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第1章
女騎士なんて絶対に無理です! 2
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「……キミは」
男性がアリスを見下ろしつつ、そう零す。その声は低く、聞いていてとても心地のいいものだった。こんなシチュエーションではなければ、もしくは声をかけられたのがアリスではなければ。彼の声を堪能したいと思うはずだ。
が、生憎今声をかけられているのはアリスであり、このシチュエーションである。堪能したいなど、到底思えない。
「……ひぇっ」
男性の美しい紫色の目が、細められる。決して好意的とは言えないオーラに、アリスが唇をわなわなと震わせる。
(怒らせて、しまったの……?)
ぎゅっと目を瞑って、アリスは男性が自分に興味を失うのを待とうとした。が、その男性がアリスの両肩を優しく叩く。
恐る恐る、目を開けた。
「確かに今後のことを考えると不安だろう。もちろん、俺も大丈夫だなんて軽々しく口には出来ない」
「……え」
「怪我だってあるだろうし、最悪の場合命を落とす」
それは、励ましにはならない。むしろ、その言葉で今すぐにでも引き返したくなった。
そう思いつつ、アリスは母が置いて行った荷物を引き寄せ、抱きしめる。男性は、アリスの青色の目をただまっすぐに見つめていた。
「だが、この仕事はそれ相応にやりがいのあるものだ。……胸を張れ。キミは、立派な騎士だ」
「……ぁ」
男性の手が、アリスの前髪に少しだけ触れた。その手は傷だらけであり、彼が相当鍛錬を積んでいるということがわかってしまう。
視線を男性に向ける。彼は、さらりとした漆黒色の髪の毛を風になびかせながら、アリスを見つめていた。
その目がとても美しくて、アリスはぼうっと見つめてしまう。まるで、彼の目に吸い込まれてしまいそうだと思った。
「あああああ、あの」
「……どうした?」
上ずったアリスの声に嫌な顔一つせずに、男性が微笑みかけてくれる。美しくも強面だった彼の顔は、笑うととても幼く見える。
「い、いえいえいえ、その、すみませんっ! なんていうか……その」
視線を彷徨わせて、アリスは言葉を探す。なんだろうか。情けないところを見られてしまったというか……。
「あぁ、気にするな。……毎年、こういう騎士見習いは一定数いる。……もちろん、大半は女性だがな」
「……そう、なのですか」
どうやら、男性にとってこれは当然のことをしただけらしかった。ほんの少しの落胆の感情が、アリスの心に芽生えた。
(って、どうして落胆するの? このお人は、私のことを励まして……励まして、くださったのよね?)
なんだか、やたらと物騒なことを言われたような気がする。
でも、男性の目を見ているとそんなこと頭の中から吹き飛んでしまって。アリスは、ぎゅっと唇を結んだ。
「わ、わわ、私、頑張りますっ……!」
母にも父にも告げられなかった決意。なのに、この男性にならば自然と言えた。
まっすぐに男性の目を見ていれば、彼がくすっと声を上げて笑う。……艶めかしく、色っぽい男性だという印象も、追加される。
「あぁ、それでいい。……もちろん、新米には出来ないことも多い。その場合は、遠慮なく上司を頼れ。……キミのところの団長は、きっと力になってくれるさ」
そこまで言った男性は、「立てるか?」と言ってアリスに手を差し伸べてくる。
恐れ多かったものの、アリスは彼の手を掴んで立ち上がる。重たい荷物を、片手に持った。
「じゃあ、俺は行く。今後のキミの武運を、祈っている」
なんだか戦にでも行くみたいだな。
内心でそう思うが、どうやら彼は真面目な人種らしかった。それがわかるからこそ、声を発さずにアリスは頷く。
(……なんて、かっこいい人なのかしら)
ぼうっとしつつ、彼の後ろ姿を眺める。彼はすたすたと歩きつつも、周囲を注意深く観察している。きっと、困っている人間がいないか見て回っているのだろう。
(……素敵、かも、しれない)
ふと頭の中に思い浮かんだ感情に、アリスはハッとする。今、自分はなんと思ったのだろうか?
そもそも、あんなにも素敵な人なのだ。恋人や妻くらい、いるだろうに……。
(えぇ、そうよ。私には恐れ多い人だわ)
うんうんと頷いて、一人で納得する。その後、鞄を持って寄宿舎に足を踏み入れる。
気持ちは、ここに来たときとは真逆なほどに、晴れ渡っていた。
男性がアリスを見下ろしつつ、そう零す。その声は低く、聞いていてとても心地のいいものだった。こんなシチュエーションではなければ、もしくは声をかけられたのがアリスではなければ。彼の声を堪能したいと思うはずだ。
が、生憎今声をかけられているのはアリスであり、このシチュエーションである。堪能したいなど、到底思えない。
「……ひぇっ」
男性の美しい紫色の目が、細められる。決して好意的とは言えないオーラに、アリスが唇をわなわなと震わせる。
(怒らせて、しまったの……?)
ぎゅっと目を瞑って、アリスは男性が自分に興味を失うのを待とうとした。が、その男性がアリスの両肩を優しく叩く。
恐る恐る、目を開けた。
「確かに今後のことを考えると不安だろう。もちろん、俺も大丈夫だなんて軽々しく口には出来ない」
「……え」
「怪我だってあるだろうし、最悪の場合命を落とす」
それは、励ましにはならない。むしろ、その言葉で今すぐにでも引き返したくなった。
そう思いつつ、アリスは母が置いて行った荷物を引き寄せ、抱きしめる。男性は、アリスの青色の目をただまっすぐに見つめていた。
「だが、この仕事はそれ相応にやりがいのあるものだ。……胸を張れ。キミは、立派な騎士だ」
「……ぁ」
男性の手が、アリスの前髪に少しだけ触れた。その手は傷だらけであり、彼が相当鍛錬を積んでいるということがわかってしまう。
視線を男性に向ける。彼は、さらりとした漆黒色の髪の毛を風になびかせながら、アリスを見つめていた。
その目がとても美しくて、アリスはぼうっと見つめてしまう。まるで、彼の目に吸い込まれてしまいそうだと思った。
「あああああ、あの」
「……どうした?」
上ずったアリスの声に嫌な顔一つせずに、男性が微笑みかけてくれる。美しくも強面だった彼の顔は、笑うととても幼く見える。
「い、いえいえいえ、その、すみませんっ! なんていうか……その」
視線を彷徨わせて、アリスは言葉を探す。なんだろうか。情けないところを見られてしまったというか……。
「あぁ、気にするな。……毎年、こういう騎士見習いは一定数いる。……もちろん、大半は女性だがな」
「……そう、なのですか」
どうやら、男性にとってこれは当然のことをしただけらしかった。ほんの少しの落胆の感情が、アリスの心に芽生えた。
(って、どうして落胆するの? このお人は、私のことを励まして……励まして、くださったのよね?)
なんだか、やたらと物騒なことを言われたような気がする。
でも、男性の目を見ているとそんなこと頭の中から吹き飛んでしまって。アリスは、ぎゅっと唇を結んだ。
「わ、わわ、私、頑張りますっ……!」
母にも父にも告げられなかった決意。なのに、この男性にならば自然と言えた。
まっすぐに男性の目を見ていれば、彼がくすっと声を上げて笑う。……艶めかしく、色っぽい男性だという印象も、追加される。
「あぁ、それでいい。……もちろん、新米には出来ないことも多い。その場合は、遠慮なく上司を頼れ。……キミのところの団長は、きっと力になってくれるさ」
そこまで言った男性は、「立てるか?」と言ってアリスに手を差し伸べてくる。
恐れ多かったものの、アリスは彼の手を掴んで立ち上がる。重たい荷物を、片手に持った。
「じゃあ、俺は行く。今後のキミの武運を、祈っている」
なんだか戦にでも行くみたいだな。
内心でそう思うが、どうやら彼は真面目な人種らしかった。それがわかるからこそ、声を発さずにアリスは頷く。
(……なんて、かっこいい人なのかしら)
ぼうっとしつつ、彼の後ろ姿を眺める。彼はすたすたと歩きつつも、周囲を注意深く観察している。きっと、困っている人間がいないか見て回っているのだろう。
(……素敵、かも、しれない)
ふと頭の中に思い浮かんだ感情に、アリスはハッとする。今、自分はなんと思ったのだろうか?
そもそも、あんなにも素敵な人なのだ。恋人や妻くらい、いるだろうに……。
(えぇ、そうよ。私には恐れ多い人だわ)
うんうんと頷いて、一人で納得する。その後、鞄を持って寄宿舎に足を踏み入れる。
気持ちは、ここに来たときとは真逆なほどに、晴れ渡っていた。
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