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本編
第18話 『婚約者の嫉妬』 ③
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ゆっくりと帰りの馬車に乗り込んだものの、私はただ俯いて黙っていました。その間に、馬車はゆっくりと走り出します。ガタガタと馬車が走る音が、やたらと大きい。私がそう思っていた時、アイザイア様が沈黙を破られました。
「ねぇ、モニカは――あの男が、好きなのかな?」
何でもない風に、アイザイア様にそう尋ねられる。ですが、私は分かっていました。アイザイア様が、かなり怒られているということに。その口調はとても乱暴です。アイザイア様の方に視線を移せば、アイザイア様はただ外の景色を眺められておりました。夜だから、何も見えないというのに、です。
「……そ、そんなわけ、ありません――」
「……嘘。今日のモニカ。すっごく楽しそうだったよ?」
私の否定の言葉を聞くこともなく、ただアイザイア様は私に思いのたけをぶつけてこられました。多岐にわたるその想いは、徐々に私を追い詰めていく。これは、立派な精神攻撃でした。
やっぱり、同い年ぐらいの人が良いのかな?
俺じゃ、不満なんだね。
王太子妃としてのプレッシャーから、逃げようとしているの?
それとも……ただ純粋に、俺のことが嫌いになったのかな?
そんな風に問い詰められ、私は何と答えればいいかが分からなくなりました。今のアイザイア様には、私が何を言ってもきっと言葉は届かないでしょう。それを、頭の中で理解していました。ですが、ここで引くわけにはいきません。アイザイア様に……私自身の気持ちを、分かってほしかった。私が、アイザイア様のことだけを見てきたということを、分かっていただきたかった。
「い、今までだって……お話ぐらい、したことはあります、よ?」
少しでも、アイザイア様の怒りを抑えなければ。そう思った私ですが、自らの持つ疑問の方が先に口から出てしまいました。この疑問は、ずっと私の頭の中にあったものです。どうして、急にお怒りになるのでしょうか? 今までだって、アラン様とお話したことはありますし、他の貴族のご令息方とも何度もお話したことがあります。起こるなんて、今更過ぎる行動なのです。
「何を言っているの? 今日のあの男の態度は明らかにモニカに好意があると思われるものだった。だから……俺は、モニカのことを助けてあげたんでしょう?」
「っつ!?」
そして、私は気が付きました。今のアイザイア様は……正気ではないということに。
「――ねぇ、モニカ」
そうおっしゃったアイザイア様の手が、優しく私の頬に触れました。そして、怯えて動けない私の頬を、優しく撫でられたのです。楽しそうに、愛おしそうに。壊れ物を扱うかのように。
「――モニカは、俺だけを見ていればいいんだよ。よそ見なんてしたら――俺、そいつを殺しちゃうかもね」
にっこりと笑われておっしゃったお言葉は……とてもではありませんが、普段のアイザイア様がおっしゃるような言葉ではなかった。狂気にまみれたような、お言葉。それを聞いて、私の心は冷え切っていきました。ただ、出来ることならば……もう、アイザイア様を怒らせるようなことだけは、止めよう。そう、思っただけ。
ですが、いつまで経ってもどうしてここまでアイザイア様が怒りをあらわにするのかが、私には分かりませんでした。理解できませんでした。ただ、自分がほかの貴族のご令息と会話をしただけで……そこまで怒るのかが、分からなかったのです。
この時の私は、嫉妬という感情をうまく理解できていなかったのです。
ゆっくりと帰りの馬車に乗り込んだものの、私はただ俯いて黙っていました。その間に、馬車はゆっくりと走り出します。ガタガタと馬車が走る音が、やたらと大きい。私がそう思っていた時、アイザイア様が沈黙を破られました。
「ねぇ、モニカは――あの男が、好きなのかな?」
何でもない風に、アイザイア様にそう尋ねられる。ですが、私は分かっていました。アイザイア様が、かなり怒られているということに。その口調はとても乱暴です。アイザイア様の方に視線を移せば、アイザイア様はただ外の景色を眺められておりました。夜だから、何も見えないというのに、です。
「……そ、そんなわけ、ありません――」
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私の否定の言葉を聞くこともなく、ただアイザイア様は私に思いのたけをぶつけてこられました。多岐にわたるその想いは、徐々に私を追い詰めていく。これは、立派な精神攻撃でした。
やっぱり、同い年ぐらいの人が良いのかな?
俺じゃ、不満なんだね。
王太子妃としてのプレッシャーから、逃げようとしているの?
それとも……ただ純粋に、俺のことが嫌いになったのかな?
そんな風に問い詰められ、私は何と答えればいいかが分からなくなりました。今のアイザイア様には、私が何を言ってもきっと言葉は届かないでしょう。それを、頭の中で理解していました。ですが、ここで引くわけにはいきません。アイザイア様に……私自身の気持ちを、分かってほしかった。私が、アイザイア様のことだけを見てきたということを、分かっていただきたかった。
「い、今までだって……お話ぐらい、したことはあります、よ?」
少しでも、アイザイア様の怒りを抑えなければ。そう思った私ですが、自らの持つ疑問の方が先に口から出てしまいました。この疑問は、ずっと私の頭の中にあったものです。どうして、急にお怒りになるのでしょうか? 今までだって、アラン様とお話したことはありますし、他の貴族のご令息方とも何度もお話したことがあります。起こるなんて、今更過ぎる行動なのです。
「何を言っているの? 今日のあの男の態度は明らかにモニカに好意があると思われるものだった。だから……俺は、モニカのことを助けてあげたんでしょう?」
「っつ!?」
そして、私は気が付きました。今のアイザイア様は……正気ではないということに。
「――ねぇ、モニカ」
そうおっしゃったアイザイア様の手が、優しく私の頬に触れました。そして、怯えて動けない私の頬を、優しく撫でられたのです。楽しそうに、愛おしそうに。壊れ物を扱うかのように。
「――モニカは、俺だけを見ていればいいんだよ。よそ見なんてしたら――俺、そいつを殺しちゃうかもね」
にっこりと笑われておっしゃったお言葉は……とてもではありませんが、普段のアイザイア様がおっしゃるような言葉ではなかった。狂気にまみれたような、お言葉。それを聞いて、私の心は冷え切っていきました。ただ、出来ることならば……もう、アイザイア様を怒らせるようなことだけは、止めよう。そう、思っただけ。
ですが、いつまで経ってもどうしてここまでアイザイア様が怒りをあらわにするのかが、私には分かりませんでした。理解できませんでした。ただ、自分がほかの貴族のご令息と会話をしただけで……そこまで怒るのかが、分からなかったのです。
この時の私は、嫉妬という感情をうまく理解できていなかったのです。
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