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本編
第51話 『いざ、最後の舞台へ』 ③
しおりを挟む「お言葉ですが、ベアリング様。モニカ様は病み上がりですので……」
私がアラン様への応対に困っていると、ルーサーさんが助け舟を出してくれました。ふぅ、これで何とか逃げられるかな。そう思っていた私ですが、その考えは甘かったのです。
「……使用人の分際で、この僕に指示をしないでくれる?」
何故でしょうか。いきなり、アラン様の周囲の空気が刺々しくなったのです。さらに、アラン様の口調もどことなく荒くなり、何処か攻撃的になっておりました。……一体、何が起こっているのでしょうか? アラン様は、物腰柔らかで優しくて、おっとりとしているお方じゃあ……。
「ようやく本性を現したのかな。……アラン・ベアリング」
「……アイザイア様」
驚いていた私のお側に、アイザイア様が現れる。どうして、こんなにも早く事態に気が付かれていらっしゃったのでしょうか? そう思いましたが、ルーサーさんがにこりと笑っていたのでそう言うことなのでしょう。もしかして……こうなることは想定済みだったのでしょうか? ルーサーさんとアイザイア様の間で、何か通信の方法があったのでしょうか?
「別に本性って言うほどでもないよね。僕は元からこういう人間なんだよ。どう? 結構うまく擬態出来ていたと思うのだけれど……。気弱な伯爵令息。傲慢な幼馴染に振り回されて、ダメな父親を支えて。それでいて贅沢三昧な継母に冷たくあしらわれる可哀想で可哀想で仕方のない令息」
怖いぐらいの綺麗な笑みで、アラン様がそんなことをおっしゃる。……何? もしかして、今までのことはすべて演技だったというのですか? そうなると……まさか、今までのいろいろな騒動の原因って――……。
「そうだね。お前の擬態はすごい物だったよ。……モニカが絆されちゃいそうになるのも、ある意味納得。……何が狙いかな?」
「狙いなんて、そんな大きなものはないよ。僕は……アイザイア様の婚約者であるモニカ様が欲しいんだ。ただ、それだけ」
アラン様は次にそうおっしゃると、私の方に手を伸ばそうとされます。ですが、その手はアイザイア様に寄ってはたき落とされました。一瞬だけ悲しそうな表情をされたアラン様ですが、その表情は絶対零度とも言い表せそうな程冷たくて。まるで、作り物のように見えてしまいました。
「僕はね、幼い頃モニカ様に優しくしてもらったんだ。その時からの、初恋なんだよ。でも、彼女は王太子であるアイザイア様の婚約者。……どうすれば手に入るかなぁって考えて、それでこういうことをしたんだ。……予想以上に、アイザイア様が狡賢くて、モニカ様を愛していて、計画は狂いまくりだけれど」
「……はぁ、レノーレ・ビエナートの幼馴染になったのも、計画の内ってことか」
「そうだよね。あの女は、大切な盾だから」
そうおっしゃったアラン様は、様々なことを語られました。アラン様は、ビエナート侯爵家の不正にいち早く気が疲れたそうです。そして、隠ぺいする代わりに……ということで、レノーレ様の幼馴染というポジションを得た。目立つ人がいれば、その分その人の周りは目立たなくなります。レノーレ様は、隠れ蓑にはうってつけだったそう。さらには、私の不安を煽るようなことをおっしゃり、私を精神的に不安にさせた。……なんだか、いろいろとおかしいとは思っていましたが、そう言うことだったのですね。
「もちろん、僕の父親が再婚後あんな風にダメ人間になるのも想定済み。むしろ、そう言う風に仕向けた陽ねぇ。僕がこのベアリング伯爵家をいち早く乗っ取るためには、それぐらい必要だったの」
「……どうして?」
「どうして? なんておかしなことを聞くよね、モニカ様って。そんな純粋なところも可愛らしいと思うけれどさ。……全部、キミを手に入れるためだって言ったら、笑うかな?」
アラン様が、そうおっしゃって綺麗な笑みを浮かべられます。さらには……ゆっくりと、そのお姿が消えていきました。水面に揺らめいた影のように、消えていく。……どうして? 瞬間移動の魔法は、膨大な魔力を使うので普通の人間じゃ使えないのに。
「ちっ、禁忌の魔法に手を染めているということか。……ルーサー、面倒くさいことは好きじゃないけれど、今すぐにあの男を探せ。俺の方はベアリング伯爵家の人間と、ビエナート侯爵家の人間を捕える。……まぁ、優秀な騎士たちがすでに行動してくれていると思うけれどさ」
「はい、アイザイア様。……愚かでバカなマリオネットなのですから、大人しくしてくださればいいのに」
ルーサーさんは、にっこりと笑ってそうつぶやくとその場を駆けだします。残された私は、何一つとして意味が分からなくて。これは、一体どういうことなのでしょうか? そう思っても、脳内が上手に処理してくれません。……ねぇ、アイザイア様。そう思って、私がアイザイア様を見つめれば……アイザイア様は、異常なほどに冷たい目をされていました。それは、まるで人を人と思っていないような目で。
「……モニカ。いろいろあるけれどさ、まず移動しようか」
「ど、どこに、ですか?」
「……うーん、まずは騎士たちの元に、かな」
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