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小さなつぼみ
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――小さなつぼみ――
今日の天気は雨だ。病弱なあたしは今日もベッドの上。太陽の力を享受することもできずに、低気圧のいたずら――片頭痛にうなされている。
「花帆~。調子が悪いのはわかるけど、中学校が春休みだからって遅くまで寝ているのもよくないわよ。しっかり朝ご飯は食べなさい!」
「うるさいなぁ。分かったよママ。」
少し強めの口調で返してしまったけれど、正直なところ、朝ご飯はあたしの毎日の楽しみだ。家の中での一日は単調で、ご飯勉強ご飯ゲームご飯お風呂睡眠・・・と、呪文のように繰り返すだけ。料理が上手なママの作るご飯は、あたしの生活を彩る小さな花みたい、とあたしは思う。
「よいしょっと!」
思いっきり起き上がったことを頭痛とともに後悔しながら食卓へと足を進める。今日の朝ご飯は…
「うわぁ~!パンケーキ!!」
「今日は雨だし、甘いもののほうが花帆は喜ぶかなと思って。」
あたしの反応を見て誇らしげに話すお母さん。とっても嬉しいけど、なんだか恥ずかしい。
「別に、そんなことないもーん!」
先に起きてきていた妹たち――みのりとふたばと一緒に食卓につく。妹たちのパンケーキは1枚だけど、あたしはお姉ちゃんだから2枚重ね!お姉ちゃんの特権だよね。思わず笑みがこぼれちゃう。パンケーキの上には四角く切られたバターが乗せられていて、お皿の隅にはラナンキュラスの花びらが添えられている。あたしの家はラナンキュラスの花き農家。育てたものの中で形がきれいじゃなかったり虫食いがあったりしたものは、こうやって使うことも多い。花びらの色はこんがり焼けた黄金色のパンケーキともマッチしていて、まるで芸術作品みたい。
食べ始めてからは一瞬だった。バターの香ばしい匂いとメープルシロップの優しい甘みは私の重い体にしみわたって、いつの間にか頭痛もどこかへ飛んで行ってしまった。ママの魔法はすごいや。
「なんだか雨も上がってきたみたいだし、散歩にでも行ってきたら?ずっと家にいても気持ちは明るくならないわよ。」
すっかり気持ちは明るくなっていたので、ママは自分の持ってる(私の気持ちを操る)技術に気づいていないのかなぁ、と思いつつ、せっかくなので散歩には行くことにした。
雨が上がったばかりの空は、まだまだ雲に覆われている。長野の春は寒いので、薄手のコートを羽織る。黄色に緑の縁取りがされたお気に入りの傘は、公園に忘れてしまうとよくないので家に置いて外へと出る。あたしは暑いよりもひんやりした感じのほうが好きなので、なんだかんだこれくらいの気温が快適だ。
「近くの公園にでも行こうかな。もしかしたら少しだけお花も咲いてるかも!」
あたしは名前に花という文字が入っているだけあって、お花が大好き。小学生の頃は運動がなかなかできなかったので、公園で集めた綺麗なお花を押し花にして集めていた。そのコレクションは今でも勉強机の引き出しの中に保管してある。
ほとんど雪は解けてしまったが、街路樹の葉っぱや木の下、建物の裏などに顔をのぞかせれば、少しだけかくれんぼしていた雪を見つけることができる。まるで宝探しをしているような気分になりながら、あたしは公園へと足を進めた。
「ふぅ~、疲れたぁー!」
家から歩いて15分ほどの少しだけ坂がある程度の道のりが、あたしには苦しかった。
「まだ咲いているお花はほとんど無さそうだなぁ。」
ベンチに腰かけて、ぼーっと空を見上げる。お日さまが輝いている…と思ったのも束の間、薄い雲が太陽を隠してしまった。雲の影はあたしの心にも影を落とし、思わず物思いにふけってしまう。こんな体力でいいのかなぁ…というのは、もういつも思っていることである。あたしは、そんな自分があまり好きじゃない。そして、それを言い訳に頑張ろうとしない自分はもっと嫌い…。そんなとき、あたしには見つけることのできなかった――きれいな花をもって公園を駆け回る少年たちの姿が見えた。
「あたし、花咲きたい…!」
これがあたしの心の本当の声。あたしの中に、小さなつぼみがあることを、確かに感じた。その後しばらくは、ベンチの上で花帆開花計画(仮)のプランを練った。
「朝は7時までに起きて~、元気な日はこの公園まで走ろうかな?もちろんお勉強も…まあそれなりにはやって!楽しい高校に入って花咲くんだ!あたしが花咲いたら、今度は他の人が花咲けるようにお手伝いもしたいから…。」
こんなにポジティブなことを考えられるのは初めてかもしれない。
「よーし!とりあえず、家までダッシュで帰って勉強だー!」
周りの目などお構いなしに、あたしは大きな声を出した。先ほどまでお日さまを隠していた雲はいつの間にかいなくなり、ベンチの下にある、小さなつぼみを照らしていた。
~あとがき~
みなさんこんにちは。今回初めてショートストーリーを執筆させていただきました、Tomo.Hと申します。見苦しい部分もあったかと思いますが、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。
さて、今回のショートストーリーは高校生になる前、中学生だったころの花帆ちゃんのある日を想像して執筆させていただきました。また、今回は公式の設定をなるべく忠実に拾っていくことも意識しております。蓮ノ空が活動を開始して間もなく1年。ファンの中でキャラのイメージが確立しつつあるからこそ、忘れてしまった「あの設定」があるのではないでしょうか。自分もこの執筆のためにいろいろ公式設定を復習しましたが「そんな設定そういえばあったな!」という発見があり、とても楽しかったです。
この作品自体を楽しんでもらうことはもちろんですが、この作品が、皆さんが蓮ノ空をより楽しむための一助となれば幸いです。
※このストーリーはフィクションです。また、このシリーズは一般人が作成する同人作品であり ©プロジェクトラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 及び スクールアイドル応援活動アプリ/Link!Like!ラブライブ! が提供する公式設定・ストーリーとは一切の関係はございません。
今日の天気は雨だ。病弱なあたしは今日もベッドの上。太陽の力を享受することもできずに、低気圧のいたずら――片頭痛にうなされている。
「花帆~。調子が悪いのはわかるけど、中学校が春休みだからって遅くまで寝ているのもよくないわよ。しっかり朝ご飯は食べなさい!」
「うるさいなぁ。分かったよママ。」
少し強めの口調で返してしまったけれど、正直なところ、朝ご飯はあたしの毎日の楽しみだ。家の中での一日は単調で、ご飯勉強ご飯ゲームご飯お風呂睡眠・・・と、呪文のように繰り返すだけ。料理が上手なママの作るご飯は、あたしの生活を彩る小さな花みたい、とあたしは思う。
「よいしょっと!」
思いっきり起き上がったことを頭痛とともに後悔しながら食卓へと足を進める。今日の朝ご飯は…
「うわぁ~!パンケーキ!!」
「今日は雨だし、甘いもののほうが花帆は喜ぶかなと思って。」
あたしの反応を見て誇らしげに話すお母さん。とっても嬉しいけど、なんだか恥ずかしい。
「別に、そんなことないもーん!」
先に起きてきていた妹たち――みのりとふたばと一緒に食卓につく。妹たちのパンケーキは1枚だけど、あたしはお姉ちゃんだから2枚重ね!お姉ちゃんの特権だよね。思わず笑みがこぼれちゃう。パンケーキの上には四角く切られたバターが乗せられていて、お皿の隅にはラナンキュラスの花びらが添えられている。あたしの家はラナンキュラスの花き農家。育てたものの中で形がきれいじゃなかったり虫食いがあったりしたものは、こうやって使うことも多い。花びらの色はこんがり焼けた黄金色のパンケーキともマッチしていて、まるで芸術作品みたい。
食べ始めてからは一瞬だった。バターの香ばしい匂いとメープルシロップの優しい甘みは私の重い体にしみわたって、いつの間にか頭痛もどこかへ飛んで行ってしまった。ママの魔法はすごいや。
「なんだか雨も上がってきたみたいだし、散歩にでも行ってきたら?ずっと家にいても気持ちは明るくならないわよ。」
すっかり気持ちは明るくなっていたので、ママは自分の持ってる(私の気持ちを操る)技術に気づいていないのかなぁ、と思いつつ、せっかくなので散歩には行くことにした。
雨が上がったばかりの空は、まだまだ雲に覆われている。長野の春は寒いので、薄手のコートを羽織る。黄色に緑の縁取りがされたお気に入りの傘は、公園に忘れてしまうとよくないので家に置いて外へと出る。あたしは暑いよりもひんやりした感じのほうが好きなので、なんだかんだこれくらいの気温が快適だ。
「近くの公園にでも行こうかな。もしかしたら少しだけお花も咲いてるかも!」
あたしは名前に花という文字が入っているだけあって、お花が大好き。小学生の頃は運動がなかなかできなかったので、公園で集めた綺麗なお花を押し花にして集めていた。そのコレクションは今でも勉強机の引き出しの中に保管してある。
ほとんど雪は解けてしまったが、街路樹の葉っぱや木の下、建物の裏などに顔をのぞかせれば、少しだけかくれんぼしていた雪を見つけることができる。まるで宝探しをしているような気分になりながら、あたしは公園へと足を進めた。
「ふぅ~、疲れたぁー!」
家から歩いて15分ほどの少しだけ坂がある程度の道のりが、あたしには苦しかった。
「まだ咲いているお花はほとんど無さそうだなぁ。」
ベンチに腰かけて、ぼーっと空を見上げる。お日さまが輝いている…と思ったのも束の間、薄い雲が太陽を隠してしまった。雲の影はあたしの心にも影を落とし、思わず物思いにふけってしまう。こんな体力でいいのかなぁ…というのは、もういつも思っていることである。あたしは、そんな自分があまり好きじゃない。そして、それを言い訳に頑張ろうとしない自分はもっと嫌い…。そんなとき、あたしには見つけることのできなかった――きれいな花をもって公園を駆け回る少年たちの姿が見えた。
「あたし、花咲きたい…!」
これがあたしの心の本当の声。あたしの中に、小さなつぼみがあることを、確かに感じた。その後しばらくは、ベンチの上で花帆開花計画(仮)のプランを練った。
「朝は7時までに起きて~、元気な日はこの公園まで走ろうかな?もちろんお勉強も…まあそれなりにはやって!楽しい高校に入って花咲くんだ!あたしが花咲いたら、今度は他の人が花咲けるようにお手伝いもしたいから…。」
こんなにポジティブなことを考えられるのは初めてかもしれない。
「よーし!とりあえず、家までダッシュで帰って勉強だー!」
周りの目などお構いなしに、あたしは大きな声を出した。先ほどまでお日さまを隠していた雲はいつの間にかいなくなり、ベンチの下にある、小さなつぼみを照らしていた。
~あとがき~
みなさんこんにちは。今回初めてショートストーリーを執筆させていただきました、Tomo.Hと申します。見苦しい部分もあったかと思いますが、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。
さて、今回のショートストーリーは高校生になる前、中学生だったころの花帆ちゃんのある日を想像して執筆させていただきました。また、今回は公式の設定をなるべく忠実に拾っていくことも意識しております。蓮ノ空が活動を開始して間もなく1年。ファンの中でキャラのイメージが確立しつつあるからこそ、忘れてしまった「あの設定」があるのではないでしょうか。自分もこの執筆のためにいろいろ公式設定を復習しましたが「そんな設定そういえばあったな!」という発見があり、とても楽しかったです。
この作品自体を楽しんでもらうことはもちろんですが、この作品が、皆さんが蓮ノ空をより楽しむための一助となれば幸いです。
※このストーリーはフィクションです。また、このシリーズは一般人が作成する同人作品であり ©プロジェクトラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 及び スクールアイドル応援活動アプリ/Link!Like!ラブライブ! が提供する公式設定・ストーリーとは一切の関係はございません。
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