113 / 118
幼馴染の記憶①
しおりを挟む
◆幼馴染の記憶
スニーカーで土を踏みしだく音がして、松村が現れた。
「松村・・」
松村は僕の呼びかけには応えず、
「おい、奈々、まさか、屑木とキスしたのか?」そう佐々木に訊いた。
訊かれた佐々木は、
「私、無理矢理にキスするなんて、できないですよぉ」と言った。
その言葉の意味は、僕が嫌がることはしない。そういうことなのか? 佐々木にはまだそんな感情が残っているのか?
「奈々らしいな」松村は笑った。
そんなことより、
「どうして、松村がここにいるんだ?」
僕が訊ねると松村はにやりと笑って、
「どうしてって・・ここ、この公園は俺たちの思い出の場所じゃないか」
公園をぐるりと眺めながら言った。「懐かしいよなあ。この公園」
「え・・」
言葉が返せない。
「おいおい、屑木、忘れたのかよ」
松村が言うと佐々木まで、
「さっき、私も言ったじゃないですか。それなのに、屑木くん、忘れているみたいですよ」と言った。
そう、吸血鬼化して、記憶があやふやになっている佐々木のせいではなかった。
記憶が曖昧なのは僕の方だった。
すると、松村はこう言った。
「忘れてるんじゃなくて、忘れたいんだろう? なあ、屑木よ」
僕は松村と佐々木のいうことを黙って聞いていた。
「俺たちは、三人で、この公園で遊んでいた幼馴染じゃないか」
幼馴染は、松村と佐々木の二人・・そのはずだった。
「屑木、だから、あの屋敷に行くときは、お前を誘っただろう。俺と奈々、そして、屑木。この三人で行こうと。ところがお前は断ったけどな。水臭いって思ったぜ」
幼馴染は・・ここにいる三人だった。松村と佐々木、そして、僕の三人だ。
佐々木が松村を制するように、
「松村くん。あんまり屑木くんを苛めちゃ可哀相ですよ。松村くんは、ほんと、昔っからそうでしたからねえ。よく屑木くんに乱暴してましたから」と言った。
松村は、昔、僕をいじめていた。
「あれは、仲良し喧嘩みたいなもんだろ」
笑いながら言い訳をする松村を見て佐々木が、
「私、吸血鬼になってしまってから、色々と思い出したんですよ」と言った。
「学校の成績は落ちましたけどねえ。でも、過去のこと、小学校の頃のことは、まるで昨日のように情景が浮かんでくるんですよ」
「ああ、それ、俺も同じだよ」松村は佐々木に同調した。
「俺が屑木を苛め、いや、からかっていると・・」松村がそう言いかけると、
「屑木くんをイジメめると・・」
そう言って佐々木が意味ありげに微笑んだ。
「ああ、いつも、あの人が現れたんだよなあ」
「そうですよぉ。いつも、現れるんですよね。まるで、屑木くんを陰から見守っていたように」
その人を、僕は知っている。その人の名は・・
「あの人・・景子さんは、屑木くんのお姉さんですよね」
佐々木はそう言った。
僕は、言葉を失った・・
「惚けたって無駄ですよ。ちゃあんと、松村くんも憶えていましたから」
松村は、
「ああ、景子さん。いつも、みんなが仲良く遊ぶように言って、自分も自然と加わっていたよな」
そう、幼馴染の三人と景子さんは、この公園でよく遊んだ。
「だって、景子さんは、屑木くんのお姉さんですものね」
「それ以上、言うな!」
自然と声が出ていた。
どこからともなく聞こえてくる声。
・・醜く歪んだ心。それはお前だ。
その声は僕自身の声だった。
そう、僕は知っていた。
景子さんが、僕の腹違いの姉であることを。
知っていたのに、僕は知らないふりをしていた。
景子さんはそんな僕に対して、何も言わなかった。
だが、僕が、知らないふりをするのには、理由があった。
その理由・・
「屑木くんは、景子さんが、大好きでしたからねえ」佐々木が言った。
佐々木の言う通りだ。反論もできない。
スニーカーで土を踏みしだく音がして、松村が現れた。
「松村・・」
松村は僕の呼びかけには応えず、
「おい、奈々、まさか、屑木とキスしたのか?」そう佐々木に訊いた。
訊かれた佐々木は、
「私、無理矢理にキスするなんて、できないですよぉ」と言った。
その言葉の意味は、僕が嫌がることはしない。そういうことなのか? 佐々木にはまだそんな感情が残っているのか?
「奈々らしいな」松村は笑った。
そんなことより、
「どうして、松村がここにいるんだ?」
僕が訊ねると松村はにやりと笑って、
「どうしてって・・ここ、この公園は俺たちの思い出の場所じゃないか」
公園をぐるりと眺めながら言った。「懐かしいよなあ。この公園」
「え・・」
言葉が返せない。
「おいおい、屑木、忘れたのかよ」
松村が言うと佐々木まで、
「さっき、私も言ったじゃないですか。それなのに、屑木くん、忘れているみたいですよ」と言った。
そう、吸血鬼化して、記憶があやふやになっている佐々木のせいではなかった。
記憶が曖昧なのは僕の方だった。
すると、松村はこう言った。
「忘れてるんじゃなくて、忘れたいんだろう? なあ、屑木よ」
僕は松村と佐々木のいうことを黙って聞いていた。
「俺たちは、三人で、この公園で遊んでいた幼馴染じゃないか」
幼馴染は、松村と佐々木の二人・・そのはずだった。
「屑木、だから、あの屋敷に行くときは、お前を誘っただろう。俺と奈々、そして、屑木。この三人で行こうと。ところがお前は断ったけどな。水臭いって思ったぜ」
幼馴染は・・ここにいる三人だった。松村と佐々木、そして、僕の三人だ。
佐々木が松村を制するように、
「松村くん。あんまり屑木くんを苛めちゃ可哀相ですよ。松村くんは、ほんと、昔っからそうでしたからねえ。よく屑木くんに乱暴してましたから」と言った。
松村は、昔、僕をいじめていた。
「あれは、仲良し喧嘩みたいなもんだろ」
笑いながら言い訳をする松村を見て佐々木が、
「私、吸血鬼になってしまってから、色々と思い出したんですよ」と言った。
「学校の成績は落ちましたけどねえ。でも、過去のこと、小学校の頃のことは、まるで昨日のように情景が浮かんでくるんですよ」
「ああ、それ、俺も同じだよ」松村は佐々木に同調した。
「俺が屑木を苛め、いや、からかっていると・・」松村がそう言いかけると、
「屑木くんをイジメめると・・」
そう言って佐々木が意味ありげに微笑んだ。
「ああ、いつも、あの人が現れたんだよなあ」
「そうですよぉ。いつも、現れるんですよね。まるで、屑木くんを陰から見守っていたように」
その人を、僕は知っている。その人の名は・・
「あの人・・景子さんは、屑木くんのお姉さんですよね」
佐々木はそう言った。
僕は、言葉を失った・・
「惚けたって無駄ですよ。ちゃあんと、松村くんも憶えていましたから」
松村は、
「ああ、景子さん。いつも、みんなが仲良く遊ぶように言って、自分も自然と加わっていたよな」
そう、幼馴染の三人と景子さんは、この公園でよく遊んだ。
「だって、景子さんは、屑木くんのお姉さんですものね」
「それ以上、言うな!」
自然と声が出ていた。
どこからともなく聞こえてくる声。
・・醜く歪んだ心。それはお前だ。
その声は僕自身の声だった。
そう、僕は知っていた。
景子さんが、僕の腹違いの姉であることを。
知っていたのに、僕は知らないふりをしていた。
景子さんはそんな僕に対して、何も言わなかった。
だが、僕が、知らないふりをするのには、理由があった。
その理由・・
「屑木くんは、景子さんが、大好きでしたからねえ」佐々木が言った。
佐々木の言う通りだ。反論もできない。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる