【R18】臆病な新米女騎士はカタブツ部隊長の溺愛包囲網から逃げられません!

扇 レンナ

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第2章

合同任務 2

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 アリスがそう言おうと口を開けば、クリスタがびしっと指を指してくる。人を指さすのは行儀の悪いことだとわかっているが、アリスに指摘する元気はなかった。

「あぁ、もうっ! アリスはくよくよしすぎ! ネガティブだわ!」

 クリスタがわざとらしく大きな声でそう言うから、自然と肩が跳ねてしまった。

 そんなアリスを見つめて、クリスタはにんまりと唇の端を上げる。

「あなた、自分が思う以上に素晴らしい能力の持ち主だって、わかっているの?」

 さも当然のようにクリスタがそう告げてくる。……素晴らしい能力の持ち主。

(それは、団長からも言われたけれど……)

 パトリス曰く、アリスの魔力は割と特殊なものらしい。だからこそ、自分が無理強いをしてこちらに引き抜いたのだと、パトリスは言っていた。初めはそれを信じられなかったが、パトリスが嘘を言うとは思えない。そのため、信じるほかなかった。

「そう、それすなわち――あなたが選ばれる可能性も、十分あるということよ!」

 胸を張ったクリスタが、そんな宣言をした。その様子を見て、アリスは身を縮めた。クリスタの言葉が信じられないわけじゃない。ただ、やっぱり恐れ多いと思ってしまうのだ。

「で、でも、私なんか……」

 ゆるゆると首を横に振ってそう言うと、クリスタがずかずかとこちらに近づいてくる。そして、アリスの肩をぐっと掴んだ。

「いい? あなたには才能がある。合わせ、容姿も愛らしい。家柄だって、伯爵家なんでしょう?」
「……そ、それは」
「ブレント様と結婚できないわけじゃ、ないじゃない」

 ……侯爵家と伯爵家。身分的な問題で結婚できないわけではない、のだが。

(け、け、結婚!?)

 その言葉に、自然と頬に熱が溜まった。顔から火が出そうなほどに、恥ずかしくてたまらない。

「わ、私、そういうつもりじゃあ……」
「じゃあ、ブレント様がほかの女性を娶ってもいいと思ってるの?」
「……うぅ」

 それは、間違いなく嫌だ。ブレントの隣に自分じゃないほかの女性が並ぶなんて、想像しただけで胸が張り裂けそうなほどに辛い。

 だけど、アリスにこの気持ちを伝える勇気はない。そもそも、ブレントだってアリスのことなどもう忘れてしまっているだろう。

「あのね、アリス。……幸せって、自分で引き寄せないといけないのよ」
「……クリスタ」
「あなたは確かに臆病で人見知りで、あがり症かもしれない。けれど、それ以上に魅力的なのよ」

 まるで、小さな子供に言い聞かせるかのような言葉遣いだった。そう、まるで、姉が妹に言い聞かせるような――。

(……お姉様)

 ふと、姉のことが頭の中に浮かんだ。アリスのことをずっと気にかけてくれて、豪快に笑い飛ばしてくれた姉。

 ……姉は、いつも言ってくれていた。

 ――アリスのことをわかってくれる人が、現れるわ、と。

(それが、ブレント様なのかはわからない。だけど、私……ブレント様のこと、あきらめたくない)

 こんな感情になったのは、生まれて初めてだった。たった二度、助けてもらっただけで惚れてしまった。

 彼の美しい顔にも、その心地いい低音の声にも。そう、それに――彼の仕事熱心なところも、部下思いなところも。全部、全部――好ましく映ってしまう。

「私はあなたのことを応援しているわ。もしも誰かに文句を言われたら、私に言いなさい。叩きのめしてあげるわ」
「……そ、れは」

 なんだか、ちょっと大げさかもしれない。

 でも、なんだか心の中のもやもやが晴れたような気がした。

「……ありがとう、クリスタ」

 自然と、口がそう言葉を発する。クリスタは、アリスの言葉を聞いて笑っていた。

「ないだろうけれど、もしも選ばれたら……私、ブレント様と少しでも近づけるように、頑張るわ」

 今までずっと、臆病すぎるあまり、あきらめるほかなかった。怖くて、恐ろしくて。だけど、ブレントのことだけは……譲りたくないと、思ってしまう。

「えぇ、その意気よ、アリス。……さぁて、そろそろ食堂に行かない? お腹すいちゃったわ」
「……そうね」

 突然変わった話題に苦笑を浮かべつつ、アリスは立ち上がる。少し休憩すれば、身体はある程度動くようになっていた。
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