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1巻
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なんといっても、両家の仲は最悪を通り越しているのだから。
「メアリー。本当に、本当によろしいの?」
母が震える声で問いかける。
メアリーは目を伏せて、本日何度目だかわからない言葉を返した。
「問題ありません。私とて貴族の娘ですから。それにフローレンスをコナハン家にはやれませんわ」
すると母はまた泣き出して、うわごとのように「なんと優しいのでしょうか……!」と繰り返している。
……この状態で、挙式は平穏に行われるのだろうか?
一抹の不安がメアリーの胸をよぎった。
「あなたにはあなたの人生があったというのに……」
その言葉に、メアリーの胸が痛む。
(そう。本来ならエディ様と結婚して、私はフォレスター家を継ぐはずだった)
そのために、向いていない騎士の訓練にも耐えたし、次期当主として勉学にも必死に励んできた。エディだって、そんなメアリーを支えようとしてくれていた。
全部台無しになったのは――素直に悔しい。
(でもダメよ。フローレンスのためだもの)
そう思い直し、メアリーは自身の頬を軽くたたく。
フローレンスはメアリーにとってたったひとりの最愛の妹。
小さなころから病気がちだった彼女は、メアリーのことをたいそう慕ってくれた。
『ねぇねぇ、お姉様。私、お姉様のお話がもっと聞きたいわ』
ニコニコと笑って、フローレンスはよくそう言ってくれた。
身体が弱く、なかなか寝台を出られない彼女に外の世界の話を聞かせるのは、ずっとメアリーの役割だった。
彼女はメアリーの話がよっぽど面白いのか、はたまたひとり寝台にいるのが寂しかったのか。いつもメアリーの後をついてまわり、いないとわかれば泣きじゃくった。
そんな妹を、メアリーは心底可愛いがっていた。
寂しがり屋で甘えん坊な妹。
当時両親が忙しく屋敷を空けがちにしていたのも、彼女がメアリーになついた要因だろう。
フローレンスにとって、メアリーは一番自分のことを理解してくれる、一番身近な存在だったのだ。もちろん、その逆もしかり。
(だけど、あのときは困ったわね)
◇◇◇
メアリーが西部の騎士団に所属したばかりのころ。
メアリーと一緒にいる時間が減ったからか、フローレンスはさらに寝こむようになった。
かといって、騎士の仕事に穴を空けるわけにはいかない。妹を心配する気持ちを押しとどめ、その日も当直に励もうとしたのだけれど……
「メアリーお嬢様!」
夜の七時。夕食を終え、騎士団の宿舎で当直の準備をしていたメアリーのもとに、フォレスター家の使用人が駆けてきたのだ。驚いたメアリーが話を聞くと、フローレンスが薬を飲まないと駄々をこねているということだった。
「それで、その……メアリーお嬢様がお見舞いに来てくださったら飲む、とおっしゃって」
彼は申し訳なさそうに眉を下げた。
けれどメアリーはもう騎士団の人間だ。騎士となったからには、その役目以上に優先するべきことはない。
わかっている。わかっているのだけれど……
(フローレンスが心配だわ)
心が揺れた。
自分が騎士となったせいで、彼女は孤独になってしまった。だから、こんなことをしてでもメアリーとの時間を作りたがっているのだ。それを理解して、メアリーの心は痛んだ。
結局その日、先輩の女騎士に相談すると、彼女は快く当直を変わってくれた。
そしてメアリーは馬車に乗って妹のもとに駆けたのだ。
フローレンスの寝室に入ると、彼女は寝台の上で毛布にくるまっていた。サイドテーブルには水差しと薬が置いてあり、彼女が本当に薬を飲んでいなかったのだと悟る。
「こら、フローレンス。わがままを言ってはダメじゃない」
いろいろと投げかけたい言葉を呑みこんで、メアリーはおどけた様子でそう言った。
すると彼女は、嬉しそうにメアリーに抱きついた。
「お姉様。……私、お姉様がいないと寂しいわ」
フローレンスは嬉しそうにメアリーに頬を寄せる。
……メアリーだって、フローレンスとの時間は大切にしたい。
だが、ずっとふたりきりではいられない。メアリーには騎士としての役目があるし、フローレンスもずっとメアリーにつきっきりで世話をされるばかりではいけない。
たとえ姉妹でも、いずれ各々の人生を生きなければならないのだ。
(なんて、そんなことを今思っても仕方がないわ。この子はまだ子どもなんだもの。今のうちに精一杯甘えさせてあげなくちゃ)
メアリーは結局、どこまでも妹に甘かった。
「ふふっ、お姉様。私とずーっと一緒にいてねぇ……」
ぎゅっとしがみついてそう言ったフローレンスの声は、今でもメアリーの耳に残っている。
◇◇◇
そんな過去のことを振り払い、メアリーはもう一度母に向き直った。
「……こんなことを言ってはなんですが、お母様」
「どうしました?」
今日の挙式に、フローレンスは参加していない。
メアリーの結婚の話を聞いて、案の定寝こんでしまったのだ。
本当なら、彼女とも直接話をしたかったけれど。
「フローレンスのこと、どうかお願いしますね」
妹ももう十六歳。そろそろ結婚適齢期に突入する。
メアリーが嫁入りする以上、彼女がフォレスター家の跡取りとなるしかないのだ。婿は慎重に選ばなければならない。……まぁ、きっとエディになるのだろうけれど。
「……わかっています」
母は凛とした声で返事をくれた。
メアリーはほっと息をつく。
(私は最悪なかたちになっちゃったけれど、あの子には幸せな結婚をしてほしいもの)
寂しがり屋で甘えん坊で、ちょっぴりわがまま。でも、大切な妹。
彼女には幸せになってもらわないといけない。
メアリーがシリルとの結婚を決めたのは、彼女のためでもあるのだから。
心の中でそう呟き、メアリーは母の背中を撫でた。
純白のウェディングドレスを身にまとい、泣きじゃくる母の背中を撫でるメアリー。
この姿は、周囲の目にどう映るのだろう。さしずめ悲劇の花嫁といったところか。
そんな自虐的なことを考えながら、挙式までの時間を母と過ごすつもりだった。
「メアリー様」
しかし、扉の外から誰かがメアリーを呼んだ。
この声は、教会のシスターだ。一体なんの用だろうか。
「はい」
扉に向かって返事をする。
「シリル様がいらっしゃっています。挙式の前にメアリー様とご対面になりたいとのことでございます」
「……はぃ?」
シスターの言葉を聞いて、メアリーはすっとんきょうな声を上げた。
(……どうしてシリル様が?)
あちらもメアリーのことを好いてはいないはずである。
だからわざわざ訪ねてくることはないと高を括っていたというのに。意味がわからない。
「どうされますか?」
本当のところ、会いたくなどない。
だが、ここで会わないという選択肢はなかった。
会わなければ逃げたと受け取られるに違いないからだ。少なくとも、メアリーの知るシリルはそういう思考回路を持つ人物だ。
「……どうぞお通しください」
目をつむって、一度大きく呼吸をする。怒りから震える声を押さえてメアリーは静かに返事をした。
「かしこまりました」
返事を聞いたシスターは、控室の扉をゆっくり開いた。
そして顔を見せたのは――記憶にあるのとまったく同じ雰囲気を醸し出す、ひとりの男性。
「久しぶりだな、メアリー」
忌々しいその男――シリルはそう言って目を細めた。
シリル・コナハン。
メアリーにとってもっとも忌み嫌うべき存在。
肩よりも少し長い漆黒の髪と、鋭い茶色の目。背丈は高く、次期騎士団長に選ばれるだけあって体格はがっしりしている。
現在は挙式のため正装に身を包んでおり、どことなく気品さえ感じる。
いや、間違いなく彼は極上の男だった。彼のことを忌み嫌うメアリーですら、そのことは認めざるをえないほど、彼は美しく、魅力的だ。
……が、その目に宿った感情にメアリーが気づかないわけがない。
「お久しぶりでございます、シリル様。お顔を見られて大変嬉しく思いますわ」
湧き上がるさまざまな感情をぐっとこらえ、メアリーはドレスの裾をつまんで一礼した。
淑女たるもの、感情を表に出してはいけない。
幼少期からそう教えられてきたメアリーは、ふつふつと煮えたぎる怒りを必死におさえこむ。
「心にもないことを言うな。本当は俺と会いたくなかったくせに」
なのにシリルはメアリーの我慢を尻目に、けらけらと笑いながらそんな言葉を投げつけてきた。
メアリーの眉間にしわが寄る。
それを見てまた笑いだすのだから、彼はいけ好かないのだ。
(最悪だわ。こんな人と永遠の愛を誓うなんて、絶対に嫌なのに……)
心の中でそう呟きつつも、メアリーはにっこり笑うふりをした。
隣では母がシリルを強くにらみつけている。だが、シリルはそんな彼女をいないものとして扱うように、メアリーに向かって歩を進めてきた。
そして、メアリーの耳元に唇を寄せる。メアリーの耳につけられた耳飾りが揺れた。
「ふたりだけで話がある。邪魔者にはご退席願いたい」
シリルはなんでもない風にそう告げるが、対するメアリーの頭の中は一瞬真っ赤に染まったような気がした。
それでも、今はシリルに従うべきだとわかる。ここに母を同席させていれば、どんなトラブルに発展するかわからない。
「……お母様。少し席を外していただけますか?」
安心させるように、メアリーは母に笑いかける。
けれど母は「……でも」と眉を下げるだけだ。
メアリーだって、好きで母を追い出すわけではない。シリルの狙いがわからない以上、母をそばに置いたままでは危険だと考えたのだ。
「大丈夫ですお母様。シリル様とて、妻となる相手に乱暴なことはしないでしょうから」
ためらう母に、メアリーはそう続けた。
母はようやく立ち上がり、そのままゆっくり控室を出ていこうとする。最後にメアリーのほうを振り返ると、「すぐ外にいますから」と告げた。
「……お母様」
メアリーを案じ続ける母の様子に感謝と、それから申し訳なさがこみあげてくる。そんなメアリーの耳に聞こえてきたのは、相変わらず不快な笑い声。
視線だけをシリルに向けると、彼はさもおかしいとばかりにメアリーを見て笑っていた。
「なにがおかしいのですか」
シリルをにらみつけ、メアリーはそう彼に問う。
彼は一歩前に踏み出し、メアリーに迫った。
「いや、愛されているなぁと思ってな」
シリルが近づいた分、メアリーは一歩あとずさる。
「フォレスター家のお前がコナハンの家に嫁ぐのは、いわば生贄のようなものだ」
「……そうですね」
「その役目、本当はお前の妹――フローレンスのものだったのにな」
シリルのその言葉に、メアリーの頭の中がさらに真っ赤に染まっていく。
シリルにだけは。彼にだけは、フローレンスのことに触れてほしくなかった。
フローレンスは、メアリーにとってなによりも大切な存在。忌々しい人の口から、彼女の名前を出してほしくない。
「シリル様。あなたがフローレンスのことをどう思っていらっしゃるかは知りません。だけど、あの子のことを軽々しく口にしないで――」
力強くにらみつけ、シリルに抗議しようとしたときだった。
不意にシリルの手が伸びて――メアリーの肩を後ろの壁に押しつける。その力は強く、メアリーの顔が驚きと痛みにゆがんだ。
「別に構わないさ、妹のほうに興味はないからな。結婚しろと言われたら従うしかなかったが……相手がお前でよかった。お前もそうだろう?」
自身の唇を舐めながら、シリルは言う。
その仕草がやたらと艶めかしく、メアリーの視線を釘づけにした。
が、負けてはいられない。負けるわけにはいかない。
そんな意思をこめて、メアリーはまたシリルをにらみつける。
「なんのつもりです?」
ゆっくりと絞り出した言葉に、シリルは反応しない。
ただメアリーの身体を頭の先からつま先まで舐めまわすように見るだけだ。
その視線がとても恐ろしく感じて、メアリーは息を呑む。
「……いや、別に」
ひと通り見まわして満足したのか、彼はようやくメアリーと視線を合わせた。
彼の茶色の瞳に宿る感情が一体なんなのか、メアリーにはわからない。
だが、メアリーの赤い瞳に宿る感情は『嫌悪』だ。それだけはわかる。
そして自分の身体を壁に押しつけるシリルに「放して」と告げようとした瞬間――彼の手が、メアリーに顔にかかったヴェールを払いのけた。
(んんっ!?)
メアリーの唇になにかが触れる。
口づけられているのだと理解したのは、それから数秒後のこと。
(な、な、なにを……!)
目を思いきり見開くと、シリルの整った顔が視界に入る。
――どうして、自分は彼に口づけられているのか。
メアリーは抗議しようとうっすら唇を開く。しかし、それを狙ったかのようにシリルの舌が口内に侵入してきた。
「んんっ!」
シリルの舌はメアリーの口内を蹂躙するかのように動きまわる。
舌を吸われ、歯列をなぞられる。そのまま頬の内側を舐められると、足に力が入らなくなる。
(な、なに、なに、これ……!)
口づけられている。それはわかっている。
なのに、これはなんと言い表せばいいのだろう。
身体の奥がゾクゾクとするような。なにかが身体の奥から這い上がってくるような。
そんな不思議な感覚だった。
踏ん張っていたものの、ついに身体から力が抜けてしまった。メアリーはその場に崩れ落ちそうになるが、シリルがそれを寸前で受け止めた。
「なにするのよ!」
メアリーは彼を強くにらみつける。受け止めてくれたことは感謝するが、その原因を作ったのはほかでもないシリルなのだ。
きっとメアリーの目はうるんでいて、にらんでも大した迫力はないだろう。けれど、そうしないという選択肢はなかった。
「なにって、ただの口づけだよ」
そんなメアリーをよそに、シリルは余裕の表情で告げた。
その目は挑発するようにメアリーを見つめている。気に食わない。
「どうせこの後するんだ。今したところで変わりはないだろう」
「か、変わるわよ……!」
シリルの顔を見上げながら、メアリーは抗議を続ける。
メアリーにとって、はじめての口づけだった。
それをこの忌々しい男に奪われたなど、一生の恥。まぁ、このあと神様の前で口づけをするので、遅かれ早かれ奪うのはシリルなのだが。
「……もしかして、はじめてだったのか?」
シリルは珍しく驚いたように目を見開くと、片手でメアリーの腰を抱き、もう片方の手でメアリーの顎を掴む。
無理やり彼と視線を合わせられ、メアリーの怒りがまたふつふつと煮えたぎっていく。だが、抵抗する術はない。
フォレスター伯爵家の令嬢として、女騎士として、ある程度の武術は身につけてきた。しかし相手は次期騎士団長として選ばれるほどの実力の持ち主で、片や自分は動きづらいウェディングドレス姿。どうあがいても勝ち目はない。
「図星か」
なにも言わないメアリーに、シリルはどこか嬉しそうに笑みを浮かべて言った。
からかわれている――それを自覚して、メアリーの顔に熱が溜まっていく。
その表情を見て、シリルはメアリーに自身の顔をぐっと近づける。
「残念だったな。相手が俺で」
まさに挑発という言葉が似合いそうな、そんな言葉だった。
「放してっ!」
メアリーはシリルの腕の中でもがいた。
だが力の差は歴然で、逃げることは叶わない。
それどころか、もう一度肩を掴まれて壁に押しつけられる。
「な、なにするのよっ!」
「確認だよ。こっちもはじめてなのかと思ってな」
メアリーの精一杯の抵抗も、シリルに通用している気配はない。
そして彼は、自身の膝をメアリーの脚の間に差しこんだ。
……嫌な予感が、する。
「ひゃぁあっ!」
シリルがドレスの上からメアリーの秘所に膝を押しつける。
ドレスの布地は薄く、直接刺激が伝わるようだった。
(いや、いやぁあ……!)
身体が熱く火照り、なんともいえない感覚がぞわぞわと這い上がる。
「いやぁ、やめて……!」
もうすぐ挙式を控えているのだ。こんな風に戯れている場合ではない。
シリルをにらみつけるも、彼がメアリーの気持ちを気に留める様子はない。相変わらずメアリーの弱いところを責めてくるだけだ。
「ひ、ぃ、いぁあっ!」
立っているだけで、身体がおかしくなりそうだった。
メアリーの口からは悲鳴が漏れ、思わずシリルの肩にすがった。
必死に刺激から逃れようと、身をよじることしかできない。
「は、放して! お願い、だからぁ……!」
相手がシリルであるということも忘れ、懇願した。
唇を奪われただけでなく、こんな風に感じさせられるなんて。
「ぁ、んっ……んぅ」
せめて声を出さないようにと、シリルの肩に顔を押しつける。
「そんな可愛いことして、ねだってるのか? それなら、ほら――」
グリグリと膝を動かされ、メアリーの身体にひときわ大きな快感が走る。
あと少しで――そう思ったときだった。
「シリル様、メアリー様。そろそろお時間でございます」
控室の扉がノックされ、シスターがそう声をかけてくる。
シリルは露骨に舌打ちをし、メアリーの身体を解放した。メアリーはその場に崩れ落ちる。
身体の内側を焦がすような熱が、行き場をなくしてくすぶる。
その感覚が恐ろしくて、怖くて。メアリーはつい涙をこぼした。
「先に行くから、しっかり涙を拭いてから来い……そんな顔、他の連中に見せるなよ」
なのに、シリルときたらこの態度だ。
いつものように傲慢に、さっさと歩いていってしまう。
メアリーは慌てて乱れたドレスとヴェールを直し、涙を拭いてシリルの後に続く。
身体の中でくすぶる快楽には、気がつかないふりをして。
◇◇◇
「はぁ……」
披露宴を終え、湯あみと着替えを済ませたメアリーは夫婦の寝室にいた。
そして巨大な寝台に横になる。
ここはコナハン家の領地にある別邸だ。
新婚夫婦のために建てた新居なのだという。
だが、メアリーはその裏にある意図に気がついていた。
(私の顔も見たくないということね)
コナハン家の当主夫妻は、メアリーと顔を合わせたくないのだ。
実際、挙式の際も彼らはメアリーに見向きもしなかった。まぁ、フォレスター家側も同じような状態だったので、特別嫌な感情を抱くことはない。
(あの状況でトラブルが起きなかったのは幸いね)
挙式でも、披露宴でも、自分がコナハン家に歓迎されていないのは明確だった。親族へのあいさつすら最低限で済ませた。それでも、メアリーは納得していた。シリルと腕を組んであいさつにまわるのは、メアリーからすればとても屈辱的なことだったのだ。
その時間が少しでも減るのなら、願ったり叶ったりである。
披露宴を終えたあと、侍女たちに身体を洗われて、真新しいナイトドレスを身にまとわされた。
今日は初夜。
それはわかっている。
わかっているのだけれど……本当に、本当に抱かれてしまうのだろうか。
あの、シリルに。
(……あんなこと)
挙式の前に行われた戯れのせいで、身体の火照りがまだ続いている。
「ダメよ。ダメ。こんなことじゃ……」
メアリーは首を横に振った。
「メアリー。本当に、本当によろしいの?」
母が震える声で問いかける。
メアリーは目を伏せて、本日何度目だかわからない言葉を返した。
「問題ありません。私とて貴族の娘ですから。それにフローレンスをコナハン家にはやれませんわ」
すると母はまた泣き出して、うわごとのように「なんと優しいのでしょうか……!」と繰り返している。
……この状態で、挙式は平穏に行われるのだろうか?
一抹の不安がメアリーの胸をよぎった。
「あなたにはあなたの人生があったというのに……」
その言葉に、メアリーの胸が痛む。
(そう。本来ならエディ様と結婚して、私はフォレスター家を継ぐはずだった)
そのために、向いていない騎士の訓練にも耐えたし、次期当主として勉学にも必死に励んできた。エディだって、そんなメアリーを支えようとしてくれていた。
全部台無しになったのは――素直に悔しい。
(でもダメよ。フローレンスのためだもの)
そう思い直し、メアリーは自身の頬を軽くたたく。
フローレンスはメアリーにとってたったひとりの最愛の妹。
小さなころから病気がちだった彼女は、メアリーのことをたいそう慕ってくれた。
『ねぇねぇ、お姉様。私、お姉様のお話がもっと聞きたいわ』
ニコニコと笑って、フローレンスはよくそう言ってくれた。
身体が弱く、なかなか寝台を出られない彼女に外の世界の話を聞かせるのは、ずっとメアリーの役割だった。
彼女はメアリーの話がよっぽど面白いのか、はたまたひとり寝台にいるのが寂しかったのか。いつもメアリーの後をついてまわり、いないとわかれば泣きじゃくった。
そんな妹を、メアリーは心底可愛いがっていた。
寂しがり屋で甘えん坊な妹。
当時両親が忙しく屋敷を空けがちにしていたのも、彼女がメアリーになついた要因だろう。
フローレンスにとって、メアリーは一番自分のことを理解してくれる、一番身近な存在だったのだ。もちろん、その逆もしかり。
(だけど、あのときは困ったわね)
◇◇◇
メアリーが西部の騎士団に所属したばかりのころ。
メアリーと一緒にいる時間が減ったからか、フローレンスはさらに寝こむようになった。
かといって、騎士の仕事に穴を空けるわけにはいかない。妹を心配する気持ちを押しとどめ、その日も当直に励もうとしたのだけれど……
「メアリーお嬢様!」
夜の七時。夕食を終え、騎士団の宿舎で当直の準備をしていたメアリーのもとに、フォレスター家の使用人が駆けてきたのだ。驚いたメアリーが話を聞くと、フローレンスが薬を飲まないと駄々をこねているということだった。
「それで、その……メアリーお嬢様がお見舞いに来てくださったら飲む、とおっしゃって」
彼は申し訳なさそうに眉を下げた。
けれどメアリーはもう騎士団の人間だ。騎士となったからには、その役目以上に優先するべきことはない。
わかっている。わかっているのだけれど……
(フローレンスが心配だわ)
心が揺れた。
自分が騎士となったせいで、彼女は孤独になってしまった。だから、こんなことをしてでもメアリーとの時間を作りたがっているのだ。それを理解して、メアリーの心は痛んだ。
結局その日、先輩の女騎士に相談すると、彼女は快く当直を変わってくれた。
そしてメアリーは馬車に乗って妹のもとに駆けたのだ。
フローレンスの寝室に入ると、彼女は寝台の上で毛布にくるまっていた。サイドテーブルには水差しと薬が置いてあり、彼女が本当に薬を飲んでいなかったのだと悟る。
「こら、フローレンス。わがままを言ってはダメじゃない」
いろいろと投げかけたい言葉を呑みこんで、メアリーはおどけた様子でそう言った。
すると彼女は、嬉しそうにメアリーに抱きついた。
「お姉様。……私、お姉様がいないと寂しいわ」
フローレンスは嬉しそうにメアリーに頬を寄せる。
……メアリーだって、フローレンスとの時間は大切にしたい。
だが、ずっとふたりきりではいられない。メアリーには騎士としての役目があるし、フローレンスもずっとメアリーにつきっきりで世話をされるばかりではいけない。
たとえ姉妹でも、いずれ各々の人生を生きなければならないのだ。
(なんて、そんなことを今思っても仕方がないわ。この子はまだ子どもなんだもの。今のうちに精一杯甘えさせてあげなくちゃ)
メアリーは結局、どこまでも妹に甘かった。
「ふふっ、お姉様。私とずーっと一緒にいてねぇ……」
ぎゅっとしがみついてそう言ったフローレンスの声は、今でもメアリーの耳に残っている。
◇◇◇
そんな過去のことを振り払い、メアリーはもう一度母に向き直った。
「……こんなことを言ってはなんですが、お母様」
「どうしました?」
今日の挙式に、フローレンスは参加していない。
メアリーの結婚の話を聞いて、案の定寝こんでしまったのだ。
本当なら、彼女とも直接話をしたかったけれど。
「フローレンスのこと、どうかお願いしますね」
妹ももう十六歳。そろそろ結婚適齢期に突入する。
メアリーが嫁入りする以上、彼女がフォレスター家の跡取りとなるしかないのだ。婿は慎重に選ばなければならない。……まぁ、きっとエディになるのだろうけれど。
「……わかっています」
母は凛とした声で返事をくれた。
メアリーはほっと息をつく。
(私は最悪なかたちになっちゃったけれど、あの子には幸せな結婚をしてほしいもの)
寂しがり屋で甘えん坊で、ちょっぴりわがまま。でも、大切な妹。
彼女には幸せになってもらわないといけない。
メアリーがシリルとの結婚を決めたのは、彼女のためでもあるのだから。
心の中でそう呟き、メアリーは母の背中を撫でた。
純白のウェディングドレスを身にまとい、泣きじゃくる母の背中を撫でるメアリー。
この姿は、周囲の目にどう映るのだろう。さしずめ悲劇の花嫁といったところか。
そんな自虐的なことを考えながら、挙式までの時間を母と過ごすつもりだった。
「メアリー様」
しかし、扉の外から誰かがメアリーを呼んだ。
この声は、教会のシスターだ。一体なんの用だろうか。
「はい」
扉に向かって返事をする。
「シリル様がいらっしゃっています。挙式の前にメアリー様とご対面になりたいとのことでございます」
「……はぃ?」
シスターの言葉を聞いて、メアリーはすっとんきょうな声を上げた。
(……どうしてシリル様が?)
あちらもメアリーのことを好いてはいないはずである。
だからわざわざ訪ねてくることはないと高を括っていたというのに。意味がわからない。
「どうされますか?」
本当のところ、会いたくなどない。
だが、ここで会わないという選択肢はなかった。
会わなければ逃げたと受け取られるに違いないからだ。少なくとも、メアリーの知るシリルはそういう思考回路を持つ人物だ。
「……どうぞお通しください」
目をつむって、一度大きく呼吸をする。怒りから震える声を押さえてメアリーは静かに返事をした。
「かしこまりました」
返事を聞いたシスターは、控室の扉をゆっくり開いた。
そして顔を見せたのは――記憶にあるのとまったく同じ雰囲気を醸し出す、ひとりの男性。
「久しぶりだな、メアリー」
忌々しいその男――シリルはそう言って目を細めた。
シリル・コナハン。
メアリーにとってもっとも忌み嫌うべき存在。
肩よりも少し長い漆黒の髪と、鋭い茶色の目。背丈は高く、次期騎士団長に選ばれるだけあって体格はがっしりしている。
現在は挙式のため正装に身を包んでおり、どことなく気品さえ感じる。
いや、間違いなく彼は極上の男だった。彼のことを忌み嫌うメアリーですら、そのことは認めざるをえないほど、彼は美しく、魅力的だ。
……が、その目に宿った感情にメアリーが気づかないわけがない。
「お久しぶりでございます、シリル様。お顔を見られて大変嬉しく思いますわ」
湧き上がるさまざまな感情をぐっとこらえ、メアリーはドレスの裾をつまんで一礼した。
淑女たるもの、感情を表に出してはいけない。
幼少期からそう教えられてきたメアリーは、ふつふつと煮えたぎる怒りを必死におさえこむ。
「心にもないことを言うな。本当は俺と会いたくなかったくせに」
なのにシリルはメアリーの我慢を尻目に、けらけらと笑いながらそんな言葉を投げつけてきた。
メアリーの眉間にしわが寄る。
それを見てまた笑いだすのだから、彼はいけ好かないのだ。
(最悪だわ。こんな人と永遠の愛を誓うなんて、絶対に嫌なのに……)
心の中でそう呟きつつも、メアリーはにっこり笑うふりをした。
隣では母がシリルを強くにらみつけている。だが、シリルはそんな彼女をいないものとして扱うように、メアリーに向かって歩を進めてきた。
そして、メアリーの耳元に唇を寄せる。メアリーの耳につけられた耳飾りが揺れた。
「ふたりだけで話がある。邪魔者にはご退席願いたい」
シリルはなんでもない風にそう告げるが、対するメアリーの頭の中は一瞬真っ赤に染まったような気がした。
それでも、今はシリルに従うべきだとわかる。ここに母を同席させていれば、どんなトラブルに発展するかわからない。
「……お母様。少し席を外していただけますか?」
安心させるように、メアリーは母に笑いかける。
けれど母は「……でも」と眉を下げるだけだ。
メアリーだって、好きで母を追い出すわけではない。シリルの狙いがわからない以上、母をそばに置いたままでは危険だと考えたのだ。
「大丈夫ですお母様。シリル様とて、妻となる相手に乱暴なことはしないでしょうから」
ためらう母に、メアリーはそう続けた。
母はようやく立ち上がり、そのままゆっくり控室を出ていこうとする。最後にメアリーのほうを振り返ると、「すぐ外にいますから」と告げた。
「……お母様」
メアリーを案じ続ける母の様子に感謝と、それから申し訳なさがこみあげてくる。そんなメアリーの耳に聞こえてきたのは、相変わらず不快な笑い声。
視線だけをシリルに向けると、彼はさもおかしいとばかりにメアリーを見て笑っていた。
「なにがおかしいのですか」
シリルをにらみつけ、メアリーはそう彼に問う。
彼は一歩前に踏み出し、メアリーに迫った。
「いや、愛されているなぁと思ってな」
シリルが近づいた分、メアリーは一歩あとずさる。
「フォレスター家のお前がコナハンの家に嫁ぐのは、いわば生贄のようなものだ」
「……そうですね」
「その役目、本当はお前の妹――フローレンスのものだったのにな」
シリルのその言葉に、メアリーの頭の中がさらに真っ赤に染まっていく。
シリルにだけは。彼にだけは、フローレンスのことに触れてほしくなかった。
フローレンスは、メアリーにとってなによりも大切な存在。忌々しい人の口から、彼女の名前を出してほしくない。
「シリル様。あなたがフローレンスのことをどう思っていらっしゃるかは知りません。だけど、あの子のことを軽々しく口にしないで――」
力強くにらみつけ、シリルに抗議しようとしたときだった。
不意にシリルの手が伸びて――メアリーの肩を後ろの壁に押しつける。その力は強く、メアリーの顔が驚きと痛みにゆがんだ。
「別に構わないさ、妹のほうに興味はないからな。結婚しろと言われたら従うしかなかったが……相手がお前でよかった。お前もそうだろう?」
自身の唇を舐めながら、シリルは言う。
その仕草がやたらと艶めかしく、メアリーの視線を釘づけにした。
が、負けてはいられない。負けるわけにはいかない。
そんな意思をこめて、メアリーはまたシリルをにらみつける。
「なんのつもりです?」
ゆっくりと絞り出した言葉に、シリルは反応しない。
ただメアリーの身体を頭の先からつま先まで舐めまわすように見るだけだ。
その視線がとても恐ろしく感じて、メアリーは息を呑む。
「……いや、別に」
ひと通り見まわして満足したのか、彼はようやくメアリーと視線を合わせた。
彼の茶色の瞳に宿る感情が一体なんなのか、メアリーにはわからない。
だが、メアリーの赤い瞳に宿る感情は『嫌悪』だ。それだけはわかる。
そして自分の身体を壁に押しつけるシリルに「放して」と告げようとした瞬間――彼の手が、メアリーに顔にかかったヴェールを払いのけた。
(んんっ!?)
メアリーの唇になにかが触れる。
口づけられているのだと理解したのは、それから数秒後のこと。
(な、な、なにを……!)
目を思いきり見開くと、シリルの整った顔が視界に入る。
――どうして、自分は彼に口づけられているのか。
メアリーは抗議しようとうっすら唇を開く。しかし、それを狙ったかのようにシリルの舌が口内に侵入してきた。
「んんっ!」
シリルの舌はメアリーの口内を蹂躙するかのように動きまわる。
舌を吸われ、歯列をなぞられる。そのまま頬の内側を舐められると、足に力が入らなくなる。
(な、なに、なに、これ……!)
口づけられている。それはわかっている。
なのに、これはなんと言い表せばいいのだろう。
身体の奥がゾクゾクとするような。なにかが身体の奥から這い上がってくるような。
そんな不思議な感覚だった。
踏ん張っていたものの、ついに身体から力が抜けてしまった。メアリーはその場に崩れ落ちそうになるが、シリルがそれを寸前で受け止めた。
「なにするのよ!」
メアリーは彼を強くにらみつける。受け止めてくれたことは感謝するが、その原因を作ったのはほかでもないシリルなのだ。
きっとメアリーの目はうるんでいて、にらんでも大した迫力はないだろう。けれど、そうしないという選択肢はなかった。
「なにって、ただの口づけだよ」
そんなメアリーをよそに、シリルは余裕の表情で告げた。
その目は挑発するようにメアリーを見つめている。気に食わない。
「どうせこの後するんだ。今したところで変わりはないだろう」
「か、変わるわよ……!」
シリルの顔を見上げながら、メアリーは抗議を続ける。
メアリーにとって、はじめての口づけだった。
それをこの忌々しい男に奪われたなど、一生の恥。まぁ、このあと神様の前で口づけをするので、遅かれ早かれ奪うのはシリルなのだが。
「……もしかして、はじめてだったのか?」
シリルは珍しく驚いたように目を見開くと、片手でメアリーの腰を抱き、もう片方の手でメアリーの顎を掴む。
無理やり彼と視線を合わせられ、メアリーの怒りがまたふつふつと煮えたぎっていく。だが、抵抗する術はない。
フォレスター伯爵家の令嬢として、女騎士として、ある程度の武術は身につけてきた。しかし相手は次期騎士団長として選ばれるほどの実力の持ち主で、片や自分は動きづらいウェディングドレス姿。どうあがいても勝ち目はない。
「図星か」
なにも言わないメアリーに、シリルはどこか嬉しそうに笑みを浮かべて言った。
からかわれている――それを自覚して、メアリーの顔に熱が溜まっていく。
その表情を見て、シリルはメアリーに自身の顔をぐっと近づける。
「残念だったな。相手が俺で」
まさに挑発という言葉が似合いそうな、そんな言葉だった。
「放してっ!」
メアリーはシリルの腕の中でもがいた。
だが力の差は歴然で、逃げることは叶わない。
それどころか、もう一度肩を掴まれて壁に押しつけられる。
「な、なにするのよっ!」
「確認だよ。こっちもはじめてなのかと思ってな」
メアリーの精一杯の抵抗も、シリルに通用している気配はない。
そして彼は、自身の膝をメアリーの脚の間に差しこんだ。
……嫌な予感が、する。
「ひゃぁあっ!」
シリルがドレスの上からメアリーの秘所に膝を押しつける。
ドレスの布地は薄く、直接刺激が伝わるようだった。
(いや、いやぁあ……!)
身体が熱く火照り、なんともいえない感覚がぞわぞわと這い上がる。
「いやぁ、やめて……!」
もうすぐ挙式を控えているのだ。こんな風に戯れている場合ではない。
シリルをにらみつけるも、彼がメアリーの気持ちを気に留める様子はない。相変わらずメアリーの弱いところを責めてくるだけだ。
「ひ、ぃ、いぁあっ!」
立っているだけで、身体がおかしくなりそうだった。
メアリーの口からは悲鳴が漏れ、思わずシリルの肩にすがった。
必死に刺激から逃れようと、身をよじることしかできない。
「は、放して! お願い、だからぁ……!」
相手がシリルであるということも忘れ、懇願した。
唇を奪われただけでなく、こんな風に感じさせられるなんて。
「ぁ、んっ……んぅ」
せめて声を出さないようにと、シリルの肩に顔を押しつける。
「そんな可愛いことして、ねだってるのか? それなら、ほら――」
グリグリと膝を動かされ、メアリーの身体にひときわ大きな快感が走る。
あと少しで――そう思ったときだった。
「シリル様、メアリー様。そろそろお時間でございます」
控室の扉がノックされ、シスターがそう声をかけてくる。
シリルは露骨に舌打ちをし、メアリーの身体を解放した。メアリーはその場に崩れ落ちる。
身体の内側を焦がすような熱が、行き場をなくしてくすぶる。
その感覚が恐ろしくて、怖くて。メアリーはつい涙をこぼした。
「先に行くから、しっかり涙を拭いてから来い……そんな顔、他の連中に見せるなよ」
なのに、シリルときたらこの態度だ。
いつものように傲慢に、さっさと歩いていってしまう。
メアリーは慌てて乱れたドレスとヴェールを直し、涙を拭いてシリルの後に続く。
身体の中でくすぶる快楽には、気がつかないふりをして。
◇◇◇
「はぁ……」
披露宴を終え、湯あみと着替えを済ませたメアリーは夫婦の寝室にいた。
そして巨大な寝台に横になる。
ここはコナハン家の領地にある別邸だ。
新婚夫婦のために建てた新居なのだという。
だが、メアリーはその裏にある意図に気がついていた。
(私の顔も見たくないということね)
コナハン家の当主夫妻は、メアリーと顔を合わせたくないのだ。
実際、挙式の際も彼らはメアリーに見向きもしなかった。まぁ、フォレスター家側も同じような状態だったので、特別嫌な感情を抱くことはない。
(あの状況でトラブルが起きなかったのは幸いね)
挙式でも、披露宴でも、自分がコナハン家に歓迎されていないのは明確だった。親族へのあいさつすら最低限で済ませた。それでも、メアリーは納得していた。シリルと腕を組んであいさつにまわるのは、メアリーからすればとても屈辱的なことだったのだ。
その時間が少しでも減るのなら、願ったり叶ったりである。
披露宴を終えたあと、侍女たちに身体を洗われて、真新しいナイトドレスを身にまとわされた。
今日は初夜。
それはわかっている。
わかっているのだけれど……本当に、本当に抱かれてしまうのだろうか。
あの、シリルに。
(……あんなこと)
挙式の前に行われた戯れのせいで、身体の火照りがまだ続いている。
「ダメよ。ダメ。こんなことじゃ……」
メアリーは首を横に振った。
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