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本編
第54話 『狂気の男』 ①
しおりを挟む「……あ、あの、アイザイア様? 一体、どちらに……?」
あのお茶会から、一週間の日が経ちました。その日、私はほかでもないアイザイア様に手を引かれ、何処かに連れて行かれそうになっていました。そりゃあ、アイザイア様のことですから、私のことを誘拐したりしないことくらいは、分かっています。それでも……行き先を教えてくださらないので、少々不安になってしまいました。
「多分、モニカが今気になっていることを教えてあげに行くんだよ」
アイザイア様は、私のお妃教育を王太子の権限でしばらく中止にされました。一体、どうして……と思ったのですが、アイザイア様曰く「アラン・ベアリングがいつモニカに接触してくるか分からないから」ということらしいです。それを聞いて、私は少し納得しました。
……アラン・ベアリング様。あの日から、忽然と姿を消されたお方。私の頭の中には、まだあの優しいアラン様がいます。あれがすべて演技だったなんて、本当に信じたくないくらい。
「……ねぇ、モニカ。いい加減、現実を見たらどうかな?」
ふと、アイザイア様が立ち止まり、私の方を振り向かれました。その目には、光が一切入っておらず、まるで暗い場所にあるエメラルドのようにも見えました。……怖い。そう、思ってしまいます。それに、私はずっと現実を見てきたはずで――……。
「ねぇ、モニカ。キミの婚約者は俺なんだよ。……いつまでも、ほかの男のことを考えていたり、心配していたら、こっちだって胸糞悪いんだ。……モニカは、俺のでしょう?」
「わ、私は……」
「今だって、アラン・ベアリングのことを心配しているみたいだし……。そう言うの、俺、嫌いだなぁ。ねぇ、モニカ。俺だったらずっとモニカのことを閉じ込めることだって、出来るんだよ。ずっと、ずーっと愛してあげられる。……だから、あんな男のことは、もうどうでもいいでしょう?」
何処か、おかしい。私は、そう思ってしまいました。アイザイア様って、こんなにも嫉妬深いお方でしたっけ……? あの時、私がアラン様と接触をした際には、危険が迫っているということを教えてくださった。その時も確かに嫉妬してくださったけれど……半分、演技だと思っていたのに。だから、私は納得したのに。今のアイザイア様のお言葉では、私は納得できません。
誰か、誰か、助けて。そう思って辺りを見渡すのですが、誰もいません。あれ? 先ほどまで、ルーサーさんがここら辺にいたはずなのですが……。
「……俺ね、モニカが思っている以上に嫉妬深いんだ。だから……これから、現実を見せてあげようと思ってさ」
アイザイア様はそうおっしゃると、また私の腕を引いて何処かに連れて行こうとされます。そして、しばらく歩いた先には、地下へとつながる階段がありました。……地下には、地下牢しかないはずです。しかも、その地下牢は全く違う場所にあるはずで……。
「あのね、モニカ。ここは俺が使っている地下牢なんだよ。普段は、誰も寄り付かない……っていうか、俺とルーサーしか知らない、秘密の場所。……おいで」
そうおっしゃったアイザイア様は、私を横抱きにされるとその階段を下りていかれます。かつかつと、靴と石がぶつかるような音が、地下に響き渡ります。……怖い。なんだか、何か出そうな雰囲気だ。幽霊とか、お化けとか。そう思う私を他所に、アイザイア様はどんどん歩を進めていかれます。
「……現実ってさぁ、何処までも残酷だよね。モニカがどれだけ綺麗だと思っている王家にも、薄暗い過去だってあるんだ」
そんなことを一人ブツブツと呟かれるアイザイア様の様子は、何処かおかしくて。でも、何がおかしいのかはよくわからなくて。だから、私は黙ってアイザイア様に身を任せていました。
しばらく階段を下りると、そこには一足先に来ていたのかルーサーさんがそこに居ました。綺麗な一礼をし、ルーサーさんは私とアイザイア様を出迎えてくれます。
埃くさいこの地下牢は、どうにも手入れが行き届いていないようです。さらには、灯りもところどころにしかないこともあり、不気味さが加速しています。そんなことを考えていると、ふと壁に水のようなものがしみ込んでいるのが見えました。そして、その色は……赤黒くて。
「……あ、アイザイア、様?」
これってまさか……そう思い、私はアイザイア様の表情を窺います。ですが、そこにいらっしゃったアイザイア様は、無表情で。私の恐怖が、どんどん加速していく。どうして、どうして、こんなところがあるの?
「モニカ様。こちらは、過去に王家が重罪者を幽閉するために使っていた地下牢でございます。なので、少々血なまぐさいですし、拷問の跡のようなものもありますが……今は行っていないので、ご安心を」
そう言うルーサーさんの言葉は、酷く冷たくて。今までのルーサーさんとは、どこか違うような気がしました。
「……ねぇ、モニカ。俺はね、この国をよくしたいって常々思っている。でも、その動機は……モニカのためでしかないんだ。俺はモニカのためだったらどれだけの人が死んでもいいと思っているし、苦しんでもいいって思っている。だけど、モニカは優しいからね。そんなことを、望んだりしない。でもさぁ、現実は知らないといけないよね。だから……ここに、連れてきた」
――モニカが心配している、アラン・ベアリングを捕らえているこの場所に。
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