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本編
第15話 『ベアリング伯爵家の子息』 ③
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「……ところで、モニカ様はこれからしばらくお時間はあるでしょうか? もしよろしければ……僕と少しばかりお話をしてくださいませんか?」
「え、えーっと……」
そんな突然のアラン様からのお誘いに、私は戸惑ってしまいました。異性と二人きりでお話をしているところを、他の方に見られたら、一体どう思われてしまうでしょうか? 仮にも、私はアイザイア様の婚約者であり、未来の王妃なのです。不貞を働いていると思われれば、アイザイア様の未来にも関わってきます。ですが、そのお誘いは私にとってとても魅力的でもありました。元々、アイザイア様がいらっしゃらないこともあり私は暇だったのです。もしも、アラン様とお話をして時間を潰すことが出来れば……それ以上に、良いことはないと思ってしまったのです。
「いえ、無理に、とは言いません。……アイザイア様がいらっしゃるまで、ですが……」
そんなことをおっしゃいながら、アラン様が悲しげに眉を下げられる。それを見た私の気持ちは、さらに揺れました。私は性格上、悲しそうな表情には弱いのです。そんな表情を浮かべられては……断るという選択肢が、消えてしまうのです。
「……はい、こちらこそ、少しの間、で良いのならば……」
だから、私はこのお誘いを了承してしまったのです。このお誘いを了承しなければ、きっとあの未来は防げていたはずなのに、です。後から思っても、手遅れなのですが。
しかし、この時の私はそんなことを知る由もなかった。これは、社交なのだ。そう自分自身に言い聞かせながら、私はアラン様のお言葉に相槌を打つ。社交であり、アイザイア様がいらっしゃるまでの時間を有効活用しているのです。そんな風に思いながら会話を始めた私ですが……それは、案外楽しいものでした。
アラン様と私の趣味や好みは、どうやらとても近いらしく、お話が弾んだのです。私は本を読むことが好きです。ですが、アイザイア様は忙しいこともありあまり本は読まれないということ。そのため、いつも本については私が一方的に語る形になってしまうのです。
ですが、アラン様は本を読まれることがお好きらしく、私のお話についてきてくださいます。それが、私にとってとても嬉しいことでした。私は貴族の令嬢である前に、年頃の女の子なのです。人の思惑を見抜く術を持っているとはいえ、それはまだ確実ではなかった。だから、アラン様のお言葉の裏に隠された感情に、この時は気が付けなかった。
そして、会話は弾み、時間がどんどん過ぎ去っていく。そんな時、不意に周りの貴族のご令嬢方がにぎやかになられました。ご令嬢たちは我先に、と押し合いながらホールの入口の方に向かって行かれます。その先頭は……やはり、レノーレ様でした。
その瞬間、入口が開き、豪奢な衣装に身を包んだアイザイア様が、現れました。ご令嬢方はアイザイア様の登場に歓喜しながら、我先に自身を見てもらおうとアピールをしているようでした。それに気が付いた時には……遅かった。私は、完全に出遅れてしまったのです。それは、アラン様との会話がとても楽しかったから。
それでも、急いでアイザイア様の元に向かおうとしました。しかし……一瞬アイザイア様と私の視線が交わった時に、向けられた悲しそうな視線。その視線に射抜かれてしまうと、その場に立ち尽くすことしか私は出来なかった。
――モニカに、一番に出迎えてほしかったのに。
まるで、アイザイア様の視線はそうおっしゃっているかのようでした。それに気が付いてしまった私は……やはり、その場に立ち尽くすことしか出来なくて。その間にも、周りのご令嬢方のあげる大きな歓声や話し声は、とめどなく続いておりました。
「え、えーっと……」
そんな突然のアラン様からのお誘いに、私は戸惑ってしまいました。異性と二人きりでお話をしているところを、他の方に見られたら、一体どう思われてしまうでしょうか? 仮にも、私はアイザイア様の婚約者であり、未来の王妃なのです。不貞を働いていると思われれば、アイザイア様の未来にも関わってきます。ですが、そのお誘いは私にとってとても魅力的でもありました。元々、アイザイア様がいらっしゃらないこともあり私は暇だったのです。もしも、アラン様とお話をして時間を潰すことが出来れば……それ以上に、良いことはないと思ってしまったのです。
「いえ、無理に、とは言いません。……アイザイア様がいらっしゃるまで、ですが……」
そんなことをおっしゃいながら、アラン様が悲しげに眉を下げられる。それを見た私の気持ちは、さらに揺れました。私は性格上、悲しそうな表情には弱いのです。そんな表情を浮かべられては……断るという選択肢が、消えてしまうのです。
「……はい、こちらこそ、少しの間、で良いのならば……」
だから、私はこのお誘いを了承してしまったのです。このお誘いを了承しなければ、きっとあの未来は防げていたはずなのに、です。後から思っても、手遅れなのですが。
しかし、この時の私はそんなことを知る由もなかった。これは、社交なのだ。そう自分自身に言い聞かせながら、私はアラン様のお言葉に相槌を打つ。社交であり、アイザイア様がいらっしゃるまでの時間を有効活用しているのです。そんな風に思いながら会話を始めた私ですが……それは、案外楽しいものでした。
アラン様と私の趣味や好みは、どうやらとても近いらしく、お話が弾んだのです。私は本を読むことが好きです。ですが、アイザイア様は忙しいこともありあまり本は読まれないということ。そのため、いつも本については私が一方的に語る形になってしまうのです。
ですが、アラン様は本を読まれることがお好きらしく、私のお話についてきてくださいます。それが、私にとってとても嬉しいことでした。私は貴族の令嬢である前に、年頃の女の子なのです。人の思惑を見抜く術を持っているとはいえ、それはまだ確実ではなかった。だから、アラン様のお言葉の裏に隠された感情に、この時は気が付けなかった。
そして、会話は弾み、時間がどんどん過ぎ去っていく。そんな時、不意に周りの貴族のご令嬢方がにぎやかになられました。ご令嬢たちは我先に、と押し合いながらホールの入口の方に向かって行かれます。その先頭は……やはり、レノーレ様でした。
その瞬間、入口が開き、豪奢な衣装に身を包んだアイザイア様が、現れました。ご令嬢方はアイザイア様の登場に歓喜しながら、我先に自身を見てもらおうとアピールをしているようでした。それに気が付いた時には……遅かった。私は、完全に出遅れてしまったのです。それは、アラン様との会話がとても楽しかったから。
それでも、急いでアイザイア様の元に向かおうとしました。しかし……一瞬アイザイア様と私の視線が交わった時に、向けられた悲しそうな視線。その視線に射抜かれてしまうと、その場に立ち尽くすことしか私は出来なかった。
――モニカに、一番に出迎えてほしかったのに。
まるで、アイザイア様の視線はそうおっしゃっているかのようでした。それに気が付いてしまった私は……やはり、その場に立ち尽くすことしか出来なくて。その間にも、周りのご令嬢方のあげる大きな歓声や話し声は、とめどなく続いておりました。
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