恋愛SP college

らいむせいか

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第二話 罠

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  次の日、美絵は朝まで妹の智瑛理と一緒に話したりして一緒に寝た。
智瑛理は今日も休むみたいだが、1人でいいと言ったので大学に向かった。
門を潜ると、誠が来た。
「美絵、昨日は大丈夫だった?」
焦った様子で追っかけてくる。昨日早く帰ったが、勇気が出ず美絵の家には行かなかったのだ。美絵は誠を見もせず、歩く。
「大丈夫だ。私が体調悪いとかで、休んだわけでは無いからな」
誠はそれを聞きながら走り、美絵の前に立って頭を下げた。
「ごめん!昨日の電話で、他の女の子のこと言って。怒ってるだろ?その事で、俺つい口が滑って本当悪かった」
周りがその光景を見てざわざわした。美絵は、それを見てあたふたする。
「ばっバカ!ここでそんな事するな、恥ずかしいだろう…。もうっ!」
美絵は呆れて、誠の腕を引っ張ると裏ってに連れて行った。人気が一気に無くなる。
「ちょっとは考えろ!変な噂たつ」
「ごっごめん…。でも怒ってるだろ、あの事」
美絵は壁に背をつけ、腕組みをした。
「まぁ、良い気分では無いな…。正直言うと」
「ほんっとごめん。俺、美絵とは別れたく無いから許して欲しい」
誠はまた頭を下げた。美絵が近づき、誠の顔を覗いた。
「本当にその子とは、何にも無いんだな?」
急に近くなり、誠は顔を真っ赤にした。心臓が壊れるくらいドキドキなる。誠は唾を飲み込み、頷いた。
「誠に限って無いとは思うけど。分かった、許すからこれからは無しにしろよ」
「うん、ありがとう。良かった…」
誠は安堵すると、美絵の腕を掴み顔を近づけると唇を重ねた。
誠の手が美絵の胸に伸びようとした時、美絵はその手を叩いた。唇が離れる。
「調子に乗るな。ここは学校だぞ」
誠は手を擦りながら、小さく舌打ちをした。
美絵はさっさと歩いて行ってしまった。

教室に入ると、美絵は友達に昨日の授業の事聞いていた。ノートにメモしている。友達という親衛隊だろう、色めきだってる。美絵がお礼を言うたび、女子が黄色い声をあげていて戸惑っていた。

その頃家では智瑛理が布団の中でモゾモゾと動いていた。スマホの着信音が鳴り響く。
通話ボタンを押し、耳に当てた。
「….はい、もしもし」
『智瑛理ちゃん?大丈夫?今日も休みって聞いたけど…』
相手はカナタだった。智瑛理の目に勝手に涙が溢れた。1番聞きたかった声でもあり、話辛い相手でもある。不安な気持ちが一気に込み上げてきた。
「平気じゃ無いよー!カナタ君が…うぅ…」
泣きながら喋ろうとしてて、言葉にならない。つい本音が出てしまった。言いたくなかった、平気じゃないなんて…。
『わかった、学校終わったら智瑛理ちゃんの家行くよ。それで元気出して。そんでさ明日からは学校来て、あんま休むと後に響くよ』
智瑛理の心臓がドクっとなった。呆れたような感じの声に聞こえたからだ。違う、そんな言葉を聞きたかったわけじゃない。優しく慰めて欲しかったのに…。返って、カナタを困らせた?
智瑛理の不安がどんどん膨らんだ。汗と涙が止まらなくなる。
智瑛理は切れた電話を、耳から離せないでいた。
「智瑛理大丈夫だって?」
隣にいた智瑛理の友達の初子が、カナタに聞く。
「分かんない。とりあえず家に行くとは言ったけど…」
「言い方きついよ。それ、先生みたい。休みすぎると後響くとか…」
初子は怒った声で言った。カナタはポケットにスマホをしまった。
「だって本当のことじゃん。僕ら3年生だし、大学受けるなら単位と出席日数はちゃんとしておかなきゃ」
「そうだけど、違うじゃない。もっと優しい言葉かけるとかさ。労るとか、彼氏なんでしょ?」
「甘えちゃいけないよ。智瑛理ちゃん体調不良で、休んでるわけじゃないみたいだし。そう言う場合は、強めに言わないと」
初子はイライラして言い返そうと思ったが、辞めた。これ以上言ってもまた言い返される。初子は窓の外を見つめて頬杖をついた。

学校の授業が終わり、美絵は階段を上がると部室に向かった。
今日は部活がないが、掃除当番だったのだ。道場に入ると、掃除道具を取り出し箒で畳を履く。小さいので、1人でやれる。
30分やり一通り終わると、少し休んだ。
ふとドアが開く。
「あっ鈴風さん、初めまして」
入ってきたのは見たことない女子だった。美絵は軽く会釈をした。
「私、姉崎メグって言います。よろしくです。ちょっとあなたの彼氏さんと、仲良くなりまして…。それでまぁ一応、彼女さんに了解得た方がいいかなと思いまして」
メグは笑顔で、美絵の前に立った。
美絵はこの子かと言う顔で、メグを見た。誠の話に出てきた、女の子だ。確かに可愛い。
「そんな事、大丈夫。気にしなくて…」
美絵は苦笑いした。改まってもらうと逆に困る。
メグは周りを見渡して、声を出した。
「すみません、掃除中だった?邪魔しちゃって。そうだ、このジュース私イメージモデルやってるの。良かったら飲んで」
メグはバックから、ペットボトルのジュースを出し美絵に差し出した。
「あっありがとうございます」
断るのも悪いと思い、美絵は躊躇いながら受け取った。メグは終始笑顔でどーぞとやっていたので、流れ的に飲んだ。
「美味しいですね、ありがとうございます」
「いえいえ、お口に合ったようで何より。では、私失礼しますね。お掃除も頑張って」
メグは手を振りながら、道場を出た。何だったんだと思いながら、美絵は首をかしげる。美絵はまた再び、ジュースに口をつけようとして止まった。体が燃えるように熱くなってきたのだ。息が荒くなる。キャップが取れたペットボトルが、畳の上に転がった。畳の色が水を含み濃くなる。
いけない、さっき綺麗にしたばかりなのにまた汚してしまった。
美絵は朦朧としながら、近くにあった雑巾を取ろうとして腰をかがめた。次の瞬間足がぐらつき、四つん這いになってしまった。動けない、体が熱り息が辛い。
「美絵ちゃん?大丈夫?」
ドアが開き、律斗が入ってきた。見られたくなかった。美絵は倒れるように座り込む。
一生懸命息を整えた。何でいきなりこんなっ…。
律斗はそんな美絵を見て、唾を飲み込んだ。真っ赤になった顔、甘ったるい吐息。スカートから伸びるいやらしい足。律斗は美絵の足に手を伸ばし、触れた。その瞬間、美絵の体に電気が走った。
「ひっあぁっ…」
美絵は直ぐに自分の手で口を塞ぐ。自分の体が怖くなった。敏感になっているのだ。
心臓が脈打つ。
律斗は興奮し、自分の唇を舐めた。律斗はさらに距離を詰めようと近づくと、美絵は後ろに下がった。
「いやっ…」
体が思うように動かない。美絵は押し殺し、律斗から逃げるように立ち上がった。這いつくばうかの様に、よろけながらも懸命に走り道場を出た。
律斗はドアを見つめ、睨みつける。
「何よ、チャチャっとやっちゃいなさいよ!」
一部始終を見ていたメグが、怒った口調で言ってきた。
「じりじりやるのが良いんだよ。しかもこんなのフェアじゃない」
「何言ってんのよ、興奮してたくせに」
メグはため息をついた。
美絵は、無我無茶で走り続ける。
今日は可笑しい、何でこんなに体がふわふわしているのだろう。
感覚が鈍る、何処を走っているのかさえ分からなくなってくる。不意にふらつき、こけそうになった。その時、誰かに止められた。
「美絵様!どうかなさいました?」
聞いたことある声、がっちりとした腕の感触。知ってる…、美絵は虚な顔で見た。
「律次…さん?」
美絵はまるで幻を見ているのかの気持ちになった。

放課後、カナタは約束通り智瑛理の家に向かった。チャイムを鳴らす。
何分かたって、智瑛理が出てきた。恥ずかしくてモジモジする。
「あっありがとう…」
「入って良い?」
カナタの言葉に智瑛は何度も頷いた。
智瑛理仕切りに服と、髪の毛を気にする。居間に通す。
「お茶出すね」
智瑛理が良い台所に行こうとすると、カナタが声をかけた。
「いいよ、長居するつもりないし…。それより、俺何かした?それが原因で休んだんでしょ?」
少しトーンが低かった。智瑛理の胸がざわざわした。
「だっだって…私不安で…。カナタ君、私たち付き合ってるのに…」
心臓がバクバク鳴って声が震える。言葉がうまく出ない。落ち着こうと、智瑛理は深呼吸をした。
「手…繋いでくれないし…。そっそれにきっ…
キスだって…」
「付き合ったら直ぐキスしなきゃいけないの?手も繋ぐとか組むとか、やらなきゃいけない訳でもないし」
カナタは立ち上がると、智瑛理の前に立った。智瑛理は下を向いた。
確かにそれはそうだ、けど…。そう言うものだと思っていた。少女漫画みたいな感じの恋愛、そんなのを智瑛理は本当の恋人だと思っていた。いっぱいキスして、手を繋いで帰ったり寄り道したり。不意に抱き締めたり。その先をしたり…。
好きな人に告白されて、付き合えた。それだけで贅沢?求めたら欲張り?私がいけないの?ぐるぐると頭でよぎる。
「それに、智瑛理ちゃんはこう言うの初めてでしょ?大切にしなきゃ、駄目だよ」
カナタは不意に笑顔で言った。優しい口調。
いつものカナタだ。智瑛理は少しホッとした。
「分かった?ならもうこんな理由で休まず、ちゃんと学校来なよ。僕ら3年生だし、大学行くんでしょ?単位落としちゃ駄目だし」
荷物をまとめながら、カナタは言う。智瑛理はまた焦った。
玄関まで歩いて行ってしまうカナタを、智瑛理は追いかけた。
「言うの忘れてたけど、受験生だからそっちを第一優先にして。デートとか恋愛系そういうのは禁止ね、付き合ってるけどさ」
靴を履きながら言い捨てる言葉が、智瑛理を動揺させた。
「えっ、なんで…」
「そういうことしてる暇があったら、勉強だよ。そうしなきゃ確実に落ちるから。今の智瑛理ちゃんの成績だと。真面目にやって、合格したら、恋人らしいことしよ」
さらりと言い、カナタは手を振り家を出た。
智瑛理は理解出来なくて、玄関の前に立ち尽くした。

何でいるのだろう、思考回路が全く駄目だ。清高は小さな声で「失礼します」と言い、美絵のおでこに手を当てた。
「熱いですよ、熱出てませんか?とにかくどこかで休みましょう」
美絵を引き寄せると、肩に手を回した。
「な…何で、貴方が…ここに?」
やっと出た美絵の声に、清高はハッとした。妙に色気づいた声音…、まさか。
「そんな事は後です。ホテルですみませんが、入りますよ」
清高は辺りを見渡すと、奥の路地に小さなラブホが見えた。ほかに施設はない。清高は舌打ちをしたが、仕方なくそこに入った。
適当に部屋を取り、ソファに美絵を座らせる。美絵の口からは絶えず、甘ったるい吐息が漏れていた。
清高は何かを確認するかの様に、美絵の耳に触れた。
「ひゃぁっ」
「やっぱり、何かもられましたね?かなりの量の媚薬を…」
美絵の顔を見ると、もう限界だった。我慢できるのも無理だ。ポケットからスマホを取り出した。
「やったのは多分、メグ様ですね。とにかく、宮島様を呼びますよ。処理は、彼氏の方がいいでしょう?」
美絵はハッとして、首を振った。恥ずかしかった、迷惑かけたく無いしカッコ悪い。
「こんなカッコ…いやっ…」
美絵は、ゆっくりと清高の腕を掴んだ。でもこの状況、一回抜かなきゃ体に良くない。清高は躊躇ったがやがて近づき、美絵に荒っぽいキスをした。
美絵は待っていたかの様に、擦り寄る。普段はこんなことしないのに、多分もう体が気持ち良くなりたくて仕方ないのだろう。
清高は内心ゾクゾクしていた。男が引き摺り出される。
「なら、私が毒を抜きます。良いですね?」
唇を離すと、清高は言葉を美絵の耳元で囁いた。美絵の頭の中はもう、何も考えられなくなっていた。
この人は前、美絵のお爺さんを殺そうとした人なのに…。里志を死刑に追いやった人なのに…。どうして優しくしてくるのだろう、どうしてそれに身を任せてしまうのだろう。
分からなくなるくらい、体と頭が熱に犯されている。
清高が少し距離を置くと、美絵は物欲しそうに目を潤ませた。それを見て、清高は口元を緩ませ美絵を抱き抱えた。
ゆっくりベッドに下す。今なら分かる、里志が何で美絵に夢中になったのか…。貪りたくなるほど、可愛いしいけない事したくなるほど無垢だ。
清高は美絵のふくよかな胸を両手で掴んだ。

メグはスマホを耳に当てて、イライラしていた。
「あーもう、何で出ないのよ!私の付き人でしょ!清高っ」
ずーと着信中になったまま、対応にならない。メグは切った。これで6回目、今までこんな事なかった。必ず一回で出てくれたのに。
メグは家まで仕方なく歩くことになった。終始ムスッとした顔で歩いていると、近くの駐車場に見たことある車が止まっていた。
黒塗りのセダン…、清高がいつも使っている車だ。メグは急いで車に近づく。中を覗いた。誰もいないし、ボンネットも冷たい。動かされていない、歩いてどこか行ったんだ。キョロキョロ辺りを見わたしたが、清高らしき人物はいない。
「何よ、どこ行ったの?こんなこと今まで無かったじゃない」
メグは爪を噛んで、ボソリと呟いた。
その時、スマホから着信音が流れた。画面を見ずに出る。
「はい。何よ、こんな時に!」
『えっ、怒ってるの?かけ直そうか?』
相手は大学の友達、美梨華だった。メグの口調がキツかったので、慌てた。
「美梨…良いわよ別に、何?急ぎ?」
『あーいや、急ぎじゃ無いんだけど…。ちょっと気になるもの見ちゃってさ。報告しようと思って』
メグは相槌を打ちながら、道の端に行き壁に背中を向けた。
『メグのお付きの人。いつもセダン乗ってくる人さ、偶然私帰りで見かけてね。あの、鈴風美絵と歩いてたよ』
「なっ何で!赤の他人同士なくせに」
メグは叫びそうになり、慌てて口を継ぐんだ。メグは清高の過去は知らない。喋ろうとしてくれないのだ。だからと言って、無理矢理聞くのもめんどくさかった。
メグはますますイライラした。主人のこと無視して、あろうことか鈴風美絵と一緒にいるなんて腹が立つ。
『しかもさ、肩なんか抱いちゃって。でも美絵さんふらふらしてたから、介抱してた方が正しいのかな…。それでさ、聞いてよ。その2人、ラブホに入って行ったのよ』
ふらふらしてた…、と言うことはあの薬が効いてた時に清高に会ったのだ。その後に聞いた言葉に、メグの腹は煮え繰り返った。
「らっラブホー。な、何なのよ。主人を差し置いて、結局男はああいう奴がいいのね」
『何目的かは知らないけど、ヤバいんじゃ無い?まっ、私はメグの方が美人さんだと思うよ。だから気を落とさないで、そこの事は』
メグは電話を切った。正直、最後まで聴いてなかった。と言うか興味なかった。自分が綺麗なのも知ってる、そんなのどうでもいい。それより、過去に自分も好意を持っていた清高に美絵を持ってかれたのが腹立ったのだ。感情を全く表に出さない男、私が告白しても動揺せず振ったくせに。鈴風さんには自分の意思でそんな事するんだ…。
メグは許せなかった。

ホテルでは、もう何分時間があったか分からないくらいだった。もうかれこれ1時間近くは、清高は美絵の体を可愛がった。触る度、美絵は震え擦り寄ってくる。可愛くて仕方なく、体の芯がゾクゾクする。
これが里志の愛した女。一度セックスをしただけで、病み付きになる。
「そろそろ、抜けましたか?」
美絵の耳元にそう囁くと、美絵は清高の腕にしがみ付いた。柔らかくあったかい胸が腕に当たり、清高は愛しそうに美絵の髪の毛を撫でる。
まだ体が熱い、それは媚薬のせいなのか体を重ねたせいなのかもう分からない。そんなのどうでも良いくらい、清高は美絵に触れていたくなった。空いた手で清高は美絵の唇に触れた。愛でるように親指で、彼女の唇を触っていると、不意に動いた。
「律次さん…。して…くれないんですか…?」
美絵の甘い声、キスを強請っているのだ。清高は唾を飲み込み、両手で顔を包み込むとキスをした。
キスをするとまたしたくなる。嫌いで大っ嫌いで、罵倒していた相手鈴風美絵。そんな彼女が今では、愛しくてたまらない。あの出来事があってからずっと、自分の心は彼女に奪われたまま。いつも冷静沈着で居られるのに、彼女を目にした途端これだ。誰か止めて欲しいくらいだ。
その時今まで耳に入って来なかった、スマホの着信音がやっと清高の耳に入った。
画面を見るとメグからの着信が6回ほど来てた。
「もしもし」
『あー!やっと出たわね!もう、許さないんだから』
電話相手のメグは、怒った口調だった。清高はチラリと、横になっている美絵に目をやった。ゆっくりとベッドから離れる。
「これは失礼しました。もう、家に着きましたか?お嬢様」
『待ちくたびれたし、イライラするからもう家に入ったわよ!清高あんた、今どこで道草してんのよ!仕事すっぽかして』
相当お冠の様だ。清高は悪びれる様子もなく、返す。
「随分ですね。自分で何したかも、分かっていませんか?そちらも随分と、悪行を働いてますけど。私をそれでも責めますか?」
『はぁっ!何言ってくれちゃってるの?清高は私の付き人でしょ?主人の事は絶対なのよ!何口答えしてんの!』
「謝らないのでしたら、私もそちらに行きませんし。クビでも構いませんよ」
メグの歯軋りが、電話越しに聞こえて来る。清高をクビにする事は、メグのプライドが許せないのは清高自身知っている。イケメンの優秀なSPをつかせる事で、メグは優越感に浸っているのだ。
『あんた今、鈴風美絵といるでしょ?しかもラブホ、どうなのよ!』
「ええ、ご名答。一緒ですよ。あなたが面倒なことをしたので、その後処理をしてました」
清高はソファに掛けてあった、自分の服を取り着直す。ベッドの方では、むくりと美絵が起き上がった。
『そんなのほっとけばいいでしょ?本当最低、信じらんない』
「最低はどちらですか?今回の件はお嬢様が、悪いですよ。盛りましたでしょ、媚薬を美絵様に」
沈黙が流れる。その間に清高はさっさと着替えを済ませる。
『わっ悪かったわよ!謝ればいいんでしょ?ごめんなさいねっ!何なのよ、もう』
「相変わらず、プライドだけは無駄に高い人ですね。事はすみましたから、帰りますよ。またその事は話しますから」
『ぱっパパには言わないで、お願い』
慌てたかの様に、メグは言った。清高が鼻で笑う。
「分かりましたよ、お嬢様」
清高は電話を切った。後ろを見ると、震えながら布団を抱いた美絵がいた。必死に裸を隠そうとする。
「わっ私…何して…」
覚えていないのだ、媚薬が効いてた頃の記憶がない。そんな美絵に、優しく微笑みながら清高は近づいた。
同じ目線にしゃがみ込み、彼女の頬に片手を当てる。
「大丈夫ですよ、あなたは媚薬によって犯されただけですから」
その言葉に美絵は、頭を抱えた。ドクドクと心臓が波打つ。
「私…誠以外の人と、そんな…いや…」
顔が真っ青になり、膝を抱え込んだ。
「あなたは悪くないですから、大丈夫です。 悪いのは姉崎メグですよ」
「律次さん、どうして姉崎さんの事…」
「あー、私今あの方の付き人しているんですよ。そんな事より」
清高は立ち上がると、ジャケットを羽織った。その姿に一瞬美絵は、何故か見惚れてしまった。
「ゆっくり休んでください、私は先帰ります。体まだ辛いでしょう」
美絵から離れようとする清高を、不意に美絵は彼のスーツの裾を掴んだ。無意識だった。
清高は引っ張られて、立ち止まった。
「美絵様?どうしっ」
「ごっごめんなさい。私、今日本当どうしてます…」
清高が言い終わる前に、美絵の言葉が重なった。美絵はすぐに手を離し、顔を真っ赤にして縮こまった。
清高は近くにあったタオルを渡した。
「お風呂入って、落ち着かれたらどうですか?不安でしたら、出るまでいて差し上げますよ」
震える手でタオルを受け取ると、身体に巻いた。立ち上がり風呂場に向かった。
「何故…優しくするんですか?」
美絵は立ち止まり、首だけを動かし清高を見た。その言葉に、照れた笑みを見せた清高の顔に美絵はドクリと心臓が鳴ったのを覚えた。
「さぁ何故でしょうね。でも1つだけ言えます。私は、貴方を今…離したくないと思っていますよ。恨みとは違う感情で」
周りくどい発言。美絵は分からなかった、でも冷酷な清高からの予想外の顔。それが何を意味してたか理解し難い物だ。美絵は恐ろしくなり、逃げる様に風呂場に足を伸ばした。
湯船に浸かる事も無く、頭から一気にシャワーを浴びる。それと同時に涙が溢れた。声を押し殺し、泣きじゃくった。

誠は大学でずっと美絵を待っていた。2時間が経過してもまだ、門を潜らない。誠は心配になり、スマホをバッグから取り出す。連絡もなし、仕切りに電話帳の美絵の名前を見つけては迷っていた。
目の前を律斗が通って、誠は顔を急いであげた。
「先輩!えっと、美絵知りませんか?」
焦って問いかけると、律斗は立ち止まったが振り向きはしなかった。やがて、ためらいがちに口を開く。
「美絵ちゃんなら、とっくに帰ったよ。彼氏なら知ってると思ったんだけど…」
誠はドキリとした。
「正門から出た訳ではないんだね。君が知らないんなら、どこに居るかは俺も知らないよ。じゃあ、また明日部活で」
「ちょっと、先輩!」
誠が引き止めようとしたら、律斗は逃げる様に去って行った。
変な胸騒ぎがした、当たってなければいいが。そう思いながら誠はスマホをしまい、家までの道なりを進んでいった。

ホテルから車で出て、美絵の家まで2人は無言だった。美絵はずっと下を向き、顔を合わそうとしない。
「着きましたよ」
清高の言葉にはっと、顔を上げ家を見つめた。
「ありがとうございます。今日は本当、すみませんでした…」
美絵はそれだけ呟くと、シートベルトを取った。その瞬間、清高が両手を伸ばし美絵の腕を取りドアに叩きつけた。頭が軽く助手席の窓に当たり、少し痛い。美絵はビックリして固まった。
その姿を見て、清高の口元が緩み唇を塞いだ。美絵の体がゾクっとした。口の中に舌が入ってくる。
誠とは全然違う、鳥肌が立つくらい気持ちがいい。誠はいつも噛み付く様な、獣みたいなキスをしてくる。でも律次さんは違う。口の中が犯されてる様な、いやらしい感情が体を駆け巡る。
離れた時の美絵の顔に、清高は満足気な表情を見せた。美絵の空いた手に、小さな紙を握らせる。
「連絡先です。何かあったら」
清高はそう言うと、車から出て助手席のドアを開け美絵の手を引っ張った。美絵はふらつきながらも、席を立ち車から出る。それを確認すると、清高は運転席に戻り車は走り去って行った。
美絵は家の玄関を開けると、その場にへたり込んだ。なんでキスをこばばなかったのだろう。まだ顔がほんのり赤い。自分でも分からなかった。
「お姉ちゃん?どうかしたの?」
智瑛理がそんな美絵を見て、心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫だ、悪い。智瑛理、お前は平気か?」
ゆっくり立ち上がり、靴を脱いだ。智瑛理は苦笑いをした。
「たっ大丈夫。私…カナタ君に、怒られちゃった。くだらない理由で休むなって…。情けないなぁって、思っちゃった」
ちろっと下を出し、髪の毛を掻く。まだ不安は消されていない、薄っすらと泣き腫らした跡が残っていた。
「恋愛は受験が終わってからだって…。長いな~、でも本当頑張らなきゃ。パティシエになりたいしね」
智瑛理は軽く手を振ると、自分の部屋に向かった。
美絵も軽く頭を掻きむしり、自分の部屋に向かった。

次の日、大学の門を潜ると美絵は後ろから声をかけられた。
「昨日、どこ行ってた?」
振り向くと、怒った顔の誠が立っていた。
「別に、どこも…」
下を向き、目を合わせない。言えるわけが無いのだ。沈黙してると、誠が先に口を開いた。
「律次清高」
その名前を聞いて、ビクリと肩が揺れた。ヒヤリとした風が吹く。誠は美絵を冷たい目線で、見下ろした。
「何でそいつが居るかは知らないが、何でそいつといだんだよ」
美絵は顔をあげた。怒りに満ちた誠の顔が、目の前にあった。
「見たんだよ、美絵がそいつの車から出て来たところ。顔赤くしやがって」
美絵はまた下を向き、唇を噛んだ。誠を怒る資格なんてない。誠が他の女の事を褒めたのを、怒った次にこれだ。
「帰り途中に、ばったり会って…送ってってもらっただけだ」
許される行為をした訳ではない。美絵は隠し、嘘をついた。バレない様必死に苦笑いであったが、誠に見せた。
誠はため息を吐くと、ポケットに手を入れた。
「あいつは、美絵の家族を奪おうとしたもんな。美絵はそんなやつに、屈服するはずないか…」
美絵は頷けなかった。今口を開けば、謝ってしまいそうだ。
誠の中ではまだ強い美絵が、描かれている。もうここの人全てが分かっている、鈴風美絵は強い女として。
「本当に何も無いんだな」
美絵はためらいがちに頷いた。誠は手を差し伸べる。この手を私は掴んでも、いいのだろうか…。でもここで断ったら、変に思われる。美絵はゆっくりと掴んだ。
その瞬間、美絵は胸の辺りを押さえた。足が立ち止まる。なぜか少し胸騒ぎがした。


部活終わり、美絵は着替えようと更衣室に向かう。誠はまだ道場に残っていた。
「まだ帰らないのか?18時だぞ」
律斗は呆れていた。
「誠程々に…」
美絵も心配そうに言う。剣道に入ってから誠は毎回、部活終わりから2時間自主練している。
律斗は主将なので、残るしか無く内心怒っていた。
「美絵は帰ってて」
「宮島君、終わりにしないか?練習したいなら、美絵ちゃんの家とかで」
「ああ、構わないぞ。だから」
誠は竹刀を力強く振った。2人とも身構える。
「やなんだよ!俺ここじゃど素人だし、遅れてるの目に見えてる!でも美絵に恥欠かせたく無い、見られたく無いからそれも嫌だ!」
叫び散らした誠に、美絵と律斗は少し驚いた。
「そっ、そんなの当たり前だ。私は責めてないから、気にするな」
「そんな嘘言うな!俺頑張んないと、自慢出来る様に横に居れないよ…」
嘘では無い、美絵はやるせ無かった。誠もむしゃくしゃしている。律斗は美絵の肩に触れ、帰るよう指示した。美絵は誠を見つめたが、仕方なく帰る事にした。
自分がいけないのだろう、誠を苦しめている。そう思うしか無かった。泣きたくなった。
美絵と付き合うイコール、道場の後継ぎになるのだ。ああなってしまうのも、理解はできる。美絵は塞ぎ込み、下を向きながら大学の門を潜った。
その時だった、一瞬美絵の空いた手に誰かの指が絡まった。ドキリとして、立ち止まり顔を上げた。そこには、スーツに身を包んだ清高が立っていた。
美絵は直ぐに目を逸らした。いけない、変に心臓が煩くなった。また唇にあのキスの感触が、蘇ってくる。
「なっ、何で居るんですか?」
やっと出た言葉。清高は美絵に少し近づいた。
「あなたを待っていた、訳では無いですが。
待ち時間を利用して、見に来ました」
何で、どうして…。この人は分からないだらけだ。清高は美絵の頭を撫でた。美絵は顔を真っ赤にした。なんで、こんなに鼓動が煩い。
その顔に清高は、ゾクッとした。また触れたくなってしまう。
「そんな顔しないで下さい。ほんと、いけない人だ。ただ見に来ただけだと言うのに…」
頭を撫でた手が、美絵の熱くなった頬に触れる。
「やっやめて下さい。からかわないで下さい。こんな事して、楽しいですか?」
美絵は顔を背け、清高と距離を取った。清高は口を押さえ、小さな声で笑った。その顔に美絵は、一段と心臓高鳴った。
初めて見た、笑顔。どうして私には、隙がある表現を何度も見せてくるのだろう。
「すみません。でも、ええ…楽しいですよ。あなたが、可愛くて仕方ないのです」
可愛いなんて、そんな事言われ慣れていない。どちらかと、言うと綺麗とかカッコいいの方が多い。
美絵は首を振った。今1番関わっては、いけない人だ。
「早く、姉崎さんの所に行った方がいいのでは?仕事中なのでしょう」
それを言った瞬間、清高の手が伸び美絵を突き飛ばした。よろけて、門に背中を打つ。美絵の背中が、ジンジン痛む。痛みを堪えながら、片目を開ける。清高が美絵の顎を指で持ち上げた。
美絵は睨み返したが、それを気にせず清高はまた美絵の唇にキスをした。容赦なく舌が入ってくる。
清高の膝が美絵の大事な所を、強く擦ってきた。更に清高は、空いてる手で胸も揉んできた。美絵は震えた。かすかに開く口から、小さな喘ぎ声が漏れる。
「あっいや…んっんっ。ふぁ…」
その声が出た時、清高は美絵を抱き抱え車に押し込んだ。酔いがさめ、美絵はドアを叩いた。
「降ろして下さい!どこ行くのですか!」
「あんな声出して、男があなたを置いていきますか?」
美絵の顔が赤くなる。美絵の気持ちはよそに、車はエンジン音を鳴らし走り出した。

その頃メグは撮影が終わり、清高が待っているはずの駐車場に向かった。
今日の仕事はカメラマンさんが、気が合う人で楽しくメグは気分が良かった。鼻歌を歌いながら、歩いていると手からバッグが落ちた。コンクリートにトスンという音が響いた。目の前にいたのは、清高ではなくて別のお付きの人だった。
「は?何で、ちょっと清高は?」
問い詰めると、黒いスーツの男は、頭を下げた。
「すみません、お嬢様。律次は先程急な用事とかで、外せなくなり代わりにわたくしが迎えに上がりました」
メグの口角が引きつる。
何なのよ、私があの男を切れないって分かってて取ってるつもり!
メグはムカついた。
「何なのよ!この私をすっぽかしてでも、行かなきゃいけない用って何なのよ!主人にも言えない訳⁉︎」
腹が立つ、どうせ鈴風美絵だ。清高を誘惑しやがって、あの人は私の所有物なのに!
メグは目の前にいる男に、詰め寄った。
「あんたもそうなの⁉︎男はみんな、大人しくてツンケンしてる女が言い訳?」
「わたくしにそう言われましても、律次の用事の中身までは分かりませんし。第一男性、全てそうとは限りませんよ。それに、わたくしは結婚してますからこれは」
「あんたが結婚してるとか、してないとかどーでもいいわよ!はーん、あっそ!どーせ男なんて、流行りのツンデレとかいう変な奴がいいんでしょ!」
メグは怒りながら、バッグを拾いわざとヒールを鳴らしながら歩いた。
「ちよっと、ボッとしてないでドア開けなさいよ!全く」
男は急いで、ドアを開けるとメグは乗り込んだ。
メグはスマホを弄り、誰かに電話をかけた。ワンコールで直ぐに出る。
「もしもし?今暇?」
『何や?お前から電話とか、珍しいな~』
陽気な関西弁の男、同級生の可楽明宏だ。顔と頭脳スポーツ全てに置いて完璧だが、チャラい。それ以外はタイプなのになと、メグは思っていた人だ。
「良いじゃない、別に。今からそっち行っていい?」
『今からか?んー、まぁええけど』
「じゃあ、行くから」
それだけ良い、電話を切った。運転手に場所を伝え、向かわせる。
明宏の住むアパートに着くと、インターフォンも鳴らさず入った。
「おいおい、いきなり無作法やな~。何しに来たんや?」
「何よ、それ。まぁそれより、私が来たなら分かるでしょ?」
明宏は頭を掻き、ため息を付いた。
「あんなー、もうちょいマシな誘い方無いんか?それに今日は、もうそんな気分やない」
メグはムカついて、明宏の胸ぐらを掴んだ。
「この私が言ってんのよ!恥かかせるつもり?色々ムカついてるから、晴らしたいのよ」
「待て待て、そうかも知らんけど…。そんなんじゃ、嫌がるに決まってるやろ。話だけなら聞いてやるさかい、勘弁してや」
むくれたメグに、明宏は優しい眼差しを向け頭を撫でた。
「私が来る前、誰か抱いてたでしょ?」
「あっバレた?ええやないの、セフレやし。お前も成り行きな感じやし、同じや」
「じゃなきゃ、私を抱かないわけないわ。あんたが」
明宏は「はいはい」と言いながら、ずーとメグの頭を撫でてる。何だか丸め込められてる感じがしたが、嫌では無い。メグは少し頬を膨らませながら、顔を背けた。
「清高が鈴風美絵に取られたのよ。あの冷酷男がよ、しんじらんない。ねぇ可楽、男としてあの女どう思う?」
明宏は少し距離を置き、腕組みをした。
「学園1の美人さんやろ。そりゃかわええし、気い強いのがちょい癪に触るが1度は抱きたいとは思うな~」
「ちょっと、何でよ!私の方が色々テクは、あるんだからそれなりに…」
「そりゃ、それに越したことはないかもしれへんけど。何や、やきもちか?」
メグは急に恥ずかしくなった。
「ちっ、違うわよ!誰があんたなんかに、大体私今好きな人いるし」
「宮島誠、やろ?相変わらず、ハイスペックな奴狙いたがるよな」
メグは、ソファに座った。

誠は疲れたため息を吐きながら、暗い夜道を歩いていた。
律斗には毎回申し訳ないと思いつつ、長い時間道場を貸して貰っている。そうでもしないと、美絵に追いつけない。もうとっくに遅いのだが、それでも隣に立って役に立ちたい。律斗は呆れているが、なんだかんだ言って教えてくれる。いつかお礼をしなければと思うが、何したら良いのやら…。ご飯でも奢るか?でもバイトもしてなくて、お小遣いなので高いものは無理だ…。
とぼとぼ歩いていると、家の近くで車が一台止まっていた。黒い車だった為、ライトだけがやたら目立つ。
誠の顔が真っ青になり、肩から鞄がずり落ちた。
車の助手席から、怒った顔付きで美絵が出てきた。運転席から手が伸び、少しだけ顔が見えた。律次清高だ…、冷静沈着で冷血な男。顔も良ければ、自分より腕が立つ1番敵に回したくない奴だ。
胸がドクドク波打つ。声を出せば良い、そうすれば自分の存在に気づく。だけど声が出ない。自分は清高に勝てないからだ。里志に美絵を取られた感覚と似てる。
「辞めて下さい!これはっ」
揉み合っている、美絵の怒った声をあげた。その瞬間、美絵の腕が引っ張られまた車の中に消えた。
誠の口の中がカラカラになった。何やられてるか、分かってしまった。足が一歩進んだ。
「みっ、美絵!」
絞り出した声が案外でかかった。美絵が急いで車から出てくる。口元を手の甲で押さえ、青ざめた顔で振り向いた。
「何してんの…。それって…、キスでも、してたの…?」
目の焦点が合わない。信じたくない、聞きたくないなのに。だって相手は、美絵の家族を傷つけたし、里志を1度死刑に追い込んだ奴だ。そりゃ無人島の時は、律次が居なかったら今頃生きては帰れなかったが…。それだけの事で、信用は取り戻せない。なのに…。
車から清高が降りて来る。誠の心臓が、やたら煩い。
「だとしたら、どうします?私とやり合いますか?」
動揺も何もしない、清高は何とも思ってない。むしろ誠は敵ではないと、言いたげな顔だ。
でも今は自分が彼氏なんだ。触れて良いのも、そう言うことして良いのも自分だけなんだ。誠は震える手を抑える様に、握り拳を作った。
「じょっ上等っ」
「帰って下さい!律次さんは、姉崎さんのところへ帰って下さい!」
誠が言いかけた時、美絵が言い放つ。誠が反射的に、美絵の方をみた。美絵の口からは、荒い息が出ていた。清高はため息を小さく付くと、車に乗り込み走り去った。
沈黙が流れる。誠は唾を飲み込み、美絵の方へと足を動かした。
「美絵っ」
「ごめん…」
名前を呼ぶと、呟き美絵は走り自分の家に逃げ込んだ。
誠は動けなくなる。清高に上等とか言ったが、本当はそんな事思っていない。彼氏なのだから、取られたくない。分かってはいるけど、だからと言って勝てる要素は何一つ無い。惨めだ、だから取られるんだ。美絵は、自分より強い奴に惚れるんだ。何、道場で居残り2時間で満足してるんだ。そんなの何にも役に立たない。
誠は歯軋りをして、堪え家に入って行った。

美絵は、逃げる様に自分の部屋に入った。机に顔をつけ、泣き崩れる。
「誠っ…ごめん…」
まさか見られるとは、思っても居なかった。今度こそ、言い逃れなんて出来ない。
自分は律次に惹かれている?そんなはずない、ある訳ない。あってはならない。第一今の状況を、律次は楽しんでいるのかも知れない。そんな罠みたいなのに、落ちるなんて情けない事したくない。なのに、律次にされると、勝手に胸が熱くなって期待している様な声が出てしまう。
認めたくない、なのに…。

次の日、浮かない顔で玄関から出ると美絵は誠と鉢合わせした。
2人の動きが止まる。美絵は目を逸らした。沈黙が流れた。誠は下を向き、何かボソリと呟いた。
「美絵は、俺のものだ…。触れて良いのも、何して良いのも俺だけだ…」
独り言の様な、小さな声。美絵は聞こえなかった。次の瞬間、誠は美絵の腕を鷲掴みすると、自分の所に引き寄せた。
「何っ!いったぁっ!」
美絵は痛さのあまりに、片目を瞑り抵抗した。
誠は素早い動きで、自分の家の玄関を開け美絵を家の中に投げ飛ばした。美絵は床に倒れ込んだ。全身の痛みに堪えながら、急いで起き上がった。
「まっ誠、何をする!」
答えずに誠はドアを閉め、廊下を歩き美絵を抱き抱えた。ヒヤリとするくらい、怖い目つき。美絵は青ざめ、動けなくなる。
誠は無言のまま美絵を自分の部屋まで運び、ベッドに乱暴に置いた。美絵が動き出す前に、上に乗ってきた。
「なっ何をする気だ。冗談はっ」
美絵が口を開くと、同時に誠は勢いよくシャツを掴んだ。美絵のシャツのボタンが二つ程宙を舞い、床に転がる。胸元が露わになった。
「律次と寝たのかよ!キスなんかしやがって!俺よりあいつの方が良いのかよ!」
「誠っ、何言って」
「あいつの方が、気持ちよかったのかよ!」
誠は美絵を引き寄せ、唇を奪った。息が出来ない、やっと離れたと思ったらまた塞がって舌が荒く入ってくる。
嫌だ、ちっとも良くない。美絵は誠を手で跳ね除けた。
2人とも息が上がる。美絵は破けたシャツを掴み、肌を隠した。
「誠!やめろ!」
「美絵は俺の女だろ!やっと俺の物になったのに、また居なくなるのかよ!」
誠は容赦無く、美絵のスカートの下に手を入れ下着越しに攻めてきた。強くて痛い、美絵は顔を背け目を瞑った。
「指で満足しないだろ。美絵は、舐めてくれる方が好きなんだっけ?」
誠が耳元で囁いてくる。密着して来て、美絵はハッとした。美絵の足に誠の興奮したアレが大きくなり、当たっていたのだ。
こんな状況でも感じるなんて。美絵は怖くなり、足で誠のお腹を蹴った。
手が緩み、誠はお腹を押さえた。美絵は逃げようと、起き上がったが直ぐに両手を掴まれた。足も動かない様に絡んだ。
「何で、逃げる!美絵は俺の彼女だろ!」









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