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本編
第1話 『モニカ・エストレア』 ①
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ふわりとした暖かい風が、私たちの間を吹き抜ける。季節は春。満開の色とりどりの花々が咲き乱れる王宮の中庭にて、私モニカ・エストレアと私の婚約者であるアイザイア・フェリシタル様はお茶をしておりました。周りには従者や侍女たちが何かがあった時のために、と控えていますので完全に二人きりというわけではありません。それでも、身分の高い私たちからすればこれは立派なデートなのです。
「モニカ。今日も可愛らしいね。そのドレスも、モニカに良く似合っているよ。見たことないけれど、新しく出したものかな?」
そうおっしゃってくださったのが、アイザイア様。金色の長い髪を後ろで一つに束ね、エメラルドのような美しい緑色の瞳を持っていらっしゃるお方です。そして、このお方はなんといっても、王太子殿下でもあるのです。次期国王としてこのフェリシタル王国を背負っていく。そんなお方。
厳しい次期国王としての教育の合間に、と私をデートに誘ってくださるという一面もあり、アイザイア様はとてもお優しいお方です。それが、私がアイザイア様に抱いている印象になります。あ、もちろん私も王太子妃になるのですから、お妃教育はきっちりと受けておりますよ。そのため、最近はほとんど王宮に住んでいるようなものですし。
「ありがとうございます、アイザイア様。最近は温かくなってきたので、少々薄手のものにしてみたんです。なので、これはお母様がプレゼントしてくださった新しいものですわ」
幼い頃からずっと婚約者という関係を続けてきた私たち。その仲はきっと良好な方だと思います。私はアイザイア様を実の兄の様に慕っておりますし、きっとアイザイア様も私のことを妹の様に思ってくださっていると思います。
たとえ、私たちの間にある感情が恋愛感情ではなかったとしても、ネガティブな感情ではなければ良好な関係が築けているということなのです。政略結婚というものは、そう言うもの。その理屈で行けば、私たちの関係は間違いなく良好な関係だと言えますし。
「そっか。最近モニカは大人っぽくなったよね。俺も老けたなぁ。今年でもう二十四だ」
アイザイア様はそうおっしゃると、目の前の紅茶を一口飲まれました。
別に、老けてなどいないと思いますのに。二十四歳というのは、まだまだ若いです。だって、まだ二十代前半じゃないですか! それに、アイザイア様はいつだってかっこいい、私にとってのヒーローなのですから。
「いいえ、アイザイア様はいつでもかっこいいですわ。本当の……お兄様みたい」
「……モニカ、ありがとう。……でも、そこは嘘でもいいから婚約者ですって言ってほしかったな」
「ふふっ。だって私、アイザイア様のことを婚約者というよりも実の兄の様に慕っておりますもの」
私はそれだけを言うと、紅茶に口をつけました。
アイザイア様が「全く……」と呟かれているのが耳に入ります。そして、アイザイア様の瞳が少しばかり細められたような気がしました。きっと「またか」と思われているのでしょうね。
(……えぇ、そう。私は……この方と結婚するのよね……)
そして、王国の未来を背負っていく。王太子と王太子妃という夫妻に、なるのです。
だから……私はもっと頑張らなくてはなりません。このお方のお隣に、堂々と並ぶために――……。
「モニカ。今日も可愛らしいね。そのドレスも、モニカに良く似合っているよ。見たことないけれど、新しく出したものかな?」
そうおっしゃってくださったのが、アイザイア様。金色の長い髪を後ろで一つに束ね、エメラルドのような美しい緑色の瞳を持っていらっしゃるお方です。そして、このお方はなんといっても、王太子殿下でもあるのです。次期国王としてこのフェリシタル王国を背負っていく。そんなお方。
厳しい次期国王としての教育の合間に、と私をデートに誘ってくださるという一面もあり、アイザイア様はとてもお優しいお方です。それが、私がアイザイア様に抱いている印象になります。あ、もちろん私も王太子妃になるのですから、お妃教育はきっちりと受けておりますよ。そのため、最近はほとんど王宮に住んでいるようなものですし。
「ありがとうございます、アイザイア様。最近は温かくなってきたので、少々薄手のものにしてみたんです。なので、これはお母様がプレゼントしてくださった新しいものですわ」
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たとえ、私たちの間にある感情が恋愛感情ではなかったとしても、ネガティブな感情ではなければ良好な関係が築けているということなのです。政略結婚というものは、そう言うもの。その理屈で行けば、私たちの関係は間違いなく良好な関係だと言えますし。
「そっか。最近モニカは大人っぽくなったよね。俺も老けたなぁ。今年でもう二十四だ」
アイザイア様はそうおっしゃると、目の前の紅茶を一口飲まれました。
別に、老けてなどいないと思いますのに。二十四歳というのは、まだまだ若いです。だって、まだ二十代前半じゃないですか! それに、アイザイア様はいつだってかっこいい、私にとってのヒーローなのですから。
「いいえ、アイザイア様はいつでもかっこいいですわ。本当の……お兄様みたい」
「……モニカ、ありがとう。……でも、そこは嘘でもいいから婚約者ですって言ってほしかったな」
「ふふっ。だって私、アイザイア様のことを婚約者というよりも実の兄の様に慕っておりますもの」
私はそれだけを言うと、紅茶に口をつけました。
アイザイア様が「全く……」と呟かれているのが耳に入ります。そして、アイザイア様の瞳が少しばかり細められたような気がしました。きっと「またか」と思われているのでしょうね。
(……えぇ、そう。私は……この方と結婚するのよね……)
そして、王国の未来を背負っていく。王太子と王太子妃という夫妻に、なるのです。
だから……私はもっと頑張らなくてはなりません。このお方のお隣に、堂々と並ぶために――……。
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