5 / 62
本編
第5話 『アイザイア・フェリシタル』 ②
しおりを挟む
**
「……懐かしい夢、だったわ……」
私は目が覚めると一番にそんな言葉を呟いていた。カーテン越しに感じる朝日はとても眩しい。なので、朝だと嫌でも告げるその態様に、思わず少しだけ顔をしかめてしまいました。
「モニカ様。本日のお時間通りのお目覚めですね。おはようございます」
「……えぇ、おはよう、ヴィニー」
侍女のヴィニーが側にやってくると、私はそれだけ声をかけて寝台から降りました。すると、いつものようにヴィニーが毛布等をたたみ始めます。それを眺めながら、私は今日見た夢のことを考えていました。
「……ねぇ、ヴィニー。先ほど、とても懐かしい夢を見たのよ」
そして、テーブルの横に私は移動します。そこで用意されている朝の紅茶を飲みながら、私はそう言いました。私の起床時間はいつも同じ。だからこそ、ヴィニーは私の起床時間に合わせて紅茶を淹れてくれます。目が覚めるようなブレンドを選びながらも、日替わりで味が変わるこの紅茶を楽しむことが、私の朝一番の楽しみでした。
「夢、でございますか?」
ヴィニーは毛布をたたみ終えると、そう言って私に向き合いました。その美しい髪が、向き直る際にさらりと揺れます。
私にとっての理想の女性像とは、王妃様とお母様でした。いつも優しく、温かく見守ってくださるような存在。そんな存在に、私は幼い頃から憧れておりました。ですが、理想の容姿というのはまた別にあり、それがヴィニーの容姿や体型でした。魅力的な凹凸のある体型に、美しい髪。いつ見ても羨ましいと思ってしまいます。だって、私は凹凸の少ない、世に言う「幼児体型」ですから。
「うん、アイザイア様と出逢ったころの夢よ。……私ね、あの時の男の子がアイザイア様だなんて思わなかったの。で、お父様に紹介されて、初めてこの人が私の婚約者になる人なんだって、分かった。驚きも強かったけれど、それ以上に私は嬉しかったの。……こんなにも美しくて優しい人のお嫁さんになれるんだって、思ったから」
紅茶を飲みながら、私はそう言って遠いところを見つめます。本日のお妃教育は、教師の都合で一日お休みになってしまいました。何をしようか。どこに出掛けようか。そう思うと、心は弾むはずなのに。なのに、私の表情は浮かないものになっている気がします。
「……私、夢を見て思ったの。やっぱり、アイザイア様のことが好きなんだって。この気持ちが恋じゃないって、私だって分かっているの。けどね、それでもいいの。……政略結婚に、恋なんて必要ないでしょう? 政略結婚は結婚してから恋をするものだというしね。……お父様と、お母様が、そうだったように」
そう言いながら、私はカップに残っていた紅茶を飲み干しました。
私の両親、エストレア公爵夫妻も政略結婚でした。お母様は名門伯爵家の次女であり、エストレア公爵家に嫁いできました。その結婚は、私から見てお爺様同士が決めたものであり、本人たちの望んだものではありません。ですが、関係は今も良好であり、家族仲も良好。そんな夫婦に、私は憧れていたのです。
「でも、私が嫁ぐ相手は王太子殿下。……もしかしたら、側妃だって娶られるかもしれないし、愛妾だって出来るかもしれないわ。……それでも、やっぱり私、アイザイア様のお嫁さんになりたいの」
そこまで言うと、私はヴィニーに向き直り、とびきりの笑顔を向けました。
「……アイザイア様に対する感情が、少しわからなくなってきたの。それでも……私のことを、アイザイア様は愛してくださるかしら?」
「……えぇ、きっと愛してくださいますよ」
私の問いかけに、ヴィニーは微笑みながら答えてくれました。だから……彼女には、きっと分かっていたのでしょうね。徐々に私がアイザイア様に向ける感情が……「恋」に変わっていたということに。
「……懐かしい夢、だったわ……」
私は目が覚めると一番にそんな言葉を呟いていた。カーテン越しに感じる朝日はとても眩しい。なので、朝だと嫌でも告げるその態様に、思わず少しだけ顔をしかめてしまいました。
「モニカ様。本日のお時間通りのお目覚めですね。おはようございます」
「……えぇ、おはよう、ヴィニー」
侍女のヴィニーが側にやってくると、私はそれだけ声をかけて寝台から降りました。すると、いつものようにヴィニーが毛布等をたたみ始めます。それを眺めながら、私は今日見た夢のことを考えていました。
「……ねぇ、ヴィニー。先ほど、とても懐かしい夢を見たのよ」
そして、テーブルの横に私は移動します。そこで用意されている朝の紅茶を飲みながら、私はそう言いました。私の起床時間はいつも同じ。だからこそ、ヴィニーは私の起床時間に合わせて紅茶を淹れてくれます。目が覚めるようなブレンドを選びながらも、日替わりで味が変わるこの紅茶を楽しむことが、私の朝一番の楽しみでした。
「夢、でございますか?」
ヴィニーは毛布をたたみ終えると、そう言って私に向き合いました。その美しい髪が、向き直る際にさらりと揺れます。
私にとっての理想の女性像とは、王妃様とお母様でした。いつも優しく、温かく見守ってくださるような存在。そんな存在に、私は幼い頃から憧れておりました。ですが、理想の容姿というのはまた別にあり、それがヴィニーの容姿や体型でした。魅力的な凹凸のある体型に、美しい髪。いつ見ても羨ましいと思ってしまいます。だって、私は凹凸の少ない、世に言う「幼児体型」ですから。
「うん、アイザイア様と出逢ったころの夢よ。……私ね、あの時の男の子がアイザイア様だなんて思わなかったの。で、お父様に紹介されて、初めてこの人が私の婚約者になる人なんだって、分かった。驚きも強かったけれど、それ以上に私は嬉しかったの。……こんなにも美しくて優しい人のお嫁さんになれるんだって、思ったから」
紅茶を飲みながら、私はそう言って遠いところを見つめます。本日のお妃教育は、教師の都合で一日お休みになってしまいました。何をしようか。どこに出掛けようか。そう思うと、心は弾むはずなのに。なのに、私の表情は浮かないものになっている気がします。
「……私、夢を見て思ったの。やっぱり、アイザイア様のことが好きなんだって。この気持ちが恋じゃないって、私だって分かっているの。けどね、それでもいいの。……政略結婚に、恋なんて必要ないでしょう? 政略結婚は結婚してから恋をするものだというしね。……お父様と、お母様が、そうだったように」
そう言いながら、私はカップに残っていた紅茶を飲み干しました。
私の両親、エストレア公爵夫妻も政略結婚でした。お母様は名門伯爵家の次女であり、エストレア公爵家に嫁いできました。その結婚は、私から見てお爺様同士が決めたものであり、本人たちの望んだものではありません。ですが、関係は今も良好であり、家族仲も良好。そんな夫婦に、私は憧れていたのです。
「でも、私が嫁ぐ相手は王太子殿下。……もしかしたら、側妃だって娶られるかもしれないし、愛妾だって出来るかもしれないわ。……それでも、やっぱり私、アイザイア様のお嫁さんになりたいの」
そこまで言うと、私はヴィニーに向き直り、とびきりの笑顔を向けました。
「……アイザイア様に対する感情が、少しわからなくなってきたの。それでも……私のことを、アイザイア様は愛してくださるかしら?」
「……えぇ、きっと愛してくださいますよ」
私の問いかけに、ヴィニーは微笑みながら答えてくれました。だから……彼女には、きっと分かっていたのでしょうね。徐々に私がアイザイア様に向ける感情が……「恋」に変わっていたということに。
1
お気に入りに追加
859
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです
星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。
2024年4月21日 公開
2024年4月21日 完結
☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる