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本編
第14話 『ベアリング伯爵家の子息』 ②
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「……アランの所為で、気持ちが冷めてしまったわ。……じゃあ、せいぜい今の生活を楽しんでおくことね、モニカ様?」
「……はい、ご忠告、どうもありがとうございました。レノーレ様」
レノーレ様の嫌味を軽く躱しながら、私はレノーレ様が去っていく後ろ姿を眺めておりました。たくさんの取り巻きを引き連れ、レノーレ様が立ち去っていく姿はとても目立ちます。きっと、挨拶回りでもするのでしょうね。彼女は、主催者の娘ですから。
「……レノーレ様がすみません、モニカ様」
「い、いえ……アラン様に謝られることでは、ありませんわ」
アラン様の謝罪を受け入れながら、私はアラン様を責めることはしませんでした。それは、この出来事の根本的な原因がアラン様ではないということを、遠回しに伝えているという意味も込められていました。そのことに、アラン様は気が付かれたのでしょう。ただにっこりと笑われて、「ありがとうございます」とだけおっしゃいました。
「レノーレ様は、モニカ様が羨ましいのです。……あの方は、どうやらアイザイア様に恋い焦がれているようですから……」
どこか遠いところを見つめられながら、アラン様はそんなことをおっしゃいました。その表情は、どこか悲しそうで切なそうに見えてしまいます。見る人が見れば……もちろん、私が見てもアラン様はレノーレ様に恋い焦がれているみたいです。私は、アラン様がレノーレ様に恋い焦がれているのだ。そんな確信を、この時持ってしまったのです。
「……そうなのですね。私、恋というものを良く知らないので、何とも言えませんが……貴族には、そう言うもの関係ありませんから」
「……分かっています。……でも、結局僕もレノーレ様と同じなんですよ。叶わないことを知っていてなお、恋を諦めきれない」
――叶わない恋。
きっと、その相手はレノーレ様なのでしょう。そんなことを思い、私は確信を強めてしまいました。だからこそ、その恋のお相手を尋ねることはしませんでした。人の恋路に口を出すのはマナー違反。そんなことを、私は幼い頃から教えられてきました。そのことも、きっと確認をしなかった要因なのでしょう。
だから……アラン様が、私を熱心に見つめられていたことにも、気が付かなかったのです。
「……やっぱり、僕は――」
アラン様がそんな言葉を零されました。ですが、その言葉の続きは私の耳には届かなかった。周りの騒がしさに、かき消されてしまったから。
もしも、アラン様の恋心も、こんな風にかき消されていたら。そうだったならば――だれも、不幸な目に遭うことはなかったのだと思います。少なくとも、私が巻き込まれることはなかったはずなのです。
拗れた恋心。それは――誰にもコントロールできないもの。持ち主でさえ、コントロールできないものなのです。
「……はい、ご忠告、どうもありがとうございました。レノーレ様」
レノーレ様の嫌味を軽く躱しながら、私はレノーレ様が去っていく後ろ姿を眺めておりました。たくさんの取り巻きを引き連れ、レノーレ様が立ち去っていく姿はとても目立ちます。きっと、挨拶回りでもするのでしょうね。彼女は、主催者の娘ですから。
「……レノーレ様がすみません、モニカ様」
「い、いえ……アラン様に謝られることでは、ありませんわ」
アラン様の謝罪を受け入れながら、私はアラン様を責めることはしませんでした。それは、この出来事の根本的な原因がアラン様ではないということを、遠回しに伝えているという意味も込められていました。そのことに、アラン様は気が付かれたのでしょう。ただにっこりと笑われて、「ありがとうございます」とだけおっしゃいました。
「レノーレ様は、モニカ様が羨ましいのです。……あの方は、どうやらアイザイア様に恋い焦がれているようですから……」
どこか遠いところを見つめられながら、アラン様はそんなことをおっしゃいました。その表情は、どこか悲しそうで切なそうに見えてしまいます。見る人が見れば……もちろん、私が見てもアラン様はレノーレ様に恋い焦がれているみたいです。私は、アラン様がレノーレ様に恋い焦がれているのだ。そんな確信を、この時持ってしまったのです。
「……そうなのですね。私、恋というものを良く知らないので、何とも言えませんが……貴族には、そう言うもの関係ありませんから」
「……分かっています。……でも、結局僕もレノーレ様と同じなんですよ。叶わないことを知っていてなお、恋を諦めきれない」
――叶わない恋。
きっと、その相手はレノーレ様なのでしょう。そんなことを思い、私は確信を強めてしまいました。だからこそ、その恋のお相手を尋ねることはしませんでした。人の恋路に口を出すのはマナー違反。そんなことを、私は幼い頃から教えられてきました。そのことも、きっと確認をしなかった要因なのでしょう。
だから……アラン様が、私を熱心に見つめられていたことにも、気が付かなかったのです。
「……やっぱり、僕は――」
アラン様がそんな言葉を零されました。ですが、その言葉の続きは私の耳には届かなかった。周りの騒がしさに、かき消されてしまったから。
もしも、アラン様の恋心も、こんな風にかき消されていたら。そうだったならば――だれも、不幸な目に遭うことはなかったのだと思います。少なくとも、私が巻き込まれることはなかったはずなのです。
拗れた恋心。それは――誰にもコントロールできないもの。持ち主でさえ、コントロールできないものなのです。
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