【完結】狂愛の第一王子は公爵令嬢を離さない〜普段は大人っぽい素敵な婚約者は、実はとても嫉妬深い男性でした!?〜

扇 レンナ

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本編

第35話 『モニカの嫉妬心』 ②

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「じゃあこの住所に行けばいいんだな」
「あぁ、頼む」

 翠は少し苦し気に熱い吐息を吐いて、後部座席に身体を深く預けた。

 やはり熱が高く調子が出ないようだ。

 手っ取り早く用事を済ませて風空寺に戻ってやりたいと思って、アクセルを強く踏んだ。

 ところがそのタイミングで弟から停止するよう声がかかった。

「いや、ちょっと待ってくれ」
「なんだ? 流……忘れ物か」

 翠も急ブレーキに身体を揺らしながら、不思議そうに問いかけた。

「兄さん、先に風邪薬を飲もう」
「薬? でも持って来ていないよ」
「ちゃんと俺が用意してきたから」

 ガサゴソと弟が自分のリュックから薬を取り出し、翠に手渡した。

「まったく……兄さんは昔から風邪をひきやすいな。すぐに熱を出してばかりで心配をかける」
「……そうかな。自分ではあまり気が付かないけどね」
「いいから。さぁ飲んで」

 翠も弟のそんな言葉に、優しい表情を浮かべていた 弟の方は心底心配そうに翠の額に手を当てたり、薬を手のひらにのせてやったりと献身的だ。

 それにしても、まるで今にも口移しして飲ませそうな程、顔が近い。

 なんだ、この微妙な空気は。

 まるで俺がここにいることを忘れてしまったかのような濃密な雰囲気。

 兄と弟なのか……お前達は本当に。

「飲め」
「うん……ありがとう」
「とにかく熱が下がるといいな」
「この位なら大丈夫だよ。それより早くこの住所へ」
「道昭さん、急いでください」
「あっ、ああ……」

 まったく人使いが荒い奴だな。

 でも俺も大事な親友のためなら一肌脱ぐ覚悟だ。

「任せとけ」

 車は宇治から一気に京都市内の住所へと向かう

****

 丈が買ってくれデジタルメモ機の使い勝手は、すごぶる良かった。お陰で今日は学会のメモがスムーズだ。日中しっかりまとめておけば、宿でやることが減る。

 そう思うと仕事も頑張れる。

 気分よく仕事をこなしていると、休憩時間に高瀬くんがまた話しかけて来た。

「浅岡さん、やー疲れますね!随分とはかどってますね。やっぱりそのマシーンいいなぁ」
「はぁ」

 彼はなんだって、こうもお喋りなんだろうか。ひとりで過ごすことに慣れてしまった俺には少々鬱陶しいとすら申し訳ないが、感じてしまう。

「あっそうだ、知ってます? 張矢先生のこと」
「今度は何?」

 キーボードを叩きながら耳だけ貸していた。

「それがですねぇ耳より情報なんです! 昨日の夜は、張矢先生の病院の他の先生と偶然会って、四条河原町で一杯飲んだんですよ。せっかくだから張矢先生のこといろいろリサーチしたんですよ。聞きたいですか」

「……ちょっと待って。君はなんでそんなに張矢先生のことばかり調べているんだ?」

「あっそれ聞きますー?」

「……」

「だって、先生ってクールでカッコイイじゃないですか。背も高いし、顔も端正で」

「いや、だって……彼は、その……男だし」

 こんなこと俺が言っても説得力がないよなと思いながらも、あんまり高瀬くんが丈のことを絶賛するので気になってしまう。

「いや男でも惚れちゃうほどいいんですよ。あの包容力羨ましいな、っと話が脱線しましたが、そこでショックな話を聞いちゃって」

 急に高瀬くんの声のトーンが下がった。

「何を? 」

「それがですねぇ、どうも先生結婚しているようですよ。先生は何度聞いても詳しいことは教えてくれませんが」

 流石に、これには動揺してしまう。

 戸籍上の正式な結婚というわけでないが、今年の七夕の日に、俺は丈の家の戸籍に入った。それは丈との結婚を意味していると、あの式に参列してくれた誰もが認めてくれたことだ。

「そっそうなのか。何で知って?」
「だから昨日丈先生と同じ病院に勤めている先生が教えてくれて 」
「なっなんて?」

 こんな話を客観的に聞くと、我ながら驚く程気になってしまった。

 丈は周りに結婚していると伝えているのか。それともただの噂なのか。

 一体どうして、そういう話が漏れるのだろう?

 俺と丈の結婚というのは月影寺の中でも話し合い医師という立場上、もちろん外では内密にしていることだ。俺も旧姓のまま仕事をしているしな。

「それが丈先生の奥さんって。すごい美人だそうですよ。絶世の美女だとか。しかもかなり年下で滅茶苦茶可愛がっているから、丈先生はあんまり夜勤も入れたがらないし、休日をすぐ欲しがるとか」

「はぁ?」

「つまり尻にひかれているんじゃないかってことです」

「えぇっ?」

 自分ではそんなつもりはないのに、確かに傍から見たら、丈の態度はどう見ても……

 うわっ~っ、と思わずこめかみを押さえてしまった。






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