【R18】臆病な新米女騎士はカタブツ部隊長の溺愛包囲網から逃げられません!

扇 レンナ

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第1章

飲み会は苦痛です 3

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 彼女が若干興奮したように前のめりになりつつ、そう言う。

 その言葉を聞いた瞬間、アリスは顔から血の気が引くような感覚に襲われた。

(れ、れ、レッドメイン!?)

 レッドメイン侯爵家。その名前に、アリスはくらくらしてしまいそうになった。

 レッドメイン侯爵家は、国でも名門中の名門に名を連ねる貴族の一族だ。アリスのような人間では到底お近づきになれないような、雲の上の存在。……そんな彼に、二度も助けてもらったのか。

(そ、それに、部隊長って……そんなに、お偉い人だったの……!?)

 部隊長とは部隊の長。騎士団長と同等の権力を持っており、さらには第一部隊は超がつくエリート部隊……。

(頭がくらくらとしてきた……)

 そんな人物に不毛な恋心を抱こうとしていたのか……。

 それを思い出して、アリスは自分の浅はかさを恥じた。相手のこともよく知らずに、恋心など抱きかけるものではないな。これは、一種の教訓となった……ような気が、した。

「で、どういう風に助けてもらったのぉ~?」

 アリスの内情など知りもしない同僚は、ぐいぐいと顔を近づけてくる。彼女の手にはグラスが握られており、彼女も相当出来上がっているようだ。……酔っ払いのウザ絡みほど、面倒なものはない。

「い、いや、あの、ですね……」

 二度目はともかく、一度目のことは言えない。自分の恥を自ら晒すようなものなのだから。

 そう思いつつアリスが視線を彷徨わせていれば、同僚の頭に誰かが手を置いたのがわかった。

「こら、あんまり困らせてはダメよ」

 降ってきたのは、聞き心地のいい女性の声だった。

「そういう下世話なお話はやめておきなさい」

 彼女はそう言いつつ、アリスの隣に腰を下ろす。その際に、さらりとした明るい茶色の髪が見えた。その目は、美しい紫色だ。

「はぁい、団長~」

 同僚は、そう言ってニコニコと笑っていた。……どうやら、彼女は団長のようで……って。

(だ、団長!?)

 本日何度目になるかわからない驚きを抱きつつ、アリスは女性のほうを見つめる。グラスを持った彼女は、アリスと同僚のことを観察するように頬杖をついて、見つめている。

「あら、あなたさっきいなかったわね」
「……え、あ、はい」

 到底お手洗いに行って他部署の人に絡まれていました、なんて言えるような空気じゃない。

 なので、アリスは控えめに笑って頷く。

「私はパトリス。『ガーデン』で団長を務めているの。今後、よろしく」

 女性――パトリスは人のよさそうな笑みを浮かべて、アリスの頭を撫でてくれた。その触れ方が、なんだかむず痒い。

「え、えぇっと……アリス、です」

 とりあえず、名乗ってもらえたのだから名乗り返さないといけないだろう。それが、常識だから。

 そんな気持ちだけで自己紹介をすれば、パトリスは笑った。

「ふふっ、そんな緊張しなくてもいいのに。私はあなたの上司になるのだから」

 ふんわりと笑ったパトリスが、アリスのことをまっすぐに見つめてくる。何処となく大人の女性という雰囲気を持つ彼女の色気に、これまたくらくらしてしまいそうだ。……アリスは、女性だというのに。

「っていうか、団長~」
「どうしたの?」
「聞いてくださいよぉ。この子、ブレント様に助けていただいたんですって!」

 すっかり酔っ払いとなった同僚が、嬉々としてパトリスにそう言う。……そういうことは、自分の口から言うものじゃないのだろうか? 一瞬だけそう思ったが、言われてしまったものは仕方がない。

「あ~あ、私もブレント様とお近づきになりたいなぁ……!」

 同僚の彼女が、テーブルに突っ伏す。そんな姿見つめつつ、パトリスは笑っていた。

「そんな簡単なものじゃないわよ。それに、それがアリスの運命だったっていうだけだもの」
「……え」

 なんだか、意外な言葉がパトリスの口から出てきたような気がする。そう思ってアリスが目を瞬かせていれば、パトリスがこっちを見つめてきた。

 ……彼女の紫色の目は、まるで何もかもを見透かしているようだ。そう、アリスの中に芽生え始めた、不毛な恋心も……。

「まぁ、あの男は世にいうカタブツだけど。……気を付けたほうがいいのは、間違いないかもね」
「……えぇっと、どういう」
「え、それ聞いちゃう?」

 そこまで言ったパトリスが、グイッとグラスを口に運んで、ワインを飲む。

「そうねぇ……。ま、あなたみたいな純粋無垢な子は、ぺろりと食べられちゃうかも……っていうことよ、ね?」

 口元を緩めたパトリスが、そんな言葉を口にする。

 純粋無垢。ぺろりと食べられる。それ、すなわち――。

(って、ブレント様なのだから、そんなことはないわ……!)

 アリスが一体ブレントのなにを知っているのか。もしも冷静なアリスがいたら、そう突っ込んだだろう。

 けれど、生憎アリスもかなり酔っていた。だから、そう突っ込むような気力も起きなくて……。

 ただ、顔に熱を溜めることしか出来なかった。
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