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本編

第55話 『狂気の男』 ②

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「あ、アラン様? アラン様が、見つかったのですか?」

 アラン様を、この場所に捕らえている。そのお言葉は、つまりアラン様が見つかったということですよね? 私がそう言う意味を込めて尋ねると、アイザイア様は笑顔で頷かれました。

「あぁ、昨日見つかったんだ。ルーサーにこっちに捕らえてもらっているんだけれどね。父上たちには、まだ報告していないんだ。……ちょっとだけ、話をしようかなぁって思ってさ」
「……お、お話……」

 つまりそれは私とアイザイア様と、アラン様の三人で、ということでしょうか? でも、だったらここでなくても……。それに、国王様に報告していないなんて。アラン様は今罪人として王国内で指名手配をされています。だからこそ、ここは早く国王様にお伝えした方が良いのではないでしょうか?

「あ、あの……国王様に、早くご報告された方が……」
「うん? そうだね。でも……やっぱり、ここは俺たちのけじめをつけた方が良いと思ってね。ルーサーに、頼んでおいたんだ」

 そうおっしゃると、アイザイア様とルーサーさんがアイコンタクトを取りました。ルーサーさんは、アイザイア様のお言葉を聞いて静かに頷きます。それにしても、どういうことなのでしょうか? 私たちのけじめって……。

「それにさぁ、ちょっと用があってレノーレ嬢もこっちに連れてきてもらっているんだ。……モニカも、一回きちんと話し合いたかっただろう?」
「……レノーレ様、も」

 まさか、レノーレ様もここに居らっしゃるの? けど、アイザイア様が嘘をつくわけがない。……しかし、どうして? そのことについての意味を私が考えていると、不意にアイザイア様の足が止まります。そして、近くにあったろうそくにルーサーさんが火を付けました。すると、地下牢が一気に明るくなります。しかも、その近くにある牢には――……。

「……アラン、さま」

 ほかでもない、アラン・ベアリング様がいらっしゃいました。こちらを強く睨みつけながら、ただ憎悪を込めた視線で私たちを見つめてくるアラン様。その視線に、胸が軽く痛みました。どうして、そんな視線を私たちに向けるの? 一瞬だけそう思ったけれど、こうなった原因は全て王家。それに、私はアラン様の憎むアイザイア様の婚約者。そんな視線を向けられるのも、ある意味当たり前なのだ。

「どうも、アラン・ベアリング。昨日ぶりだね。……今日は、モニカも連れて来たんだよ」
「……モニカ様」

 アラン様が、そんな声を上げられます。その声を聞かれたアイザイア様は、横抱きにしていた私のことを地面に降ろしてくださいました。だから、私はゆっくりとアラン様を見据えます。その目はどす黒く濁っているように見えて、何処か虚ろにも見えました。

「モニカ、あまり近づかないでね。悪魔に魂を売ったら、こういう風になるんだよ。……禁忌の魔法に手を染めるって、厳密に言えばこういう代償がある。そういうこと」

 アイザイア様が、私とアラン様の間に手を差し出します。それは、これ以上近づくなという意味、なのでしょう。どす黒く濁った目が怖くて、私はアラン様から視線を逸らしてしまいます。アラン様は、あの時の立派な衣装ではなく、ボロボロの服を身に纏っていました。……なんだか、落ちてしまった貴族のテンプレみたいな姿ですよね。そう思い、私は胸の前で手を握りしめてしまいます。

「……アラン・ベアリング。言いたいことは、ある? この後は王宮の騎士にお前のことを引き渡すけれど……ここで、言いたいことがあるんじゃないの?」

 アイザイア様が、刺々しい声音でそんなことをおっしゃる。私が、アイザイア様の方に視線を向ければ、アイザイア様は私の肩を抱き、自身の方に引き寄せられました。……この体温が、無性に安心する。私は、そう思ってしまいました。

「……モニカ様。僕は、本当に貴女が好きでした。手に入れるのならば……その一心で、禁忌の魔法にも手を染めて、アイザイア様の邪魔をして。それでも、手に入らなかった。……あぁ、今までの演技も努力もすべて無に返ったんですね。……ねぇ、モニカ様――」

 ――モニカ様は今、しあわせですか?

 そんなアラン様の声が、私の脳内に響き渡りました。その声が、震えていたように聞こえたのはきっと、気のせいではないのでしょうね。
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