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本編

第47話 『事件発生』 ②

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「モニカ様!」

 次に私が目を覚ました時、一番に視界に入ったのは侍女たちの心配そうな顔でした。身体を起こし、辺りを見渡せばどうやらここは私の部屋の寝台の上。窓の外を見てみれば、もう日が傾きかけていました。あれ、もしかして、私……かなりの時間、眠っていたのかしら?

「ヴィニーさんは今、ルーサーさんとこれからのことを相談しているため、不在なのです」
「……そうなのね」

 そりゃあ、あんなことがあったのです。ヴィニーが専属侍女の代表として侍従のリーダー格であるルーサーさんと会話をすることになるのは、薄々予感していました。ただ……やはり、恐怖心がぬぐえない。あんなことがあったのです。怖くない、と言えればいいのですが……私は、生憎そんなことを言える勇気はなくて。そもそも、私だってただの小娘なのです。敵意や悪意は……怖いのです。

「モニカ、目が覚めたんだね」
「……アイザイア様」

 そんなことを考えていた私の目の前に現れたのは、他でもないアイザイア様でした。いつものように金色の髪を一つに束ね、柔和な笑みを浮かべていらっしゃるアイザイア様。……どうして、ここに? そう思ったのですが、きっと侍女たちが報告に行ったのでしょうね。私に何かがあれば大変だ。そう、思ったのかもしれません。

「あ、アイザイア様。この間は、申し訳ございません――」
「……そんなことを、まだ気にしていたの? ただの痴話げんかだし、もう終わったことだよ」

 私の謝罪の言葉を、やんわりとアイザイア様は拒否します。そして、ただふんわりと私の頭をなでてくださいました。その手つきは、私が幼い頃から大好きだった撫で方そのもので。私は、少し心が満たされていくのを感じました。アイザイア様は、少なくとも私のことを愛してくださっている。それが、恋愛対象なのかただの妹に向ける感情なのかは、分かりません。それでも、愛されていないわけではない。そう、思いました。

「……ルーサーから聞いたよ。いろいろと、疲れちゃったんだよね。……ごめんね、俺が守ってあげるべきなのに、いろいろと王宮内がごたついているから……」

 アイザイア様のそんなお言葉と、申し訳なさそうな表情に、私は慌てて首を横に振りました。確かに、今の王宮内はピリピリとしていて、落ち着きがありません。きっと、『粛清』のことがあるからでしょう。それは、分かっています。でも……今、アイザイア様がご自身の大切な時間を割いて、私の元に来てくださっているということが、素直に嬉しい。そう思ってしまう私も、確かにいました。

「ルーサーには、きちんとモニカを守るように言っておくからさ。……あと、そうだ。これは、いつか言おうと思っていたのだけれど……」
「……何でしょうか?」
「モニカ。今の一連のごたごたがある程度落ち着いたら、一度一緒に旅行に行こう。旅行とは言っても、視察のついでになるけれどね。今、丁度父上から他国の視察を頼まれていて……仕事の一環になっちゃうけれど、自由な時間もあるけれどさ。たまには、いいだろう?」

 そんな風に笑われるアイザイア様に、私の凍てついた心が溶かされていく。レノーレ様のことも、アラン様のことも、全てがどうでもよくなってきてしまう。アイザイア様の笑顔には、そんな効果がありました。私の心を癒してくださって、私のことをとてもよくわかってくださっている。……こうやって、視察に一緒に連れて行ってくださるということは……少しは、期待してもいいのよね?

「はい、私も行きたいです。……場所は、何処になるのですか?」
「場所はまだ未定だよ。ジャスパーたちと相談の上、かな。十以上候補があってさ、そこから選ぶ予定。ジャスパーたちと代わる代わるに行くことになっているから、要相談なんだよね」
「そうなのですね」

 アイザイア様の弟の王子様方も、視察に出向かれるのね。そう、思いました。ジャスパー様とは、アイザイア様の弟の王子様で、この国の第二王子殿下です。少々俺様ですが、頼りになるお方。……まぁ、面倒くさいご令嬢に好かれやすいらしいのですが……そこは、置いておきましょう。

「……あのね、モニカ。いろいろ、モニカには心配をかけたと思っているんだ。俺も、反省した。俺はね、出来ればモニカのことを閉じ込めて、誰にも触れさせたくないって思っている。それぐらい、モニカのことが大切なのに、何も伝わっていなかった」
「……アイザイア様」
「本当は、この『粛清』も王国の為なんかじゃない。モニカの為なんだ。モニカは、民たちのことを良く思いやってくれている。だから、今の王国の状態に心を痛めていることぐらい、俺だって知っていた。だから……何とかしようと思ったんだ。悪徳貴族なんて放っておいても、なにも良いことなんてないしさ。……父上に掛け合ったら、すぐに許可が出たよ。……ねぇ、モニカ――」

 ――俺は、モニカだけを愛しているよ。そう、閉じ込めて、べたべたに俺に依存させたいぐらいには、愛しているんだ。俺しか必要ないぐらいに、なってほしい。そう思うぐらいには……ね?
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