転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子

文字の大きさ
上 下
20 / 24
番外編

書籍発売感謝小話

しおりを挟む
本編終了後の話です。


「謹慎の事実が形骸化していますね」

菫の館の自室で、エヴァンがわずかに眉根を寄せながら言う。
ソファに座っている僕は侍従を見上げた。

「そんなに招待状が届いてるの?」
「テオドール様に媚びへつらいたい者が大量発生しています」
「その言い方っ」

エヴァンの毒気の多い言葉に、僕は苦笑した。
謹慎中の第三王子は社交禁止だと誰もが知っているはずなのに、ここ最近、何故か招待状が後を絶たなかった。

「リーフェの件で何度も夜会とかに顔を出してたから、社交は禁止じゃないって思われてるのかもね」
「皆、そういった勘違いをしているというていで送ってきているのですよ」
「ええ? 何でそんなことをするんだろう」
「あわよくば、というやつです」

全て断っておきますと言って、エヴァンは表情を緩めた。

「ベニシュ卿が来られるまで、まだお時間がございますが。いかがされますか?」

家庭教師の名をだされて、僕は思案した。
勉強の時間まで、少しゆっくりできるようだ。

「テラスでお茶でもしようかな」
「かしこまりました。すぐに紅茶をお淹れいたしますね」
「うん。ソレル商会のものがいいな」

僕が紅茶好きと知ってから、マリウスの両親は各地の希少な茶葉を沢山送ってくれるようになった。
それが全て無償なので、段々と申し訳なくなってきているところだ。

でも、何を言ってもお金を受けとってくれないもんなぁ。

僕はソレル家四男坊の屈託のない笑顔を思い出した。
先日、地上の地獄と言われるボネリーへと旅立ったマリウス。
そろそろ、過酷な訓練に身を投じている頃だろうか。
向こうでの生活が始まったら、僕に書簡を送ると言っていたけれど。
すぐに疲労困憊の日々に突入して、それどころではなくなってしまうだろう。
しばらくしたら、僕から送ってみようと思っている。

気の利いたことなんて何も書けないけど、少しでもマリウスの励みになればいいな。

僕はソファから立ちあがると、テラスへ向かった。
階段をおりれば、玄関広間の隅で数人の騎士が話し合いをしているのが見える。
その中にフレデリクもいた。
少し前まで、菫の館の警備は兵士に任されていたのだが、今は騎士も配置されるようになっていた。

「フレデリクっ」

僕は騎士たちに近づくと、恋人の背中に声をかけた。

「話し合いを邪魔しちゃったかな」
「ちょうど終わりましたよ」
「本当? 今からテラスでお茶をするんだ。話し相手になってくれると嬉しいな」
「ええ。喜んでお供いたします」
「やった! じゃあ、勉強の時間が始まるまで一緒にいよう」

他の騎士たちに一声かけると、僕たちは並んで歩きはじめた。

「こんなにいい天気だと、勉強じゃなくて運動をしたくなるなぁ」
「森を歩くだけでも気持ちいいでしょうね」

テラスへ向かいながらのんびり話していると、何の前触れもなくフレデリクに腰をつかまれた。

「わっ、フレデリク!?」

そのまま近くの空き部屋へと連れ込まれると、扉が閉まると同時に強く抱きしめられた。

「……テオが足りない」

先程までとは別人のような色香をまとった声に、心臓が爆発しそうになる。
見上げれば、雄の切なさを滲ませたアクアマリンの瞳があった。

急に、そんな表情をするなんてずるいよ……。

「じゃあ、好きなだけ補充して……?」

フレデリクの首に腕を回せば、すぐに唇を奪われる。
幾度も角度を変えて深まる口づけに、身も心も蕩けていく。

ごめんね、エヴァン。
せっかく淹れてくれた紅茶が少し、いや、かなり冷めてしまいそうだ。



お読みいただいてありがとうございます。
前回の小話に続いて、テオを連れ込んでキスをしたいフレッドでした!

ピッカピカな書籍も発売となりまして喜ばしいかぎりです!
さっそくご購入してくださった方も沢山いらっしゃって、感謝と感激で胸が震えております。
本当に本当にありがとうございます!!!
しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。