血を吸うかぐや姫

松村と佐々木奈々②

　僕のダメージよりも佐々木の方が深刻だった。
「奈々ああっ！」
　と、松村が佐々木に向かって叫んでいた。佐々木の口から「あれ」がダラリと排出されるように出ている。同時に大量の血も出ている。
　シンドウは、佐々木に血をあげないと死んでしまう、そう言っていた。

　頭をすべり台のどこかにぶつけたのだろうか。意識がぼんやりとしてきた。景子さんのことがショックだったのと、体のダメージの両方でかもしれない。

　ぼんやりとした視界に見えたのは、
　松村が佐々木に、キスをしている光景だった。松村が佐々木に覆い被さっている。
　いや、キスではなかった。
　松村は自分の「あれ」を介して、自分の血を佐々木の体に強制的に送り込んでいる。それは佐々木を助けるためだ。
　だがそんなことをすれば松村自身の命が消えてしまう。
　それが分かった佐々木が、いやいやをするように抵抗している。
「そんなことをすれば、松村くんが死んじゃう！」おそらく佐々木はそう言っているのだろう。

　松村の行為は数分もなかった。松村は、何かに満足したかのように顔を上げた。
　その顔は既に僕の知っている松村の顔ではなかった。その顔の皮膚が収縮し、どす黒く変色していた。
「いやあああっ！」
　佐々木の泣き叫ぶ声が公園に響き渡った。悲しい声だった。こんな佐々木の声は聞いたことがない。

　松村は、ふらふらと立ち上がったかと思うと、その体が消えた。
　いや、消えたのではない。瞬間的に、シンドウの傍にその身を投げたのだ。　
　松村の最期の力だった。

　シンドウの体に松村がドンとぶつかった。
「おのれっ！」
　僕は松村のとった行動を理解した。
　松村は、シンドウの胸を刺したのだ。光るナイフの刃先が見えた。それは半分以上、シンドウの胸に埋没していた。
「きさまあああっ！」
　シンドウはそう叫んだかと思うと、顔を上げ、異様な声を宙に向かって吐き出した。
「んふっ！　んぐおおおおおっ」
　同時に体中の液体が噴出し始めた。