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本編
第46話 『事件発生』 ①
しおりを挟むその日は、とてもよく晴れ渡った天気の日でした。その日、和足は明日に迫ったベアリング伯爵家でのお茶会に向け、ドレスを選んでおりました。久々にアイザイア様と社交の場でお会いするのですから、きっちりとしたものを選ばなくては……。それに、正面から会うのが怖いという気持ちもあります。きちんと謝罪もしないといけませんし。私は、そう思っておりました。
「ねぇ、どれがいいと思う?」
「そうでございますね……これはどうでしょうか? 奥様から先日送られてきたばかりのものですし……」
「そうね。そのドレスだったら、髪飾りはこれが良いかしら?」
「えぇ、あと、こちらも併せて……」
そんなことを、ヴィニーと相談します。他の侍女もいるとはいえ、私にはやはりヴィニーが一番信頼できる侍女なのです。だからこそ、一番に尋ねるのは決まってヴィニーでした。私にとって、彼女はお姉さんのような存在でもありますからね。
ドレスを選び、髪飾りを選び、靴を選び終えたとき。不意に自室の外が騒がしいことに気が付きました。いったい、何があったのでしょうか? 侍女たちが騒がしくすることなんて、滅多にないので気になってしまいます。……まさか、何かがあったの? 事件?
「ちょっと、貴女。お外を見てきなさい」
「は、はいっ!」
ヴィニーの指示で、一人の侍女がお部屋の外を見に行きます。そして、私が不安な時間を過ごしていると、「きゃー!」という悲鳴が、聞こえてきました。その悲鳴は確かに先ほどの侍女のものです。その声を聞いて、私は思わずヴィニーを見つめてしまいました。……どうしましょう。そう、思いました。
「モニカ様は少々お待ちください。私が様子を見てきますので……」
「そう、よろしくお願いするわ。それと、報告もお願いね」
私はそう言って、ヴィニーを送り出します。不審者などでしたら困ります。そのため、私の周りには侍女たちが集まってきてくれました。その間にも、私の心は不安でいっぱいでした。どうして、何が起こったの? 情報がないということは、結構辛いものです。何が……あったのかな?
そして、しばらく待つ。すると、ヴィニーが自室の扉を開け、戻ってきてくれました。……何故あ、後ろにルーサーさんを連れて。ルーサーさんもヴィニーも、何処か神妙な面持ちです。何が、あったの? そう問いかけたいのに、恐怖からか言葉が出ない。嫌な予感が、ミシミシと身体中を駆け回るのです。
「モニカ様。申し訳ございません。こちらの、警備不足でした」
ルーサーさんが、いきなりそう言って私に頭を下げてきます。しかし、私は何が何だか分からず、ただ茫然としてしまっていました。そんな私を見て、ヴィニーが言いにくそうに口を開きました。
「……モニカ様の自室の扉に、短剣が突き刺さっておりました。それに合わせ、床には真っ赤な液体がバラまかれており……それで、侍女が驚いて悲鳴を上げてしまったということです。その結果、至急ルーサーさんを呼んだということになります。ルーサーさんに伝えたので、しばらく警備の方を厳重にしていただくことが決まったのですが……」
ヴィニーの言葉に、私は驚いてしまいました。このお部屋の扉に、短剣が突き刺さっていたの? しあも、床には真っ赤な液体がバラまかれていたって……。それだと、まるで私を殺そうとしているようではありませんか。私は、確かに立場上妬まれたり恨まれたりすることは多いと思います。特に、ご令嬢たちからは妬まれても仕方のないポジションにいる私。でも……ここまで直接的な嫌がらせは、初めてでした。しかも、ここは王宮ですし……。
「……ルーサーさん、どうしますか?」
「どうしますか? と言われましても……こちらは警備を厳重にするということしか、出来ません。しかも、大体の兵士や騎士が現在王族の警護に駆り出されていますので……そこまで多くすることもできませんし……」
そんなお話が、聞こえてきます。今は『粛清』が行われる前の大切な時期。だから、王族の警護がいつも以上に厳重になっています。もしかしたら、それ狙っての行動だったのかもしれません。……自然と、手に力が入ってしまいます。怖い。そう、思ってしまいました。
「とりあえず、アイザイア様にはご報告しておきますので……。まずは、アイザイア様の指示を待ちましょう。それから、ヴィニーたちはモニカ様の警護をよろしくお願いします。これから、何があるかが分かりませんので……」
「えぇ、もちろんです」
ルーサーさんとヴィニーのそんな会話が、どこか遠くから聞こえてくるような気がしました。あれ、何故でしょうか? 私……今、ふらふらとしています? ……まさか、心労でもたまったのかしら? くるくると回る視界と、ふらつく足。それにいち早く気が付いた侍女が、私の身体を支えてくれる。
「モニカ様!」
そんな焦ったような声が、聞こえてきます。あぁ、そんなにも焦らなくていいのに。ちょっと、疲れちゃっただけ……だと思うから。
そう言いたいのに、言葉が出ない。そして、そのまま私はばたりと倒れてしまった。それは、今までの心労が溜まり、限界が近づいてきていた予兆だったのかもしれません。
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