土人形のコリンズ男爵は愛しの大魔導師様を幸せにしたいのだけれど。

梅村香子

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18話

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「……ずっと、ここに帰ってきたかった……」

玄関ホールに立ったアーノルドが、ぽつりとつぶやく。
幾度となく繰り返されただろう、深い絶望や激しい渇望……。
弟の声には、そんな積年の想いがにじんでいた。

「おかえり。アーニー……」
「……兄さんにおかえりって言ってもらうの、一日に千回は想像してた」

漆黒の瞳を潤ませて、小さく笑うアーノルド。

「……アーニーが望むなら、何度だって言うよ」

エリオットは優しく微笑み返すと、弟の手をぎゅっと握りしめた。
兄弟そろって十五年ぶりに足を踏み入れたコリンズ家は、長く凍りついていたとは思えないほど、いつも通り。
穏やかな日常が奪われていたことなど、知りもしないようだった。

「うちに先祖の魔力が封じられてるって、考えたこともなかった。両親も知らなかったんだよね?」
「そうだと思う。五代前のご先祖様のことは、子供のころに沢山聞かされたけど……。まさか、そんな偉人の魔力がうちに眠ってるなんて、未だに信じられない気持ちだよ」

エリオットは、我が家をしみじみとあおぎ見た。

「魔力は、どこにあるんだろう? 僕が知らない隠し部屋……とか?」
「ショーンの力は、この家自体に封じられている。それを解放する鍵となる魔法陣が、うちのどこかに隠されているんだ」
「盗賊が魔法陣を探せって言ってたね」
「祖母の本に、魔法陣を発動させる呪文は記されていただろうから。それさえ唱えれば、あいつらは簡単に強大な魔力が手に入ると考えているんだ」
「……アーニーは、その魔法陣が隠されている場所が分かるの?」
「これでも、八年ほど魔法学を研究しているからね。簡単なことだよ」

アーノルドは、得意気な表情を、エリオットに向けた。

「魔法は、ここ百年ぐらいで急速に発展して、どんどん最適化されているんだ」
「年々、色んなことが可能になってるもんね」
「うん。より万能になり、旧時代に比べて、呪文は短く、魔法陣は小さくなっている。その歴史をふまえると、百年以上前のショーン・コリンズが作った魔法陣は、俺たちの想定よりも、ずっと巨大なはずなんだ」

なるほど。現在の常識で考えてはいけないのか。
そういえば、ショーンの封魔書から出てきた魔法陣は大きかった。

「そして、その大きな魔法陣が描ける場所は、うちには一か所しかない」
「……あっ!!」

エリオットは一つの答えに思い至って、目を見開いた。

「こ、ここっ! 玄関ホール!!」

昔から、家の規模に比べて、玄関ホールがやけに広いのを疑問に思っていた。
この家を建てたのはショーン・コリンズ。
建設時に、自分が作った魔法陣を描けるぐらいの広さにしたのだ。

「あいつらは魔法陣の大きさを考えてないから、見当違いのところばかり探しているんだ」
「家に入ってすぐの所にあるとは思わないだろうしね……」

エリオットは、そっと足元に視線を移した。
二十一年間、何気なく行き来していた玄関ホール。
ここに百年以上前から、魔法陣が隠されていたなんて……。

「でも……さすがに、このまま隠し通すのは無理だよね」
「魔法陣は見つかっていいんだ。むしろ、ここにあいつらを呼ぶつもり」
「えっ!?」

予想外な言葉に、エリオットは再び目を見開いた。
魔法陣の場所を知られてしまうのは、こちらの不利になってしまうのではないか。

「祖母の本にある呪文を知りたいからね」

――知りたいって……どうやって――!?

エリオットの数々の疑問をよそに、アーノルドは十五年前の侵入者のもとへ歩いていく。男二人は、やっと意識を取り戻したようで、ゆっくりと身を起こしているところだった。

「家中を嗅ぎまわっている、お前たちの仲間をここに集めろ。魔法陣は玄関ホールだと伝えればいい」

見知らぬ男からの突然の命令に、侵入者たちは戸惑いの表情を浮かべている。
十五年の時が流れて、目の前にいた九歳の男児が成長したとは思いもしないだろう。

「早くしろっ!」

鋭い声と共に、アーノルドは水のやいばを突きつける。
男たちは戸惑った表情のまま慌てて立ち上がると、仲間を探して玄関ホールから走り去っていった。

「アーニー……。本当にいいの?」
「大丈夫だよ。捕まえるためには集めないと」
「そんな、虫みたいに……」
「俺たちからすれば、あいつらは虫以下の存在だ」

吐き捨てるように言うと、アーノルドはエリオットを抱きよせた。

「兄さん。盗賊がここに来る前に、やっておきたいことがあるんだ」
「うん。僕にも手伝えること?」
「もちろん。兄さんと俺の魔力を共鳴させたい」
「き、共鳴!?」

――どういうことっ!?

不穏な要求に、エリオットは思わず声を大きくした。

「そ、そんなことをしたら大事に――」
「平気だよ。俺は魔力共鳴を自在に操れるようになったんだ」

アーノルドは優しい表情で、兄を見つめる。

「兄さんに悲しい思いをさせることは絶対にないから。俺たちの魔力を一つにさせてほしい」

――そうか……。魔力共鳴は、もう脅威じゃなくなったんだ……。

世界中で恐れられてきた魔力共鳴。
悪魔の災禍さいかとまで言われた現象を、アーノルドはとてつもない努力の末に、自分のものとしたのだ。

「……僕の少ない魔力で役に立てる?」
「兄さんの魔力が一番重要なんだよ」

アーノルドは、兄のなめらかな頬を一撫ですると、共鳴の呪文を唱えはじめた。

「あ、アーニー……胸が……っぁ」

エリオットは、思わず弟にすがりつく。
呪文が全身に広がっていくような感覚と共に、胸がカッと熱くなった。
まるで、太陽が胸の中に現れたような、絶対的な光と温かさ……。
その中心に、自分とは別の存在を感じた。

――これは、アーニーだ――……

そう認識した途端、体中に水の魔力が行きわたった。
想像を凌駕りょうがする、とてつもなく強大な力……。
自分の中に、風と水の魔力が共存する、不思議な気持ち。
しかし、それは全く不快ではなくて――

「……俺の魔力を感じる?」
「うん……」
「俺も、兄さんの優しい風の力を感じるよ……」

アーノルドは、心の底から嬉しそうな顔をした。

「これで、先祖の――」
「おいっ! どういうことだ!!」

弟の声が、かしらの怒鳴り声でかき消された。
十五年前の侵入者に呼ばれた盗賊たちが、続々と玄関ホールに集まってきたようだ。

「……センセーは、魔法陣の場所を知ってたのかよ」

全員そろった盗賊の中心で、苦虫を噛み潰したような顔になるかしらを、アーノルドは鼻で笑った。

「少し考えれば、誰でも分かることだ。お前らには、無理だったようだが」

大魔導師の明らかな挑発に舌打ちすると、かしらはエリオットに視線を移した。

「お兄ちゃんと再会を楽しみたかったのは分かるが、助手を犠牲にして結界を破ったのか? まさか、助けた助手を、すぐには殺さねぇよなぁ?」

エリオットとオリバーが同一人物と知らないかしらからすれば、アーノルドが助手の命を犠牲にして、結界を破ったように思えるのだろう。

「そんなことはどうでもいい。早く魔法陣を出現させろ」
「せっかちだねぇ~」

かしらは、仲間の一人に、魔法陣の存在を確認させた。

「ここにあるのは、間違いねぇようだな」

そうつぶやくと、懐疑的な視線をこちらに向けてくる。

「それで……何で、こっちに協力してんだよ」
「もう、厄介ごとは沢山なんだ。俺たちは、ここで静かに暮らしていきたい。魔力でも何でも好きに奪って、さっさと帰ってくれ」

いかにも面倒そうに話すアーノルドに、かしら得心とくしんしたように笑った。

「そうだよなぁ。十五年ぶりのお兄ちゃんだもんなぁ~! 分かった、分かった。邪魔者は魔力をちょうだいして、すぐにずらかってやるよ。おい、呪文だっ」

声をかけられた男が、持っていた祖母の研究書を開く。
すぐに呪文が聞こえてきて、アーノルドはそれを静かに見据えていた。

――アーニーは……どういう考えなの――?

このままだと、魔法陣が出現して、ショーンの魔力が盗賊のものになってしまう。
エリオットは胸をざわつかせながら、アーノルドを見上げた。
漆黒の瞳には何の焦りもなく、落ち着いた光をたたえている。
自分だけが不安に囚われている中で、盗賊は長い呪文を順調に詠唱えいしょうしていった。

そして――

「出現しねぇじゃねぇか!」

かしらの荒い声がホールに響いた。
呪文が終わっても、辺りは静かなまま。
魔法陣の気配は微塵もなかった。

「お前、呪文を間違えたんじゃねぇのかっ」
「そ、そんなことは――」

かしらに責められた男は困惑している。
どうして、魔法陣が発動しなかったのか。
首をかしげながら再び呪文を唱える男を見て、アーノルドは静かに口角を上げた。

「かかったな」
「え?」

弟の考えが全く分からずにいると、アーノルドに肩を抱きよせられる。
それと同時に、幾つもの巨大な水岩が、勢いよく盗賊に襲いかかった。
突然の大魔導師による攻撃魔法に、油断していた男たちが吹き飛ばされる。

「くそっ。あいつらを殺せっ!!」

かしらの命令で、手下がこちらに向けて攻撃を放ってきた。
しかし、計画性のない攻撃は、アーノルドにとっては大したものではないらしく、軽い防御魔法で防いでいる。

「ア、アーニー……っ」
「あいつらの攻撃は、しっかりとかわすまでもないよ。次は、俺たちの番だ」

アーノルドは騒ぐ盗賊たちを一瞥いちべつすると、呪文を口に乗せた。

――この呪文は、さっき盗賊が唱えていた……。もしかして、聞きながら覚えたの――!?

驚いているエリオットの隣で、アーノルドは聞いたばかりの呪文を一言一句たがわずに唱えている。
激しさを増していく盗賊の攻撃も、こともなげに対応して、たんたんと詠唱を続けた。
そうして、最後の一文字が大魔導師の口から紡がれた刹那。
玄関ホールの床が激しく発光した。
あまりの光に意識が飛びそうになり、エリオットは弟の広い胸に抱きついた。

「兄さん……成功したよ」

アーノルドの満足気な声と共に、強い光が徐々に形を成していく。
それは皆が呆然と見つめる中で、ゆっくりと巨大な魔法陣となった。

「これが、ショーン・コリンズが遺した魔力だ」

魔法陣の奥に、莫大な風の魔力を感じて、エリオットは体を震わせた。

「す、すごいね……」

共鳴している弟の魔力もすさまじいが、ショーンのそれも、恐怖を覚えてしまうほどのものだった。

「この魔法陣は、あの封魔書と同じく、兄さんにしか発動できないんだ。呪文の中に条件付けがしてあって、コリンズ家の直系にしか反応しないようになっている。予想通りで助かったよ」
「だから、盗賊だと反応しなかったんだね。あ……それなら、僕が呪文を唱えないといけなかったんじゃないの?」
「今の俺たちは、魔力共鳴で一心同体になってるから、どっちが唱えてもいいんだよ」
「そのために、あらかじめ共鳴させてたんだね……!」

アーノルドは意気揚々と頷いた。
全ては、大魔導師様の思惑通りといったところか。

「お前っ。ふざけんなよっ!!」

魔力奪取だっしゅが失敗して、怒鳴るかしらに、アーノルドは勝利の笑みを向けた。

「この魔力は、兄にしか承継できない。お前たちは、盛大な無駄足だったってことだ」
「なに……っ!?」

盗賊たちは、驚愕に顔をゆがめる。
これだけのことをしておいて、最初から自分たちが盗めるものではなかったと知れば、衝撃も相当なものだろう。

「さぁ、兄さん。一緒にあいつらをやっつけよう」

アーノルドが手を掲げると、魔法陣から一陣の風が吹いた。
すると、共鳴している兄弟の体内に、とてつもない魔力が注がれはじめた。

――ご先祖様の魔力が、僕たちに……っ。

「アーニー……っ。ま、魔力が強すぎて……ぅっ」

桁外れの魔力が体内で溢れかえる未知の感覚に、エリオットは怖気づく。

「怖くないよ。俺も一緒だから。大丈夫、大丈夫」

怯える兄の背中を撫でながら、弟は先祖の魔力を全て吸収していく。
そして、承継が完了すると――

「ア、アーニー……」
「すさまじい力だね……」

百年以上も眠っていた伝説級の力が、完全に目を覚ました。
莫大な風の魔力は体内を駆け巡り、アーノルドの水の魔力と共鳴して、何倍にも膨れ上がる。
まるで人とは思えない。
高位の魔物も恐れをなして逃げ出しそうなほどの強く大きな力が、二人の中に流れていた。

「いくよ……。兄さん」
「うん……」

その悪魔のごとき力を、アーノルドが盗賊たちに向けた。
共鳴して爆発的な力を得た水と風が、たちまち咆哮ほうこうを上げる。
吹き荒れる強烈な爆風。
暴れ狂う巨大な水岩。
玄関ホールいっぱいに現れたそれらが、エリオットたちの目前で合体した。

――こんな……一瞬で帝都を破壊しつくしてしまいそうな力が、僕たちの手中に――……

恐れおののく兄の横で、弟は眉一つ動かさずに未曽有みぞうの魔力を行使する。

「や、やめろ……っ!!」
「くるなっ……!」

世界最恐の魔物と化した力を前に、男たちは悲鳴を上げながら逃げ惑う。
しかし、玄関ホールから出ることは叶わない。
圧倒的な水と風に襲われて、人形のように吹き飛ばされると、瞬く間に一人残らず意識を失った。

「まだ足りない……。こいつらは、手に入りもしない力のために、俺たちの十五年を奪ったんだ……」

倒れ伏している盗賊たちに、更なる憎しみの視線を送るアーノルド。

「アーニーっ。もういいんだよ……っ」

エリオットは、再び攻撃しようとしている弟の体を、ぎゅっと強く抱きしめた。
アーノルドの深い憎しみは当然のものだ。
時間が止まっていた自分と違って、弟はずっと孤独の中にいた。
絶え間ない苦しみの底に置き去りにされていたのだから。
けれど……復讐は、アーノルドの尊厳を汚してしまうだけ。
憎き盗賊と同じ場所にまで堕ちる行為だ。

「最低な犯罪者のことなんか、もう考えないで」
「でも――」
「あとは司法の判断に委ねよう。ね?」

エリオットは、憤る漆黒の瞳を必死に見上げる。

「彼らには、確実に重い刑罰が待ってる。僕たちが憎しみをぶつけるまでもないんだ」
「…………」
「僕は、アーニーとご先祖様の素晴らしい力を、あんな人たちに使ってほしくない」
「兄さん……」
「それに、アーニーが誰かを痛めつける姿は見たくないよ」
「……うん……」

アーノルドは小さく頷くと、静かに憎しみのほこをおさめた。

「ありがとう。アーニー……」

水と風の膨大な魔力の渦中で、兄弟は強く抱きしめ合う。
エリオットの優しい温もりにひたって、アーノルドは荒ぶる感情を静めていった。

「……二つの力が交わると、こんなにも強大になるんだね」
「共鳴することによって、力が増幅するから。ここまでの魔力を持った人間は、たぶん俺たちが初めてだよ」
「僕、アーニーと一緒じゃなかったら、怖すぎて気絶してると思う……」

腕の中でぶるりと身を震わせる兄に、弟は愛おしそうな目を向ける。

「二人だと、何も怖くないよ。凶悪な魔物のような力だって、自由自在だ」

アーノルドは、渦巻く魔力を落ち着かせると、エリオットの体内を風の力で満たした。

「この風の魔力は、全て兄さんのものだよ」
「うん……」

エリオットは、そっと瞼を閉じた。
体の隅々にまで、莫大な風の魔力が流れているのが、はっきりと感じられる。

――強い風の魔力を持ってるって、こんな感覚なんだ――……

子供の時から憧れていた、強い魔力。
いつだって羨ましくて、欲しくてたまらなかった。
これさえあれば、もっと豊かになれる、もっと幸せになれると思っていた。

でも――

「アーニー……。この魔力を、再び封じることってできる?」

兄の言葉に、アーノルドがわずかに目を見開いた。

「……いいの?」
「こんなに強い力は、僕には荷が重いから。持て余してしまうよ」

漆黒の瞳をまっすぐ見上げながら、エリオットは微笑んだ。

「コリンズ家には、国一番の魔力を持った、天才大魔導師がいるからね。僕には、この力は必要ないんだ」
「兄さん……」
「……お願い。アーニー」
「……分かったよ。ショーンの魔力は再封印するね」

エリオットの望み通り、アーノルドは封印の呪文を口に乗せた。
低い声が周囲に響き、頭上を行き交っていた風が徐々に止んでいく。

――あっ……ご先祖様の力が……体から抜けて――……

全身を巡る莫大な魔力が、少しずつ我が家に戻るのが分かった。
ショーンの力がなくなり、エリオットの弱い力だけが残される。

――やっぱり……僕には、この程度の魔力が身の丈に合ってるな……。

馴染みの感覚に安堵していると、長い呪文の最後の一文字が、弟の口から紡がれる。
すると、強大な魔力を再び封じた魔法陣は役目を終えて、そっと足元から消え去っていった。
先程までとは打って変わって、静寂に包まれる玄関ホール。
水と風が荒れ狂っていたのが幻かと思うほどだが、重なるように倒れている盗賊たちの姿が、ここで起きたことの激しさを物語っていた。
 
「アーニー。終わったね……」
「うん」

ショーン・コリンズの魔力を巡る騒動が、十五年の時をかけて、やっと終わりを迎えた。
失ったものは大きく、決して万事解決とは言えないが、コリンズ家は平穏を取り戻せたのだ。

「あ……僕たち、まだ共鳴したままだよ」

ショーンの魔力に気を取られて、兄弟で共鳴したことを忘れていた。
意識を向けると、胸の中にアーノルドの強い魔力をしっかりと感じる。

「俺、兄さんと共鳴してると心地いいから、このままでいい?」
「えっ……僕は、アーニーの魔力が強すぎて、ちょっと気持ちがそわそわするよ」
「すぐに慣れるよ」
「な、慣れないよっ」

共鳴の継続に狼狽うろたえていると、外が騒がしくなった。

「誰……!?」
警吏けいりと魔法省の人間だよ。外で待機してたから、盗賊の結界が消えて入ってきたんだ」

アーノルドの言葉と同時に、沢山の人が扉を開けて入ってきた。

「エリーっ!」

その中から、眼鏡をかけた亜麻色の髪の男が、こちらに駆けてくる。

「スティーブ!!」

エリオットの姿を見て、スティーヴンは心から嬉しそうに表情を緩ませた。

「……十五年ぶりだ」
「うん……」
「全部、上手くいったんだな」

倒れている盗賊たちを見て、親友が安堵に目を細める。

「アーニーの作戦が成功したんだ。僕も、こうして自分の体に戻れて一安心だよ。ずっと……心配かけてごめんね。オリバーのことも、黙っていたせいで迷惑をかけたよね……」
「エリーが無事なら、それでいい」
「……ありがとう。あっ、レイ君たちは――」

オリバーを作ってくれた二人に思い至って、エリオットは慌てた。
土人形の件で、大変なことになっていないだろうか。

「大丈夫だ。全ては内々に済ませたから。彼らが罰せられることはないよ。ただ、俺からはきつく叱っておく」
「そ、それは……っ。今回のことは、僕が無理を言ったからなんだ。二人は何も悪くないんだよっ」

レイたちは、エリオットの無茶苦茶な要望に応えてくれただけ。
怒られるのならば、自分一人でいい。
そう言おうとしたら、後ろからアーノルドに抱きよせられた。

「スティーヴン。後始末は任せた。余計に汚すなよ」

足元が光って、魔法陣が現れる。
これは……転移魔法だ。

「あ、アーニーっ。ちょっと待っ――」

まだ、スティーヴンと話している途中なのに。
目の前が光って、スティーヴンが、コリンズ家が、遠くなる。
そして、瞬く間に光は消えて――
周囲に現れたのは、埃まみれの本や資料の山。
側には、古い木製の机。
転移先は、住み慣れたアーノルドの部屋だった。








十五年ぶりに時を刻み始めたエリオット
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