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第1章
嫁ぐことになったわけ 1
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それは、ローゼリーンが婚姻するほんの一年前に遡る。
ローゼリーンの母国であるリューデル王国は、資源が豊かな国だ。それゆえか、度々近隣の国が攻め入ってくる。
この数ヶ月前。南を面する血気盛んな国との争いが終戦を迎えていた。
勝ったのはリューデル王国であり、多額の賠償金を請求。さらには、こちらに有利な平和条約を締結することも出来た。
多少の被害はあったものの、被害は国が想定していたものの半分ほどで終わったそうだ。
そして、その戦での立役者。その名前は、大々的に新聞に載る。
――ハーグフリート・グリューン。
生家は最近落ちぶれ始めたと囁かれる伯爵家グリューン家。立場は次男坊。
鋭いサファイア色の目と、光一つ通しそうにない漆黒色の髪の毛が特徴的な男性。
彼はこの戦で多大なる功績を上げたため、『英雄騎士』と褒めたたえられていた。……が、その半面。
一部では、こう囁かれている……らしい。
『血も涙もない死神騎士』だと。
◇
そんな記事が載った新聞を眺めつつ、ローゼリーンは専属の侍女テレサに淹れてもらった紅茶を口に運ぶ。
優雅な所作でお茶を飲むその姿は、まさに『姫君』に相応しい。……とはいっても、ローゼリーンは『姫』ではないのだが。
(平和条約も無事締結されて、国内も少しずつ落ち着くといいわね)
そう思いつつ、ローゼリーンは新聞を閉じる。そのまま侍女に新聞を手渡し、ローゼリーンは目の前のテーブルに頬杖を突いた。
(今回はこの結果で終わったからよいものを、伯父さまも少しは警戒心を持たなくてはならないわ)
なんて思ったものの、クランベリーのパウンドケーキを口に入れると、そんなことどうでもよくなる。
乾燥したクランベリーがたくさん練り込まれたパウンドケーキは、ローゼリーンの大好物だ。
合わせ、今飲んでいる紅茶にとても合う。
「……あぁ、幸せだわ」
自然とぽつりと言葉が零れた。
庭園のガーデンスペースで、のんびりとお茶をする。温かな陽の光に包まれて、小鳥のさえずりを聞いて。美味しい紅茶とパウンドケーキ。まさに、淑女の理想の休憩時間。
ほうっと息を吐けば、遠くから侍女がやってくる。彼女は、ローゼリーンの専属ではない。とはいっても、よく知った顔なのだが。
「あら、どうなさったの?」
きょとんとしつつそう声をかければ、彼女は深々と頭を下げた。
「先ほど、王城に出向かれている旦那さまから遣いが来まして」
「……へぇ」
「今から旦那さまは邸宅にお戻りになるそうでございます。また、戻り次第お嬢さまに執務室に来ていただきたい、と」
「……あら」
珍しいこともあるものだと、ローゼリーンは思う。
ローゼリーンの父は、王家の血を引いており、正当な王族の一員である。ローゼリーンの父の兄が、現在の国王。つまり、ローゼリーンは国王の姪っ子でもあるのだ。
身分的には筆頭公爵家の令嬢ではあるが、現在国には姫がいないため、ローゼリーンは実質『姫』のような扱いとなっているのも関係している。
(お父さまがご帰宅早々に私を呼び出すなんて、今までにないことではないのかしら?)
頬に手を当てて、ローゼリーンはそう思う。
ローゼリーンの父は、娘であるローゼリーンにすこぶる甘い。なにをしてもすべて肯定してくれ、欲しいものはすべて買い与えてくれる。年の離れた兄も同様。むしろ、娘のいない国王の伯父でさえ、ローゼリーンにはとても甘かった。
そんなローゼリーンではあるが、母がそれなりに厳しくしてくれたため、そこまでわがままには育っていない。
……本当に、母には感謝しかない。
「なんでも、重要なお話があると……」
侍女は考え込んだローゼリーンに、眉を下げてそう伝えてくる。
……別に彼女が悪いわけではない。そういう意味を込めて、ローゼリーンは笑った。
「いえ、伝言ありがとう。では、お父さまにお会いする準備をするわ。またご帰宅次第、教えて頂戴」
「かしこまりました」
一応父は公爵なのだ。こんなラフな格好で合っていい人物ではない。……もちろん、家族の時間は除いている。
(けれど、執務室に呼び出すということは、公爵としてのお話だわ。……私も、きちんとしなくては)
そう考えて、ローゼリーンは専属侍女のテレサを連れて、庭園を後にした。
もちろん、残っているクランベリーのパウンドケーキは、保存しておいてもらう。
だって、この季節しか食べられないのだ。一切れ残らず、食べてしまいたい。
もしも、他の貴族令嬢が見たら笑うかもしれないし、バカにするかもしれない。が、ローゼリーンはローゼリーンの道を貫くだけだ。
だって、公爵令嬢である以上に。王家の血を引いている以上に。
ローゼリーンは、一人の人間であり、女性なのだから。
ローゼリーンの母国であるリューデル王国は、資源が豊かな国だ。それゆえか、度々近隣の国が攻め入ってくる。
この数ヶ月前。南を面する血気盛んな国との争いが終戦を迎えていた。
勝ったのはリューデル王国であり、多額の賠償金を請求。さらには、こちらに有利な平和条約を締結することも出来た。
多少の被害はあったものの、被害は国が想定していたものの半分ほどで終わったそうだ。
そして、その戦での立役者。その名前は、大々的に新聞に載る。
――ハーグフリート・グリューン。
生家は最近落ちぶれ始めたと囁かれる伯爵家グリューン家。立場は次男坊。
鋭いサファイア色の目と、光一つ通しそうにない漆黒色の髪の毛が特徴的な男性。
彼はこの戦で多大なる功績を上げたため、『英雄騎士』と褒めたたえられていた。……が、その半面。
一部では、こう囁かれている……らしい。
『血も涙もない死神騎士』だと。
◇
そんな記事が載った新聞を眺めつつ、ローゼリーンは専属の侍女テレサに淹れてもらった紅茶を口に運ぶ。
優雅な所作でお茶を飲むその姿は、まさに『姫君』に相応しい。……とはいっても、ローゼリーンは『姫』ではないのだが。
(平和条約も無事締結されて、国内も少しずつ落ち着くといいわね)
そう思いつつ、ローゼリーンは新聞を閉じる。そのまま侍女に新聞を手渡し、ローゼリーンは目の前のテーブルに頬杖を突いた。
(今回はこの結果で終わったからよいものを、伯父さまも少しは警戒心を持たなくてはならないわ)
なんて思ったものの、クランベリーのパウンドケーキを口に入れると、そんなことどうでもよくなる。
乾燥したクランベリーがたくさん練り込まれたパウンドケーキは、ローゼリーンの大好物だ。
合わせ、今飲んでいる紅茶にとても合う。
「……あぁ、幸せだわ」
自然とぽつりと言葉が零れた。
庭園のガーデンスペースで、のんびりとお茶をする。温かな陽の光に包まれて、小鳥のさえずりを聞いて。美味しい紅茶とパウンドケーキ。まさに、淑女の理想の休憩時間。
ほうっと息を吐けば、遠くから侍女がやってくる。彼女は、ローゼリーンの専属ではない。とはいっても、よく知った顔なのだが。
「あら、どうなさったの?」
きょとんとしつつそう声をかければ、彼女は深々と頭を下げた。
「先ほど、王城に出向かれている旦那さまから遣いが来まして」
「……へぇ」
「今から旦那さまは邸宅にお戻りになるそうでございます。また、戻り次第お嬢さまに執務室に来ていただきたい、と」
「……あら」
珍しいこともあるものだと、ローゼリーンは思う。
ローゼリーンの父は、王家の血を引いており、正当な王族の一員である。ローゼリーンの父の兄が、現在の国王。つまり、ローゼリーンは国王の姪っ子でもあるのだ。
身分的には筆頭公爵家の令嬢ではあるが、現在国には姫がいないため、ローゼリーンは実質『姫』のような扱いとなっているのも関係している。
(お父さまがご帰宅早々に私を呼び出すなんて、今までにないことではないのかしら?)
頬に手を当てて、ローゼリーンはそう思う。
ローゼリーンの父は、娘であるローゼリーンにすこぶる甘い。なにをしてもすべて肯定してくれ、欲しいものはすべて買い与えてくれる。年の離れた兄も同様。むしろ、娘のいない国王の伯父でさえ、ローゼリーンにはとても甘かった。
そんなローゼリーンではあるが、母がそれなりに厳しくしてくれたため、そこまでわがままには育っていない。
……本当に、母には感謝しかない。
「なんでも、重要なお話があると……」
侍女は考え込んだローゼリーンに、眉を下げてそう伝えてくる。
……別に彼女が悪いわけではない。そういう意味を込めて、ローゼリーンは笑った。
「いえ、伝言ありがとう。では、お父さまにお会いする準備をするわ。またご帰宅次第、教えて頂戴」
「かしこまりました」
一応父は公爵なのだ。こんなラフな格好で合っていい人物ではない。……もちろん、家族の時間は除いている。
(けれど、執務室に呼び出すということは、公爵としてのお話だわ。……私も、きちんとしなくては)
そう考えて、ローゼリーンは専属侍女のテレサを連れて、庭園を後にした。
もちろん、残っているクランベリーのパウンドケーキは、保存しておいてもらう。
だって、この季節しか食べられないのだ。一切れ残らず、食べてしまいたい。
もしも、他の貴族令嬢が見たら笑うかもしれないし、バカにするかもしれない。が、ローゼリーンはローゼリーンの道を貫くだけだ。
だって、公爵令嬢である以上に。王家の血を引いている以上に。
ローゼリーンは、一人の人間であり、女性なのだから。
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