恋愛SP college

らいむせいか

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第5話 大切な物

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 あれから1週間、可楽明宏はソワソワしてた。自分で原因は、分かっている。先ほどから、スマホばかり気にしているのだから。本当自分が馬鹿みたいだ。
廊下をうろつき、女子に囲まれた誠を見つけると近づいた。
「よぉ!話すのは久しぶりやな?宮島君」
「かっ可楽!」
誠が驚いて、声を上げた。取り巻きたちが、2人を見て黄色い声を上げた。明宏はニコニコして、誠の肩を持った。
「ごめんなー、ちょいと借りるで。ええか?」
女子たちは、顔を赤く染め「はい」と言い道を開けた。明宏は手を振ると、誠を連れ人気がないところへ連れて行った。足を止めると、誠は明宏の手を振り払った。
「何なんだよ、いきなり!」
「何や、女子に囲まれてた方がええのか?美絵ちゃん以外見ぃひん、とか言っとたのに」
誠の顔が怒りに満ちた。明宏はため息を吐くと、真剣な顔になった。
「まぁええ。それより、お前最近のメグのこと知ってるか?」
「姉崎さん?知らないけど…。何で、あんたの方が知ってるだろ?」
誠はキョトンとした。明宏は腕を組み、壁に背をつけた。
「いや、ここんとこ1週間連絡も姿も無しなんや。仕事かと思ったが、ちゃうしな。宮島君、なんか知っとるかなとおもおってな」
そう言えば、前はうるさいほど纏わりついていたのにこの頃それがない。取ってる授業も違ったりするので、合わないのだが…。諦めたのかと思っていたのだが、大学に来ていないとは知らなかった。
「心当たりとかないのかよ」
「有ったらとっくに、分かってる。小さい頃からずっと、一緒やったけどこんなこと初めてや。流石に、なんか有ったのかと思ってな」
明宏はポケットから、スマホを取り出す。
「マネージャーも困ってるみたいや。俺のところにも連絡来て、ずーと仕事も休んでるみたいやし」
「家とか行ったりしたのか?」
「家は無理や。いくら幼馴染でも、どんな関係でも。あの親父が許すやつしか入れへん。俺は生憎許されざる男や。誰か入れるやつおったら、分かるんやろうけどなー」
明宏は、頭を掻きむしった。正直誠は驚いていた。
こんなに取り乱した可楽を見たことが、無かったのだから。本気で心配している、友達思いだなと、少し見直した。
すると遠くから、走ってくる1人の女子がいた。2人を見つけると、手を振ってくる。
「あー!可楽くん、ちょうど良かった」
距離が縮まり、女の子は肩で息をしながら整える。
「ねぇ、メグどうかしたの?」
「あんた、友達の美梨華か?いや、俺も分からんのや。今宮島君にも聞いたけど、知らんとさ」
美梨華は、頭を抱えてよろけて壁に肩をつける。
「えー、私のところにも連絡ないのよ。かけても通じないし、LINEも読まないし。大学にも連絡してないみたい。家にも行けないし、心配なのに…」
「なんかあてないか?メグの家に入れそうなやつ」
「あの…、1人いる。律次清高とかは?」
誠がボソリと言った。
「そいつならクビになったで。ちょいと前に、メグから聞いたんや。随分ショック受けてたけどな…。そいつの連絡先、知ってるやつなんかおらん……。あー!」
明宏が声を上げて、2人はビクリとする。
「美絵ちゃん!あの子なら知っとるかもしれん、律次の連絡先。恋仲やったんやろ?」
誠は認めたくないが、頷いた。確かに美絵は、やつの連絡先を知っている。
3人は放課後また、会うことを約束してひとまず授業に出た。

授業、部活が終わり。誠が美絵を引き留めた。正直話すのは、戸惑った。友達なのか、よく分からない関係だからだ。
明宏と美梨華が合流する。美絵は、頭をかしげた。
「なぁ、律次清高の連絡先知っとるか?」
「ええ、まぁ…知ってますけど…。どうかしましたか?」
明宏の唐突な質問に、驚きながらも美絵は答えた。
「メグが1週間音信不通で、心配なんや。やつなら家に入れるかも知れへん。メグの様子確かめて貰えるように、頼めないか?」
美絵は押し黙った。気持ちは分かる、だが…。
「律次さんとは…、もう会わないし連絡しないと約束したんだ。だから…」
美絵は下を向き、暗く言った。美梨華が、美絵の両肩を掴んだ。
「私からもお願い。もう手が無いのよ。あの子の父親、昔とはまるで変わったの知ってるのよ。なにが有ってからじゃ遅いの。心配で、辛いの…」
美絵は固く唇を噛む。美梨華が美絵の顔を覗き込んだ。
「鈴風さん、ダメ元で構わないから。お願い…」
美絵はゆっくりと鞄から、スマホを取り出した。皆の顔が一瞬明るくなる。美絵は震える手で、スクロールし律次の名前で指が止まった。もう連絡しない、そう誓ったのに…。押せないでいると、美梨華が空いてる手を握り頷いた。美絵は思い切って押して、耳に当てた。コール音が響く。心臓が馬鹿みたいに高鳴る。
『……美絵様、約束違いますよ』
トーンが低い声で律次が出た。美絵の口が震える。声が恐ろしく低くて、怖いくらいだった。スマホを固く握りしめる。
「すみません。分かってます、でも聞いてほしいことありまして連絡しました」
美絵の声に、繋がったんだと3人は安堵した。美絵は唾を飲み込む、声を聞くだけで淡い気持ちが少し蘇った。
『はぁ…。要件は何ですか?聞くだけ聞きます』
清高の重いため息。要件は聞いてくれるみたいだ。
「1週間程前から、姉崎さんが大学と仕事場に連絡と顔すら出してないみたいなんです。心配している方々が、いらっしゃるんです。そこで、あの…」
『私が、様子を見に姉崎家に向かえと?私は少し前、そこの家からクビだと言われましたが』
「でも、入る手段はありますよね?律次さんなら」
『……なくは無いですよ。それが?』
美絵は、さらに強くスマホを握った。皆が期待しているような眼差しで、見つめている。
「お願いです、その手段で構わないのでメグさんを家から出してくれませんか?お礼はします、ですから」
『承知しましたよ、美絵様。お礼は、セックスで。ちょうど、溜まっていたところですから』
電話が切れたと同時に、美絵の顔が真っ赤になった。
「どうやった?」
「……行ってくれるみたいです…」
美絵は小さくボソリと呟いた。
「よしゃ!サンキューな、ほな家に向かうで」
4人はメグの家に向かって、足を速めた。
静まり返った門の前、いかにもお城という感じの建物。そこに黒塗りの高級車が止まった。出て来たのは、スーツ姿の清高だ。美絵が躊躇いながら、近寄る。
「すみません。あの、手間をかけてしまって。それと後、約束…」
清高は優しく微笑み、美絵と同じ高さになると両肩に手を置きおでこを擦り合わせる。美絵の頬が、ほんのり赤く染まる。
「全く、仕方がない子ですね。貴方って言う方は。貴方が約束を破りましたから、こちらも破らせていただきますよ」
清高が美絵の唇を奪った。美梨華と誠はギョッとして、顔を紅潮させる。美絵は急いで、清高を引き離した。
「やっ、やめて下さい!」
「前払いです。ご馳走様」
それだけ言うと、清高は門を見つめ何歩か後ろに下がる。思いっきり地面を蹴った。
物凄い速さだ、自分達より遥かに高い、鉄格子の門を軽く飛び越える。と同時に、サイレン音が鳴り響いた。

「侵入者確認、直ちに取り押さえよ!」
家中に響き渡る指示。奥から武器を持った集団が、庭を走っている清高に向けられた。その姿を見て、男たちがどよめく。
「お前!律次清高か!何のようだ?」
一番敵に回したくない相手。男たちは、武器を強く握り締め清高を見つめた。清高は足を止める。
「出来れば、争いたくないのですがそうは行きませんよね。通して来れませんか?メグ様の様子を、伺いに来ましたので」
「…断る!お役目を終わったお前が、お嬢様の元に行く事許さない!取り押さえろ!」
銃声が鳴り響く。清高は弾を器用に避け、1人の銃を回し蹴りで手から落とした。拳銃が宙を舞、地面に転がる。素早く背後に回れば、首筋に強く手を打ち付け倒れた。
「はああぁぁーー!」
背後から叫び声と共に、日本刀を掲げた者が来た。体勢を低くしお腹に肘を強く打ち付けた。敵がよろけて、倒れる。
次々と敵を倒していく清高に、奴らは怯みさえした。
清高の足元には、ざっと10人は地面に倒れ気を失っている。彼は傷ひとつない。
「まだやりますか?」
ボディガードのリーダーが、笑い出した。
「いいだろう、一度やり合ってみたかったんだ。殺し屋の律次清高とな」
2人してお互いに、銃を向ける。
「そう言えば、珍しく殺しはしないな。どうした?」
「誓ったんですよ、もう殺しはしないと。あの方と」
清高の脳裏に、美絵の顔がチラつく。
「ほぉ、この世の中でお前を狂わせる奴がいるとはな。正直な意見、弱くなりやがったもんだ。その揺るぎない心、踏み躙ってくれる!」
同時に銃声音が響いた。

真っ暗な部屋。1人の少女が膝を抱え、ベッドの上に座り込んでいた。やけに外が騒がしい。そう言えば、先ほどからメイドが入れ替わり立ち替わり自分のところに来ては、安否を確かめに来ている。
少女、メグはゆっくりと顔をあげ、窓に目をやった。
「何の音?…銃声…、何で」
戦争でも起きたのか、煩いほど聞こえる。外を覗こうと、のろのろベッドから降り窓に近づく。
その瞬間メグの部屋の窓が割れ、男が割れた窓から出てきた。メグは反射的に、後ろに下がる。ガラスの破片が床に散乱し、男はそれを踏みながらメグの前に立った。
「無事ですか?メグ様」
顔をあげた瞬間、メグは泣きたくなった。
「清高…っ。何で来たのよ!あんたはここをっ」
メグは怒って罵声を浴びせる。本当は嬉しいのに。
清高はメグの体を見た。無数の青あざと切り傷。まだ真新しい傷があちらこちらに、あって痛々しかった。
「誰にやられましたか?その傷…」
静かに語り出す、清高の言葉にメグは隠すように自分自身を抱きしめた。
「こっこれはっ…。どうだっていいでしょ!」
「お父上ですか?」
メグの言葉に、かぶせるように言ってきた。メグの体が震える。その時、部屋のドアが思いっきり開いた。入ってきたのは、メグの父親だった。清高の姿を見て、怒りをあらわにする。
「貴様!どの分際でここに来た!お前はもう切った、来るんじゃない!」
清高に、ズカズカと近づく父。慌てて、メグが割って入った。
「もうやめてよ!パパ、清高の事はっ」
父親はメグに躊躇いも無しに、手を上げ頬に平手打ちをした。メグがその場に倒れ込む。痛くて、頬を手で押さえ泣きじゃくった。目はもう痛いほど、晴れている。
小さい頃は、メグの事叩きはしなかった。怒ったりはしたけど、暴力はされた事一度もなかったのだ。この家に入ってからだ。2年の間に父はちょっとでも気に入らないと、自分やメイドにも手をあげることが多くなった。躊躇いも無しに…。
「御言葉ですが、旦那様。DVは立派な犯罪ですよ」
「何を言っている!これは立派な躾だ。貴様こそ、不法侵入や暴行罪で犯罪だ」
「大事なお嬢様に、傷を負わせるのが躾だと言いますか?では、今私がした事も犯罪と言うのもおかしな話ですよ」
清高は腰から、拳銃を取り出す。その行動が怒りを買ったのか、父親は落ちていた箒を持ち清高めがけて走った。
部屋に銃声音が鳴り響いた。煙が消え弾が床に転がる、金属音だけ部屋に響いた。父親が持っていた箒だけ真っ二つに割れ、壁に小さな穴が空いている。父親には、メグが泣きじゃくりながら抱き着いていた。メグは清高に父親を狙われると思い、咄嗟に抱きついて庇おうとしたのだ。
「めっメグ!退きなさいっ!こやつは!」
父の荒立てた声に、メグは必死に首を振った。
「やだ!パパに死んで欲しくないっ!お願い、戻ってよ、昔の優しかった…あったかいパパにっ…。あの時のパパが大好きなの!」
父親の手から、箒が落ちた。床に軽い木の音が鳴る。頭の中に走馬灯の様に、蘇る父と娘の二人暮らしの時の記憶。真っ暗い街頭だけの公園で、メグは1人ひたすら父を待っていた。決して涙ひとつ見せずに、父を見つけると手を広げ思いっきり抱きつく娘を。父は愛しく、何度頭を撫でた事だろう。その度メグは父のお腹に頬を擦り付けて、何度も「パパ、おかえり」と言って来れたあの時を。いつしか、忘れてしまっていた。
中学生の時、資産家の娘と父は結婚し仕事に追われ、反抗期の娘が言うこと聞かず頭の糸が切れ、変わってしまった。こそから、言葉の暴力が始まり、次第に体罰になっていった。自分の愚かさに、父は気付かされた。こんな酷いことをしたのに、まだ自分を助けるのかと。久しぶりに聞いた、大好きと言う言葉に。
父は震える手で、泣き喚いているメグをゆっくり抱きしめた。
「パパ…。わぁ…、あの時のパパと同じっ…。パパの体温だ…」
メグは、父の腕にしがみ付いた。その声に、父は更に強く、メグを抱きしめた。
「ごめんな、メグ。こんな父親で…。悪かった、本当…悪かった…」
2人を見て、清高はため息をつき拳銃をしまった。
しばし抱き合うと、メグは顔をあげた。清高に微笑む。
「ありがと。何か、初めて思ったわ。それで私に、何か用なの?」
「はい。貴方様を心配して数名友達が、外で待機してます。来て下さい」
父がメグの肩を叩き、背中を押した。軽く頷くと、傷が見えない様にメグはカーディガンを羽織った。
清高と共に外に出た。

4人はハラハラしながら、門の外で待っていた。耳が痛くなるほど鳴っていた銃声も、ピタリと止まり静かになった。
門が音をたてて開いた。メグと清高が現れて、美梨華が泣きながらメグに抱きついた。
「もぉー!心配したよ、無事なら無事って…連絡よこしなさいよ!馬鹿っ」
美梨華の声に、メグはまた泣き出した。
「ごめん、ごめんねぇ……。美梨っ、本当ごめん」
1週間、短い様で長い期間だった気がする。明宏は、メグの頭を優しく撫でた。安堵に満ちた顔で。誠も少しホッとした。美絵も胸を撫で下ろしていると、いつの間にか横に立っていた清高の手が美絵の指に絡み付いた。美絵は、ハッとして顔を赤くし清高を見つめる。美絵の顔を見て、優越感に浸る獣の顔を覗かせる清高。その欲情した、色っぽい顔に美絵は五月蝿いほど心臓が高鳴ったのを知った。
ダメだ、体の奥から熱が引き摺り出される。
「約束、守っていただきますよ。美絵」
低く誘う様な声に、美絵の体は甘く痺れた。蘇る、淡い恋心。やっぱり好きだと、刻みこまされる。
「ほんまありがとうな。美絵ちゃんも」
2人の元へ歩み寄ってきた、明宏が美絵の頭を軽く撫でた。ふと見た、美絵の顔に明宏は目を大きくした。
潤んだ瞳、白い肌に赤くなった頬。隣で見ていた、誠も明宏と同じ気持ちになった。ゾクリとする。この気持ちどうしたらいい。美絵は妙に色っぽくなっているのは、感じですぐ分かる。
「あのっ、今日はありがと。ちょっと近くの喫茶で美梨とお茶してくるから、行ってくるね」
メグは一礼をすると、美梨華を連れて歩いていった。
2人がいなくなった門の前、清高は美絵の手を引いた。
「さて、俺らも帰るか。ありがとうな、律次」
目を逸らし、明宏は言った。清高は少し目元を緩め「いえ」と言った。
明宏は歩き始めると、止まって動かない誠の腕を取り連れて行く。誠は慌てて、躓きそうになる。
「おっおい!何でお前に、引っ張られなきゃならないんだよ!」
誠の声に、明宏は黙って引っ張り歩き続けた。
美絵は、清高の車の助手席にいた。車は無言の2人を乗せて、走って行く。
「りっ律次さんは、その…今どこに居るんですか?」
沈黙に耐えれなくなったのか、美絵が辿々しく口を開いた。
「今は、シェルターに居ますよ。私たち卒業生は、住む場所がそこしかないですから。依頼で、選ばれSPや秘書、執事といったボディーカードの仕事をするのが私たちの役目です」
淡々と喋りながら、清高はハンドルを切る。高級そうなホテルに入り、バックで車を停める。
「着きましたから、降りて下さい」
シートベルトを取り清高が、先に降りる。美絵も慌てて取り、降りた。変に鼓動が早くなる。
入り口に入り、受付に立つと目の前に部屋の写真がいくつも貼ってあった。明かりが付いている写真と、付いていない写真がある。
「どの部屋がいいとかあります?光っている所が、空いているって感じですけど」
美絵は真っ赤になった。縮こまって、黙っていると清高は肩をすくめ部屋を勝手に決めた。写真の下にあるボタンを押すと、光ってた明かりが消えた。カーテンが閉まっている受付から、手だけが伸びた。女の手には、カードキーが握られている。清高はそれを受け取ると、美絵に顔を向けた。
「さぁ、行きますよ」
先を歩く清高に、美絵は慌ててついて行った。

明宏は誠の家に着くと、手を離した。
「お前、何なんだよ!」
誠が突っかかると、明宏はため息を付いた。
「誠君、まだ美絵ちゃんの事好きなんやろ?」
「だったら何なんだよ!」
誠は少し頬を赤くした。明宏は、軽く頭を掻いた。
「俺は、美絵ちゃんをただ一度でもええから抱きたいって思った。ただそれだけや。安心せぇや、婚約は俺の方から断っとく」
誠は拍子抜けした。
「元々美絵ちゃんや無くても、断るつもりやった。親父に無理やり連れてこられたからな、行くしかなかったけど」
「可楽は、美絵の事…恋愛感情とかないのかよ」
「ないよ。そもそも、あったとしてもあの子は俺みたいな奴に落ちるわけないやろ。女遊びしまくってる奴にさ。それに俺、今好きなやついるしな」
誠は、気になった。男から見ても、カッコいいと思える明宏が心底惚れてる女とは。
「好きな奴って…」
「メグや。まぁこっちもダメ元やけど」
「えっ!だって、姉崎さんは…俺に告ってきて…」
明宏は下を向いた。
「あぁ、そうや。何としてでも、お前が欲しいんやろうな。俺はただのセフレ、相談相手。友達以上恋人未満…、そんな関係や俺たちは。メグは俺を恋愛対象になんか、見てない」
誠は、もどかしくなった。
「ダメじゃないだろう。ちゃんと言えば」
「メグの家柄知ってるか?大手の資産家の令嬢や。俺やて大手の息子や、でもな住む世界が違いすぎる。俺は全国、かたやメグは世界や…。規模が違いすぎる、届かへん」
「そんなの関係ないじゃん!」
「メグはもう結婚する相手は、決まってる。ああ言う家の子は、許嫁から逃げれんのや。その男と結婚せな、将来が潰れるからな。それが、メグの親の仕事と何も関係あらへんITの社長の息子と結婚してどないする?」
誠は押し黙った。難しい関係だ、関係ない何て簡単な言葉では片付けられない。
「君達ととちゃうんや。そりゃ美絵ちゃんやて、剣道道場の跡継ぎって言う大きな使命があるさかい結婚はよせんとまずいのも分かる。本当、真中里志が生きてたらよかったと誰もが思うやろうな」
誠は下を向き、唇を噛み締めた。俺じゃ無くて、里志だったら全て事がうまく行ったのは理解できる。
「まぁ過去を後悔しても、仕方ない。俺は無理かも知れへん。けどなお前はがんばり次第で、また戻れるかも知れへんのや。諦めずに、まず剣道頑張りや」
明宏は誠の背中を、軽く叩くと歩き始めた。少し下を向いていた、誠がパッと顔を上げる。
「可楽も、姉崎さんに言えよ!ちゃんと、好きだって!」
誠の言葉に明宏は、手を振った。

部屋に入ると、清高はジャケットを脱ぎネクタイを緩めた。美絵はその行動を見つめながら、胸を押さえた。
本当何をやっているんだろう、自分は。後悔とまた会えたのと、二つの想いが重なり変に鼓動が高鳴る。
躊躇っていると、清高は美絵の目の前に立った。美絵の両肩に手が乗ると、ピクリと肩が揺れる。
「脱がないんですか?それとも、嫌でした?」
美絵は唇を噛み締めながら、ゆっくりと首を振る。嫌じゃない、そんなの十分分かってる。どんな形でもいい、清高に会いたかったのだから。
「会いたかったです。でっでも、したら…忘れられなくなります。だっだ、だから…」
小さく消え入りそうな声で、美絵は言った。もう既に忘れられなくなっている、だがここでまた体を重ねたらまた強く求めてしまいそうな自分がいる。恋愛に関しては、そんな強く意志を保てないのだ。結局は別れたはずの誠だって、気にならない存在になってもないし。剣道みたく、自分を保ってられない。
「そうですね、なるかも知れません。ですが私達は、この先は許されませんよ。だから、今日は優しくしません。嫌われる様に、無理矢理でもしますよ」
そう言うと、清高は美絵の服を左右に引き千切った。強くベッドに突き飛ばした。美絵は倒れ込む様に、ベットに転がる。可愛らしく、柔らかそうな2つの双丘が揺れた。ゆっくりと清高がベットに乗って来て、美絵の胸を握った。荒々しくブラをたくし上げると、ピンクの乳首に強く舌を当て噛みつく。痛みと快感の両方が、美絵の体を刺激する。痛くて、気付かぬうちに美絵は清高の手に爪で傷跡を付けてしまった。
それに気づき、美絵は手で口を覆った。その傷をゆっくりと、清高は舐めた。顔は笑みを帯びていた。美絵の顔に血の気が引いた。
「もっと抵抗しなさい。鈴風美絵」
その言葉に美絵は、冷や汗が流れる。
あの時と一緒だ。里志が美絵を拒絶するために言った、あの言葉と一緒だ。
何でこうも自分は、好きになった人に拒絶されなければならないのだろう。

もう外は暗くなっていた。疲れたのか、辛かったのか分からない。脚がふらつき目は虚。門に寄りかかり、鉄の音が少し響いた。
誠はその音に気づき、家から出た。薄暗い街灯に照らされた、ポニーテールの後ろ姿。肩が微かに震えていた。誠は唾を飲み込んだ。
「美絵…」
喉の奥から絞り出した、掠れた声。その声に気付いたのか、美絵はか細い声を発した。
「私は…、馬鹿なんだ。好きになるって…本当…、もう…いや」
振り向かず、ただ語る。あんなに強い美絵が今にも崩れそうで、誠は手を伸ばし後ろから抱きしめた。
美絵がその腕に齧り付いた。誠の腕に、一粒の涙が当たる。
「離せ!私はっ私は汚い!こんな…」
「汚くなんかない!美絵は、綺麗だ。俺が保証する。だから、恋が嫌なんて言うなよ」
美絵の手が一瞬弱まった。誠は、更に強く抱き締める。
「俺は何度だって、美絵を愛する。誰に抱かれようが、汚されようが。それを俺が、塗り替えてやる!全部、だから…また俺を美絵の横に置いてくれよ」
「何で!私、誠に酷いこと言った!別れてくれって、縛りたく…ないんだ。だから」
「縛れよ!俺は美絵にされるなら、天国だ。好きなんだよ、諦められない。美絵のためなら、剣道だって跡継ぎだって嫌じゃない」
美絵が誠の方に、顔を向ける。誠は待っていたかの様に、近づき唇を奪った。
1ヶ月ぶりのキス、誠はむせる様な吐息に溺れて貪る様に何度も重ねた。
「離してくれ…」
唇が離れたと同時に美絵は、ボソリと言った。誠の腕が離れた。
「外で、こんなことするな…。恥ずかしい」
照れた顔、いつもの美絵だ。誠の口元が、緩んだ。
「じゃあうちに入る?母さん寝てるし」
「なっ、無理なこと言うな!」
誠から距離を置き、そそくさと美絵は自分の家に入って行った。
悶々としてたが、振られたため仕方なく誠も家に入った。

休日、メグは明宏のアパートに来ていた。
「コーヒーでええか?」
「あっうん。ありがとう…」
差し出されたマグカップを、メグは照れた笑みで受け取る。一口飲んだ。
「もう、家の方は平気なんか?」
「うん。話し合いして、パパは私がやりたい様にしていいって。モデルも多めに、観てくれた。ママは黙ってるけど、あの人は納得しないだろうな…」
マグカップを机に置くと、メグは膝を抱いた。
「でも、あれからパパの暴力は無くなったよ。ありがとう、正直あんたがここまでしてくれるとは思ってなかった」
「俺は何もしてへんで。やったのは律次や。俺らは門の前で、ぼーと観てただけや」
「そうだけど、違くて。私の事、心配してくれてって事よ。それだけでも感謝してるの」
少しツンとした声に、明宏は顔に赤みが差した。
「なぁ、まだ宮島君の事…好きなんか?」
ぽそりと明宏は呟いた。
「当たり前じゃない。何よ、いきなり」
「あれは無理やろ。どう足掻いても、どうせ頭の中は美絵ちゃんでいっぱいや」
メグは下を向いた。足の指を、モゾモゾと動かす。
「分かってるわよ。でもあいつ何でも完璧なのは、許せないの。何か一つでもいい、奪ってやりたいの」
「そんなのどうでもええやん。メグが傷付くだけや」
明宏はつい、メグの左肩を掴んだ。メグは驚いた。
何で、自分が傷付こうが明宏には関係ないのに。そんな事言うなんて、おかしい。
「どっどうでも良くないわ。プライドが許せないもん。それに私、どうせ婚約者と結婚しなきゃならないし。せめて最後に、恋したいのよ」
いきなり、明宏はメグを強く抱きしめた。メグは焦ってもがく。
「ちょっと!何すんの、離してっ!明宏ってばー」
「なぁ、俺じゃダメか?順序間違うたけど、セフレ辞めて恋人になろうや」
その言葉をきき、メグは力を込めて明宏を離した。
「何よ、自分だって婚約者いるくせに。鈴風さんで、良かったじゃない。私を愛人みたいに置いときたいから、そんな事言うの?まぁそのまま結婚してくれれば、私は素直に誠君を恋人に出来るから嬉しい事よ」
「本気や。美絵ちゃんとは婚約者はやめる。元々、俺らは納得なんかしてへんのや。美絵ちゃんは、宮島君とより戻す。せやから、俺と付き合ってほしい」
メグが後ずさる。
「なっ何よ、いきなりどうしちゃったの?どっか頭でも打った?」
「どうもしてへん。もうセフレとは、全部縁切るつもりや。お前がええ、好きなんや」

美絵は、誠の家のインターフォンを鳴らした。バタバタと中から音がして、ドアが開いた。顔を少し熱らせた、誠が顔を出す。誠の喉仏が、ごくりと動く。
美絵が少し照れた顔で、その姿を見た。
「美絵、急にどうしたの?」
「あ…いや、話したいなと思って。お前と、ちょっとな」
誠は家に入れた。少し遅れて、後ろに着いてくる美絵をチラチラ見ながら居間に連れて行く。緊張と心臓の音が止まらない。
美絵の足が止まった。ふと外を見つめる。誠もつられて、止まった。
「ここで、姉崎さんと…キス…したんだな」
美絵の呟きに、誠はドキリとした。
「なぁ、あの後…何した?」
ゆっくりと誠の方を向く美絵の瞳に、誠は顔を真っ赤にした。メグとの事が、頭の中に蘇った。
「なっ、な、何でそんな事っ気になるの?」
咄嗟に出た答えが、それだった。美絵はハッとして、慌てた。
「いや、えっと…そうだよな。変だな…でも、妙に気になって。彼女でもないのに、本当…」
誠はためらった。正直に言えば、嫌われる。でも言ったら、どんな反応するんだろう。冷や汗が頬を伝った。でも次の言葉で、誠は我を失った。
「もしかして…、えっと…その、先とか…」
「しっしてない!するわけ無いじゃん!俺美絵一筋、なんだし。そりゃ、抱きつかれたり胸見せられたりしたけどっ…」
誠は急いで、口を抑える。美絵の顔が青ざめる。
「抱きつかれる?胸?…」
誠は焦った。言うつもりではなかったのに、口が滑ってしまった。美絵の肩から、バッグが落ちる音がした。
「ごめん!でも、俺全然反応しなかったし!やまっ」
美絵が、いきなり抱きついてきた。誠の体に電気が走った。鼓動が壊れるくらい、うるさくなる。
「みっみ、み、美絵!あっあの、そんな事されたら…俺」
「どういう風に、見せてきたんだ?」
美絵は誠と目を合わせなかった。誠は何度も唾を飲み込む、平常心でいられる様に。でも何で、そんな事聞いてくるのか分からなかった。
「どうしちゃったんだよ。美絵?」
誠は美絵の肩を掴み、引き離した。
「分からない。でもなんか嫌なんだ。姉崎さんと何したって、私には関係ない…はずなのに。あれ見てから、気分良くなくて。イライラしてる」
誠はゆっくり、美絵の顔を覗き込んだ。泣いてはいないが、辛そうな顔だった。
「私はっ、姉崎さんの言う通り…欲張りだな。なっなぁ…ま、誠…」
真っ赤な顔を美絵は、誠に向けた。誠も同じ顔をしてた。誠の震えた手が、美絵の髪の毛を撫でる。
「どうしたら、良いんだろうな…。この感じ、どうしたら…消えるんだ」
誠はゆっくり口を開け、顔を美絵の方に近づけると可愛い唇を塞いだ。確かめるように、時間かけて離れる。
「こうすれば、消えるんじゃねぇ?」
美絵は下を向き、黙り込んだ。誠はかがんで、美絵の顔を覗き込む。
「なぁ、美絵の顔を見てたら…したくなったんだけど。駄目…?」
美絵が顔をあげる。
「美絵ばっか、ずるいじゃん。禁欲してたのに、美絵は可楽としやがって」
「やっ誠!見てたのか」
「見たというか、聞いてた。そして、オカズにしてた」
それを聞いて、美絵は顔面真っ赤にし誠の頬を叩いた。
「おっお前はっ!ど、どこまで、へっ変態なのだ!」
「美絵限定の変態だけど」
美絵がもう一発殴ろうと、手を上げるとその手を誠は掴んだ。誠の唇が、美絵の片耳に近づく。
「好きな子に対して、変態になるのは男として当然じゃない?」
誠はねっとりと、美絵の耳を舐めた。美絵の肩がビクリと動いた。美絵の唇を噛み締めて、声を我慢している顔を見ると誠はゾクリとした。
興奮した熱が、身体中を駆け巡る。もう無理だ、誠は畳の上には押し倒した。
「まっまこっ!」
興奮した顔で、誠は自分のワイシャツのボタンを外してく。美絵の口から荒い息が漏れた。
「もう限界、無理」

「ここの硬式は、これを使って」
休みの日の、市が運営している図書館。そこでカナタと智瑛理は受験勉強をしていた。苦手な数学を一つ一つ教えて貰いながら、智瑛理はメモし頷く。
「あっ解けた。ありがとー」
「凄いじゃん、じゃあ次の問題行ってみようか?これはさ…」
ノートと教科書を見ながら、丁寧に教えてくれるカナタ。智瑛理はその横顔を見つめながら、気合を入れる。
今日は勝負服できたつもり。谷間が見えそうな服、見えないけど…。膝上のスカートに絶対領域の靴下。下手だが、これでも頑張ったつもり。下着だって、一応勝負下着にしてきた。付き合って2ヶ月以上経過してる、そろそろ、恋人らしいことしたって…。まぁカナタには勉強終わるまでやらない、とは止められたけど…。我慢なんて自分に合わない。
智瑛理は唾を飲み込み、ジリジリとカナタに近づき腕を絡めようとゆっくり手を伸ばす。
「智瑛理ちゃん、聞いてる?」
「ふえっ!」
いきなりカナタが振り向き、智瑛理は思わず変な声を出し、両手を上げてしまった。周りが静かで、自分だけ変。恥ずかしくて、穴があったら入りたくなった。
「聞いてないみたいだね…。明後日テストだよ」
呆れた顔に、智瑛理は縮こまり真っ赤になりながら頷いた。
「あっ、もうこんな時間かー。ごめんね、この後僕さ用事あるから」
腕時計をチラリと見て、カナタはバッグに筆記用具を仕舞い始める。
時計は12時になろうとしてた。
「え?何かあるの?」
智瑛理はこのまま一緒に、ランチとかしたかったのにと心の中で思った。荷物をまとめると、カナタは席を立った。
「母さんの命日。お墓参りだよ」
智瑛理は立ち上がった。
「ねぇ、それわたしも行っていいかな?」
カナタはキョトンとした。
「ほら私、彼女だし報告?見たいな」
笑顔で言うと、カナタが智瑛理のおでこに人差し指先を当ててきた。
「何言ってんの。それより勉強しなよ。その調子じゃ明日、赤点だよ。そうなっても僕知らないからね、努力してよー」
「は、はい…」
荷物を持つとさっさと行ってしまったカナタの後ろ姿を、智瑛理は寂しそうに見つめた。
結局失敗、自分ってそんなに色気ないのかな。そう思ってしまう。智瑛理は重たいため息を付き、ノートを見つめた。
「そっけないなー。私、そんなに魅力ないのかな…」
カナタと付き合えてるだけ、贅沢なのに更にその先を求めてしまう。自分だけ経験してない、キスもセックスも…。男嫌いな姉ばかり経験値を上げて、自分は違うのに。やっぱり男は、顔とスタイルを見ているのだろうか。
「私だって、お母さん似で産まれたかったな…」
お母さんはおっとりしてて、顔も歳の割には綺麗だ。自分みたいなのが、カナタはどこがよかったんだろう…。明るくて可愛いからとは言われたけど、それ本当?って思ってしまう。今まで彼氏居なかったし、出来たらハードル高い相手。どうすればいいか分からない。姉には言えない、カナタは前姉目的で自分に近づいて来たからだ。変な嫉妬、早く消したい。智瑛理は、荷物をまとめると席を立ち図書館を出た。
バッグからスマホを取り出す。耳に当てた。
「あっ、初子?私、うん。今から…会えない?」

誠は、畳の上に倒れ込んだ美絵の肩を掴んだ。本当、何やってるんだ…。
「優しくして」
誠は、ビックリして美絵を見た。恥ずかしそうに、目線を逸らしていた。
「やっやるのは…、構わない。けど、優しくして。私…忘れたいの、ぬり変えて…くれるんだろ?」
誠の肩が揺れる。自分が昨日言ったことだ。
誠は美絵の、頬を撫でた。忘れたいのは、清高の事だろうか?
「ああ、俺が…ぬり変えてやる」
美絵の唇を強めに奪った。1ヶ月ぶり、ヤバいくらい体が反応する。触るたび、熱を持つ男の中心。美絵の口の隙間から、甘ったるい吐息が漏れる。熱い、誠は乱暴に自分のシャツを脱ぎ捨てた。火照って、汗が滲んだ。上下する裸体に、美絵の片手が触れた。
「あ、熱いな…。ちょっと、熱…持ち過ぎ」
美絵に触れられて、また興奮する。
「誰のせいだよ」
「あっ……ん、んっやぁ」
誠は優しくしたかったのに、勢いよく美絵の胸を掴んでしまった。興奮が抑えきれない、もっと触りたいし、声も聞きたい。無意識に体が、急かす。
「もっと、聞かせて?美絵の…その声…」
美絵のTシャツをたくしあげ、ブラ越しに両胸を揉んだ。上に持ち上げる度、溢れそうになりピンクの可愛い蕾が見え隠れする。美絵は蕾にブラが擦れ、もどかしそうに体をくねらせる。
男嫌いで意地っ張り、ぶっきらぼうで恋愛系には疎い彼女が随分エロくなった。相当、無理がある我慢なんて出来やしない。
ブラの下に手を忍ばせて、摘むと美絵の体がビクリと跳ね上がった。待っていたかのように、ねだる様に目を潤ませてきた。可愛くて仕方なかった。美絵の両手が、誠の首の後ろに回った。
「ねぇ、ブラ…取って…。苦しい…」
誠の顔が真っ赤になった。甘えて来てる、初めてだ。心臓が爆発しそうになる。震える手を堪えて、美絵の背中に手をやった。外すホックがない、何度も背中を摩ってしまい焦った。美絵が誠の手を掴み、前に持っていく。ブラの中心に誠の手を置いた。
「ここっ。フロントフック…」
誠はドギマギしながら、外すと美絵の傲慢な胸が揺れた。誠は破壊力の半端なさに、目を逸らした。心臓に悪いとにかく今日は、殺される。
「どっどうしたの?やけに今日…かっか、可愛い…」
「いや…か?」
美絵の恥ずかしそうな問いに、誠は勢いよく首を左右に振った。
「嫌じゃない。むしろ…」
誠は美絵の胸の間に、顔を置いた。鼓動が聞こえる。正直どっちのか分からないくらい。
「ヤバすぎ」
美絵は少し起き上がると、誠を見つめた。誠の頭が動き、舌が美絵の乳首に触れた。強く擦れば、美絵はまた畳に倒れ込んむ。畳は結構痛かった、素肌に擦れるとジンジンする。美絵が目を閉じて、我慢してると誠が抱き上げた。
「痛かったらなら、言ってよ。続き、ベッドでするから」
誠は美絵をお姫様抱っこすると、二階に上がった。部屋に入るとドアを閉め、美絵と唇を重ねた。そのまま歩き出すと、キスを止めると同時にベッドに美絵を下ろす。緊張する、なんせ美絵とセックスなんて1ヶ月ぶりだ。焦る気持ちをなんとか堪える。優しく、優しくしなきゃ…そればかり頭を駆け巡らせる。
胸を手で揉みながら、顔が下にいく。片方の手でスカートを捲れば、可愛らしいショーツが出迎えた。下着越しに舌を這わせた。美絵の体がビクリと、跳ね上がった。
「ばっばか。そっそ、そんなとこ…きっ汚い…」
「汚くない。それに、気持ちいだろ?」
美絵は片方の腕で自分の口を塞ぎ、もう片方の手で誠の頭を抑える。
「美絵…、入れるよ」
誠の舌が離れ、糸を引く。すっかり甘い液体と誠の唾液で汚れた、小さい布を剥ぎ取る。美絵の秘密の底は、たっぷり潤んでいた。美絵は恥ずかしくなり、手で隠そうとする。誠は直ぐにその手を跳ね除け、大きく昂った物を一気に差し込んだ。その瞬間、2人同時に仰け反った。

スムージーのお店の前で、智瑛理はベンチに座り下を向いていた。その姿を見て、友達の初子がため息を付いた。手には、緑色のスムージーとピンクのスムージー。ピンクの方を初子は、智瑛理に渡した。彼女はゆっくりと手を伸ばし、受け取る。対面に初子が座った。ストローをクルクル回し、頬杖をつく。
「で?どうしたの?今日は、彼氏と勉強会じゃなかったけ?」
智瑛理は、小さく頷く。その姿を横目で見ながら、初子はひと口飲み物を飲んだ。
「10時に会って、12時に解散とか…。恋人同士だとちと、解散するの早くない?まぁ、私の感覚だけどさ。なんかあったの?」
「お母さんの命日で…、お墓参りだって…。私も付いて行って良いかって聞いたら、駄目…って言われた」
「そんなの、ランチ食べた後でも行けるじゃん。まぁ付いて行って行けないのは、あっちにも何かしらあるのかもだけど…。と言うかそれ、本当の理由なのかね~。嘘だったりして」
智瑛理は今にも泣きそうな顔で、初子を見つめた。最後の言葉がいけなかった。初子は急いで苦笑いをして、顔の前で手を振った。
「冗談よー、ごめんね。不謹慎だったわ。そうよね、不安よね。でも私も分かるわ、カナタ君ってああ言う性格なのかしら」
「それって、どう言うこと?」
「んー、何かさ智瑛理に対して冷たすぎると言うか…。確かにうちら受験生だし、勉強第一って言うのは分かるよ。でもさ、そうでも何で恋人らしい事1つもしてないんでしょ?」
智瑛理はまた下を向き、頷く。
「手繋ぎや、ハグもやってない…。キスもその先だってまだ…。言いたいけど、約束したし言えなくて。もう付き合って、2ヶ月以上たってるのに」
智瑛理は無意識にカップを、強く握りしめていた。
「友達と恋人は、違うもん。1つくらいはしたいよ…」
初子が立ち上がった。智瑛理の腕を引っ張る。智瑛理は、反射的に初子を見た。
「言うのよ、はっきり。約束なんて知ったこっちゃない。付き合ってんでしょ?恋人の意見聞かないで、一方的に自分のこと押し付けるなんて変よ」
「だっだけど、何処にいるか…知らないよ。お墓の場所だって、家も」
「馬鹿ねー、スマホあるでしょ?電話しなさいよ。躊躇う理由あるの?嫌われるの怖がってるようじゃ、恋なんかできないわよ」
うじうじしていると、初子は智瑛理のバッグに手を入れスマホを取り出した。智瑛理は慌てた。
「暗証番号は?」
「ねぇ、やめようよー」
智瑛理の手をかわし、初子は試しにカナタの誕生日を打った。見事にロックが解除された。
「単純…」
その言葉に、智瑛理は顔を真っ赤にした。尚も抵抗する智瑛理の手をかわしながら、初子は彼女のスマホに耳を当てた。
『もしもし。智瑛理ちゃん、どうかした?』
カナタの声だ。智瑛理の手が止まる。
「もしもし、音咲初子よ。智瑛理のスマホ借りて、あなたに連絡したの」
沈黙。智瑛理は、この世の終わりの様な顔をした。
「カナタ君、まず一つ質問。本当にお墓行ったの?」
『音咲さん…、何で?あーうん、お母さんのお墓行って今帰りにお弁当選んでるけど…』
「何処のお店?今から時間あるなら、あけなさい!話があるの」
少々声を上げ、初子が言う。智瑛理は焦る。
『えっ、だってご飯まだだし…。お店というかコンビニで、僕今…浅草だよ』
「私たち今竹下通りだから、40分位でそっち着くわ!ご飯私たちもまだだし、なんなら一緒に食べましょ?いいわね!」
カナタの返事も聞かず半ば強引に決め、初子は通話を切った。また初子は、智瑛理の腕を引っ張った。
「ほら、立って。行くわよ」
智瑛理は引きずられながら、初子と一緒に駅に向かった。

「お昼、パンケーキくらいなら焼くけど食べる?」
誠がジーパンに足を通しながら、言う。その時、布団がモゾモゾ動いた。美絵の頭が少し見えると、誠は愛おしげに撫でた。
「服着たら、下来て。作ってるから」
服を着ながらベッドから立ち上がると、誠は部屋を出た。美絵はゆっくりと布団から出て、散らばった下着やら服をつかみ着直した。
下に降りて、リビングに行くと甘い匂いがしていた。
「もう出来るから、座ってて」
ターナーを持ちながら、誠が言う。頷いた美絵の顔が、少し赤くなっていて、誠も釣れて顔を熱らせた。
美絵は椅子に座って、髪の毛をポニーテールにした。机の上に誠が、お皿に乗ったパンケーキを置く。
誠にどうぞと言われ、美絵は一口食べた。甘くて美味しい。
「お前…、料理出来るんだな」
目だけ誠に向けた。誠は苦笑いしながら、パンケーキを口に運ぶ。
「まぁ、母さん仕事で忙しいし。お昼とか晩ご飯とか良く、1人で作ってた事あるし。簡単なものだけどね」
誠はナイフとフォークを下ろした。もう一口食べようとしてた美絵に、声を掛ける。
「なぁ、可楽と婚約破棄するの…本気か?」
美絵は食べるのをやめ、お皿の上に置いた。
「ああ。私は好きでもない人と共に歩み、子まで産みたくない。それに、相手の条件が私は嫌だった」
美絵は下を向く。誠は両手を塞いでいた物を、お皿に置く。
「子は必ず2人以上、片方は可楽家の跡取り。もう1人は、こっちで自由にして良いと。許せなかった、子をまるで道具の様に言うそのざまが…。あの親は、私達を未来を創る、カードとしか見てない。可楽さんが誰と結ばれようと、関係ないのかと言いたげな」
「可楽は、姉崎さんが好きだと言ってた。でも叶わないんだって…。寂しすぎるよな、それもこれも…。でも、それで」
美絵が顔を上げる。誠の拳が震えていた。
「美絵はどうするんだ?恋人も作らず、跡継ぎを急かされてるんだろ」
「分からない…。何故、急がせる。私が病気で早死にする体だとか、そういう事も無い。
正直、私も誰と子を産みたいかも分からない」
誠は辛くなった。子を産むなら、ここに居るのに。自分だったら、何時でも構わないのに。選んでくれない。
「やっぱり、里志が良かったのかよ。あいつだったら即答だったのかよ!」
美絵の目が大きく開く。誠の口調が強くなる。なに苛立っているんだ、自分が必要としてされなかったからか?
誠の心はどうにかなりそうだった。抱いたのに、さっきまで自分の中で甘い声出して鳴いてたのに。それでも分からないと言ってくる、美絵に苛立っているのか。
「落ち着け、何怒ってるんだ。もう居ない人の事を、嘆いても…仕方ないだろう」
「嘆いてるのは、そっちじゃないか!結局、一生忘れられないんだろ!今まで忘れなくて良いなんて、言ってきたけどそんなの無理に決まってる!分かれよ、俺は美絵が1番なんだよ!美絵も俺を1番に選べ」
「そうだな…。縋ってるのは自分だ。里志さんを思い出すたび、張り裂けそうになる。仕方ないだろう、好きだったんだ初恋だったんだ」
「俺だって、美絵が初恋だ!美絵が奴を忘れられない!だったら、だったらっ可楽と繋がればいいだろう!」
美絵の口が止まる。誠はもう止められなくなった。
「可楽は、里志と瓜二つじゃないか!声だって、顔も…。悔しいくらい、俺じゃ駄目なら可楽と居れば里志のっ」
「なんで!なんで、そんな酷いこと言うんだ。可楽さんは、里志さんじゃない!それは駄目だ、似てるからこそ一緒にいては駄目だ」
美絵は耳を塞ぎ、頑なに拒んだ。
「帰る、最悪だ」
美絵はパンケーキを残し、誠の顔を見ずに荷物を持つと家を出た。
なんで自分でも言ってしまったのか、理解ができない。怒りに任せ言い放ってしまった。やっと、手に入るチャンスだったのに。
誠は頭を抱えうずくまった。
「可楽の所には行くなよ、美絵…」

3人は1つのカフェに居た。智瑛理は初子の横で、ずーともじもじしている。
「何でさ、智瑛理と恋人になったの?」
初子の言葉に、智瑛理はハラハラした。カナタはニコニコしながら、2人と対面で座っている。
「好きだから、付き合ってるんだよ。そういえば、音咲さんって僕の事追っかけしてたよねー。何、僻んでんの?」
初子は真っ赤になり、机を叩いた。
「ちゃっ、茶化さないで!昔の話は、どうでも良いでしょ!」
「初子、止めようよ。お店の中だよ」
初子は咳払いをした。智瑛理はため息をつく。
少したち、食事が運ばれてきた。
「食べよっか、ここ結構美味しいんだよ」
「なんでこんなフェミニンな店、美味しいとか知ってんの?」
「来たことあるから」
カナタが一口パスタを食べる。初子がハンバーグをナイフで切る。
「へぇー、誰と?」
「美絵先輩」
その言葉に智瑛理の手が止まった。冷や汗が流れる。
「それっていつ?」
智瑛理が下を向き、声のトーンが下がる。自分とはランチしなかったのに、姉としたんだ…。ふつふつと頭の中が、暑くなるのを感じる。
初子が、その様子を心配そうに見つめた。
「んー5月かなー。だから、2ヶ月くらい前」
まだ付き合って、間もないくらいの時だ。まだ姉と関係してたんだ。と言うか姉目的は、変わっていない?
「いつかさ、智瑛理ちゃんと行きたいなーって思っててさ。ここの雰囲気好きそうだし、だけど男1人で入りずらいし。丁度その時ばったり会ったから、下見兼ねて偵察した感じ」
智瑛理は、ハッとして顔を上げた。熱が一気に下がった。確かに好きな雰囲気だ。自分の事を思って、やった事なんだ。理解出来て嬉しかった。
「美絵先輩なら、変な感情持たずに付き合ってくれるから助かるよ。ごめんね、変な事でお姉さん使っちゃって」
智瑛理は首を詰め振った。恥ずかしくなった。その感情を消す為、スプーンを動かして食べた。
ある程度3人は食べると、初子が切り出した。
「本当に、好きならなんで何もしないの?」
「だって僕たち受験生だよ。恋とか、うつつ抜かしてる暇とかあるわけ?ただでさえ、智瑛理ちゃんはギリギリなんだしさ」
智瑛理の喉にドクリと、苦い物が流れ込んできた。カナタの目が自分の顔を、試す様な目で見ている気がした。
「それでも、もう直ぐ夏休みよ。それに最近、智瑛理の成績も上がってる。知ってるでしょ?頑張ってるんだよ。少しくらい、良いじゃない…」
初子は訴えた。自分の事でもないのに…。
「甘えないでよ。維持できる実力あるとでも?智瑛理ちゃんは、流されやすいし」
「あんた、普通好きならしたくならないの?そう言う事したら、この子はどんな顔してどんな声を出すのだろうとか」
「何それ。って言うか、それが全てじゃないだろ?愛とか人それぞれなんだし。僕がどんな風な恋愛しようが、音咲さんには関係ないと思うけど」
カナタは、初子を睨みつけた。2人は凍りつく。子犬の様な彼が、いきなり牙を剥き凶変した。
「僕は、綺麗なもの以外そばに置きたくないし。興味ない。ただそれだけの事」
カナタは小さく「ご馳走様」と言い、席を立つとお札を3枚机に置いた。
「それで払っておいて。お釣りはいいから。じゃあね」
「ちょっと待って!そんなんじゃ、答えになってない…じゃない…」
初子が声をかけたが、遅かった。もうドアに手をかけ、言い終わる頃には外にカナタは出ていってしまった。
「……要するに、私に触りたくないんでしょ?お姉ちゃんならよくて……、私じゃダメなのって…やっぱ容姿?文武両道?」
「智瑛理…」
初子が、下を向き呟く智瑛理を辛そうな目で見つめる。
「それともまた、利用してるの?私と居れば…、お姉ちゃんに会えるから…。なんで…みんな、お姉ちゃんなの…。私はっ私は…恋しちゃ…、いけないの?」
智瑛理の肩が震える。脳裏に「あー姉の失敗した方ね」と、カナタのファンから言われた言葉が蘇る。慣れてる。小学生の頃からそう言って、妬んでる人なんて同級生でいたのだ。綺麗でスタイル良くって、頭も運動も優れてて。自分とはまるで違う。恨んでた、でも心の奥底までは恨めなかった。家事全般、おしゃれや美容や恋に不器用な姉をほっておけなかったのだ。
美容やおしゃれは人一倍、努力している。なのにどんなに頑張っても、好きになった人は姉を見ていた。
「そんな、まだ分かんないじゃん。本当に智瑛理が好きって、言ってたじゃない。大丈夫よ、智瑛理は可愛いもん。私が保証する」
初子が、智瑛理の肩を持った。
「綺麗…じゃないでしょ?綺麗と可愛いは、違うもの…」
「それはっ、でも智瑛理の方がほら料理だって凄いじゃない。毎日お菓子、すっごく美味しいし。女友達なんて、智瑛理の方が多いんだから」
下を向いたままの智瑛理を、初子は説得した。初子はある事を思い出した。
「ねぇ、過去にさ一回告白された事なかった?高二の時に、確か小宮刹那くん。今バスケ部キャプテンの」
「……それが、どうかしたの?」
智瑛理が少し、顔を上げた。初子はほっとする。
「あれだって男子の中じゃ、顔綺麗な方よ。まだ智瑛理の事好きだとしたら。そっちに乗り換えるって話したら、カナタ君どんな反応するかしら」
「騙すの?その為に、小宮君を使うの?それじゃ…カナタ君と一緒じゃない…。私を利用して、お姉ちゃんに近づこうとした。それに私は、好きじゃないし小宮君の事」
「後から好きになるってことも、出来るわよ。乗り換えるって言って、簡単にさよならする様なやつかどうか確かめるのよ。それで本気度分かるでしょ?私が小宮君にまだ好きかどうか、聞き出すから。騙すんじゃないわ、お礼はなんでも良いじゃない」
それは、難しい事でやっていい事なのか分からない。でもカナタの気持ち確かめたいのは、本当。智瑛理は揺れた。
「手っ取り早くこれで行こ。明日学校で聴ける時、やってあげる」
初子の明るい声に、智瑛理は頷けないでいた。

大学、資料探しに美絵は図書室に来ていた。何冊か目ぼしい物を手に取り、本棚を見つめる。静かで落ち着く。美絵はここが、何気なく好きだった。
「後で、その本貸してくれるか?」
横から声をかけられ、振り向くと軽く手を上げた明宏がいた。
「俺も書くんだよ。美絵ちゃんと同じ、授業受けてたからねー」
「可楽さん…、大丈夫ですか?」
明宏はキョトンとした。美絵が心配そうに、顔を見つめる。
「顔、とても疲れてる様な…辛そうな目をしてますよ」
「あー、わり。そう見えた?何でもない、気にするな」
明宏は、少し目を擦った。美絵は小さく、ため息をつく。
「何かあったら、話せる相手に話すとスッキリします。本、後で貸しますね」
美絵は軽くお辞儀をすると、その場を離れようと踵をかえした。
すると空いてる手を、掴まれた。
「じゃあまぁ、気晴らしに聞いてくれるか?気が…、晴れるんやろ」
美絵が戸惑うと、手を引かれあいてる椅子に座らされた。明宏が隣に座る。
「昨日な、メグに告白したんや」
美絵がハッとして、顔を覗き込む。
「笑われたよ。やっぱ、あいつは俺なんかにそんな感情持ち合わせていなかったんや。セフレからの恋人なんて、あり得へんって。いいまで通りで行こうって、メグから言われて頷いてしまったんや」
明宏は下を向き、口元が揺れた。
「えげつないな、振られとんのに…。離れたくなくて、関係を切りたくない自分が居る」
「…私も、そうです。振ったのに、取られるのが嫌で繋ぎ止めようとしてる…。誠の事を」
美絵は遠くを見た。明宏が目だけ、美絵を見つめる。
「でも、あいつを縛りたくなくて横に置くのを拒みました。そしたら、可楽さんのところ行けって…逆上されちゃいました」
美絵は苦笑いをする。
「可楽さんは、里志さんと似てて。誠はいつまでも里志さんを忘れられない私を、知っているから。可楽さんといれば、里志と居るのと重なって幸せだろって…」
美絵の瞳が涙で光る。目を伏せた。明宏は顔を上げた。
「私は、似てるからこそ、一緒に居たくない。痛くなるんだ、多分死にたくなる。ましてや、子など産みたくない…。可楽さんは、里志さんじゃ無いんだから」
明宏が、美絵の頭を優しく撫でた。
「俺ら、あかんな。間違ってばっかや。美絵ちゃん、宮島君は美絵ちゃんのためなら何だって嫌じゃ無いなやろ。そや無かったら今頃愛想尽かしてる」
美絵は目を開き、明宏を見た。
「答えてやれや。宮島君、辛すぎるやろ?手を伸ばせば、手に入るんや。俺とはちゃう、メグは大学卒業したら結婚や。手が届かんくなる」
明宏は美絵の頭から手を離し、両手を固く握りしめた。
「知らん男と結婚して、そいつと子を成す。考えただけでも、はらわた煮えくり返そうや。でもな、それがメグの運命なんや。誰も変えられへん。でもそうや無いやろ、君たちは」
「可楽さん…ごめんなさい」
「謝ることあらへん。そんな事されたら、俺が辛くなる。同情されるのは、惨めや。元々知っとった事や。それでもええ、少しでもメグと恋人みたいな事出来たらなんて、淡い事考えてた自分が馬鹿やったんや」
明宏は、美絵の頬に触れると引き寄せキスをした。離れると、美絵は自分の唇を手で覆った。
「美絵ちゃんは、ええ女や。宮島君が必死で手放したく無いのは、理解できる。俺やて、メグがおらへんかったら心持っていかれたかも知れへん。だから、大丈夫や。宮島君をまた横に置いてやれ」
美絵は、涙を拭き取り小さく笑みを見せた。
「何か、私が慰めて貰っちゃいましたね…。本当は違ったのに」
「何や、俺の事慰めてくるのか?」
明宏の口元がニヤつくと、美絵を抱き寄せた。
「慰めてくれるんやったら、抱かれてくれるか?そしてかわええ声で、俺をもとめてくれるか?それが今の俺にとって、最高の慰めや」
美絵は、力を込め明宏を引き離した。
「そっ、それは聞けません。他の人に頼んでください」
「美絵ちゃんが、慰めてくれるんやろ?それに俺は、美絵ちゃんがええんや。ここ、最高やったからな」
明宏が、手を伸ばし美絵の太ももをいやらしく撫でた。冷たい掌が生足に触れ、ゾクゾクする。あと少しでスカートの中に、指が入ってしまいそうだ。
「ここはっ、図書室ですよ。そんな事するところでは、ありません」
美絵が顔を紅潮させ言う。明宏が微笑んだ。
「なら、して良いところいくか?医務室、またあの時みたいに」
「嫌です」
遠慮なしに近づいてくる明宏を、美絵は両腕で押し退ける。明宏はその腕を掴み、囁いてきた。
「やっぱ、かわええな。それ見ると婚約者断るの嫌になる。俺もいいかな?美絵の横狙っても」
明宏の囁く声が、また里志と重なって美絵の鼓動が大きく鳴り響いた。まるで耳鳴りの様に、うるさかった。









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