。彼はメアリーの父に不正を暴かれたせいで失脚したのだと、その娘を使って自身の恨みを晴らそうとした。
 怖くて、怖くて、それでも、メアリーは負けなかった。
 相手の隙をついて逃げ出した。走って、大きな声で助けを求めた。
 けれど、結局は大人と子ども。あっさり捕まりそうになった、そのとき。
 ひとりの少年が、助けてくれた。
 メアリーの声を聞きつけたのか、はたまた、もっと前から追いかけていてくれたのか。
 彼は誘拐犯に立ち向かい、自分が傷つくのもいとわず勇敢に戦って……
 そのあとのことを、メアリーは覚えていない。こうして今メアリーが五体満足でいるということは、無事に助け出されたことだけは確かだけれど。
 あのときのことは、恐怖で記憶が曖昧あいまいだった。
 自分をさらった男の顔も、助けてくれた少年の顔も、もやがかかったようにぼんやりとしている。
 けれどその少年に抱いた憧れだけは、決して忘れることがなかった。



   ◇◇◇


 あれが、メアリーの中に生まれたはじめての恋心……だったのかもしれない。
 いまだに彼の顔も思い出せないし、名前も知らないままだけれど。

(あの人はどうしているのかしら)

 おぼろげな記憶をたどると、身なりはきれいだったような気がする。どこかの貴族令息だったのかもしれない。
 父と母は少年の正体を知っていたようだが、なぜかメアリーには教えてくれなかった。お礼がしたいと言っても、「その必要はない」と気まずそうに顔を背けるばかりだったのだ。

「シリル様も、あの人みたいに優しかったら」

 もしかしたら、ここまで絶望的な結婚にはならなかったのかもしれない。
 けれどそんなことを考えたところで、仕方のない話だ。

「……お水でも飲もう」

 ひとまず、心と身体を落ち着けよう。
 侍女に水を持ってこさせようと、メアリーはベルに手を伸ばした。
 けれどベルを鳴らす前に、ノックもなく寝室の扉が開く。
 顔を見せたのは、シリルだ。
 式のときにまとっていた正装からゆったりとした寝間着に着替えており、漆黒の髪を無造作におろしている。
 先ほどまでとは違ってどこか色気をかもし出すその風貌は、嫌味なほどに美しい男だと思った。
 彼はメアリーを見て口元をゆるめた。

「よぉ」

 軽い調子で声をかけてくる。
 その手には水の入ったコップ。酔い覚ましだろうか。

「……シリル様」

 披露宴でずいぶん酒を飲んでいたはずだが、泥酔している様子はない。かなり酒に強いのだろう。
 メアリーが顔をしかめると、彼は口端に笑みを浮かべてコップを口に運んだ。
 今まさに水を飲もうと思っていたメアリーには、嫌がらせにしか見えない。
 じろりとにらみつけると、彼はなにを思ったのかメアリーの隣――つまり、寝台に腰かけてきた。

「どいてくださいませ。私、侍女を呼びますので」
「……なんのためにだ?」
「喉が渇いたので、お水をいただこうと」

 プイッと顔を背けてそう答える。
 すると、彼の手がメアリーの顎を掴んだ。
 驚きに大きく目を見開くと、彼はメアリーの顔を自身のほうに向けさせる。
 その目は、いい悪戯いたずらを思いついたとばかりに楽しげにゆがんでいた。

「飲ませてやる」

 彼はそう言うと自身の口に水を含み――そのまま、メアリーに口づけてきた。
 驚く間もなく、口の中に水が注がれる。

(口移し……!?)

 必死に抵抗しようとするものの、メアリーは喉を鳴らして水を飲みこんでしまう。

「んんっ、んぅ……」

 注がれる水を必死に飲み下していくにつれて、なぜか身体中が徐々に熱くなりはじめた。
 水を飲んでいるはずなのに、渇きが増していくようだった。

「な、なにするのよ!」

 ようやく解放されたメアリーは、自身の唇をナイトドレスのそでで拭いながら抗議する。
 だが、いくら抗議をしても意味などないことはわかっていた。
 シリルはけらけらと楽しそうに笑うだけで、メアリーの怒りは増すばかりだ。

「喉。渇いてたんだろう?」

 相変わらず、彼の余裕が崩れることはない。
 ……相手をするだけ無駄だわ。
 早々にそう結論づけ、メアリーは「私、もう寝ます」と言って寝台の端に移動しようとした。
 が、シリルは空になったコップをサイドテーブルの上に置いたかと思うと、メアリーの手首を力強く掴んでくる。
 今度はなんなのだろうか。

「寝られるわけがないことくらい……わかってるよな?」

 目を丸くするメアリーに対し、彼は熱のこもった瞳を向けていた。
 背筋に冷たいものが走る。
 ……まさか、まさか。
 メアリーは身を震わせた。
 抵抗する間もなく寝台に押し倒され、シリルがメアリーの上に覆いかぶさってくる。

(白い結婚になるって、思ってたのに……!)

 なのに、ふたを開けてみれば現実はこうだ。

「一体、なんのつもりですか」

 メアリーはそう言って、シリルをにらみつける。
 彼は羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。

「結婚初夜だぞ。やることなんてひとつだ」

 その答えを聞きながら、メアリーはもがく。だが、鍛え上げられたシリルの身体に組み伏せられて、抜け出すことは叶わない。

「それに……お前だって、やる気なんだろう?」

 その瞬間、メアリーの顔にカッと熱が集まった。
 けれど必死で首を横に振る。そんなつもりなど一切ないのだ主張するように。
 シリルはそんなメアリーのことを見下ろしながら、にやりと笑った。

「挙式の前、あれほど物欲しそうな顔をしておいて」

 メアリーをあおるようにシリルがそう続ける。
 挙式の前のことは、メアリーにとってすでに忘れがたく、忌々いまいましい記憶となっていた。
 大嫌いな男に感じさせられたなど、絶対に認めてはならないことだ。
 メアリーはシリルに動きを封じられながらも、真っ赤な瞳で彼をにらみ続ける。

「はじめるぞ」

 だがシリルはそんなメアリーの視線を気にも留めず、ナイトドレスのボタンをゆっくりと外しはじめた。

(私、このまま抱かれるの……?)

 シリルの手がナイトドレスのボタンをひとつ、またひとつと外していく。
 そのたびに、メアリーの心臓の音がドクンと高鳴る。
 こんなことになるなんて思ってもみなかった。
 そもそも、シリルだってメアリーのことを嫌っているはずなのだ。こんな忌々いまいましい女など、抱きたいはずがないだろうに。

「やめて……! あなただって、本気でこんなことしたいわけじゃ、ないでしょう……?」

 この男に抱かれるのだと考えたら、恐怖が頭と心を支配した。
 なのに、それと同時に身体のうずきが強くなる。
 挙式の前、強引に快感を引き出されたあの行為。あの続きをされてしまったら――恐ろしいような、けれどどこか期待するような気持ちが芽生えて、消えてくれない。

「なにを言っているんだ。このままなにもせずに寝たら、使用人が不審がるだろう」

 シリルの言葉は正しい。
 だが、メアリーはまだ覚悟が決まっていない。泣き出しそうになるのをこらえて、ゆるゆると首を横に振る。
 それを、彼はどう受け取ったのだろうか。強情な女と気を悪くしたのか、はたまたメアリーの弱点を見つけたと心の中でほくそ笑んでいるのか。
 その心中はわからないが、メアリーの目の前にいる彼は嬉しそうに口元をゆがめていた。

「縛られたくなかったら、大人しくしていろ」
「し、しばっ……!?」
「いい子にしていたら……気持ちよくしてやるから」

 耳元でささやかれ、メアリーの抵抗が一瞬ゆるむ。
 その隙を狙ったかのように、シリルはメアリーのナイトドレスの前をはだけさせた。
 彼のその目が、視線が、怖い。
 メアリーの顔がさらに熱くなる。恥ずかしさに顔を背けていると、彼は「相変わらず、大きいな」とこぼした。

「嫌なら、見ないでよっ……!」

 絞りだすように言いながら、メアリーはキッと強くシリルをにらんだ。
 もう、やめてくれればいいのに――そんな期待をこめたものの、彼は「嫌なわけがない」と言うが早いか、メアリーの豊満なふくらみに触れた。

「ひぃっ!」

 シリルの大きな手でやわやわと胸を揉まれると、背筋にぞくぞくしたなにかが走る。
 うずいていた官能がまた主張をはじめ、身体の奥からなにかが溢れ出しそうだ。

「ぁ、あっ!」

 こんな感覚は知らない。恐ろしい。
 メアリーは必死に耐えようとするが、柔らかく胸をいじるシリルの手つきがあまりにもいやらしくて、結局声を上げてしまう。

「昼間のあの程度じゃ、満足できなかっただろう? ……もどかしかったよな」

 シリルの低い声が誘うようにささやく。メアリーはぐっと息を呑んだ。
 実際、あの行為をされてから、式の最中すらも、余計なことしか考えられなかった。シリルに与えられた中途半端な快感がずっと、身体の中にくすぶりつづけていたから。
 けれどその張本人であるシリルにこうして言葉にされるのは屈辱的だった。

「あれくらいで、感じるわけない……っ!」

 メアリーは気丈にも強がりを続けた。しかし、それは間違った選択だったらしい。
 シリルが「へぇ」と声のトーンを落とし、口端をゆがめた。

「あれくらいじゃ感じないか。……当然だよな。み嫌ってきた男に簡単に感じさせられるほど、安い女じゃないよな、お前は」

 そう言ったシリルの瞳が強い欲をはらんでいるような気がして、メアリーはまた息を呑んだ。

「じゃあ、俺の手でもしっかり感じるくらい、激しくしてやらなきゃな」

 そう呟くやいなや、シリルはメアリーの胸を覆っていた手を滑らせ、胸の頂に触れた。
 その瞬間、メアリーの身体に強い快感が走った。

(な、なに、これ……!)

 思わず身体が震える。こんなに感じるなんて、おかしい。でも、気持ちいい。
 強すぎる感覚に耐えながら、メアリーはシリルをにらみつける。
 だが彼は楽しそうに「もっと欲しいだろ?」と言って、指の先でそこを入念に攻め立ててきた。

「ひっ、や、やめ、やめて……!」

 必死に抗議の声を上げるものの、シリルは気にも留めない。
 彼はこの行為を楽しむように、メアリーの胸の頂をいじりまわしている。
 大嫌いな男に組み敷かれ、身体を好き勝手に暴かれる。
 それはメアリーにとって屈辱でしかなかった。
 挙式前にされたよりもずっと激しく、恐ろしくて、メアリーは喉を鳴らしながらもシリルをにらむのをやめない。

「ははっ、怖い怖い」

 しかし、シリルはメアリーをあおるような言葉ばかりを口にする。
 どうあがいても彼にはかなわないと思い知らされるようで、メアリーは表情をゆがめた。
 シリルは変わらず、そんなメアリーのことを気にする素振りも見せない。
 メアリーの胸の頂をいじり、胸のふくらみに手をわせるだけだ。
 シリルに、乱されている。
 メアリーはそれが許せなかった。
 脚をばたつかせて抵抗しようとするも、彼はものともしない。

(こ、この男……!)

 内心で悪態をつきながらも、メアリーは嬌声きょうせいだけは上げてなるものかと唇を結んだ。
 下唇をかみしめ、ぐっと声をこらえる。
 けれど、それを決壊させるかのようにシリルはメアリーの胸の頂をきゅっとつまんだ。
 それから指の腹でぐりぐりと刺激され、爪を立てられれば、メアリーの我慢などあっさり壊れた。

「ひ、ああっ!」

 身体中が、熱い。
 身体の中でくすぶっていた官能がむくむくとふくれ上がり、身体の奥からなにかが溢れだしてくる。
 それが怖くて、恐ろしくて、自分が自分ではなくなってしまうようで、思わずシリルから顔を逸らした。

「よそ見をするな」

 だが、それがシリルの気に障ったらしい。
 彼はもう片方の手でメアリーの顎を掴み、なかば無理やり自身と視線を合わせさせる。
 その茶色の目は、完全に欲情していた。欲をはらんだ目がメアリーを射貫いぬく。

「ぁ」

 もう、拒絶の言葉も出なかった。
 言葉にならない小さな声を漏らすと、彼はなにを思ったのかメアリーの唇に口づけを落とした。
 うっすらと開いた唇に舌を差しこみ、メアリーの口内をめ上げる。

「んんっ! んんぅ」

 舌を吸われ、絡めとられ、すべて奪われるような激しい口づけだった。
 くちゅくちゅという水音が耳を犯す。顔が熱くなっていく。きっともう真っ赤になっているだろう。
 シリルは容赦ようしゃなくメアリーの口内を蹂躙じゅうりんし続ける。
 注がれる唾液でおぼれそうになり、メアリーは喉を鳴らしてシリルの唾液を飲みこんだ。不快で仕方がなかったが、死ぬよりはマシだと自分自身に言い聞かせる。
 それからしばらくして、シリルはようやく満足したのかメアリーの唇を解放した。
 メアリーは必死に肩を揺らして呼吸を整える。
 潤んだ目で、ぼんやりとシリルを見つめる。
 彼が自身の唇を舌でめる姿に、なぜか身体がまた熱を帯びた。

(……こんな、の)

 こんなの、嫌だ。
 そう思うのに、身体は熱くて熱くて仕方がない。
 こんなことになるなんて。
 メアリーは自身を見下ろすシリルと視線を合わせた。

「……どうした」

 彼はメアリーのことを見下ろしながら問いかける。

「……本当に、抱くのね」

 メアリーは、自分に言い聞かせるように静かに言葉を発した。

「当たり前だ」

 シリルは淡々と答える。

「安くないわよ」

 目を逸らすことなく、メアリーはりんとした声で告げた。

「私の身体。あなたなんかに抱かれて喜ぶほど、安くはないわ」

 本当は、身体の奥が熱くて熱くてたまらない。一刻も早くこの熱をしずめてほしいと思っている。
 けれど、そんなことを口に出すのはメアリーの矜持きょうじが許されない。

「そうか」

 シリルは、それしか言わなかった。
 メアリーのことを見下ろす目が細くなる。口元はゆっくりとゆがみ、やたらと色気をかもし出していた。
 メアリーの心臓が大きく高鳴る。

「けど、俺たちは夫婦になったんだ。……あきらめるんだな」

 シリルの言う通りだ。
 どれだけ抵抗しようと、拒絶しようと、この結婚を覆すことはできない。
 それでも宿敵とも呼べるこの男に抱かれるのを、この男に与えられる快楽を、受け入れているのだとは思われたくなかった。

「……そうね」

 メアリーは一度だけ息を吐いて「早くしなさい」とあきらめたような声で告げた。

「さっさとこの忌々いまいましい行為を終わらせるわよ」

 目を閉じて、メアリーはシリルにそんな言葉を投げつける。
 どうせ義務でしかない行為だ。かなり痛いだろうが、余計なことはせず、さっさとれて終わりにしてほしい。
 そんな意味をこめての言葉だったが、彼はぼそりと「忌々いまいましい、か」とこぼした。
 そしてシリルはメアリーに顔を近づけ――今度は、触れるだけの口づけを落とす。

「俺は、忌々いまいましいなんて思っていない」

 その言葉の意味を、メアリーはすぐには理解できなかった。

「……どういうつもり?」

 少なくとも、メアリーはこの行為を望んではいない。
 シリルの言葉に混乱したものの、不意にある考えに思い当たり、露骨ろこつに顔をゆがめた。

「……そう。私のことを組み敷いて、優越感にでもひたっているってわけね」

 吐き捨てるように言うと、彼は図星を突かれたのか、眉間にしわを寄せて黙りこんだ。
 ……どうやら、それが全てらしい。
 メアリーはシリルからプイッと顔を背ける。

「そう思いたいならそれでいい。……俺に任せろ、気持ちよくしてやる」

 なんとまぁ、上から目線な言葉だろうか。
 そんなことを思いながらメアリーが軽く唇を噛んでいると、シリルの手がメアリーの下着に触れた。
 左右をひもでくくっただけの下着は、ひもをほどけばあっけなくその意味をなくしてしまうなんとも心許こころもとない代物だった。
 侍女が変な気を利かせて用意したのだ。こんなものは、メアリーの趣味ではない。

「へぇ、こんなものをつけているのか」

 興味深そうにシリルがメアリーの下着のひもを指でいじる。
 メアリーは気まずそうに顔を逸らし、「いつもじゃないわよ!」と返した。
 その反応にシリルは、「くくっ」と喉を鳴らすと、するりと下着のひもをほどいてしまった。

「それじゃあ、これからはずっとこういうのな」
「……は?」

 彼は今、なんと言っただろうか?
 下着のひもをほどかれたことよりも、彼の言葉に混乱しているメアリーに気がついたのだろうか。
 彼はもう片方のひももほどきながら、「これから毎晩、こういう下着をつけろ」と傲慢ごうまんにも言ってのけた。

「どうして、あなたにそんなことを命令されなくちゃいけないのよ」

 眉根を寄せながらシリルに言い返す。
 彼は「脱がせやすいからに決まってるだろ」と当然のように返してきた。
 それはまさか、つまり。

「今夜だけじゃ、ないってこと……?」

 メアリーはシリルに震える声で問いかけた。
 ほおが引きるのが、自分でもわかる。
 その問いかけを聞いたシリルは、なにを言っているんだとばかりに呆れたような視線をメアリーに注ぐ。

「言っただろう? 俺たちは夫婦になったんだ、ってな」

 皮肉っぽく言われ、メアリーの頭に血が上っていく。

(ありえない……!)

 今夜を乗り切れば、それで終わると思っていたのに。
 明日からもこの男に抱かれ続けなくてはならないのか。
 シリルの下で乱れる自分の姿を想像するだけで、怒りと羞恥しゅうちで全身が熱くなる。
 メアリーが唇を噛んでいるうちに、気づけば彼は下着を取り払っていた。
 冷たい空気にさらされた秘所を、シリルの手が撫でる。
 いやらしく、下心のこもったような手つきで。

「嫌々言いながらも、感じていたんだな」

 からかうように言われて、目を覆いたくなった。
 確かに、そこはほんのりとだが濡れている。
 それはメアリーだって自覚している。だが、そんなものはただの生理現象だ。

「……仕方ないでしょう」

 視線を逸らしながら、可愛げもなくそう答える。
 先ほどからいやらしく秘所を撫でていた彼の手が、メアリーの蜜口に添えられた。そのまま指を浅く押しこんでくる。
 指の質量だけ溢れた蜜が、シリルの指を濡らす。

「ひぅっ!」


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