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第一章~出会い~

comodo

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「さてと、ひとまず落ち着いたから自己紹介してもらおうかな?」
「じゃあ葵翔くんから!」
「えっと…橘 葵翔です。中学時代は野球をしていました。合唱経験はそんなに無いですが、よろしくお願いします。」
『よろしくー!』
「じゃあお隣!」
「小松 竜也たつやです。中学の時に地域の合唱団で少し合唱はしていました。よろしくお願いします。」

男子だけど合唱経験があるんだなこいつ。
ていうか俺とこいつだけしか男子いないんだな。

「じゃあお次!」
「鈴木 千弦ちづるです。私は中学校の合唱部に所属してました。アルト志望です。」

アルト…確か、中学の音楽の先生が言ってた低い音域の方だっけ。

「富田 真奈です。千弦ちゃんと同じ合唱部に所属していました。自分もアルト志望です!」
「おっけー!じゃあ次の人!」
「大垣 小晴です!合唱経験はないですが、幼い頃からピアノを続けてきました!よろしくお願いします!」
「よく声が通るね。ソプラノ行けるかもよ?」
「うんうん!期待出来る子だ!」

確かに声が大きいかと言われるとそうでも無いけど、ハッキリと聞き取れる。
伊澄先輩みたいな声質なのかな。

「守永 瑞希みずきです。中学校では有志の合唱団に入ってました。一応ソプラノでした。」
「ふむふむ。経験者のソプラノか!これは頼もしいね!」

守永さん…確か、同じ中学校の人だったな。
クラスが一度も同じにならなくて関わりがあまり無かったけど、修学旅行の時に一回だけ話したっけ。





その後、他の四人と先輩方がそれぞれ挨拶をしてその日は解散となった。





「葵翔くん。」
「あ、千弦さん。」
「葵翔くんが合唱部に入るだなんて驚いちゃった。」
「それは自分自身も驚きだよ。高校では帰宅部として生活しようと思ってたし。」
「でも、私としては嬉しかったな…」
「え…!?」
「あ、あの、変な意味じゃなくてね!同じ中学校出身の人がいたら少しは緊張しなくてすむじゃない?」
「あー、それは何となく分かるかも。」
「でしょ?だから、葵翔くんが入ってくれて良かったなって。」
「どういたしまして。」
「あ、家の方向は同じなんだし部活の日は一緒に帰らない?」
「そうだな。これから夏になるとはいえ遅い時間帯は暗くなるしな。」
「へへ…ありがとう!」

なんか…青春してるって感じで、悪くないかもな。





「こんにちはー…」
『こんにちはー!』

今日から合唱部の練習が始まる。
どういう練習をするかとか全く分からないから結構緊張するな…

「さてと、今日から新入部員を含めた練習開始だよ!2、3年の皆は1年生の周りに付いて教えてあげてね!」

あ、ちゃんと教えてくれるのか。良かった…

「葵翔くんだったよね。」
「は、はい。」
「僕は3年の南野 唯弥ゆいやだよ。ベースパートです。よろしく!」
「よろしくお願いします。」

優しそうな人で良かった…

「皆、準備はOK?」
『はい!』
「じゃあ最初はブレスから!2、3年でまずお手本をするよ!」
『はい!』
「吸ってー…」

すると、その場の空気全てを吸い取ってしまうのではないかというほどの勢いで先輩達は息を吸い始めた。

「吐いて!」

伊澄先輩の合図に合わせて先輩達は一斉に息を吐き出す。
俺はただただ驚いて固まってしまった。

「呼吸だけで、こんなにハイレベルなのか…」

まるで呼吸だけで、嵐がおきるのではと思う程だった。
周りを見ると合唱経験者である竜也や千弦らも呆気にとられていた。
合唱経験者でも呆気にとられるレベルってどんだけだよ…

「よし!新入部員の皆もやってみよう!」

で、出来るかー!
ついつい心でそう叫んでしまった。

「葵翔くん。心配はしなくて大丈夫だよ。」
「いや、でも…」
「実はね、僕も元々は初心者だったんだ。」
「そうなんですか?」
「うん、僕も中学時代は運動部だったし。それでも今は皆についていけてる。だから、君もきっとついていけるよ!」
「…分かりました。」
「うんうん、その意気だよ。」

本当に優しい先輩だ。
唯弥先輩にはずっとついて行こう。

「合唱をするにあたって大事なのは腹式呼吸!ブレスはそれを身につけるための基礎練習だから、皆ちゃんと覚えてね!」
『はい!』
「じゃあもう一回行くよ!」

とりあえず見よう見まねだな、先輩がしてるように…

「吸ってー…」

お腹の中へとこれまでにない量の空気を入れ込む。

「吐いて!」

入れ込んだ空気を一気に吐き出す!
しかし、次の瞬間俺は思いきり咳き込んでしまった。

「葵翔くん!?大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です…」
「最初は無理せず七割くらいの力でするといいよ。」
「分かりました。」
「よし!もう一回行こう!」

落ち着いて…七割くらいの力で…

「吸ってー…」

お腹の力を抜きながら空気は入れ込む。

「吐いて!」

脱力したまま全部出しきる!
すると…先程のように苦しくなく空気を吐ききれた。

「いいね!その調子だよ。」
「はい!」

まだまだ先輩達のようにとはいかないけど、自分の中にはない新しい感覚を掴めた気がする。
…た、楽しい!





「葵翔くん。いい感じに合唱を楽しんでくれそうじゃない?」
「お、みゆもそう思いますかな!」
「最初はどうなるかとは思ったけどね。」
「てへへ…」
「夏…最高の演奏しようね。」
「…当たり前でしょ!私たちなら出来るよ!」
「ふふ…伊澄がいてくれて良かったよ。」
「どういたしまして。」
「じゃあ、練習の続きしましょ。」
「うん!」





その日は、ブレス以外にも基礎練習をいくつか教わり一日を終えた。

「葵翔くん!いい感じに馴染めてきてるんじゃない?」
「瑞希ちゃん。うん、最初は自分に出来るかと思ったけど何とかね。唯弥先輩にも優しく教えて貰えてるし。」
「ふふ…良かった。」
「俺まだ一日目だけど、この部活入って良かったって思えるよ。新しい発見とか出来て、何ていうか充実してるって感じかな。」
「合唱。楽しんでるんだね!」
「おう!」

これからも色んな発見が出来るんだろう。
その一つ一つが確かな自信になる。楽しさになる。

「決めた!」
「え、ど、どうしたの!?」
「俺、歴代一のベースになる!」
「唯弥先輩のパートだね!」
「唯弥先輩も追い越して、歴代一になってみせる!」
「葵翔くんならなれるよ!」
「ほ、本当か?」
「うん!よし…じゃあ私も歴代一のソプラノになるよ!伊澄先輩を越えてみせる!」
「じゃあお互い頑張らないとな!」
「頑張ろ!」





その日の誓いを胸に俺は合唱部で頑張っていこうと決めた。
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