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本編
第44話 『どっちが……いいの?』 ②
しおりを挟む(うぅ、書くと意気込んだものは良いものの、いったい何をどうお返事をすれば……)
机に向かって早五分。着々と進む時計の針を見つめながら、私はそんなことを思っておりました。いつもならば、すらすらと言葉が出てくるはずなのに、今日に限って何も思い浮かびません。さぁ、どうしましょうか。とりあえず、謝罪だけは書かなくては。でも、それは最後の最後に書くとしまして……。初めは、何から書けばいいのでしょうか? やはり、ここは世間話からでしょうか?
「……世間話と言っても、ここ最近は面白い話題もなかったですし……」
頭の中で、必死に何かを思い浮かべようとしますが、生憎最近の私は社交界の噂にも興味が出なかったため、そう言う面の噂を何も知りません。かといって、レノーレ様との関係を直接的に尋ねるわけもいきません。それが原因で言い争いをしてしまっているので、今更掘り返すのは避けたいですね。……とりあえず、挨拶からでも始めましょうか。
そう思った私は、挨拶から始めました。それから、お手紙を下さったことに対するお礼。あと、お茶会にはぜひとも一緒に参加したいということ。あとは……うーん、何も思い浮かばないわ。
「ヴィニー。私、普段どんなお手紙を送っていたか、忘れてしまったわ。……どうしましょう」
ふと、隣で片づけをしてくれていたヴィニーに、そう話しかけてみます。すると、ヴィニーはただ「私は存じておりませんが……」とだけ返事をくれました。まぁ、そうですよね。私信を見るのは書いた人と送られた人、あとは検問の人だけですもの。ヴィニーが中身を知っているわけが、ありません。
「とりあえず、この間の謝罪を書くのですよね。あとは、アイザイア様が書いてくださったお話に合わせてはいかがかと。……それと、こちらはモニカ様のお耳に挟んだ方がいいと、ルーサーさんから聞いたことなのですが……」
「……何?」
「はい。最近ビエナート侯爵家の評判が良くないことは、存じ上げていると思います。しかも、隣国とかなり親密にされているようで……。それ自体は、何の問題もありません。ですが、その隣国にフェリシタル王国の情報を売っているのではないか、と噂されているそうなのです」
「……そうなの?」
そんなこと、初めて聞いたわ。もしかしてだけれど……アイザイア様、そのことで最近忙しくされていらっしゃったの? それを見かねたルーサーさんが、私に教えてくれたの? そう、思ってしまいました。
「えぇ、それから最近の貴族は腐ってきております。エストレア公爵家のような、善良なお家ばかりではないのです。……特に、最近はとある子爵家が没落寸前まで追い込まれたとか、そう言うことも小耳にはさんでおります。そのことに関する『粛清』を行うことが、王宮の会議でも決まったそうですよ。……アイザイア様は、最近そのことでお忙しくされているそうです」
「……そうなの、ね」
どうして、アイザイア様はそのことを私に教えてくださらなかったの? そう思いましたが、私はその考えを振り払います。きっと、私がお荷物になってしまうから、アイザイア様は私には教えなかったのでしょう。……それに、お優しいので私を危険に巻き込んだりしないように、と思われたのかもしれません。どちらにせよ、私は聞き分けの良い婚約者にならなくては。
「『粛清』は静かに行われるものですので、内密にしておくようにとルーサーさんはおっしゃっておりました。……そのため、モニカ様の方も内密にお願いいたします。……あまり、モニカ様に心配をかけないようにと言われておりますので……」
――すべてが、終わる。
もしかしたら、それってビエナート侯爵家に対してのトラブルなのかもしれません。私は、そう思ってしまいました。私は、今はまだアイザイア様にとってお飾りの婚約者なのかもしれない。……だったら、これから役に立てるように努力するしかない。いずれは、アイザイア様のお隣に並んでこの国を治めていける王妃に、なりたい。
「……そうなのね、分かったわ。……私、身勝手だったのよね。勝手に嫉妬して、勝手に負けたと思って。……我ながら、バカみたいだわ。アイザイア様、心配してくださっていたのね。ようやく分かったわ」
アラン様と一緒にいることを快く思わなかったのは、きっとレノーレ様とつながっている可能性があったからでしょう。私は、なんと浅はかなことをしてしまったのでしょうか。何も知らなかったとはいえ、そんな行動をしてしまっていたなんて。
(アラン様は、私のことを好きだとおっしゃってくださったわ。でも……きっと、それも嘘なのよね。レノーレ様のために動いていたに、過ぎないのだわ)
そう、自分自身に言い聞かせる。
ただ、一つだけ悩んでいました。アイザイア様に表立って協力したい、と申し出るかということです。今の私はどう考えても足手まとい。協力なんて、出来るわけがない。でも、何とかはしたい。……うぅ、ここはグッと我慢しておきましょう。……いつか、きっとアイザイア様のお役に立てる時が来るはずですから。
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