46 / 62
本編
第46話 『事件発生』 ①
しおりを挟むその日は、とてもよく晴れ渡った天気の日でした。その日、和足は明日に迫ったベアリング伯爵家でのお茶会に向け、ドレスを選んでおりました。久々にアイザイア様と社交の場でお会いするのですから、きっちりとしたものを選ばなくては……。それに、正面から会うのが怖いという気持ちもあります。きちんと謝罪もしないといけませんし。私は、そう思っておりました。
「ねぇ、どれがいいと思う?」
「そうでございますね……これはどうでしょうか? 奥様から先日送られてきたばかりのものですし……」
「そうね。そのドレスだったら、髪飾りはこれが良いかしら?」
「えぇ、あと、こちらも併せて……」
そんなことを、ヴィニーと相談します。他の侍女もいるとはいえ、私にはやはりヴィニーが一番信頼できる侍女なのです。だからこそ、一番に尋ねるのは決まってヴィニーでした。私にとって、彼女はお姉さんのような存在でもありますからね。
ドレスを選び、髪飾りを選び、靴を選び終えたとき。不意に自室の外が騒がしいことに気が付きました。いったい、何があったのでしょうか? 侍女たちが騒がしくすることなんて、滅多にないので気になってしまいます。……まさか、何かがあったの? 事件?
「ちょっと、貴女。お外を見てきなさい」
「は、はいっ!」
ヴィニーの指示で、一人の侍女がお部屋の外を見に行きます。そして、私が不安な時間を過ごしていると、「きゃー!」という悲鳴が、聞こえてきました。その悲鳴は確かに先ほどの侍女のものです。その声を聞いて、私は思わずヴィニーを見つめてしまいました。……どうしましょう。そう、思いました。
「モニカ様は少々お待ちください。私が様子を見てきますので……」
「そう、よろしくお願いするわ。それと、報告もお願いね」
私はそう言って、ヴィニーを送り出します。不審者などでしたら困ります。そのため、私の周りには侍女たちが集まってきてくれました。その間にも、私の心は不安でいっぱいでした。どうして、何が起こったの? 情報がないということは、結構辛いものです。何が……あったのかな?
そして、しばらく待つ。すると、ヴィニーが自室の扉を開け、戻ってきてくれました。……何故あ、後ろにルーサーさんを連れて。ルーサーさんもヴィニーも、何処か神妙な面持ちです。何が、あったの? そう問いかけたいのに、恐怖からか言葉が出ない。嫌な予感が、ミシミシと身体中を駆け回るのです。
「モニカ様。申し訳ございません。こちらの、警備不足でした」
ルーサーさんが、いきなりそう言って私に頭を下げてきます。しかし、私は何が何だか分からず、ただ茫然としてしまっていました。そんな私を見て、ヴィニーが言いにくそうに口を開きました。
「……モニカ様の自室の扉に、短剣が突き刺さっておりました。それに合わせ、床には真っ赤な液体がバラまかれており……それで、侍女が驚いて悲鳴を上げてしまったということです。その結果、至急ルーサーさんを呼んだということになります。ルーサーさんに伝えたので、しばらく警備の方を厳重にしていただくことが決まったのですが……」
ヴィニーの言葉に、私は驚いてしまいました。このお部屋の扉に、短剣が突き刺さっていたの? しあも、床には真っ赤な液体がバラまかれていたって……。それだと、まるで私を殺そうとしているようではありませんか。私は、確かに立場上妬まれたり恨まれたりすることは多いと思います。特に、ご令嬢たちからは妬まれても仕方のないポジションにいる私。でも……ここまで直接的な嫌がらせは、初めてでした。しかも、ここは王宮ですし……。
「……ルーサーさん、どうしますか?」
「どうしますか? と言われましても……こちらは警備を厳重にするということしか、出来ません。しかも、大体の兵士や騎士が現在王族の警護に駆り出されていますので……そこまで多くすることもできませんし……」
そんなお話が、聞こえてきます。今は『粛清』が行われる前の大切な時期。だから、王族の警護がいつも以上に厳重になっています。もしかしたら、それ狙っての行動だったのかもしれません。……自然と、手に力が入ってしまいます。怖い。そう、思ってしまいました。
「とりあえず、アイザイア様にはご報告しておきますので……。まずは、アイザイア様の指示を待ちましょう。それから、ヴィニーたちはモニカ様の警護をよろしくお願いします。これから、何があるかが分かりませんので……」
「えぇ、もちろんです」
ルーサーさんとヴィニーのそんな会話が、どこか遠くから聞こえてくるような気がしました。あれ、何故でしょうか? 私……今、ふらふらとしています? ……まさか、心労でもたまったのかしら? くるくると回る視界と、ふらつく足。それにいち早く気が付いた侍女が、私の身体を支えてくれる。
「モニカ様!」
そんな焦ったような声が、聞こえてきます。あぁ、そんなにも焦らなくていいのに。ちょっと、疲れちゃっただけ……だと思うから。
そう言いたいのに、言葉が出ない。そして、そのまま私はばたりと倒れてしまった。それは、今までの心労が溜まり、限界が近づいてきていた予兆だったのかもしれません。
11
お気に入りに追加
856
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く
魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」
帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。
混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。
ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。
これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
【完結】帰れると聞いたのに……
ウミ
恋愛
聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。
※登場人物※
・ゆかり:黒目黒髪の和風美人
・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる